「鈴木さんって、何考えてるか分かんないよね」
「ちょっとモテるからって調子乗ってるだよ、きっと」
そんな陰口は、日常茶飯事だった。
小学校の教室でぼーっと窓の外を眺めながら、隅で群れている女子たちのヒソヒソ話を聞き流す。
別に普通に会話するし、素っ気ない態度を取る訳でもないし、調子にも乗ってないんだけどな。言い返すのも面倒臭いから、無視を貫くけれど。
私には、趣味と呼べるものがない。生きがいと言ってもいい。
両親は優しいけれど、友人と呼べる存在が極端に少ない。話が合わないからだ。
ゲーム、漫画、アイドルなど、同級生が夢中になってはしゃぐそれらに、到底私は興味が持てなかった。何がそんなに楽しいのか分からず、曖昧な返事をしていたら、いつの間にかああして陰口が増えていた。
女子小学生はそういうものだから仕方ないと、自分も小学生のくせに妙に悟っていた。
皆、なんでそんなに楽しそうなんだろう。私にも、なにか夢中になれるものが出来たら、皆の気持ちが分かるのかな
私は窓の外を眺めながら、皆に混ざってはしゃぐ私を想像した。
◆
ある晴れた日の放課後、私は少し寄り道をしていた。
学校から少し離れているせいで、あまり
帰ったらお母さんは居るけど、また「今日はお友達と遊んだりしないの?」って聞かれるんだろうなと思うと、少し帰りづらい。だから、こうしてクローバーの群生地にしゃがみこんで、ぼーっと四つ葉のクローバーを探して時間を潰す。
我ながら寂しいけれど、四つ葉のクローバー探しは願掛けでもあった。
私にも、皆みたいに夢中になれるものができますように、と。
どれくらいそうしていただろうか。
すっかり膝が痛くなり、足が痺れてきた頃、私の目が1つのクローバーを捉えた。咄嗟に手を伸ばす。
「……あった!」
四つ葉のクローバー。一つだけ葉のサイズが小さくてアンバランスだけど、列記とした四つ葉のクローバー。
私は、それを優しく握りしめた。
その時、ぽつりと雨粒が頬を打った。
ばっと顔を上げると、あんなに晴れていた空はいつの間にか雲に覆われていた。そういえば、夕方から雨が降るかもしれないとお母さんが言っていたのを思い出す。
瞬く間に降り出した雨から逃げるように、四つ葉のクローバーをランドセルに入れて、慌てて折り畳み傘を広げた。
どんどん強くなる雨の中、薄暗い通学路を走る。横殴りの雨は傘で防げず、服が水を吸って肌に張り付いた。
もう少しで家の近く、そう思った時だった。
電信柱の根元に、段ボールが落ちていた。「四ヶ日みかん」とプリントされているから、みかんが入っていたのだろう。よくあるポイ捨てか、風で飛ばされて来たのか。
特に気にもとめずに、走って通り過ぎようとしたその時――
その子と、目が合った。
「……捨て犬?」
雨に濡れて、震えて、今にも倒れてしまいそうな毛玉。弱々しい瞳が、私を見上げていた。
思わず足を止め、段ボールの前にしゃがみ込む。中には毛布もないし、箱には手書きのメッセージもない。たまたま段ボールを見つけたこの子が自ら入ったのだろうか。
あまりにもその子が真っ直ぐこちらを見てくるので、私は恐る恐る手を伸ばした。
昔近所の大きな犬に吠えられてから、犬に対しては苦手意識があったけれど、でも、この子には吠える元気さえ無さそうに見える。
その子は差し出された私の右手を少し怯えたように見ていたけれど、小さい鼻を動かして匂いを嗅ぐと、ぺろりと、ゆっくり舐めた。
その瞬間、私の世界に色がついた。
ゲーム、漫画、アイドル。そんなの、二の次でいい、どうでもいい。
私の趣味は、生きがいはきっとこの子なんだと、直感で悟った。
雨粒がしたたかに肌を打つのも気にせず、私は傘を投げ捨て、彼女を抱きかかえて一心不乱に走った。
「おかーさん! わんちゃんが……!」