魔竜転生アクノロギア 意図せず原作をブレイクするようです。ただし別のな!   作:前虎後狼

15 / 18
そろそろ失速してきた。

熱が冷めないうちに書いていかなければ


あくのろだいありー10 副題:ドラゴンですが、やっぱり平穏が一番です

 

٩月ẅ日

 

 

 

凄く久々に日記をつけた気がする。

 

あれからちょいと······2、3年くらいかな?それほど時間が経ってしまったが、あくのろさんは元気です。

それとグートルーネちゃんも元気です。

さて、今の状況ですが色んなとこをあちこち旅して回ってます。

様々な特色溢れた国を回ってはグートルーネちゃんが初めて見るものに目を輝かせて食いついてくれるのを見るのが日課になりつつある。

美味しいものを食ったり絶景を眺めたりお祭りに混ざったりetcetc······

いやー堪能してくれてるようでよかったよかった。やっぱり何もかもが新鮮なんだろうね。

 

かくいう俺も色々と楽しんでいる最中だ。

 

例えばグートルーネちゃんを乗せて空の旅を楽しんだり、海の辺りで会ったトールと釣りを楽しんでいたらでっけぇ蛇が釣れたりと、それはまぁ充実している。

 

あくのろさんとしてはこのまま旅を続けてもいいのだが、グートルーネちゃんも長旅は疲れるだろうし一旦何処かに落ち着ける場所を探してみよう。

なんだったら山奥にでも家を建てて暫くは静かに過ごすのもいいのかもしれない。

ドラゴンになって好戦的な思考になりがちだが、やっぱり平穏が一番だと身にしみて思うわ。

 

それにしても、シグルド達は今頃何やってんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶月◀日

 

 

また時間が空いてしまったが、俺達は今日も相変わらずの日常を過ごしています。

変わったことと言えば、一旦旅を終えて山奥の方でひっそりと暮らし始めたくらいかな?それと旅の途中で出会った身寄りのない子ども達を養子に迎えたくらいか。

とりあえずちょっと大きめの木組みの家を建ててみたが、やはり狭い。

トーシロのドラゴンには到底無理があったわ。あくのろさんでも無理があったわ。

まぁもちろん、ここから増改築を進めていくつもりだがね。

目指せ匠!緑の爆発する方じゃなくて劇的なビフォーでアフターを行える方のな!

 

そんなこんなで、今日も俺達は元気に過ごしております。

 

しっかし、俺も随分ジジ臭くなってきたな。まあ前世合わせればもうアラフォーに突入するくらいの歳だしな。あの二人見ても穏やかな気持ちでいられたのってこれが理由だったりするんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

∴月∵日

 

 

 

 

山奥での生活もすっかり慣れてきた今日この頃。

 

家庭菜園という名の結構大きめな畑を開墾して、自給自足生活をのんびりと過ごせている。隠居生活も中々いいな。せっかくだからスイカでも育ててみようかなと考えている。某新世紀で加地さんの作ってたスイカを思い出したら無性に食いたくなってきた。この時代にスイカの種とか売られてるのかそもそも自生してるのかすら怪しいがね。

 

グートルーネちゃんも子どもたちと楽しく戯れているようでなによりです。

あぁ······あの微笑みを見てると今にも浄化されそうだ。聖母って呼ばれても絶対違和感ないよ。崇め奉るよこんなの。

 

子ども達も元気になってくれたようで万々歳だ。

あの子を見た時はビックリしたがね。あの異聞帯の話って神話時代で間違えた歴史が今の時代まで続いたらっていうIFの世界だったっけか。

という事は同一人物······ではないのかな?

まあそれはどうでもいいさ、重要なのはあの子がここで笑っている事だ。それなら俺はあの子達の成長を見守っていけばいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北欧を揺るがした大激戦、後にヒンダルフィヨル山の竜退治と呼ばれる戦いからもう五年近く経とうとしていた。

シグルドという英雄の名は千里を駆け巡り、名実持って最強の英雄と称えられるに至った。

 

最早知らぬもの無しの英雄があちこちを駆け回っている頃、放浪の旅に出たグートルーネと魔竜アクノロギアは数々の国と土地を飛んで周り、見聞を広めていった。

 

 

姫であった頃では考えられない生活は、不自由なれども少女に生の充足を与えてくれた。

 

『クハハハハ!見ろトールよ!随分な大物が獲れたぞ!』

 

「これは、ミドガルズオルムか······かの世界蛇を持ち上げるとは、やはり凄まじい力だ」

 

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??何コイツ!?何なのコイツら!?何なのこのドラゴン!!?やだ、おうち帰るってか帰らせてぇぇぇぇ!!!』

 

また時にはこれでもかと暴走したこともあったが、幸い大事にはならなかった。ただ魔竜がやる事成す事の全てを目を輝かせてみている姫に、一抹の不安を感じるかもしれないが、それはまた別の話だ。

 

閑話休題。そんな二人の旅路だったが、徐々に疲れを見せ始めたグートルーネを気遣い、そろそろ一度旅を終えようと考えていた時だ。

二人がある農村を訪れた時、幼い子ども達が決して多くない荷物を持って村を出ようとした瞬間を目撃した。

気になったグートルーネが子ども達に話を聞くと、この辺りにある国同士の戦争で親を無くしてしまったのだという。

親亡き子達は難民となり、この農村に置いていてもらっていたのだが、このままだと村の備蓄では全員分の食糧を賄えないのだという。

 

どちらも間違ってはいない。だが、生きる為には切り捨てるしかないのだ。

 

もちろんそれを、グートルーネは見過ごせなかった。

理解できない訳では無い。分かるからこそ、幼い子ども達の曇る表情を見ていられなかった。

 

「ロギア様、一つよろしいでしょうか」

 

「······お前の言いたいことは、まぁ言わずとも理解できる。言ってみるが良い。お前の口から、どうしたいのかを」

 

魔竜は受け入れた。姫の懇願を、子ども達にせめてもの道をあげられるようにと。

共犯者の願いを聞いて、魔竜はその言葉を待っていたとばかりに笑い、子ども等へと言い放った。

 

「喜べ童共!貴様達の歩む道無き道を、我が作ってやろうではないか!この我が、お前達に生きる糧をくれてやろう!」

 

こうして、魔竜と姫は大勢の子どもを連れて、争乱無き自然の揺籃へと旅立った。

 

そして現在、どこかの山奥にてひっそりとした隠居生活をスタートさせていた。

 

アクノロギアはというと、元々人間であった頃の記憶をフルに用いて山奥での生活に適応していった。

初めは簡単な山小屋をどんどんと改築していき、現在ではそれなりの大きさへとなった。

家の次は畑を、畑の次は子どもが遊べる遊具をと。

試行錯誤を繰り返して改良に改良を重ね続けた。

 

対してグートルーネは子ども達の面倒を見ながら城にいた頃に教わった料理の腕を遺憾無く奮い、子ども達のお腹と心を満たしていった。

 

空へと飛び出した優しい少女は、暖かでささやかな平穏を謳歌していた。

 

 

 

 

 

「クク、魔竜たる我がまさか親の真似事をする日が来ようとは······竜としての威厳の欠片も見当たらぬな」

 

時間は昼を少し過ぎた辺り。日輪が空の頂点へ上り、また西へと沈み掛けている。

木組みで出来た最早ちょっとした御屋敷のようにも見える家の屋根に寝そべり、自前で用意した生鮭の切り身を口に放り込んでいる。

 

畑の様子も見終わった彼は陽の光を掛け布団の代わりとして、微睡むままに意識を落とそうとしていた。

 

激動の日々は終わりを告げ、やる事も何も無い。

以前のように、シグルドと共に駆け抜けた旅を恋しく思ってしまうこともある。前世から引っ張ってしまった悪癖でもある何かをしなければ落ち着かないという性分も、山奥生活が始まった時は顕著に表れていたが、今ではすっかりなりを潜めた。

のんびりとすることを覚えた今の竜にとっては、この何も無い平穏こそがなによりも愛おしく思える。

 

「おじさん、何をしているの?」

 

「──ゲルダよ、屋根裏の梯子から登ることは補修以外では禁じていたはずだが?」

 

「それは······ごめんなさい。でも、おじさんとお話がしたかったから探してたの。どこにもいなかったから、もしかしたらここかなって思って」

 

「お前も、どこかグートルーネに似通ってきたように思えるな······」

 

日光を受けて煌めくブロンドヘアが波のように揺れる、まだ幼げな少女。

二人が拾いし孤児達の中で最年長であった少女、ゲルダが屋根へと登ってきていた。

あの日のような不安が漏れ出すのを必死に我慢していた表情は無く、ゆとりある生活が少女に心の余裕を作るだけの時間を与えてくれた。

今ではもう歳相応の無邪気さをさらけ出している。

こうしてロギアに絵本をせがむ子どものように我儘を言うくらいには、少女は強かに成長した。

 

「全く。それで、我に何を聞きたいと?」

 

「うーん·········」

 

「考えていなかったのか······」

 

大方、ゲルダ以外の子達が遊び疲れて眠ってしまったから暇になりこうして探していたのだろうと、だいたいその通りだろう予測をたてる。

 

「じゃあ、おじさんのお友達の事を教えて!」

 

「我の友······あぁ、シグルドめの事か。それで良いのか?」

 

「うん!」

 

「そうであるな······昔話、という程でもないが。まぁ語ってやるとしよう」

 

寝そべったままのロギアの隣でちょこんと座り、ロギアの口から紡がれる冒険譚を今か今かと待つゲルダ。

ロギアは苦笑し、それを語り始めた。

 

当人達も気づかぬまま、魔竜の在り方に変革をもたらした一人の男の物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ······流石に疲れますね。子ども達の遊びに着いていくのは」

 

子ども達を寝かしつけた後、誰もいないリビングで疲れの声を口から吐き出す少し逞しくなったグートルーネ。

室内に備え付けられた木造式の小型の氷室から紫の水を取り出すと、これまた木でできたコップにそれを注いだ。

 

木でできた氷室、これを作成した当人である職人ロギア曰く『れいぞうこ』なるものらしく、一番上の空洞となっている場所に氷塊を入れることで下の方に冷気を伝える事が可能な入れ物らしい。

ロギアとしては前世にて漫画で見たものを参考に作成したのだが、正確な図面もなくそれを完成させた彼の技術はどこへ行こうとしているのだろう。

 

グートルーネがコップの縁に口をつけて少し傾けると、中身が口内へと流れていく。少しずつ味わおうと何度も喉を上下させている様子は如何にもグートルーネらしく、とても可愛らしい。

彼女の飲んでいる飲み物。これまたロギア作の特製ぶどうジュースは、現代人の慣れ親しんだ味に比べると少し薄口だが、グートルーネやゲルダを初めとした子ども達には大好評である。他にも様々なバリエーションを増やしつつあり、作った本人も非常に満足そうだった。

 

「ふぅ······そういえば、ロギア様の姿が見えないような」

 

コップの中身を飲み干したグートルーネはふと、さっきから姿が見えない魔竜の存在を思い出した。もしかすると······と予想したグートルーネは外に出るため玄関に向かう。

木造のドアを開け放つと、眩く照り続ける太陽が迎えてくれる。

優しくも荘厳な天上の星より降り続ける日光の暖かさに、無意識に全てを預けてしまいたくなる心地良さが身体中を包み込む。

 

「いい匂い······」

 

すんと鼻を鳴らせばずっと嗅いでいたくなるお日様の香り。

陽気な風が春の訪れを告げ、耳をすませば木の葉が揺れる音と動物達の声が合わさり楽しげなオーケストラを奏でてくれる。

城の中では見つけられなかった美しさが、魔竜が指し示したこの地にあった。子ども達と共に過ごす生活も、とても楽しく思う。

もし一人の母として在れたなら、こんな幸せが待っていたのかもしれない。

 

春風と日光を浴びて感慨に耽っていると、上の方から声が聞こえてくる。

少し家から離れて屋根を注視すると、やはり予想通り。ロギアが屋根に寝転がっていた。一つハズレがあったとすれば、そこにはゲルダも一緒にいたことだろうか。

 

「やはりそこに居たのですね。ロギア様」

 

「ぬっ、グートルーネか」

 

「あっ、お姉さん!」

 

反応したロギアはむくりと上半身を起こし、ゲルダは手を振っている。

すっかり元気になった少女の笑顔に微笑んでしまうが、それはそれとしてグートルーネは屋根に登ったゲルダを叱り始めた。いけない事をすればしっかりと怒ること。ロギアより教わった子ども達への教育の一つだった。

 

「ゲルダ?屋根裏には登っちゃいけませんと言いませんでしたか?」

 

「あっ······ごめんなさいお姉さん」

 

「もう、ゲルダがケガしたら皆心配するんですからね?」

 

「クハハ、そらゲルダよ、グートルーネめに雷を落とされる事になっただろう?」

 

「ロギア様も、左の御手で隠されていますがまた鮭をそのままで食べていましたね?」

 

「グッ······目敏いなグートルーネ。しかし我は竜であるが故、元来はこのような魚もそのまま喰らうのだが」

 

「そうかもしれませんが、やはりお身体に悪いです。ちゃんと火を通したものをお食べになってください」

 

「むぐぅ······」

 

上の二人へ姫の雷が平等に落とされた。少女は姫の言うことを素直に受け容れ、竜に至ってはぐうの音も出ないほどに論破されてしまった。グートルーネに教授した教育の法が自分に向けて牙を剥く。

恐るべきグートルーネ。少し前までは世間知らずの一国の姫だった少女が、主に精神面で逞しく強かな女へと急成長を遂げたその脅威の成長性である。

 

「まったく、ゲルダもロギア様も······ところで、なにかお話をしていられたようですが、いったい何を話していたのですか?」

 

「なに、ゲルダに昔話をせがまれてな。我と我が友の駆け抜けた物語を聞かせてやっていた」

 

ポン、とゲルダの頭に褐色の掌が乗せられ、川のように澄んで流れるような金の髪がぐしゃぐしゃと撫で回される。

目を瞑りながら擽ったそうにしているゲルダは抵抗を試みるが、その顔は満更でもなさそうだ。

 

「シグルド様のお話ですか······私も是非とも聞きたいです」

 

「お姉さんも、そのシグルド様に会ったことがあるの?」

 

「ええ。と言っても、私はロギア様ほど親しくはありませんでしたが」

 

「ククク、どの口が言っているのだか。まぁ良い、では我とヤツとの出会いから話して──」

 

不意に、ロギアの言葉が止まる。

 

「おじさん?」

 

「ロギア様?いったいどうなされたのですか?やはりお身体に障ったのでは」

 

二人の声が掛かるが、それすらも意に介していないかのように微動だにしない。目を見開いているロギアの視線は、ずっとある一点に固定されたままだった。

 

「······え?」

 

気になったグートルーネがロギアの見ている方へと振り向く。

 

遠くの平原に、その人影は立っていた。

 

白と青みがかった黒の頭髪に叡智の結晶を目元に掛けた、魔剣携えし偉丈夫。そして、男に寄り添うようにして傍らに立つ透き通るような銀の髪を伸ばした、大槍を握る戦乙女。

 

その姿を、その匂いを、忘れるわけが無い。

どれだけ時が経とうとも忘れはしない、二人の思い描く英雄。

 

「──久しいな、グートルーネ。そして我が友よ」

 

「その、お久しぶりです······そして、初めまして」

 

魔剣振るう戦士、シグルド。

盾の乙女、ブリュンヒルデ。

 

以前と変わらない顔ぶれが、知られざる竜の秘境へと訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば、ブリュンヒルデとシグルドがこの場所へと辿り着いたのは偶然だった。消えてしまったグートルーネを探して二人は新たな旅を始めたのだが、やはりグートルーネは見つからずあっという間に一年近くが過ぎようとしていた。

もし何かがあればと日に日に自分を責めるシグルドと、そんなシグルドに寄り添い続けたブリュンヒルデ。足掛かりは全く掴めずにいたが、それでもと諦めずに探し続けた。

 

そんな時だ。とある国を訪ねた際に、捜し人であるグートルーネの容姿を人々に伝えると、似たような人が訪れた事があると返された。

 

その際、グートルーネらしき少女と共に居た褐色の男の話を聞いて、さらに二人は驚いた。

同時に、湧き上がった安心感もあった。彼が共に居てくれているなら心配は無いと。

 

二人は旅を続ける。

最も記憶に残りやすいだろう褐色の男の情報を求めて。きっと彼の傍にグートルーネはいると確信して。

 

それから更に数年が経とうとした頃、二人がある農村を訪れていた時、いつも通りにロギアとグートルーネの容姿を伝えて目撃情報を集めていると、その村の村長らしき人物から話を聞くことが出来た。

半年以上前にそんな姿の二人が訪れて、難民だった子ども達を連れて北の方に行ってしまったと。

 

ついに明確な手掛かりを手にして、英雄夫婦は諸手を挙げて喜んだ。

再会の時は間も無くだと、二人は更に北を目指してグラニを走らせた。いくつもの山を越えて、人知れず消えてしまった二人に逢いに行くために。

 

「·········久しいな、グートルーネ。そして我が友よ」

 

「シグルド様······」

 

そうして、いくつもの山を越えた先でようやく見つけた。

生涯最高の友と、自分達を再び繋げてくれた少女を。

 

「シグルド、ブリュンヒルデ······何故貴様等がここに」

 

驚愕を露わにするロギアを余所に、シグルドはグートルーネの目の前まで距離を詰めると。

 

「──姫グートルーネよ、まずは感謝を述べさせてほしい」

 

その場で、跪いた。

無防備な(うなじ)を晒すように頭を垂れて。

その構図はいつかの姫の懺悔の告白と似ていた。

 

「貴女の覚悟に後押しされた事により、愚劣なる当方は真に大切だと断言出来るものを取り戻すことが出来た。貴女のお陰で、当方達は今を生きている」

 

記憶の混乱があったとはいえ、シグルドは少女の覚悟に背を押されたことで立ち上がれた。

もう一度奮い立たせてくれた少女には、これからずっと頭が上がらないだろう。

 

「そして、謝罪させてほしい。真に不義を働きし当方の不甲斐なさと、貴女一人に罪を負わせてしまったことを」

 

続いて英雄の口から零れたのは懺悔だった。

 

「その業は本来なら当方が背負うべきモノだ。だが当方は、当方の都合を優先した」

 

この数年、その事を後悔し続けてきた。

無くされた記憶を取り戻し、ブリュンヒルデともう一度結ばれる事が出来たが、その裏には一人の少女の涙があった。

一時は共に過ごした間だというのに、少女になにもしてやれなかった。

不義を犯したのは自分だというのに、彼女は汚れ役として受け入れた。

 

許されるとは思ってはいない。だからこれは、自己満足に過ぎないのかもしれない。それでもシグルドは、そうせずにはいられなかった。

 

「──断罪を。不義を犯したこの身に、どうか断罪の刃を······!」

 

震える声には、怒りがあった。

一人の少女すら助けられなかったどうしようもない自分に向けた、怒りだった。あの時どうするのが最善だったのかなんて今でも考えつかないが、もっと良い方法があったのではないかと、安易な道に逃げだした己にどうしようもなくムカついた。

 

だからせめて、その手で如何様にも裁いてくれ。

どんな責め苦も受け入れる、どんな罵詈雑言も受け止める。

一人だけ救われるなんて許されない。だからどうか、罰を。

 

「シグルド様、お顔を上げてください」

 

顔を伏せるシグルドに、全てを委ねられた少女は評決を告げる。

再び見た少女の顔は、やはり微笑んでいた。

 

「私は、貴方を許します」

 

告げられたのは望んでいた断罪ではなかった。

少女は英雄にただ一言、許すとだけ言い放った。

 

「貴方は許されてもいいのです。何故なら貴方は苦難を退けて、今を手にしているのですから。寧ろ、謝罪せねばならないのは私です。貴女に薬を盛って記憶を無くさせたこと、許されざる行いです」

 

「しかしそれは貴女の罪では」

 

「いいえ、これは私の罪です。母の犯した罪は私のものと同義であり、知らずながらも母の姦計に加担してしまった私もまた罪人なのです」

 

彼はやはり真面目過ぎる。

最早気にせずともいいのに、それでも彼は気に掛けてくれる。

 

「それでも罰を欲するなら────どうか、その幸せを離さないでください」

 

それが、置いていかれた少女の願いだった。

 

「再び袂に手繰り寄せたその糸を、二度と手放さないでください。何があっても、その愛を貫き続けると誓ってください。それが、私が貴方に与える罰です」

 

どうか、今の道を歩み続けて欲しい。振り返ったとしても、今の道を引き返そうとしないで欲しい。ただ、貴方を好きになった馬鹿な女が居たということだけを、覚えていてくれるなら。それ以上に嬉しいことは無い。

 

「グートルーネさん······」

 

「ブリュンヒルデ様、貴女様からすれば私はなによりも憎い憎悪の対象、そんな卑しい女がこんな事を申すなどどの口がとお思いになるかもしれませんが、それでも言わせてください············シグルド様を、よろしくお願いします······」

 

「······はい!」

 

ここに、英雄シグルドの旅は本当の意味で終わりを迎えた。

残された遺恨を清算する為の、自己満足の旅。

彼の望んでいた罰とは違えども、ようやく英雄は抱え込まずとも良かった重荷を下ろすことが出来た。

 

負の連鎖により成り立っていた英雄譚は魔竜の牙に砕かれ、代わりに描かれたのは陳腐な大団円。読み物としては退屈に過ぎるかもしれないが、それは紛うことなく誰もが望んでいた結末だった。

 

「感謝······!感謝する、グートルーネ·········!」

 

人の縁とは少しの拗れから如何様にも変遷を見せる。

ボタンの掛け違いが大きな不和を生み、予想だにしない展開を創る。

そしてこれも、その掛け違いから生まれた結末。

本来ならこうして一堂に会する事のなかった三人は、魔竜が作りし歪みによって繋がれた。

一人の男は、漸く救われた。

 

「全く、真面目に過ぎるなお前達は。今が幸せならば過去の事など水に流せばいいというに······」

 

「でも、お姉さん達幸せそう」

 

三人を見て呆れたように言葉を零すロギアだったが、その目元はいつかのように細まっていた。

眩しいものを見るような、慈しみに満ちた目。

口も僅かに孤を描いていて、薄く笑っているように見えた。

同じく三人を見ていたゲルダは、笑っているグートルーネ達を見て、率直な感想を述べた。その顔に、悲しみは浮かんでいないのだから。

 

「さて、良く此処へと辿り着いたな。折角だ、旅の疲れを此処で癒していけ。喜ぶがいい、この我が直々に貴様達をもてなしてやるのだからな」

 

ゲルダを抱えて屋根から地面に飛び降りる。音も衝撃も無く地に足をつけた竜は抱えたゲルダを降ろすとそのまま我が家へと戻ろうとする。

 

「ロギア、少し待ってくれるか」

 

「ぬ?いったいなんだ──」

 

呼び止められ振り向いたロギアは、その次の言葉を失った。

 

抱きしめられている。シグルドとブリュンヒルデの二人に抱擁されている。

 

「友よ、お前が居なければ当方達の歩んだ結末は、今とは乖離したものになっていた」

 

「貴方が居たから、私もシグルドも笑っていられます······」

 

友へ送る感謝の念。伝えそびれていた竜への感謝を、二人は無理矢理にでも受け取らせる。

 

「「ありがとう、ロギア」」

 

「············」

 

木の幹のように大きく太い両腕を広げて、二人に倣うように友たちの体を抱き締めた。

 

「竜である我に、打ち倒すべきものに感謝を述べるとはな。やはり貴様達は、変わっている」

 

二つの熱を感じて、竜はお返しだと人の友たちへ祝詞(のりと)を送る。

 

「天上の神々に代わり、この我が祝福しよう。シグルド、ブリュンヒルデ。貴様達のこれからに多くの幸があらんことを。これより先の輝ける路を、堂々と歩むがいい」

 

いくつもの苦難を超えて、奇跡はここに紡がれた。

陳腐だと笑うなら笑えばいい。

つまらぬと断じるなら閉じればいい。

 

どれだけの言葉に謗られようとも、この結末だけは否定させない。

 

皆が笑えた世界が、ここにはあった。




有り得た世界がここにあった。

最早何者にも、二人の愛を引き裂けはしないだろう。




因みに冷蔵庫の云々に関しては藍蘭島15巻を読めば幸せになれます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。