魔竜転生アクノロギア 意図せず原作をブレイクするようです。ただし別のな!   作:前虎後狼

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最近小説を書いていて思うのは、挿絵が欲しいなとつい思ってしまうこと。
そんな叶わない夢を夢想しつつ、筆者は今日も指を走らせる。




少女は、高く跳び上がった

乙女を攫いし魔竜は空の彼方へと消えた。

 

その背中を、多くの者達が見送っている。

 

この手で下すと決意した乙女達は、竜の背中に哀愁を見た。

 

魔竜に攫われし乙女は、竜の呟きに慈悲を感じた。

 

死闘を越えた盟友は、竜の起こす風に祝福を感じ取った

 

飛び去っていく魔の輝きは、空に昇った太陽の方へと消えていく。

直視できない日輪の輝煌が、竜の体躯を覆い尽くした。

 

「ねぇスルーズ。あのドラゴンこのままだと」

 

「生命活動の低下·········機能停止も有り得ます」

 

「だよね······そこまでして、お姉様達に拘るのって、何でなのかな」

 

乙女達は魔竜に何を思うのか。

誰よりも強く、そして誰よりも人間らしい竜の願いを聞いたら、彼女達はどう思うのだろう。

今の時点でも世界をどうこうできる力を有する魔竜が臨んだこの戦いが、友の幸せを取り戻す為だと知ったなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの森で、黒い影が降り立つ。

 

「ぐっ······この痛みは、想像以上であるな······」

 

右胸から溢れ出す命の水が、草木を濡らし緑を朱に染めていく。

 

これまで何者にも傷つけられることのなかった魔竜の躰を、穿ち貫いた竜殺しの魔剣。

神ですら不可能とした偉業を、彼はここに成し遂げた。

魔竜は、この結末に満足していた。

覆したい未来があった。救い出したい人が居た。

幻想にすぎなかった願いが、現実として結実した。

 

感無量だ。たとえここで力尽きても、魔竜はまあいいかと微笑むだろう。

ただの人間でしかなかった男がこうして魔竜の躰を得たのも、もしかするとこの時のためだったのかもしれない。そう考えれば、悪くは無い。

 

「クク、クハハハハ······」

 

深手を負った魔竜は近場の木の幹に背をあずけ、ゆっくりと地べたに座り込む。

役目は終えた、ならば、役者は退場するのが筋だ。

 

「良い、これで良い······」

 

恐ろしき魔竜、最悪の竜たるアクノロギアの最期にしては、静か過ぎるとも思わなくもない。

それでも、まあいいかと思ってしまう。少しの間とはいえ楽しい夢を見れた。

願わくば、あの二人の道行きに多くの祝福があらん事を。

 

「シグルド、ブリュンヒルデ······お前達は·········」

 

「一人で悟ってるところ悪いんだけど、貴方にはまだ頑張ってほしいのよね」

 

瞼を下ろそうとしたロギアに、なによりも美しい旋律が自然の囁きが届く。

閉じかけた瞼を上げて、いつのまにか目の前に居た神性を視認する。

 

「こんにちは、狡賢いドラゴンさん?」

 

誰もが魅了される、まるで作られたかのような完成された美しさを持つ女。

 

女神。それも神霊としての格はかなりのものだろう。

そんな神格の一柱が微笑みかけている。

 

「貴様······神格の一柱か」

 

「豊穣を司る神、フレイヤよ」

 

勝利の神フレイの姉、女神フレイヤ。

なによりも美しい美の女神でもある彼女は、

 

「随分と派手にやりあったみたいね。まさかグラムの全力の一撃を受けてまだ生きているなんて、貴方本当にドラゴン?」

 

「クク、さてな······我はこの身を竜と定めてはいるが、実際はどうなのかはしらん。まぁ······竜ではないか?トールの一撃さえ凌ぎ切った我の躰を、ヤツの魔剣は容易く貫きおったのだ······」

 

「あー、確かにそうね」

 

「して、我に····何用だ?まさか、態々我の最期を見に来たとでも?」

 

「ちがうわよ。むしろ逆で、私は貴方を助けに来たの」

 

「神である貴様が······?」

 

神が竜を生かそうとする理由。

生憎とロギアには思い当たる節が無かった。

むしろ北欧を破綻させうる存在を排斥にかかるとばかり思っていた。

しかしこの女神は、既に死に体のこの魔竜を生かすのだという。

 

「貴方の共犯者さんの事よ。まさか、巻き込んだ娘の事をそのままにしておくつもりだったのかしら」

 

「グートルーネ······!」

 

そうだ、魔竜にはまだ終われぬ理由があった。

竜の願った結末を現実にした真の立役者。共犯者たるグートルーネ。

 

「昨日貴方の共犯者に下る形だけの神罰の内容を私が告げに行ったのよ。オーディンの名を騙った事に対するね。まあオーディンからすればそれくらいで目くじらを立てたりはしないけども、それじゃあ他の神々にも示しがつかないからね」

 

「待て···!グートルーネはどうしたのだ······!」

 

「落ち着きなさいって、余計に傷口が開くじゃない。ちゃんと話してあげるから。あのグートルーネって娘への沙汰だけどね、大衆へは婚姻の契りを一方的に破棄したことに対する裁きになってるわ。表向きはね」

 

神として、主神として、北欧に君臨する大神として、その罰は課さなければならないものだ。

 

「神々に対しては、オーディンの名を騙りし事への神罰とした、か。フン、器の小さい事だ」

 

「立場がそうさせるのよ。仮にもこの北欧を取り仕切ってる主神が舐められるのは避けたいの。幸い下された罰は国からの追放だけで済んだからね。というかそう私がさせるように色々と言ったんだけれど。まあそういう訳で、貴方には悪いけれど、あの娘の事を迎えに行ってあげて欲しいの。私としてもああいう娘は好ましいしね」

 

穴が開きとめどなく血が流れだすロギアの胸へ、フレイヤはそっと掌を翳した。

 

「我が父、大海統べしニョルズ神よ、我が豊穣の祈りよ、この者の受けし傷と呪詛を洗い流し、祝福を授けたまえ」

 

フレイヤが音にのせた祝詞(のりと)は翳した掌に緑色の灯りを灯して、魔竜の右胸へと吸い込まれていく。

体の内側から、名状し難い暖かななにかが湧き上がってくるような感覚が、傷付いた魔竜を包み込む。

 

「父様から借りてきた水の権能よ。これで貴方の傷に残ってる竜滅の呪いも消えるわ」

 

「貴様······」

 

「本当ならね、豊饒を司る女神としては大地をめちゃくちゃにしてくれた貴方に文句の一つでも叩きつけたい所なんだけど、一応は戦いを司る私もあんな戦いを魅せられたら、なんにも言えなくなっちゃったわ」

 

トールとの激戦の後、雷神はというとフレイヤに治療を施されながらも見事に雷を落とされ、叱られた子犬のようになっていたのは記憶に新しい。

でかい図体の割に小さく感じた武神らしからぬ様子は、今思い返してもクスリときてしまう。

 

「はい、あとはぐっすりと休めば全快よ。あまり無茶はしないようにね」

 

「·········受けた施しには応えねばならぬな。一応だが、礼を言っておこう」

 

「······やっぱり貴方、ほんとにドラゴン?」

 

さて、な·····と言葉を濁したロギアは、そのまま眠りにつこうと瞼を閉じた。

漏れでる息は先までのような荒々しく苦痛に満ちたものではなく、健やかな吐息に変わっていた。

 

「仮にも神を前にして寝るって、流石と言うべきなのかしらね······」

 

豊饒、戦い、そして愛を司る女神は、子どものような寝顔を浮かべる魔竜を眺めて、呟いた。

 

「お疲れ様。狡くて優しいドラゴンさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐るべき魔竜からブリュンヒルデを取り戻したシグルド。

二人がギューキ王の国へと戻った時、そこにグートルーネの姿は無かった。

 

シグルドが義兄弟であるホグニにそれを聞くと、シグルドがヒンダルフィヨル山に向かった後女神フレイヤが降臨したのだという。

 

女神フレイヤは、大神オーディンの遣いとして降臨したとのことだ。

グートルーネが行った婚約の誓いの一方的な破棄を許されざる不義とし、オーディンはこれに国からの追放と放浪の旅を償いとするとし、グートルーネはこれを受け入れた。

 

シグルドは、崩れ落ちた。

ほんの僅かな間だったとはいえ、確かに愛していた少女が全ての負債を背負って、裁きを受け入れたという話に何も感じないわけがなかった。

 

自らの不徳が、全ての責を一人の少女に背負わせてしまった。

 

「すまない······当方の力不足が故の失態だ·········!」

 

「そんな!シグルドさんのせいじゃ!」

 

「否、当方の責任だ······なによりも罪深いのは、当方だ」

 

「シグルド······」

 

かなりの堅物であるシグルドは、その真面目さ故に責任感が人一倍強い。

グートルーネのとった行動も、元を正せば自分が発端だ。

自分が彼女を愛さなければ、こうはならなかった。

グートルーネの人生を狂わせたのは他でもない自分だと。

なのに、自分はのうのうと幸せを取り戻しておいて、自分を送り出してくれた優しき姫を助ける事も出来ないなど。

 

そんなものなど、英雄なんかではない。

 

「ホグニ······不甲斐ない当方に、どうか罰を······!」

 

ブリュンヒルデを取り戻せた事。シグルドにとってはそれ以外の事は些事に過ぎないが、これだけは違った。

どうして、自分の事を思ってくれた者を軽んじられようか。

だからこそシグルドは卑下する。自分の背を押してくれた少女に、何もしてやれない己の無力さを。

 

 

地に手を突いて己の至らなさを嘆いていると、肩に手が乗せられた。

 

「嘆かないで、シグルド」

 

自己嫌悪に陥っていた彼に声をかけるのは他でもない、ブリュンヒルデだ。

 

「ブリュンヒルデ······」

 

シグルドは後悔に下を向いていた顔を上げる。

ブリュンヒルデは愛する人の断罪を求める視線を受け止めて、その提案を口にした。

 

「······探しましょう。その、グートルーネという、貴方を愛してくれた人を」

 

愛する人の為に、愛した人と決別した少女。

悲愴の決意を灯した勇気ある者との、もう一度の邂逅を。

 

「まだ、遠くには行っていないはずです······それなら、まだ近くにいるのかもしれません」

 

「ブリュンヒルデ·····」

 

「私は······そのグートルーネという人の事を、よく知りません······でも、私も会ってみたいと思います······シグルドを、もう一度私に引き合わせてくれた、優しい人を······」

 

嫉妬はあった。憎しみも、抱いていたのかもしれない。

だって、愛した人を取られたことを、簡単に許せはしない。

実際、ロギアから彼女のことを聞かされなければ、ブリュンヒルデはきっと燃え盛る憎悪を滾らせるままグートルーネとその一族郎党を皆殺しにしていた。

しかし、今の彼女の胸中にあったのは、純粋な興味だった。

同じ人を好きになった人。そんな彼女に、会ってみたい。会って、話をしてみたい。

 

「行きましょう······そして、貴方の気が済むまで謝りましょう······私も、一緒にいますから·········」

 

そして、出来るなら感謝を告げたい。

私たちの幸せを取り戻してくれて、本当にありがとうと。

 

自分のような卑しい女には決して出来ない、覚悟をもった少女に敬意を表して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ·········!」

 

国という鳥籠を出て、生まれて初めて外に羽ばたく小鳥のように。

真なる愛を貫いた姫は蒼天を仰ぎ見る。

 

贖罪のための永遠の旅。

沙汰を言い渡されたグートルーネは、その決定に悲観も悲嘆も抱かなかった。神から下される罰ならば甘んじて受け入れる。その命を断てというわかりやすくも重い厳罰ではなかった。

少女には、まだ未来があるのだ。

 

「これが、シグルド様たちが駆け抜けた大地なのですね······」

 

姫という地位と肩書きを失った。

残ったのは、せめて持って行ってほしいと父と侍女達に渡された、幾つかの衣類と僅かな金貨を詰め込んだ袋だけ。

されど今の少女には、自由がある。

 

安泰せし確約の未来は無くなれど、不安残る未知の未来が少女を待っている。そう考えれば、この放浪の旅も悪くは無い。

 

「ですが、何処へ向かえば良いのでしょうか······」

 

しかしそれは、もう庇護する盾も何も無い身一つの少女では限りなく険しい、死出の旅に等しい無謀な歩みである。

右も左も分からない、定まらぬ航路の示す先に、少女が求めるモノはあるのか。

そもそも、何を以て旅とするのか。贖罪の如何とするのか。

これまで国の外という大海に漕ぎ出した事の無い少女には、その悉くが不明瞭である。

 

「私一人の旅······」

 

そして、行き着く先のない一人旅というのは、想像以上に辛いものだ。

 

共に歩んでくれる人も、道を指し示してくれる人もいない。

ずっとずっと、一人きり。

 

「少し、寂しいですね······」

 

少女は一人呟く。そうしなければ、今にも心細さで潰れてしまいそうで。

これまで感じたことの無い、心が震える寒さに凍り付いてしまいそうで。

 

この寒さを、少女は永遠に抱え続けるのだろうか。

 

「──面を上げよ、我が共犯者。下を向いていては道すら選べぬぞ?」

 

少女は顔を上げた。自分を共犯者と呼ぶのは、この世でたった一人だけ。

 

「アク、ノロギア様······」

 

獰猛な笑みを湛えている、褐色の偉丈夫が立っていた。

 

「どうして、貴方がここに」

 

「フレイヤから粗方話は聞いている。しかしまあ我が唆したとはいえ、随分と盛大に盛り上げてくれたようだな」

 

腕を組んで不遜に笑う、最初に会った時となんら変わらぬ竜。

全て終わったのだから、もう何も残っていない元姫にこの竜がこれ以上何の用があるのだろうか。

 

「さて、どうして貴様の前に現れたかと聞かれれば、我はこう答えるしかなかろう───貴様を連れ去りに来てやった」

 

暴虐の化身、我欲の塊である魔竜が、国より旅立ちし姫へと言った。

 

「我は共犯者を見捨てはせぬよ。貴様の幸福を奪っておきながら、負債を押し付け知らぬ顔をする程我も恥知らずではない」

 

「私を······ですか?」

 

「貴様以外に誰がいる?」

 

眉を寄せて少し不機嫌そうになった表情は、分かり切ったことを聞くなとでも言いたげだ。

 

「旅をするにしても、着の身着のまま小娘一人が歩める道なぞたかが知れておる。このまま野垂れ死なせるには、どうにも惜しい女よ」

 

元より、ここまで関わっておいて知らぬ存ぜぬで通すつもりは無い。

ここまで巻き込んだのだから、無理矢理にでも幸福を掴んでもらう。

 

「まあ、答えなど聞いてはいないがな」

 

ロギアを中心に強い風が吹く。

解放された魔力が突風という形で表れ、グートルーネに押し寄せる。

 

反射的に閉じた目を再び開けると、初めて見る姿があった。

 

『我が気に入り、我が攫う。ただそれだけのことである。我が共犯者よ、我の旅路に同行する事を赦す』

 

黒き竜が、空を掴める大翼を拡げていた。

神をも恐れぬ災禍が、人など容易く握りつぶせるその魔手で、少女の華奢な体を掴んだ。

 

『恐れるな。美しく気高き、我が認めた女よ。これより先、水先案内人はこのアクノロギアが請け負ってやろう。───この空と海と大地の全てが、貴様に未知の世界と可能性を魅せるだろう。喜べグートルーネ。この世界は、貴様を待っていた』

 

人より悲劇を奪いし、邪悪なる魔竜は告げた。

新生せし一人の少女に、新たな旅路への祝福を。

 

「······はい!」

 

少女は、笑った。

堪えていた涙が両の目より溢れ出していく。

心を偽った貼り付けられた笑顔ではなく、太陽のように朗らかな笑顔だった。

 

魔竜が飛び立ち、蒼穹を黒い流星が引き裂く。

 

少女は眼下に広がる果てしない世界を眺めて、これから先の光景を夢想した。

 

一番欲しかったものは、もう手に入らない。

それを少女は、やはり後悔はしない。

好きな人に好きと言いたかった。

好きな人を好きになりたかった。

望めるならば、そんなもしも(IF)を想像してしまう。

でも、あの人はきっとどんな世界でも、同じ人を愛し続けるだろう。

何度生まれ変わったとしても、同じ人を好きになるだろう。

 

でも、今となってはそれでいいと思う。

 

きっと、そんな彼だからこそ、好きになれたのだから。

 

 

 

 

──その日、少女は高らかに空へと飛び出した。




前回の戦闘描写で力尽きた······


シグルド編もとい北欧神話編、残り三話。

あくのろさんとグートルーネのその後をご覧下さい。
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