魔竜転生アクノロギア 意図せず原作をブレイクするようです。ただし別のな!   作:前虎後狼

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今更だけどお気に入りと評価が物凄い事になってる。
ここまで色んな人に読まれるとは思いもしなかったな。
しかし原作タグのddに全然移れないせいで皆さんには申し訳ないことをしている。
ひとつ弁明させて貰えるなら、とあるddキャラの魔改造をしたいが為にシグルドとの関係を持たせたかった。そのあたりを簡単に書こうとしたけど気づけばこんなに長くなってた。
本当にごめんなさい


君臨する魔竜 悪を騙りて友を救うべし

グリームヒルドの姦計に乗ったグンナルは、英雄に嫉妬を覚えた。

 

少し前に国を訪れたばかりのシグルドは、英雄として、そして一人の男としても理想的な勇士だった。

智にすぐれ武を極めし、魔剣に認められた男。

理性を湛えた瞳はあらゆる真価を見抜き、氷のようと揶揄される面持ちは見た者の心を奪う。

竜殺しという偉業を成し遂げ、その名声は大陸中に広まった。

つい最近になって耳にした噂では、ブリュンヒルデを伴侶として定めたという話まで出る始末。

 

何よりも(つよ)く、気高く、神々も認める最強の英雄。

総てにおいて敵わないと、本能が認め屈してしまった。

 

グンナルも男だ。誰よりも何よりも上に立ち、その頂から地を見下ろしたく思う。あらゆる者からの賞賛を、その一身に受けたいと思う。

だからこそ考えてしまうのだ、もしシグルドのように強くあれたら、シグルドの立つ頂に居るのが自分だったらと。

 

そんなグンナルがこのブリュンヒルデへの求婚の旅に出る事となったきっかけが訪れたのは、シグルドが来訪して4日目の事だった。

 

最近はよくシグルドがグートルーネと共に居る所を頻繁に目撃するようになった。ただの話ごとにしてはお互いの距離が近すぎる気がする。

 

グンナルは訝しんだ、シグルドはブリュンヒルデを伴侶として定めたのではないのかと。男としても英雄としても完成されたあの彼が、他の女に現を抜かすのだろうか。

 

その疑問を抱いた夜、グンナルは母グリームヒルドから答えを明かされた。

シグルドをグートルーネの伴侶として迎え入れ、その為にシグルドへと愛する者の記憶をなくす忘れ薬を飲ませた事。

 

グンナルはそれを聞いても、特にこれといった感情を感じはしなかった。

続けて実の母より聞かされた姦計の続きが、グンナルにとっては眉唾ものの話だったからだ。

 

ブリュンヒルデとの婚姻を結び、妻として迎える事。

 

それを聞いたグンナルはすぐさまその光景を夢想し───

 

即座に、口を三日月の形へと歪めた。

 

麗しきブリュンヒルデ、英雄が愛しただろう女。

そんな彼女を妻として迎えたのならば、それはどれだけ────────

 

 

 

────どれだけ愉快なのだろう。

 

総てにおいて劣るグンナルにとってその報せは、崩れかけた自尊心を修復し更に肥大化させるには十分すぎるものだった。

 

かくして、グンナルはグリームヒルドの姦計に乗り、早速ブリュンヒルデへと手紙を(したた)めた。あなたの全てが欲しい、この婚姻を受け入れよと。

 

返事は、すぐに帰ってきた。

 

それにはこう書かれていた。

我が夫とするのは試練を乗りこえた者のみ。炎を越えて我が下へ参じた者のみを、相応しき夫として認め、迎え入れる。

 

すぐ様グンナルはシグルドと義兄弟の契りを交わし、この求婚の旅にシグルドと数十名の勇士を連れて、堂々と出発したわけである。

 

「おいおい、冗談だろ·········」

 

そのグンナル達は今、眼前に立ち塞がる炎の壁を前に立ち往生していた。

 

何者も通さぬ炎熱の壁。来るもの拒む炎の塀に、グンナルも勇士達も尻込みしてしまう。

 

「こんなのどうしろってんだ·········」

 

「俺たちじゃあ無理だよこんなの」

 

「狼狽えるな!この程度の炎の壁、越えずしてなんとする!!」

 

狼狽する勇士達を咄嗟に諌め、鼓舞を飛ばすのは流石と言えるだろう。

しかしてグンナルも、心中は穏やかではない。

明らかに身の丈を超えている試練に気後れし、いますぐにでも退きたいとすら思う。

 

(どうすんだよこんなの······!)

 

しかしやはり、かの大神の娘であるブリュンヒルデは妻として迎え入れたい。なによりも気高く美しい戦乙女は、正に自分のような者にこそ相応しい。ここで退いて玉無しの臆病者と謗られるのも癪であるし、シグルドをある意味で超えたとも取れるのなら、光り輝く黄金よりも迷わず手を伸ばす事だろう。

 

「シグルド、ちょっと来てくれ」

 

故に、奇策を弄することにする。

 

「なあシグルド、俺に扮してあの炎を越えることってできるか?」

 

「········可能だ」

 

「良し。ならシグルド、俺の代わりに求婚しに行ってくれないか?」

 

「それは······」

 

征ける可能性のある者に、試練を乗り越えてもらう。

浅知恵ではあるが、それがグンナルの導き出した解だった。

 

「いいかシグルド、俺は普通の人間だ。お前みたいな馬鹿げた力も頑丈な体も持ってねぇ。越えようとした所で、呆気なく炎に焼き尽くされるのがオチだ」

 

身も蓋もない言葉だが、それが現実である。

 

「だったら代役を立てればいい。試練を乗りこえた者を夫として迎えるって言ってたが、それが扮した別人であろうと試練を課したやつからすればそいつが乗り越えてきたと認識するハズだ。俺は分かりきってる破滅に進んで歩みを進めるほどバカじゃねぇし、そんなしょうもない事で死にたくない」

 

「だから、な?友を助けると思って協力してくれ。お前の活躍が分かればグートルーネのヤツも喜ぶだろうさ」

 

義兄弟の契りをかわした英雄へ、そんな魔の響きを吹き込んでいく。

当人の預かり知らぬ内に、自らの愛の証明を断てと。そう誘導していく。

 

「·········承諾した」

 

「よっし!流石は友だ!それじゃあ早速格好を取り替えて」

 

「不要だ、その程度の変装ならば当方の持つ誤認の作用を起こすルーンで───」

 

賄える。そう続けようとしたシグルドはふと、自身の記憶に違和感を覚える。

 

(当方はいつ、このルーン魔術を習得した?誰から教授した?)

 

思い出せない、その記憶が。深く深く記憶の海に潜り、該当する場面を探すも一つとして見つからない。

まるでその記憶だけか削ぎ落とされたかのように、大きな違和感が残る。

 

(なんだ、当方は何を忘却した······?)

 

 

 

ブリュンヒルデ。喪った記憶の欠片を、シグルドは未だ思い出せない。

 

 

そして、その瞬間は訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦乙女が目にしたのは、炎を超えて現れた記憶にない見知らぬ人───ではなく。

見知らぬ者に扮した、彼女が愛した英雄だった。

 

それはいったい、どれほどの絶望だったのだろう。目の前にいる戦乙女を求めた誰か、その装いへと変じた彼は、ブリュンヒルデを見てもどのような反応も示さなかった。

 

グートルーネ姫と結ばれた竜殺し。

ブリュンヒルデもその噂を聞いていた。

 

何故、どうしてと嘆くと同時に、やはり運命に逆らう事は出来なかったと、自分達の辿る道に幸福はないのだと知らしめられた。

 

「我が名はグンナル。ギューキ王とその妃グリームヒルドの子であり、此度貴方へと畏れ多くも婚姻の契りを結び、夫婦となるべく馳せ参じた次第である」

 

二人の愛も、運命の前には無力でしか無かった。

 

「貴方の提示した試練を越えて、今ここに立っている。相応の勇を示したと此方は自負しているが、貴方から返答を頂きたい」

 

ここまでだ。最も求めていた幸福には、最早届きえない。

 

「ブリュンヒルデ、我が愛を受け入れよ!」

 

シグルドが扮しているとはいえ、グンナルはブリュンヒルデの課した試練を乗り越えた。だれもがそのように認識した。

 

「───っ」

 

嫌だ、(いや)だ、イヤだ、いやだ!

 

認めたくない。シグルド以外の男から愛され、愛さねばならぬなんて。

 

受け取りたくない。シグルド以外の男に貪られ、求められるなんて。

 

見せられたくない。シグルドが私以外と結ばれ、笑顔でいるなんて。

 

許せない。赦せない。ユルセナイ。

 

ここに居ない誰かを、こんな運命を齎した誰かを、この結末に導いた運命そのものを。

 

憎悪し、憎み抜いて、全て呑み込んでやる。

 

決して消えぬ、この炎で。

 

「────は」

 

その為には、形だけでもグンナルという誰かを愛さなくては。

 

決して許さない。私に偽りの愛を語らせた事を。

 

決して赦さない。私に偽りの愛を実らせる事を

 

 

決して、決して、ユルサナイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲劇へ向かう最後のピースが嵌められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、ブリュンヒルデの待つ塔の屋根が、跡形もなく消し飛ばされ───

 

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

悲劇覆す魔竜の咆哮が、世界の全てを埋めつくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロギア───!?」

 

「えっ······!?」

 

戦乙女を守るべくして天高く聳え立つ石の巨塔、その屋根を吹き飛ばして現れたのは、紫の紋様を浮かばせる黒き魔竜。

 

魔竜アクノロギア。シグルドと共に歩んだ異形の盟友が、空を裂いて現れた。

何故ここに、思考が追いつかないシグルドと目の前の竜があのロギアという事に驚愕を隠せないブリュンヒルデ。

 

その意味は、間もなくして明かされた。

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

「きゃ───!?」

 

「なっ!?」

 

あろうことか、アクノロギアは未だ混乱の渦中にいるブリュンヒルデを掴むと、その巨大な黒翼を拡げて空へと飛び上がった。

為す術なく魔竜の手中に収められ、今にも連れ去られようとするブリュンヒルデ。

 

「シグルド──!」

 

「!?」

 

その最中(さなか)に、彼女は呼んでしまった。

 

愛した男のその名を。記憶を無くしたシグルドからすれば会ったことも無い彼女が、知るはずもない己の名を。

 

「なんだありゃ·········!?」

 

それを、グンナルは物陰から見上げていた。

共した勇士達から離れた場所で、花嫁となる女を容易く攫った魔竜の姿を。

 

遠くで勇士達の悲鳴が聞こえるが、グンナルとしてはそんなものどうでもよかった。

 

「クソがっ!!どうなってんだよいったい!!」

 

余裕をなくしたグンナルは想像通りに行かない現実に悪態をつく。

せっかくの計画が、ようやく全てが上手くいくとふんでいたのに。

卑しき策略家は怒りをあらわにした。遠くへと消えていく魔竜の背を、恨めしく睨みつけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故──何故だ!!」

 

破壊された家具の残骸と、塔の一部だった石片の山。

それらに囲まれ一人取り残されたシグルドは、遠くへと消えていく魔竜の背を見送り───痛む頭を抱えて叫んだ。

 

「何故当方は、俺は!ブリュンヒルデを忘れていた!!」

 

何時だって彼は、愛しき女の事を考えていた。

片時も忘れたことは無く、片時も思わずには居られなかった。そんな、シグルドにとって最も大切な者の名を、今この時まで忘却していた。

 

なんという不甲斐なさだ、なんと愚かしいのだろうか。

許されるなら、いますぐにでもこの身を滅茶苦茶に引き裂いて、消えぬ痛みと傷を延々と与え続ける責め苦を自らに課し続けるだろう。

 

「片時たりとも、ブリュンヒルデを忘れる事など無かった、ありえなかった!なのに俺は、我が愛を······!」

 

その愛は最早異常だと、彼自身も理解していた。

余りにも重すぎる自分の愛は、いつかブリュンヒルデに無理を強いてしまうのではないかと恐れていた時もある。

 

そんな自分が、何時だってブリュンヒルデを思っていた自分が、ブリュンヒルデを忘れるなどと。

 

記憶を探っていくと、ある時からまったくブリュンヒルデの事を考えることのなかった時間が発生していた。

 

その起点となったのは、ギューキ王の城を訪れた日。部屋に通され、国を治めし者と謁見した時だった。

 

あの時から。

 

 

妃より差し出され勧められた飲み物を、口に含んだその瞬間から。

 

 

「おのれ、グリームヒルド······っ!」

 

 

ようやく、英雄は愛する者の名を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

北欧断章、ヴォルスンガ・サガ。

悲劇として綴られた物語が、喜劇へと変わるピースがついに揃った。




絶望の後には、希望が待つ。

惨憺たる悲恋劇(グランギニョル)はこれにて終幕。
これよりは、魔竜と竜殺しにより綴られる、ありふれた英雄譚。
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