評価頂きました!ひゃっほう!
「…さて、各員…結果報告を……」
「た、隊長?こんなところで寝たら駄目ですよ!」
日は既に傾き、赤い夕陽は見る者全てに等しく、優しく包み込まれるように穏やかな感情を思い起こさせた。
眠気である。
そんな中、薙ぎ倒された木々の端に残った、森だったものの一部分に体を預け、隊長は眠っていた。
「……………」
よほど疲れていたのか、寝言を呟いたり腕を伸ばしたりしていたが、今は落ち着いている。
(…困ったなぁ……)
その為、隊長が起きるまで、ルーキーは周囲の警戒に当たっているのだった。
(…合流地点に早く向かわないといけないのに、場所が分からなくなっちゃって…)
そもそも、こんな状況に陥る羽目になったのは、アラガミの群れとの戦闘の所為だった。
(…隊長は、疲れ果てて眠っちゃったし…)
ルーキーは着地の失敗で合流地点が記憶から抜け落ち、隊長は疲労困憊で眠気に支配され、仕方なく、休憩も兼ねてこの場で休む事にしたのである。
(…やっぱり、人生最悪の日なんだろうか……)
もしかしたら、ハヤかミミが探しに来てくれるかもしれないと、ルーキーは希望的観測に現実逃避するが、それは今のところ妄想か空想の産物だった。
(…そうだよ。そもそも、こんな日に限って災難が立て続けに起こるなんて…あの時だって…)
と、ルーキーが妄想の中で今日の出来事を振り返っていると、ルーキーの顔が不満げに曇った。
(…あの時……アラガミが、僕の故郷を…姉さんを……)
そして、ルーキーは悔しげに奥歯を噛み締める。
(…姉さん…僕、ちゃんと就職できたよ……やっと、夢にまで見た、姉さんの力になれるんだ…)
ルーキーは、あれだけの高さから落下していながら、傷一つ付いていない神機を握り締め、夕日の向こうに万感の思いを馳せた。
(…僕、死んだ事に、なってるけど……)
ルーキーの顔が、不安げに曇った。
「っ?」
おかしな気配を感じたルーキーは、慌てて目を覚ました。
どうやら、夕日に込められた不思議な魔力に当てられて、「ルーキーはねむってしまった!」していたらしい。
隊長の方に視線を向けると、隊長はまだ眠っているらしかった。
「…何だろう、今の…?」
先ほど感じた妙な気配に、どこかデジャヴじみたものを感じ、ルーキーは周囲を見渡す事にする。
夕日は、まだ沈んでいなかった。
…その夕日に全身を隠すようにして、誰かが立っている事にルーキーは気が付いた。
隊長は目を覚まさない。
太陽の眩しさをこれほど邪魔だと思った事がなかったルーキーは、黒い影もろとも太陽に抗議の視線を送る。
すると、ルーキーの視線の意味を察したのか、その影は徐々に大きくなり、ルーキーから太陽の恩恵を奪っていく。
ルーキーの脳裏に、見覚えのあるフォルムが浮かび上がった。
…左腕に剣形態、右腕に銃形態の神機を持った、謎のゴッドイーター。
それは、昼間にルーキーが居住区で見掛けた物陰に酷似していた。
それと同時に、初めて隊長に質問をして返された言葉を思い出す。
(…確か、僕は謎のアラガミと交戦して死んだ事に……)
確かに隊長は、ルーキーにそう言っていた。
そして、その場には謎のゴッドイーターがいた。
謎のアラガミではなく、謎のゴッドイーターが。
(…もしかして、あれは…ゴッドイーターじゃなくて、アラガミ…?)
…それは一歩、また一歩と、ルーキーの元を目指して近付いてくる。
しかし、ルーキーの方からは、その姿を明確に捉える事は出来なかった。
(…また、頭が…っ…)
ぐらぐらと、頭の奥が揺れているような感覚に、ルーキーの意識は再び遠のいて行く。
「…隊長……逃げ……」
そこで、ルーキーの意識は途絶えた。
「…ほーらー、ルーキーちゃんも起きてー」
気の抜けるような、間延びした声が響いた。
「ん…んん……?」
それは、ルーキーだけでなく隊長の耳にも届いているようで、隊長はあと32秒と細かい要求をしている。
隊長(はあと)。
(…あれ、僕も寝ちゃってたのか…)
ルーキーは大きく伸びをすると、改めて周囲を見渡す事にする。
(…あれ?…何か、デジャヴ…)
ミミと何やら交渉を始めた隊長と、少し離れた所で辺りを見渡しているハヤがいた。
…既に日は落ちかけているが、恐らくこれ以上沈む事はないだろう。
「もー、じゃあ20秒だけだよー」
「…んー…駄目か…?」
欠伸をして、白露のような水滴をまつ毛の端にのせると、隊長は見上げるようにミミの瞳を覗き込み、じっと見つめた。
「……し、仕方ないなー、30秒だけだよ?もー…」
普段と立場が逆転している二人を眺めながら、ルーキーはもう少し眺めている事にした。
「ふふふっ…ありがと、ミツミ…」
「み、ミミはミミだってばー!もー!もーー!!」
隊長(はあと)。
ルーキーは、何だか心が洗われるような、不思議な癒し効果を受け、そろそろ立ち上がる事にした。
「…ミミさん達、どうしてここに?」
合流地点から随分離れた位置に移動して来ている二人に、ルーキーは尋ねる。
「…ルーキーちゃん、今何時だと思うー?」
どうやら、ミミは少し怒っているようだった。
「え…っと……19時半くらい、ですか?」
その瞬間、ミミは笑顔になり、つられてルーキーも笑顔になり、隊長も笑顔になった。
「22時だよ?」
「………え…?」
ルーキーは、新種のレーザーを受けてしまったかのように、凍結した。
「…え…っと……日、まだ沈んでませんけど…?」
自然解凍が始まり、ルーキーは多少の明るさを保っている太陽を引き合いに出す。
「そっかー、そうだねー。ところで、白夜って知ってるかなー?」
ルーキーは、再び凍結した。
「…シ、シラナイデス」
それらのやり取りを離れて見ていたハヤが、ぼそっと呟く。
「…今日本部に配属されて来た芋野郎が、んなもん知ってる訳ねえだろ…」
あまりにも的確かつ意味深な指摘に、ミミはハヤの顔をじっと見た。
「…な、何だよ」
ミミの突然の喰い付きように、ハヤは妙に落ち着きがなくなる。
「…調べたんだ?」
ハヤは視線を逸らして、辺りを見渡し始めた。
「調べたんだー!!?」
ミミは決定的な証拠を手に入れ、隊長に目配せする。
「ち、ちげえし!!つ、つーか、オレが何を調べたっつーんだよ?!」
ハヤのその問いは、起き上がった隊長がミミの代わりに答えた。
「はて。私はルーキーの出身地について、皆に話した覚えはないが」
ルーキーは、何の話かはまだ分からなかったが、流れ変わったなという事は分かった。
「…いも?…あ、ジャガイモですか?」
と、芋がジャガイモを指している事までは分かったが、それ以上の事は分からなかった。
「ルーキーちゃん、ルーキーちゃん。ここにジャガイモがあるとするでしょー?」
これが5分後の貴様の姿だ…と言いたい訳ではなく。
「ジャガイモはねー、とある国の生産量が有名なんだー」
残念!ハヤの言い訳はここで終わってしまった!
「…ちっ、分かったよ!白状すりゃいいんだろ!?調べたよ!!悪いかよ!!」
ハヤの叫びに隊長は頷き、ミミはにやにやし、ルーキーは沈み込んだ。
(…そうだよね…僕、ハヤさんに嫌われてるみたいだし……知りもしない奴なんかと、一緒に命懸けの仕事なんて、したくないよね……)
何やら沈み込んでいるルーキーの様子に、隊長は何事かを思い付き、もう一つおまけに頷いておいた。