私の同居人(ペット)は狼女です。   作:凛之介

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君の膝上で耳かき

 カリ、カリ、と静かな音が耳の中に心地よく響く。

 くすぐったさと気持ち良さが混ざり、ミカンに膝枕されている私は思わず小さく声を漏らしてしまう。

 

「うぁ、気持ちい……」

「ふ、変な声出すなよ」

 

 ミカンは空いている左手で私の髪の毛を撫でながら、優しく慎重に右手を動かす。

 頭をミカンの膝に預けている私は、その心地良さに身を委ねて、そっと目を瞑った。

 

 ◆

 

「ん……なんか耳の中ごそごそする」

 

 ふとした違和感に、私は読んでいた小説を閉じる。そして立ち上がり、細々(こまごま)したものが収納されたリビングの棚に歩み寄りながらソファにいるミカンに問いかける。

 

「ミカン、耳かきどこやったっけ」

「あー、洗面所の方じゃなかったか」

「あれそうだっけ」

 

 リビングの棚を一通り確認して見当たらなかったため洗面所へ向かう。洗面所の小物入れを覗くと、ミカンの言った通り耳かき棒が刺さっていた。

 

 引き抜いて手に取りリビングに戻ると、「林檎」とミカンに呼びかけられる。目線を向けると、ソファに座っているミカンが自分の膝をポンポンと叩いて微笑んでいた。

 

「耳かきしてやるよ、おいで」

 

 何故か乗り気なミカンの言葉に甘え、私は耳かき棒を手渡してソファに横たわり、ミカンの膝に頭を乗せる。

 誰かに耳かきをしてもらうのなんて、小学生くらいの頃にお母さんにしてもらって以来かもしれない。懐かしさに浸っていると「始めるぞ」と声をかけてからミカンが私の耳に触れた、

 

「あー、気持ちいい」

 

 久しぶりに耳かきをすると言うのもあるが、自分ではない誰かにやってもらっているからだろうか。やたら気持ち良く感じる。

 カリカリと耳の中を掻く音も心地良く、私はぼそりと呟いた。

 

「リアルASMRみたい」

「ん? なんだそれ」

 

 私の呟きに反応しつつ、ミカンはその手を止めない。

 

「なんか耳かきとか吐息とか、心地良い音を楽しむ音声作品……かな?」

「ふーん、そう言うのがあるんだな」

 

 私自身も詳しくはないので曖昧な説明になったが、ミカンはそれで納得してくれたようだ。今度一緒に聞いてみたりしようかな。

 そんなことを考えていると「よし、片方終わったぞ」と声がかかり、頭を優しく撫でられる。

 

「ありが――ひゃあ!」

 

 お礼を言い終わる前に思わず変な声で叫んでしまい、咄嗟に口を押さえてミカンを睨みつける。ミカンが不意に私の耳に息を吹きかけてきたのだ。

 私に睨まれながらも、ミカンは愉快そうにケラケラと笑っている。

 

「ASMRみたいって言ってたから。こういうことだろ?」

「そうだけど……不意打ちはずるいよ!」

「悪い悪い。ほら、反対側やろう」

 

 文句を言うも、ミカンに軽くあしらわれ頭を撫でられてしまう。

 私は頬を膨らませながらもミカンに促された通り体を捻って向きを変えた。ミカンの体の方へ顔が向いたので、反撃の意を込めてぐりぐりとお腹に顔を擦り付ける。

 しかし「くすぐったいぞ」と穏やかに笑うばかりで、反撃とすら受け取られていないようだった。

 私は諦め、目を瞑って大人しく耳かきされることにする。

 目を瞑ると、その分聴覚が研ぎ澄まされて先ほどより心地良く感じた。

 

(小さい頃、お母さんの膝枕で耳かきされるの、大好きだったな)

 

 膝枕の温もり、耳かきの気持ちよさ、ミカンの落ち着く匂い。

 カリ、カリ、と静かな音が耳の中に心地よく響く。

 愛しのお嫁さん(ペット)に耳かきをされながらうとうとと微睡み、私はいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 意識を手放す直前、小さい笑い声と共に慈愛に満ちた囁きが聞こえた気がした。

 

「可愛いな。おやすみ、林檎」

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