魔女   作:@aopro_tsuki


原作:月咲
タグ:R-15 残酷な描写
ハロウィンの魔女のお話です。
ちょっと雑め。

1 / 1
魔女

滑らかなプリンが舌の上でとろける。

ジャックの体をくり抜いて作ったパンプキンプリン。

「メアリー、祭りの日は幼子のフルコースを頼むわ。今年はヴラドを招く予定なの」

目玉のムニエルに、柔らかいお肉のロースト。デザートにはあまぁい血のムース。

想像しただけで涎が溢れそうになる。

「かしこまりました、アグネス様」

スプーンを置いて、真っ白なナフキンで口を拭う。

側にいたメアリーに椅子を引かせ、立ち上がった。

コツ、コツ、と。真っ赤なヒールで音を立てて外に向かう。

扉の横に立て掛けていた箒を呼び寄せ、腰掛けた。

「材料の調達はお前に任せるわ。散歩は1人でするから付いてこなくて結構よ」

ふわりと宙に浮くと、そのまま館を飛び出た。

お祭りまでまだ数日ある。

それまで少しつまみ食いをしよう。

「あら? まだ起きているイケナイ子供がいるようね」

ぺろりと口紅を舐めとった。

 

灯のついた部屋を、窓から覗き込む。

部屋の主人は机に向かって読書をしているようだった。

夜で彩った指先を少年に向ける。

読書をしていた少年は、ふらりと立ち上がると私を部屋に招き入れた。

「あら、どうもありがとう」

少年の頬に口付けると、部屋の全てのドアを閉めて、鍵をかけた。

それから、防音もしておこう。

そうして少年にかけた催眠を解く。

「え、誰ですか? どうして」

「しー。静かにして? お姉さんと楽しいことをしましょう」

大きく開いた口から覗く柔らかそうな舌に、喉を上下させる。

「いえ、あの、誰、でしょうか」

「そうね。まずは自己紹介をしないと」

普段はメアリーの名前を借りているけど、気まぐれに本名を名乗ってみたくなった。

「私はアグネスよ。あなたは?」

「僕はハインリヒ、と申します。その、どうして僕の部屋に?」

「あなたが招き入れてくれたのよ?」

そう言うと、金髪の少年は戸惑ったように私を見つめた。

「すみません。僕は先程まで読書をしていたと、思うのですが」

その言葉に笑顔を深めて返事をする。

「……、もしかしてあなたは」

少年、ハインリヒの口を塞ぐように、言葉を紡いだ。

「何を読んでいたの?」

机の上に置かれた本に手を伸ばす。

「聖書です。……貴女は触らないほうがいい」

伸ばした手を掴んで引き止められた。

「あら、心配をしてくれているの?」

「え、えぇ。 その美しい手が焼け爛れるのは見たくありません」

少し困ったような、悩むような表情をした白い肌の少年に、なんとも言えない感情が湧いた。

「私は平気よ。それより、いいの? 私が何か、わかっていながら捕まえなくて」

「僕は、僕は貴女ほど美しい女性を見たことがありません。……貴女は、僕を食べに来たのですか?」

そうだ。私はこの子を食べに来たのだ。

「そうよ。でも、食べる気が失せたわ」

「それでは、もう帰ってしまうのですか?」

「……もう少しいてもいいわよ。貴女が私の退屈を凌いでくれるなら、ね」

「僕が貴女の退屈を凌げるなら、貴女は明日も、明後日も、ここに来てくれますか?」

「そうね。気が向いたらくるわ」

私はどこかむず痒い感情に首を傾げながら、知らぬ間にそんな返事をしていた。

 

その日から、私は毎日少年の元に通った。

ただ、少年の目に宿る熱を一身に浴びながら、少年の語る大して面白味もない話を楽しげに聞いていた。

そうして、祭りの前日がやってきた。

 

「メアリー。捕まえてきてほしい人間がいるの」

浴室で私の体をを擦りあげるメアリーに声をかける。

「最近通われている家の次男でしょうか」

「えぇ、そうよ」

「捕まえて何をなさるのですか?」

「何って、決まっているでしょう?」

おかしな問いかけに思わずメアリーに向き合った。

「あぁ、いえ。申し訳ありません」

随分と驚いた表情を見て、眉間に皺を寄せる。

「私の勘違いでございます。大したことではございません」

「そう? ならいいのだけど」

すぐに頭を下げた有能な召使いを見て、息を吐きながら磨かれ抜いた美しい肌に視線を戻した。

あぁ、私はなんて美しいのかしら。

 

祭りの当日。古くからの友人であるヴラドを館に招待した。

振る舞った料理はメアリーの捕らえた幼子のフルコース。と、それから——、私が料理した少年。

幼子の柔らかな肉に舌鼓を打ち、少年の身体の甘さに頬を緩めた。

しかし、一体なんなのだろう。

どこか、胸が苦しくてたまらない。

きっと、美味しくて食べ過ぎてしまったのだろうな。

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。