その為に自分のほとんどの時間を費やした
都市伝説扱いだった山に住むという抜刀斎に弟子入りして剣を学んだ
母を幼くして亡くし 父は母が亡くなるのと同時期に家を空ける様になった
頼れる大人は身近に居ない なら俺が護る そう誓ったはずなのに
刀剣類監理局本部オペレーションルーム
そこでは真庭局長代行と折神朱音が各伍箇伝の学長そして折神紫がモニター越しに会議をしていた
「まさか勇刀君がやられるなんて」
「彼の容態は?」
「今のところ安定してはいるんやけど、いつ意識が戻るかはなんとも…もし意識が戻ったとしても」
「即復帰、とは行かないだろう」
紫の言葉に全員が頷いた、そして彼の戦線離脱で発生する、もう一つの弊害それは
「刀使達の士気低下は避けられないか、衛藤可奈美の様子は?」
「それが塞ぎ込んでもうて、部屋から出て来んようになってしもうたんや」
「衛藤さん…」
「あの兄妹がそろって離脱というのは痛すぎるな、必要であれば衛藤可奈美に対してはカウンセリングを行い精神面でのバックアップを怠るな」
現役刀使の中で最強クラスの勇刀が荒魂に敗れた事で他の刀使達に及ぼす影響は計り知れない物であった、その事はここにいる全員が周知している事でもあったし何よりの懸案事項だった、そして可奈美に対しての対応も協議されていた
「次に今回4人が交戦した大荒魂ですが、人語を話す事と過去に折神家と緋村剣心という人物によって共同で封印されていたと大荒魂から聞いたと十条和人からの報告が来ています。」
「こちらに関しては既に私の方から家の者に文献や当時の資料を探すよう手配しています。」
「そして興味深い話がもう一つ、この緋村剣心という人物が衛藤勇刀の師匠に当たる人物である可能性が非常に高いという報告も同じく十条和人から受けています。」
「どういう事だ?荒魂の話を信用するなら、その男は生きていられる様な年齢では無い筈だ、他人の空似という可能性は?」
「その線も当然考えましたが、その話を荒魂から聞いた衛藤勇刀の反応は明らかに動揺していたと」
「朱音、今から送る場所に向かえ、おそらくそこに衛藤勇刀の師匠、緋村剣心がいるはずだ」
「本当ですか!?すぐに手配します!」
朱音は従者をすぐさま指定された場所へ向かわせた
外からは何台かの車が走って行く音が聞こえた
「しかし紫、なぜお前が彼の師匠の所在を知っているんだ?」
「ただの偶然だ」
「そういうことにしておこう、ところで羽島学長、彼の家族と連絡はついたのか?」
「それがまったく連絡がつかないのよ、家にも帰って無いみたいだし緊急連絡先に連絡しても出ないし、こんな時に何をしてるのかしらあの人は」
「あの人?お前は知っているのか?」
相楽結月は知っている風な口調の羽島学長に聞くが予想外の答えが返ってきた
「私だけじゃなくてここにいる全員が知っている人よ」
「誰なんです?江麻先輩、私の記憶じゃ衛藤なんて名前の知り合いはいないんですけど」
「あの人の学生時代の名前は
「「「「「「はぁっ!?!?!?!?!?!?!」」」」」」」
各学長と折神姉妹は素っ頓狂な声を上げて驚いていた
五條いろはに至っては糸目が全開に見開いてしまっていた
「一刀先輩が衛藤勇刀の父親!?というかなんで苗字変わってるんですか!?」
「家庭内で色々あったらしくてね、衛藤さんの入学式で会ったときは驚いたわよ」
「まさか黒崎が結婚し子供まで作っていたとは、しかも二人も…」
「ほんとビックリしたわ、あのやんちゃで女好きやった一刀君がねぇ」
「美奈都先輩と結婚してたなんて、江麻先輩狙いだとずっと思ってたんですが意外でしたね」
「そういえばそうだったな、江麻と話している所を美奈都が見かける度に、あの二人が痴話喧嘩をして…賑やかだったな」
「黒崎さんのお話なら下級生でも話題になっていましたよ。男性なのに凄く強い人がいると」
「噂じゃ迅移の動きに着いてきたとか、荒魂発生時その場にいた子供を護る為に荒魂を殴り飛ばしたとか、色々聞きましたよ」
当時の噂話を聞いて思い当たる節があったのか同学年であった羽島江麻は乾いた笑みを浮かべていた
「あはは…全部本当なんだけどね、今頃どこで何をしてるのかしら」
数日後、勇刀が入院している病院の前には一人の男が立っていた
「江麻から送られてきた病院はここだな、今回はアイツに感謝しなきゃなんねーか」
「・・・・・・・・・・」
勇刀は容体がある程度まで回復したことで、集中治療室から折神家直轄の病院へ移されていた、それも面会に制限がかかる特別な個室の病室であった
そこには眠っている勇刀と先ほどの男がいた、
男は複雑な表情で勇刀の顔を少し見つめると脇に置いてある椅子に腰を下ろした
「はぁ、美奈都に合わせる顔がねぇな…」
「ハッ!まさかテメーからそんな言葉が聞けるとはな!今更何言ってやがる」
ぼそりとつぶやくと男が呟くとそれをあざ笑う声が響いた
その声は意識を失い眠っているはずの勇刀の口からだった
「チッ…お前はお呼びじゃねーんだよ、とっとと引っ込め」
「お前こそ、息子の顔を見に来たわけじゃねぇだろ?」
上体を起こした彼の目は金色に輝き、肌と髪の色はこの世の何よりも白く、生気を感じることは出来ず寒々しさを感じさせた
彼の目は嘲笑う様に男に向けられ
その目を見た男の顔は苦虫を噛み潰した様な顔になり目には怒気が見てとれた
「よくご存じで、てなわけで…死んでくれや」
突如病室が爆発し病院が揺れた
「ハハッ!!随分と派手におっぱじめるじゃねぇか小僧!!」
「てめぇ相手じゃこれでも足りねぇよ!」
「わかってるじゃねぇか!!!!」
四階の病室から外へ飛び出し着地すると男は既に鞘袋から刀を抜いて構えていた
そこへ勇刀へのお見舞いの為、病院を訪れていた可奈美達が駆けつけてきた
「誰だ!病院で派手に暴れてるのは!」
「あれは勇刀さん?…でもなんかいつもと雰囲気が違うような」
「もう一人勇刀さんと対峙している人物は…」
「…お父さん?っ!お父さん!!」
「可奈美ちゃん!」
可奈美は父である衛藤一刀に駆け寄る
そして彼女が見たものは眼も髪も肌の色も人の物ではなくなってしまった勇刀の姿だった
「お兄…ちゃん?ねぇ、お兄ちゃんなの?」
「…………」
「ねぇ、なんで無視するの!?ちゃんと答えてよ!!」
「止めとけ、今はいつもの勇刀じゃない…今の勇刀に何を語りかけても無駄だ」
「黙れ、久しぶりに表に出てきたと思えばむさ苦しい男にきゃんきゃん喚く小娘、せっかくの現世が台無しだ」
「っ!!」
「悪いがすぐに戻ってもらうぞ、お前の居場所はここじゃないんだよ」
「出来るかな?今のお前に?」
突如彼を中心に空気を震わせるほどの威圧感が広がると、周囲の地面からノロが溢れ出し集まり荒魂を形作った
「チッ!目覚めてすぐこんな事まで」
「来い」
彼が呼ぶと荒魂は形を変え、彼の翳した手へ収まると柄も無く、鍔も無いただ荒魂を模した無骨な大刀となった
「まぁ、そのうち慣れるか、後ろの小娘の中にも俺好みの奴が何人かいるから軽くノシて連れていくか、それとも俺と共に来るか?」
「「ッ!!!!!」」
全員の視界から一瞬にして彼が消え、次に認識下ときには
エレンと知恵の間で二人の腰に手を回していた
「ユウユウとでないならノーサンキューデス!!」
「私もどうせなら衛藤君とが良いわね!」
エレンと知恵は回し蹴りと逆風で距離をとった
「おぉっとと、コイツ意外とモテモテじゃねーか、やるねぇ…」
「「「「「「「「っ!!!!!!」」」」」」
殺気を飛ばされた可奈美達はとっさに御刀を抜いた
その様子を見て感心したように眼を見開いた
「ほ~、中々良い反応だ、これなら肩慣らしには丁度いい、一刀共々相手をしてやる」
「いや。お前さんの相手は俺一人で十分だ」
「そうか、ならお前をさっさと殺して、後はゆるりと楽しむとしよう」
二人は数秒目を合わせた後、最初に動いたのは一刀だった、迅移の様な移動法で後ろをとり刀を振り下ろすが、それを直接見ることもなく大刀を振り翳し受け止める、そしてそのまま大刀を振り抜き一刀を吹き飛ばす
「お父さん!!」
「随分衰えたな、その程度でよくもまぁ大見得を切ったものだ、肩透かしにも程があるぞ」
「うるせぇな、俺の全盛期なんざとっくに通りすぎてんだよ、いつまでも昔のまんまだと思うなよ!」
「はっ!馬鹿正直なことだ、では全力で貴様を叩き潰そう!!」
「へっ!誰が真正面からテメーとやりあうかってんだ!浦原!」
「はいはーい!待ってましたよー!」
「くっ!これは鬼道!クソッ!この程度の物で!」
突如現れたのは緑の甚平とその上に羽織を羽織って目深に帽子を被った男だった
その男が、担いでいた大きな布を巻かれた筒から何条もの光る鎖が射出され、彼に巻き付き捕縛した
「お前は引っ込んでな」
「ぐっ!おの、れっ……」
彼の眼前に一刀が掌を向けると、意識を失い倒れた
「ふぅ…浦原コイツの事よろしく頼むわ」
「了解ッス!じゃぁ息子さんお預かりしますね」
「あぁみっちりしごいてやってくれ」
「ハイ!それじゃぁ失礼しまーす!」
浦原と呼ばれた男は意識を失っている勇刀を担いでその場から消えた
「お兄ちゃん!!」
「待て可奈美」
「っ!!」
可奈美は消えた浦原の後を追おうと駆け出すが、それを一刀が可奈美の手を引いて止める
が、可奈美はその手を思い切り振り解いた、そして一刀が見た娘の顔は怒りで染まっていた
「邪魔しないで!!」
「………」
「可奈美ちゃん…」
「カナミン」
「ずっと私達の事放っておいたくせに!お母さんが死んじゃってから私の誕生日にもお兄ちゃんの誕生日にも一度だって帰ってきてくれなかったくせに!お兄ちゃんがこんな事になって何度もメールも電話もしたのに全然返事も無いし出てくれなかったくせに!!今更何しに来たの!」
可奈美の口から放たれたのは長年言いたくても言えなかった父親への恨み辛みだった
そんな彼女の瞳は少なくとも実の父親に向けられる様なものではなかった、御刀を握る手は力が入りすぎる余り小刻みに震えていた
「………………」
その言葉を一刀はただただ目を伏して聞くだけだったが
少し間を置き一人語り始めた
「俺は父親失格だ、いくら美奈都達との約束とはいえ、一番大切な筈の家族を護るべき子供達をおざなりにしちまった、そんな奴の言うことなんて信じられないかも知れないが、これだけは信じてくれ、勇刀は必ず帰ってくる!今よりも強くなって必ずな」
「昔からなーんにも変わっとらんね一刀君は」
「五條学長」
「アンタも大概だと思うぜ、いろは先輩」
「学長お知り合いだったんですか!?」
「そうや、ウチだけやのうて他の伍箇伝学長もうそうやし、紫様や朱音様それに十条さんのお母さんもよー知っとるよ」
「君が篝ちゃんの娘さんか、お母さんによく似てるな」
五條学長の言葉に可奈美は勿論他の面々も驚きを隠せなかった
伍箇伝の学長達と知り合いというのもそうだが、まさか折神家にまで顔が利くと言うのは流石に予想外だった
「それで、今回のことはちゃーんと説明してくれるんやろ?」
「あぁその為に来たんだ、他の六刃将が集まってから説明する、招集頼めるか?」
「なら紫ちゃん達も通信で来てもらわんとね、皆は学長室で待っててな」
一刀はいろはと共に平城学館に戻り、可奈美達もそれに続いた
おはよーございま~~~す。衛藤サン、起きてくださーい、朝ですよ~~~~
まず自己紹介からだな、俺は衛藤一刀、勇刀と可奈美の父親だ
そんな荒魂に、私達本当に勝てるんでしょうか?
家族揃ってチートかよ、衛藤家の遺伝子はどうなってんだ?
冗談じゃなくてマジみたいっすね…
あ~、言われてたよね、相模湾防衛戦の時に
行くよ!おじさん!
次回、『勉強部屋』