魔竜転生アクノロギア 意図せず原作をブレイクするようです。ただし別のな!   作:前虎後狼

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ここに、二次創作の本懐を


輝きを放て、太陽の魔剣

ヴォルスンガ・サガ。

 

それは、北欧の神話体系を舞台とした人の紡ぎし英雄譚。

現代を生きる者にとっては、この御伽噺に登場する人物達がゲーム等で使われ、それを機として知った者が大半を占めていることだろう。

 

その中でも特に名が知られているのは、最強の竜殺しと目される英雄シグルド。

誰もが知る神話の英雄。されどその道行きは、華々しいものでは無かった。

 

シグルドは悲恋の先に最後を迎えた。愛したものを忘れさせられて、親友とした者により謀殺された。救いも報いもない、憐れな最期を遂げた。

 

それが、正しき歴史において語られる、英雄シグルドの物語。

 

 

だが、そんな悲劇など見飽きただろう?

 

 

ならば塗り替えよう、この残酷な結末を。

 

悲劇では終わらぬ、喜劇による大団円を

 

ハッピーエンドを夢想しろ。バッドエンドを棄却せよ。

 

これなるは、魔竜が紡ぐ救済の夢。

 

 

 

──これは、真なる愛を貫き通す、人間たちの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒンダルフィヨル山の頂きに、谺響する咆哮が二つ。

 

大地を揺るがし天を震わせる、竜の雄叫びがぶつかり合う。

 

「穿ち貫け!!」

 

裂帛の怒号と、放たれるは灼熱伴う魔剣。

 

破滅の黎明(グラム)。竜を滅する太陽の魔剣が、担い手が突き出す正拳に柄頭を殴られ、射出される。

風を切り音越えて突き進む魔剣の(きっさき)が狙うのは、深淵が如き純黒の竜。

 

『ふんっ!!』

 

竜の体躯に食らいつくべく飛来する破滅の黎明。その刃に触れぬよう、掬いあげるように豪腕を振るい、雷神の雷引き裂いた爪でその身を容易く喰いちぎれる魔剣の刃を打ち払う。

 

「はぁっ!!」

 

真上へと弾き飛ばされた魔剣。その軌道を予測していたかのようにシグルドが高く跳び上がり、くるりと宙を舞う得物の柄を掴み取り。

 

「せぇぇいっ!!」

 

重力に掴まれ落下するまま、眼前の竜目掛けて大上段に振り下ろす。

 

『魔竜の葬翼撃!!』

 

地にて英雄見上げる魔竜は、黒き双翼に魔力を嵐の如く纏わせて、落ちてくるシグルドを挟むように二つの嵐をぶつけ合わせた。

 

「くっ!」

 

シグルドは咄嗟に握っていた魔剣を左手で握り、腰に提げた短剣のうち一本を右手で抜くと、先のグラムと同様に柄頭を殴りつけて発射する。

 

暴風の嵐を掻い潜った短剣は魔竜の片翼へと激突する。堅牢な鱗に覆われた身を切り裂くことは無かったが、片翼から伸びた暴風は大きく逸れて、シグルドの真横を通過していく。

 

「せいっ!!」

 

残った片方を左手で握った魔剣で切り裂く。

萃められた風は霧散し、爆風の様に四方へ散る烈風に乗って、再び魔竜と距離を取った。

 

『ちぃっ!』

 

魔竜が大きく腕を振るうと地が抉れ、岩石級の石つぶてが散弾の如くシグルドへと殺到した。

 

その悉くをグラムで溶断し、埋め尽くされた視界を確保し魔竜を探す。

これはただの目くらまし、本命は死角からの──そう読んでいたシグルドだったが、次なる脅威は真正面か突っ込んできていた。

 

『魔竜の業拳!!』

 

巨大な質量が魔を纏ったアクノロギアの一撃。

あらゆる生命を蹂躙せしめる、魔竜が放つ必殺の拳打。

 

「ぐっ、ぬぅぅぅぅ!!」

 

回避は間に合わない。そう悟ったシグルドは、突入してくる竜の一撃に魔剣を滑らせ、ギリギリの所でいなしきる。

 

『魔竜の──』

 

シグルドの横を突っ切ったアクノロギアは四肢で台地を踏み締めて、身体を回転させて振り向きながら減速する。

そして、口内に灯る燐光が段々と強い光へと変化し。

 

『轟咆哮!!』

 

直後、蒼い極光が吐き出される。

 

莫大な熱量と破壊力を伴ったエネルギー体が虚空を突き進み、シグルド目掛けて飛んでいく。

魔竜の吐き出したブレスが、何をも灼き尽くすレーザービームとなり、たった一人の人間へ過剰なまでの火力が叩き込まれる。

 

直後、着弾した魔竜のブレスは土煙を舞いあげる。

シグルドの立っていた地面が砕かれ、辺りに岩石が散らばる。

 

「甘い!!」

 

巻き上げられた粉塵、土煙で出来た天幕に突如として穴が空く。

シグルドの持っている短剣だ。先のグラムや打ち出された短剣と同様に、高速の拳打を柄頭にぶつけて弾丸もかくやという恐るべき速度で射出される。

 

しかし、それらの短剣ではアクノロギアの体躯に傷を付けることは叶わない。グラムのように竜を滅する概念が付与されていない、他者の武器よりも多少切れ味が良いだけの短剣に過ぎないのだから。

それはシグルドも承知している。そして、それも織り込み済みでこの行動を採択したのだ。

 

『ぬぐぅっ!?』

 

アクノロギアの首の根元に三本の短剣が着弾し、アクノロギアの体が大きく仰け反った。

本来なら弾かれるだけの無駄でしか無かった三本の短剣。シグルドはそれを着弾した際の衝撃を重視させた投擲を行い、アクノロギアの体勢を崩すに至った。

 

「勝たせてもらうぞ───ロギア!」

 

『魔竜の──』

 

好機と見た竜殺しはグラムを握り突貫する。

しかし魔竜は体勢を崩された際の勢いを利用して。

 

『尖爪刃!!』

 

魔力を纏った四肢が踊り、近付いたシグルドを地面ごと掬いあげた。

 

「がっ──!」

 

たった一撃。それを貰っただけでシグルドの身体に大きなダメージが入る。

かつての偉業、悪龍現象を屠った際に受けた悪竜の一撃も決して無視出来ぬものであったが、今回のそれは比較にならない。

しかしそれは当然の帰結であった。

アクノロギアの使いし魔法、滅竜魔法。

別の世界において竜が人に教えし、竜を殺す為に竜に近づく魔法。

シグルドの身体は悪龍現象の心臓を口にした時、叡智を手にしたと言われている。この時シグルドは竜の血と肉を喰らったのだ。

つまり、竜としての特性を得てしまった。

 

なれば、竜を殺す魔法がシグルドにも効果を現すのは不自然ではない。

 

岩石と共に宙を舞って、竜殺しは地へと墜とされる。

 

「ごほっ······!」

 

赤いドロドロとしたものが口から溢れ、垂れた赤が地を濡らす。

先の衝撃だけで、一体幾つの骨が軋み、砕けただろうか。

どれほどの臓器が潰れ、悲鳴をあげたのだろうか。

 

たった一撃でこのザマだ。あのシグルドが、未来において最強のドラゴンスレイヤーと称される北欧最強の戦士が。こうして地べたを這いずりまわっている。

友の有する本来の力。その全てとぶつかり合い、魂を削り合う死闘を行える事を、とても嬉しく思う。

だが今の自分はどうだ?その全てに応えられていない。

こんな醜態を晒す者が、英雄であるはずが。

許されない。この身は常に強き者でなくてはならない。

そうでなければここへと来た意味がない。

なにより、何の関係もない友にここまでのお膳立てをしてもらっているのに、最低限の乗り越えるべき(試練)を前に立ち往生をしているようでは、誇るべき友として隣を歩けぬし、ブリュンヒルデと添い遂げる資格もない。

 

『その程度なのか?いや、その程度のはずがない』

 

視界が己の血で赤く染まった地面を映しているなか、遠くで盟友の声が聞こえた。

 

『これがシグルドだと?これがかの北欧最大の英雄だと?悪龍を討ちし、最強のドラゴンスレイヤーだと?フン!片腹痛いわ!この程度でこの我に、魔竜アクノロギアに勝利するだと?戯けが、我は未だに傷すら負っておらんのだぞ!』

 

まるで嘲るかのような魔竜の言葉。

しかしシグルドには、自分に対する鼓舞と激励の言葉に思えた。

ここで終わるのが、シグルドという戦士の限界なのか?

この程度で精魂尽き果てるのが、シグルドという男の執念なのか?

 

「否、否である!」

 

否、否、否!

 

こんなものでは終われない。終われるはずがない。

もう一度この腕で、五体揃いしこの(からだ)で、我が愛を描き抱くまでは。例え五体を引き裂かれようと、魂を微塵に砕かれようと、この胸の奥にて燻る炎を貫き抜かねば、たとえ死んでも死にきれぬ!

 

「魔剣、再起動!」

 

『なに?』

 

ならばその炎、白く燃え尽き果てるまで、紅蓮の輝きを灯すべし!

 

「グラムよ、当方の猛りに応え、荒ぶるままに激動せよ!!」

 

破壊の黎明が再点火する。担い手の激情に感化されたかのように、竜の血を浴びた翡翠の刀身より赤き炎が吹き荒れる。

消えぬ炎、何者にも吹き消せぬ熱情の焔。

戦士の咆哮は空へと上がり、蒼天を照らす転輪となる。

 

燼滅の咆哮(フロプトル・グラム)!!」

 

猛りし戦士の炎の剣。

黄昏を棄却せし太陽の魔剣は、山をも切り裂ける長大な炎の剣となった。

 

魔纏(まてん)の法、鎧鋳一織(がいちゅういっしょく)!』

 

再び燃え上がる炎の剣を、魔竜はその身に膨大な魔力を纏わせることで鎧となした。

かつて、雷神トールとの最後の一合にて放ちし滅竜の秘奥。滅竜奥義、魔燼咆界剣。その力の一端を応用した、天然の鎧を瞬時に創り出す魔法を以て、迫りし滅竜の刃を迎え撃つ。

 

『ぐっ、おぉぉぉ!!』

 

灼熱が大気を焦がし、魔力で編まれた竜の鎧を灼き尽くす。

その時、魔竜は初めて苦悶の声を漏らした。

 

数十秒の放熱を終えて、シグルドは再び膝を着く。

 

「はぁ······はぁ······!」

 

手応えが、感じられない。

確かに直撃したが、致命的なダメージにはなり得ていない。

無理もないことだ。

なにせ魔竜が展開した魔力の鎧は、かつてトールがぶつかり合った全力の一撃を防御に全振りした応用の力。

トールの全霊の一撃、悉く打ち轟く雷神の嵐(ミョルニル)を受けてなお無傷で居たからくりが正にこれだからだ。

 

しかし考えてみてほしい。

これまでは避けたりいなしたりしていた彼が、絶対の防御を誇る力を使い、防御に徹したその意味を。

 

絶技により振るわれた炎の剣は、魔竜に回避の余地を与えなかった。

絶対の防御に頼らねばならぬと、魔竜が本能的に嗅ぎとった直感を。

 

再び表れた魔竜の体が、ほんの僅かにだが焼け焦げている。

よくよく見てみれば、一部の鱗が溶解し歪んでいるではないか。

 

通った、シグルドの一撃がついに、不変と思われた魔竜の(からだ)に変調を齎した。

 

「ぐっ······!」

 

しかし、シグルドの身体は遂に限界を迎えつつあった。

先の即興で放った炎の剣は、シグルドに少なからず負担を強いた。

溜め込んだ負債と新たに抱え込んだ負荷が重なり、オーバーロードを起こしつつある。

 

ここまでだ。かのシグルドであっても、これ以上その身を燃やせばたちまち死を迎える。

もう、十分だ。神でさえ行えなかった事を、この人間は成し遂げた。

試練としても、十分に力を示せただろう。

 

「まだ······!」

 

しかし止まらない。止まれないのだ。

そんなことに意味は無い。これは通過点でしかない。むしろ、ここからが本番だ。

なぜなら、彼は証明せねばならない。

無理無謀へと突っ込んで、その意志を貫かねばならない。

そうでなければならないと、男は己に戒めた。

 

だから、立ち上がれ。立ち上がって見せろ、我が身体!

 

「まだ、終われぬ!」

 

俺にもう一度、力を!

 

だが、そう都合のいい事が罷り通るほど、世界とは甘くはない。

 

土壇場に秘められた力が覚醒するのはお話の中だけだ。

力を込めようと、シグルドの身体は応じれない。

 

「くっ······!」

 

せめてあと少し、時間があるならば。

もう一度立ち上がれるだけの時間が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「範囲制定。全機、一斉投射!」

 

意思だけが奮起するシグルドが見たのは、魔竜へ降り注ぐ光の雨。

 

『ぬぐぉぉぉ!?』

 

魔竜に驚嘆の声を上げさせた、光の絨毯爆撃だった。

 

「これは······!」

 

空を見あげれば、蒼穹を埋め尽くす純白の装いの乙女達。

 

幻想の如く美しき、少女達が降臨する。

 

「オルトリンデは防御を指揮!ヒルドは遊撃を!グリムゲルデとヘルムヴィーゲは二部隊に分けて攻勢を指示!統括は私、スルーズが担当します!」

 

「了解!」

 

「わかった!」

 

「了解です!」

 

「承りました!」

 

大神の被造物、麗しきワルキューレ。

神の意に従う御使い達が、初めて自分達の願望(いし)で魔竜へと牙を剥く。

 

『ふははは!!いつかの娘共か!!良いぞ!存分にその槍を突き立てるがいい!童共!』

 

空を舞う少女達が光の槍を振るう。

傷はつかぬとも、かの魔竜は四方八方より襲いかかるワルキューレ達の攻勢に注意を向けて、その大翼で叩き落とさんと空を薙ぐ。

ワルキューレ達は適度に距離を開け恐ろしい大翼の一振りを躱しきり、槍の穂先に光を集め放出する。

 

『魔竜の轟咆哮!』

 

蒼の極光が空に昇り、宙空を漂う天女達へと伸びる。

 

『オルトリンデ!!』

 

『防壁隊前へ!防御陣形!白鳥礼装起動!!』

 

オルトリンデの指揮する防壁隊が蒼き極光に立ちはだかり、それぞれが持つ金の盾を掲げ、その身に纏う羽衣の機能を最大にして展開する。

 

白鳥礼装。ワルキューレ達に与えられし天と地を行き来するための翼とも言える純白の衣。

その真価は、如何なる者からも浮く事である。

 

空を自由に舞うことの出来る彼女達の白鳥の羽衣。

風を掴み取り、自在に浮き上がる彼女達の装いは、負荷を超えぬ限りは風が逸らしてくれる。

 

その礼装を身につけし乙女達が、計二十機、蒼の脅威に晒される。

 

全力展開。かの暴虐の奔流を、今ここで塞き止める。

 

瞬間、極光が中心から割け、幾条もの光線となり空を走る。

極光とぶつかり合った乙女達は、未だ健在であった。

 

「これは、どうなって」

 

「いつまで機能を停止している積もりですか。英雄シグルド」

 

百を超えるワルキューレ達による突然の介入。

魔竜の攻撃に次々と対応する彼女達はやがて適応していき、反転攻勢を仕掛ける。そんな空の激戦に呆気を取られていると、無機質ながらも静かな怒りを滲ませた声が掛けられる。

 

「貴殿は······」

 

「返答は不要です。そして、私が誰かを問う必要もありません。私が言及したいのは、いつまで立ち止まっている気でいるのかについて」

 

金の髪を伸ばした個体、スルーズ(強き者)がシグルドへと激を飛ばす。

 

「貴方が再起するだけの時間はこちらで用意します。·········本来なら我々は、貴方を否定する側でいたかった。お姉様を狂わせた貴方を、認めたくなんて無かった」

 

誇り高き姉を、ワルキューレとして完璧であったブリュンヒルデを不完全へと落とした男を、妹達は許せなかった。

だが、その姉のこれからがどうなるかが掛かっているというのに、自分の私情を挟んではいられない。

 

「しかし、これは当方の試練だ。アースガルズの貴殿達が介入する事は」

 

「ええ、その通りです。これは確かに、神聖なる儀を否定する事と同義であり、神の意を伝える我々が神の意に背くこの行動は、許されざる愚行です。それでも、私達はいてもたっても(・・・・・・・)いられなかった(・・・・・・・)

 

それは、機能としてあり続けようとした彼女達が、初めて自分を曝け出した(わがままを言った)瞬間であった。

 

「だから、私達は今の矛盾(かんじょう)に従います。例え、然るべき罰を受ける事になっても、欠陥品として廃棄される運命だとしても。私達はお姉様を喪いたくない······!!」

 

自分達はどうでもいい。不遜なれど、神の被造物たる我々であるが、今この時だけは神の意すらどうだっていい。

 

「───了解した。貴殿達の温情に感謝する······!」

 

同じ願いを持つシグルドは、それ以上を言わなかった。

今の自分がやるべき事は、もう決まっているのだから。

 

「期待しています。大神が、そしてお姉様が認めた勇士よ」

 

言いたいことは全て言い切ったと、天女は再び空へと上がる。

 

「全機へ伝達、宝具開帳用意!」

 

いつか自分達が打ち破ると決めた魔竜へと、今の全てをぶつけてやる。

 

「全機、同調開始します」

 

根元を同一とするワルキューレ達による、思考の並列化。

 

「「「同期開始」」」

 

全ワルキューレ、総数百五十以上。

 

「「「「「「同期完了。ノイズ0.03パーセントを維持」」」」」」

 

ヴァルハラに導く機能の全てを集め、彼女達はその手に握る模倣された神槍を掲げる。

 

「照準完了······!」

 

「みんな、いくよ!」

 

「真名解放······!」

 

今この時、少女達の幻想(ねがい)は大地を鳴らす。

 

「「「「「「「「「終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)!!!!!!!!!」」」」」」」」」

 

少女達の号令と共に、偽りの神槍は一斉に放たれた。

それは、空を埋め尽くした輝き放つ流星雨。

 

魔竜を中心として捉えた光の槍の雨は容赦なく降り注ぎ、正しき生命ならぬ存在を否定する。

 

幻想的なその光景は、正に神話の戦いとして相応しいと言える。

邪悪なる魔竜を斃す、美しく猛る戦乙女達。

その光景を創り出した乙女達は、静かに魔竜の立つ場所を睨み続ける。

この程度で終わらせられるなら、最初から苦労していない。

 

『クハハ、今のは効いたぞ童共······!』

 

吹き荒れる突風と消える土煙。アクノロギアが行った魔力放出が、回りに漂う煙幕を消し飛ばした。

 

煙が晴れた先には、少女達にも予想できなかった未来があった。

 

魔竜が、身体中に傷を負っている。

 

といっても、派手に血を流している訳では無い。

身体中の鱗の、所々に罅が入っているのだ。

 

シグルドの魔剣の一撃を受けた後というのも関係しているが、それでもこの事態は予想の範囲外だった。

その真相は、彼女達の宝具が関係している。

 

終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)

 

その真価は、幻想種や吸血鬼等の不当な生命の強制排斥。

宝具の効果を齎す結界の一種がアクノロギアを起点に張り巡らされ、アクノロギアが纏っていた魔力の鎧を削ぎ落とした。

そして次々と着弾した光の槍が、竜殺しの特性を帯びた太陽の炎で炙られた鱗に、とうとう亀裂を入れたのだ。

 

『クハハハハハハ!!実に良い気分だ!こうも全力で暴れられ、尚且つ我の身体に傷を付けるなど!!』

 

激昴はせずとも、ワルキューレの奮闘は魔竜をさらに昂らせた。

歓喜に満ちた竜の雄叫びは、とても無邪気な子どものよう。

全力の闘争。持てる全てを次々に擲つ、切った張ったの戦模様。

 

ワルキューレ達の足掻きは、魔竜を満足させるに足るものだった。

 

『して、用意はいいか?竜殺し』

 

「───応」

 

時間は稼げた。戦士が立ち上がる為の、僅かな時間は。

 

己に刻みし治癒のルーンは、ブリュンヒルデより教わりしそれ。

愛した者より受けた知恵が、竜殺しを再び奮い立たせる。

 

「当方の、オレの持てる全て(全力)を撃ち放とう──魔剣完了。太陽の魔剣よ、その身で以て大いなる破壊を巻き起こせ!」

 

破壊の黎明が、その刀身に宿した日輪の輝きを解き放つ。

シグルドの前へと現れ、その(きっさき)を魔竜へと向ける。

 

『ならばその全力、我の魔の秘奥(全力)で応えよう!───滅竜奥義!』

 

残った全てを振り絞って、太陽の魔剣の真価を、今ここで開帳する。

悪龍屠りし全力の一投(一刀)を、集約した絶技の極地を。

その全力に、魔竜は己の全力で応える。

全ての決着を、今ここに。

 

「此れなるは破滅の黎明!」

 

もう一度世界に、輝きを放て。

 

崩天(ほうてん)蒼嵐哮(そうらんこう)!!!』

 

魔竜の顎が大きく開き、膨大な力が宿りし蒼き極光が開放される。

シグルドの全霊を掛けた魔剣の一投へ、ぶつけ合う全力の咆哮を。

 

瞬間、激突があった。

 

炎を撒き散らしながら突き進む魔剣が、蒼き極光を真正面から受け止める。

拮抗し、鬩ぎ合う日輪の炎と魔の極光。

力と力のぶつかり合いに耐えられなくなった大地が悲鳴を上げ、空が軋みをあげる。

 

崩天(ほうてん)蒼嵐哮(そうらんこう)

アクノロギアが持つ滅竜奥義の一つ。

それはかつて、気まぐれに魔竜が空へと放った、世界に罅を入れたブレス。

その正体は、放射状に放たれたブレスが世界を共振させ、局地的に断層を引き起こした現象だった。

その光景に危機感を覚えた魔竜はそれを一極に絞り込むことで、世界にギリギリ亀裂を入れぬように収束させた上で、威力の強化を図ったのだ。

 

その一撃が、シグルドへ向けて放たれる。

 

そもそも、シグルドとブリュンヒルデの救済を掲げているアクノロギアからすれば、これを開帳する必要は無い。

なら何故、シグルドを殺してしまいかねない滅竜奥義を放ったのか?

残念ながら、深い理由などない。

ただ純粋に、シグルドの意思に応えたいと思っただけの事だ。

自分の全てを擲ってでも幸福を取り戻そうと足掻く彼。

その全力に、必要最低限の力しか使わないというのは侮辱にも等しい行いだ。

この数ヶ月の間共にすごしたアクノロギアからすれば、それだけはしてはならない事だった。

たった数ヶ月と、人々は首を傾げるかもしれない。

されどその数ヶ月の間に繋がれた縁は、アクノロギアにとって何物にも変え難いものとなった。

 

ならば、その意思に報いなければ。

 

魔竜が放つ収束されし魔の極光は、破滅の黎明を塞き止める。拮抗状態を保ち続けている。

 

だがまだ、まだ足りない。

この鬩ぎ合いを制し、突き抜けるにはもう一手が足りない。

勝利を齎すならば、最後のダメ押しが必要だ。

 

「──友よ、オレは勝利を手にする」

 

シグルドは駆ける。恐れずに踏み出していく。

力と力がぶつかり合う中心、放たれた魔剣のもとへと。

 

「感謝する、ロギアよ。我が永遠の盟友よ──!」

 

最後のダメ押し。彼方にある勝利を掴むべく、眼前の障害を粉砕する!

 

右の拳を、固く握りしめて。

 

滅劫の転輪(ベルヴェルク・グラム)!!!」

 

男の拳は、魔剣の柄頭を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、北欧の空に眩い光が満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔剣は空を切り裂き、遥か高みへと上っていく。

 

英雄は宙を舞い、炎の館へと落ちていく。

 

そして魔竜は──

 

『──見事だ』

 

──初めて地へと墜とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シグルド······!」

 

愛する者が落ちてくる。

至る所に傷を負い、鮮血を撒き散らして。

 

炎の館の窓より、囚われし乙女は全てを垣間見た。

 

激闘繰り広げる竜と戦士。空より来たる妹達。

 

次々と移り変わる戦いの様相は正に神話のそれと言える。

 

膝を着いてでも、血を吐いてでも立ち上がる愛しい人の姿。

 

痛々しい傷を抱えて、それでも彼は突き進む。

 

それほどまでに、シグルドはブリュンヒルデを求めている。

 

「っ······シグルド!!」

 

抑えられない。もう、この激情を抑えきれない。

 

もう遅いのだと自らを戒めた。運命には抗えないと、幸せを諦めた。

 

それなのに、でも、未だに、幸せを求めている。

 

炎の館を飛び出して、ブリュンヒルデは空へと上がる。落ちてくるシグルドを受け止めようと、その手を大きく広げて。

 

「······!ブリュンヒルデ!!」

 

「シグルド!!」

 

二つの影が、蒼穹にて重なった。

 

「「お姉様!!」」

 

二人のワルキューレ。ヒルドとオルトリンデが広げた白布を持って飛び、落ちゆく二人を受け止める。

 

二人がかりで広げられ受け止めた白布の中心で、再び両者は結ばれた。

 

「ブリュンヒルデ······!当方は、オレは·········!」

 

「シグルド·····!本当にシグルドなのですね······!」

 

もう二度と離さないと、お互いの体を抱き締める。

双眸から流れる雫と、溢れ出す二人の愛。

 

「ブリュンヒルデ······誓いを違えたオレにはお前と共に行く資格など無いのかもしれない。だがもし許されるなら──」

 

「シグルド······私はもう二度と、貴方とは結ばれないと思っていました。きっと父が、お許しにならないのだと。でももし、叶うなら──」

 

「「一緒に、生きてくれないか(くれませんか)?」」

 

報われぬ悲劇があった。そうなると定められていた。

IFの可能性などなく、それはただの幻想に過ぎなかった。

 

されど、本来の歴史に存在しなかった竜の存在が、有り得ざる奇跡への道を描き、道は、ここに再び交わった。

 

「お姉様······」

 

「はぁ······見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうや」

 

喜びに打ち震える二人を見て、妹達は微笑んだ。

姉を狂わせし英雄に思うところが無い訳では無い。しかし、自分達の姉が幸せを噛み締めている姿は、きっと彼以外には作れない。

仕方がないから、まあ大目に見てやろうではないか。

 

『クク、貫いたか······』

 

魔剣により穿たれ、地に伏せた魔竜は、笑う。

 

『まさか、この我が血を流すことになろうとはな······』

 

英雄の一撃は奇跡を成し遂げた。

未だかつて、誰にもなし得なかった偉業。魔竜の堅き鱗を砕き、皮を切り裂いて、あまつさえ血を流させた。

そして、画した茶番劇はここに成った。もうこの物語は、あの二人は、引き裂かれる事など無いだろう。

 

『喜べ英雄、そして乙女達。貴様達は我を、ここまで追い詰めた······』

 

魔竜は、翼を広げる。

蒼穹へ羽ばたく為に、その黒翼を大きく開いて。

 

「ロギア······!」

 

『さらばだシグルド。我が友よ。お前達の先行きに、祝福があらんことを』

 

手を伸ばす友の姿を目に収めて、竜はやはり、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──空を突き抜けた太陽の魔剣。

 

大神オーディンの神槍と根元が同一とされる魔剣は、遥か下にいる持ち主の元へと戻った。

 

鋩が地に突き立ち、太陽の魔剣は陽光を浴びて輝く。

 

刀身が映したその輝きは、遥かなる空へと登る黒き魔竜の後ろ姿をずっとずっと見続けていた。

 

 

 






悲しき英雄とその恋人の物語は、ようやく終幕を迎えた。

残るのは、愛を貫いた姫の物語だ。
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