魔竜転生アクノロギア 意図せず原作をブレイクするようです。ただし別のな! 作:前虎後狼
ちょっと文の構成に迷ってしまい遅れた。
〆月ว日
計画最終段階、勇者と魔王の決闘まであと少しだ。
それにしても良かった。ブリュンヒルデへの求婚が成立してしまう前に無理矢理乱入できて。あれが成立してしまったら完全に手遅れだったな。
向こうの方はグートルーネちゃんが上手くやってくれてるだろう。
しかし何故だろうか、なにかよからぬことになってる気がする。
あの時のグートルーネちゃん腹括ってるようにも見えたし。
覚悟完了してた気がするんだよ。
ほんとに神話世界の女性達は揃いも揃って傑物ばかりだ。
でも心配が凄いんだよなぁ······全部終わったら様子を見に行くとしよう。
それに強制連行してきたブリュンヒルデの方もヤバそうだ。
無理もないか。ブリュンヒルデからしたら裏切られたも同然みたいなものだし。だからこその原典での結末だしな。
なんで、適当が過ぎるかもしれんがその辺りでとれた魚を食べさせて気力をつけてもらおうと思う。お腹空くとどんどん悪い方に考えちゃうからね。
とりあえず自刃だけはさせないように見張っておかないと。
少しは気が楽になってくれるといいけど。
後は······あの子達が来るかどうかだな。まぁ確実に来てくれるとは思うけど。
なにせお姉様の危機だからね。魔王に対するのはなにも勇者だけじゃない。
その共がいてこそ人は戦える。シグルドは確かに強いが、逆にこっちもシグルドを殺してしまいかねないからな。
さて、グランドフィナーレの前の最後の仕上げと参りましょう。
暖かな風が山肌を撫で、小鳥たちの囀りが谺響する。
自然芽吹くヒンダルフィヨルの山頂には、陽炎揺らめく炎の館。
かつて、ブリュンヒルデが眠り続けていた揺り籠にして、二人の運命が交わった場所。
いつかの幻想の残り火。今は誰も居なくなった思い出の地に、再び、魔竜は舞い降りた。
『ここへと来るのも久しいな』
太き竜の剛腕に掴まれていたブリュンヒルデは漸く解放され、懐かしき場所へと足をつける。
懐かしい。ここで出会い、結ばれ、そして別れた。シグルドとブリュンヒルデにとっての激動の地。それはアクノロギアにとっても例外ではなく、この地にて運命が交わったからこそ、いまこの瞬間が産まれている。
「貴方は、ロギアなのですか······?」
優しい自然の匂いを嗅ぎ物思いに耽けるアクノロギア。
そんな彼へと戸惑いがちに言葉を掛けるブリュンヒルデ。
シグルドがこの巨大なる魔竜を見上げて呟いた、彼の友の名前。
そしてこの竜から、感情の起伏に乏しかったブリュンヒルデに初めて驚嘆という感情を与えたあの幻想種の友に近しいモノを感じる。
その問いに、アクノロギアは魔力を放出して答える。
魔力の奔流は吹き荒ぶ突風に姿を変え、思わず目を閉じてしまうくらいの荒風を巻き起こした。
やがて風は収まり、ブリュンヒルデが再び眼を上げると、そこには見知った姿があった。
「ロギア······」
「フン、今にも落涙しそうな顔をしているな?まぁ、あのような事があれば無理もない」
座るのに丁度よさそうな大きさの岩に腰を下ろして、人間態となったロギアはブリュンヒルデを見据える。
まるで初めて出会った時のように······いや。感情を手にしたぶん、より幼い子が道に迷っているようにも見えた。
「さて、まずは事の真相を語って聞かせるとしよう。このままでは貴様、自分ごと全て燃やし尽くしかねんのでな」
「······っ!」
「やはりそうか。まぁ、理解はできよう。しかし冷静になれ戦乙女よ。それはお前が、最も望むものではあるまい?」
その為に魔竜は拐ったのだ。彼の知る正しき歴史において起きてしまった悲劇を、微塵に砕く為に。
「傾聴せよ、戦乙女よ。この我が真実を語ってやる───初めは、ある女の欲と愛情が起こしたソレだった」
魔竜が語る。シグルドを手にしようとした女の欲望を。
「お前という愛を既に得たシグルドを娘の伴侶としたいと願った女は、貴様を忘れさせる薬をシグルドめに飲ませ、娘と共に過ごさせた。その娘はとても聡く、そして気高い。まるで貴様を幻視するかのように、魂が似ていた」
魔竜は語る、シグルドに真の愛を抱いた少女の願望を。
「あれは、善き女だった。この我が認めたのだ、そうでなければあのシグルドがお前を忘れているとはいえ、他の女に現を抜かすなど有り得ぬからな。あの女はシグルドを真に想い、そして尽くした」
一時の幸福を手にした女。しかし、魔法の解ける時はやってきた。
「なぁブリュンヒルデ、貴様ならわかるはずだろう?同じ者を好いた貴様になら、その女の幸せが············しかして、女は気付いたのだ。自らの幸福は、誰かによって用意されたものであり、その過程に悲しむ者がいると」
知らぬ間に奪ってしまった幸福があると。許されざる大罪を犯したのだと。
「だからヤツは、その愛を元の者へと返すことを決めた。自らの幸せをかなぐり捨ててでもな」
それを深く恥じた少女は夫であった男の愛を、本当に向けられるべき者へ返すことを決めた。
「それは·········でも、もう遅いのです。私達は───」
「ブリュンヒルデ、その怒りを忘れろとは言わん。しかし理解してやれ。もうじきお前の求めたものが来るのだ。そう辛気臭い
「思うところがあるなら吐露すればいい。今更遅いだと?くだらん。遅くなどない、この我が間に合わせてやったのだ。抑えることなくその愛を叫べばいい。それでもまだ貴様達の愛が許されぬと言うなら、この我が試練となりシグルドめに立ち塞がろう。ヤツならば必ず、我をも越えて貴様の下へと駆けつけるだろうさ」
シグルドと共に駆けたこの数ヶ月、魔竜は英雄の
人間が弱さを抱えて、それでも上を向いて空を目指さんとした。その在り方こそが、彼を英雄たらしめる。
だからこそ人は惹かれるのだ。それは、かつて人であった魔竜とて例外ではない。
そんな、愛を叫ぶ一人の男なら。共に旅したあの男なら、ブリュンヒルデの全てを受け止めるだろう。
ブリュンヒルデはなにも言わない。心の内で起こる葛藤と戦っているのだろう。簡単には受け入れ難い。でも、もし許されるのなら、と。
「そろそろ夕餉にするとしようか。シグルドも明日には来るだろう、その時までにしっかりと休んでおけ。そのような曇った顔では、ヤツも堂々と貴様を迎え辛かろう」
決着の時は、近い。
「お願いしますオーディン様!あたし達にお姉様の救出を命じてください!」
大神の座す玉座の間にて、一人の戦乙女の声が響く。
ワルキューレ統率個体の一つ、ヒルドだ。
彼女達も少なからず神性を有してはいるものの、被造物であるヒルドが自らの産みの親でもある大神に意見することは、本来とても畏れ多い事と言える。しかし、それを唱えているのはヒルドだけではなかった。
「お願いしますオーディン様。我々に命じてください、お姉様を救えと!」
「かの魔竜が動き出したのなら、これ以上事態を静観は出来ません。どうかご決断を!」
残るスルーズとオルトリンデも、大神へ畏れ多くも意見を飛ばす。いや、彼女達だけではない。その他のワルキューレ達もこの場に参上し、ブリュンヒルデを助けるべく動き出す。
現存している全てのワルキューレがここに集結した。
その総数は凡そ150機を超える。
「待て、暫し待つのだ我が娘達よ。今はまだ動くべきではない」
「ですが!」
娘達の訴えにオーディンは頭を悩ませた。
元より勇士の魂を集めるシステムとして創造され、今や戦力の一つとしても数えられる兵器のような存在が彼女達だ。
個体ごとに性格や口調も違うように設定してあるが、彼女達の基本原理は同一。故に、彼女達に感情というものが存在しているのかは怪しいところであり、そもそも自分の意思というものすら曖昧だ。
何故なら彼女達はそうあるように定められたロボットのようなものであり、与えられたものでしか物事を見れないのだ。
そんな彼女達の中にも、唯一例外が存在している。
ブリュンヒルデだ。
彼女達の姉に該当する最初のワルキューレ。スルーズを始めとしたワルキューレ達にとっては憧憬の対象であり、畏敬の念を抱く人物だ。
大神の命令を除いて、意思が無いはずのワルキューレ達がまるで人間のような感情と意思を発露させ、唯一最優先事項とする対象。
その予想外には産みの親としては喜ぶべきなのかもしれないが、状況が状況だけに容易くは容認できない。
それに加えて、地上ではオーディンの神託を騙った少女の奮闘が開演され、ついにオーディンの胃に穴が空きそうな程の痛みを抱え始めた。
オーディンとしてはグートルーネの行いは特段目に余るわけでもなく、寧ろ己が全てをかけた一世一代の大嘘を吐いた彼女の心意気は賞賛に値する。
しかし、大神の意を騙った事実を北欧の主神として裁かなければ示しがつかないという面倒な
どうしたものか······主神が眉間に多くの皺を生み出していくのを見兼ねて、傍にて見守っていた雷神トールと豊穣神フレイヤがらここぞとばかりに助け舟を出す。
「お前達、それまでにしておくのだ。父上も困っておられる」
「ですがトール様!」
「お前達の思いが理解出来ぬ訳では無い。しかし父上も悩んでおられるのだ。なにせ、事の中心に居るのはあの魔竜。そう簡単に決を下し、命ずるべきなのかと見極めておられる」
スルーズ達の嘆願も理解できるが、それ以上にトールは険しい顔を晒すオーディンの心労が心配であった。少し前の独断行動を行った身で言うのはおかしいかもしれないが、目に見えて胃からくる痛みに耐えている父の姿を見るのはとても辛い。
「フレイヤよ、お前からもなにか言ってくれ」
「私はいいと思うわ。行かせてあげなさいな」
「そら、フレイヤもこう言って───うん?」
もう一柱の神、フレイヤからも助け舟が出される。しかしそれはオーディンへ向けてではなく、ワルキューレ達へ向けて出航した。
「·········フレイヤ、どのような打算を以てその解を得た?」
「多分だけど、あのドラゴンとシグルドがぶつかったら冗談じゃなくここが消し飛ぶわよ?あの子は人間だけど、それでもオーディンの曾孫ヴォルスングの血を引いているから神性もあるし、全力全開のグラムとぶつかりあったら何が起こるか想像もつかない。その上限がここの崩壊ってだけでね。最低限状況の仲裁を行えるかもしれない存在を派遣するべきってだけよ」
フレイヤの言う事はオーディンにも理解出来、頷けるものだった。
確かに、このまま静観を続けた所で状況が好転することは無い。むしろあの二つの存在の全力がぶつかり合えば、どのような結末へと転がるのか全く予想がつかない。
最悪を防ぐ為の予防策、成程。確かに筋は通る。
「そうなると、トールはまだ万全の状態じゃないしオーディンもここからは動けない。ヘイムダルを呼んでもいいんだけど彼じゃ太刀打ちできないかもしれないし、私も戦神ってわけじゃないから無理。フレイはこの前のトールの戦いにあてられて旅に出るって言って出てっちゃったし、ロキはこの状況こそを望んでいるだろうから論外。今から他の神を呼ぼうにも時間が足りないわ。となると、ある程度の戦闘能力を持っていて今すぐにでも動かせる戦力。それも軍単位で運用できるなら言うことは無いわね」
「·········」
「オーディン、ここは彼女達に任せるべきよ。それが一番いいと思う」
「······その根拠は何処から来ているというのだ」
「それは勿論、女の······いえ、女神のカンよ」
そう言ってのけて、北欧の愛の女神は誰をも魅了する微笑みを湛える。
全てに決定を下す主神は一つ重いため息を吐いて、
(それにこの状況、多分あの魔竜が意図して起こしたんだろうしね······面白そうだし乗ってあげるわ、策士なドラゴンさん?)
天界の神々、アースガルズはその瞬間、傍観者でいることをやめた。
色々な意味で目が離せない、魔竜の企みを完全なものとするため。
豊穣神は、その決闘を今か今かと待ち侘びる。
(それはそれとして、大地をめちゃくちゃにした責任はどうとってもらおうかしらね······)
同時に、先日の戦いの余波でメチャクチャになった大地について、後ほど
北欧の空に黎明の明かりが差す。
悠久の時を流れる空には、黄昏を越えて再び太陽が昇る。
竜の息吹で満ちたヒンダルフィヨル山、竜が棲みし自然の牙城にも陽光が降り注ぐ。その地へと足を踏み入れるのは、叡智を手にした竜殺し。
袂にて煌めくは、陽光を受けて輝く竜を滅せし太陽の魔剣。
戦士の王が、大地に立つ。
『来たか·········竜殺し』
懐かしき場所に、黒き巨竜が降り立ち、英雄の前に立ち塞がる。
かつて竜殺しが討ちし黄金を護る悪竜のように。
その背には、かつて過ごした炎の館と、その揺り籃にて眠っていた愛しき者が居た。
「ロギア······当方はお前になんと言えばいいのだろう。当方は───」
『竜殺しよ、剣を構えよ。まさか語らう為にこの場へと参ったのではないだろう?』
謝罪を、不甲斐なき自分に正気を取り戻さんと奔走した、真なる友へ感謝をと。しかしてその言葉を遮るのは他でもない、友である魔竜自身だ。
『我は竜だ。求め、欲し、奪い、喰らう。黄金が如き強欲が意思を持ち、あるがままに
いつかの日、初めて両者が出会いし時に魔竜が語った、己という存在を指す竜としての在り方。魔竜はそれをもう一度、竜殺しへと認識させる。
『我は貴様から真なる愛を奪いし邪竜。そして貴様は、ブリュンヒルデめを救わんと再起する一人の男だ。その雌雄をつける戦いが、舌戦というのはあまりにも映えぬだろう?なにより、そのような事をしても我が愉しめぬのでな』
武を示して、愛をとりもどせ。
『来るがいい竜殺し、我が魔竜として呼ばれしその由縁を、今示そうではないか。貴様の持つ竜屠る太陽の魔剣と、我が秘奥にして絶対の魔法、滅龍の力。どちらが上かを、今、この場にて雌雄を決しようぞ』
「───了承、した」
それは友からの試練と、ブリュンヒルデを取り戻す最後のチャンスだった。
既にこの身は不義を成した、英雄とも呼べぬ哀れな男。
きっともう、ブリュンヒルデの隣には立てないのかもしれない。
でも、それでいい。
たとえ愛する者の刃を受けようと、甘んじてその痛みを受け入れよう。
この命を断てと言うなら、喜んで捧げよう。
それを以てして、二度と揺らがぬこの愛を証明できるというならば。
そのための足掛かりを得るための、この最後の偉業による証明を。
「我が絶技の全て、余すことなく味わい尽くせ───邪竜、滅ぶべし」
『良い、それで良い───それでこそだ、我が盟友』
そのためには、ブリュンヒルデの前へと行くためには。
お前が邪魔だ、我が友よ。
「我が名はシグルド。父王シグムンドの子にして、魔剣を操りし戦士なり」
『絶対の個、魔を統べる翼。魔竜、アクノロギアである』
御伽噺に語られる、勇者と魔王の決戦。
しかし、最早これはありふれた英雄譚などでは無い。
「
『我が滅竜の秘奥、その身で以て味わい尽くせ!竜殺し!!』
崇高な願いも、正当な目的もない。
余計な柵など、なにもかも打ち捨てた。
魔剣使いは、愛した人を取り戻したい。
黒き魔竜は、再び二人の絆を繋げたい。
そうして臨む、最後の一戦。
全てのものに見せかける、滑稽で壮大な三文芝居。
されど、この一戦に一切の遠慮はない。
竜殺しは、この一戦を以て不義の償いを。一度は
魔竜は、この一戦で以て英雄を殺す。戦士としてしかあれぬと自戒せし、魔剣の担い手をヒトへと戻さんと。
故に、今ここに立つのは
ただの、二匹の
好きなら好きと叫べばいい、何を迷う必要がある。
それでもまだ迷っているのなら、そう叫ばせてやろう。
次回、輝きを放て、太陽の魔剣