「……………ミミ…さん……?」
「久しぶりー、ルーキーちゃん」
全身に広がった黒い痣が、完全にルーキーを飲み込むまで、あと少しといったところだった。
右腕はほぼアラララガミ化…いや、アラガミ化しており、没収された筈のルーキーの神機が、右腕に無数に生えていた。
「お腹、減ってないー?」
そんな中、誰も立ち入りを許可されていない筈の部屋に、ミミは現れた。
「…お腹…ですか……空いて…ません……」
ルーキーの返答に満足そうに頷くと、ミミはその場に座り込む。
「あれから、そろそろ一ヶ月経つねー」
ルーキーは、何も答えない。
「実はねー、わたしもここに来る前、アラガミ化しちゃったんだー」
ぴくっと、ルーキーの顔が上がる。
「それで、同期の仲間に処分されちゃった…えへへ…」
どこか他人事のような、そんな風にミミは言う。
「わたしのいた支部はねー、船の支部なんだー。フェンリル戦船支部って呼ばれてたよ」
聞き慣れない言葉に、ルーキーは微かに首を傾げる。
「簡単に言うとー、ゴッドイーターとアラガミの実験をする為の支部。まだ公にはされてないけど、新しい偏食因子を使って、アラガミをそこに集めて実験してたんだ」
新しい偏食因子に興味があるのか、ルーキーは首を傾げた。
どこぞの不思議なダンジョンを彷彿とさせる仕草に、ミミは思わず笑ってしまう。
「…えっとねー、偏食因子って食べ物の好き嫌いみたいな奴なんだけど、普通の方が嫌いの方で、新しい方が好きの方なんだー」
なるほどと、ルーキーは微かに頷く。
「当時は知らなかったんだけどー、わたしも実験体の一人だったんだ。新しい刀身になる予定の槍の神機だよー、すごいでしょー?」
槍の神機については知っていたので、ルーキーは特に反応しなかった。
「あれー…もしかして誰かに聞いてた?もー…」
自慢したかったのか、ミミは残念そうに肩を竦めた。
「…わたしねー、同期の仲間より早く部隊長になって、とっても優秀だったんだー。でも、アラガミ化が起きてねー…一緒の部隊だったその同期の仲間に、胸刺されちゃって……二人とも、すっごく泣いてたんだー…」
ミミは俯き、ルーキーに声だけを向ける。
「…ゴッドイーターのミツミは死んじゃったけど、第零部隊のミミは生きてる…でも、この先はないんだよねー…」
ルーキーに背中を向け、部屋のドアを開けながらミミは言った。
「ミミは何もしてあげられないけど、ルーキーちゃんの事、応援してるよー。だから……隊長に、ミツミの仲間と同じ思い、させないであげて欲しいなー…なーんて」
ドアは、閉まった。
「…おい、生きてるか?」
最終日の朝、ルーキーは何者かにドア越しに声を掛けられた。
「………?」
既にルーキーの顔の半分はアララギ化…いや、アラガミ化しており、もはや声を発する事すら難しかった。
「…ん?死んでるか?なら、丁度いいか。例の奴が見付かったぜ。それで、隊長がお前の仇討ちに行くってよ。良かったな」
突然そんな声が聞こえると、ルーキーは例の奴というのは、謎のゴッドイーターの事だと気付いた。
そうすると、仇討ちというのは、ルーキーがアラガミ化した事に対するものだろう。
(…どうせ、もう声も出せないのに…誰が、何で、僕にそんな事を……?)
ルーキーは、聞いた事もない声に、心底不思議に思った。
まるで、何か特別な事を知っているかのような、そんな口ぶりだったからだ。
「…アラガミの群れ…着地失敗……あとは、自分で考えな。じゃあな」
声の持ち主は、足音もなく、ただそこにいるという気配だけが消えた。
ますます、ルーキーは不思議に思う。
あの場には他に誰かがいたのかと、ルーキーはそんな風にも考える。
(…アラガミの群れ…着地失敗……そのあと…?)
しかし、いるとすれば謎のゴッドイーターくらいのもので、それ以外には誰も思い出せない。
考えられるとすれば、ハヤとミミだが、その二人は合流地点で長々と待っていたという。
実は他の隊員がいたのかとも思うが、サポーター達の会話からすると、その線は薄い。
(…もしかして、誰が見てたかっていうのは、重要じゃない…?)
既にアラガミ化してしまっているルーキーに、他のゴッドイーターが接触してようがしてまいが、その結果は変わらない。
その結論に辿り着いたルーキーは、誰がではなく何がという点に着目する。
(…あのあと、目が覚めて…神機を見て…白昼夢のようなものを……あ…!)
そこで、ルーキーは思いだした。
まるで最悪の結末のような、あの凄惨な光景を思い出す事が出来た。
(…そうだ。あれを見て、隊長に起こされたんだ…!)
すると、先ほどの声の主が誰なのかは分からないが、何を知っているのかは分かった。
ルーキーが見た、あの光景を知っているのだ。
光景というか、イメージとでも言うのか、ルーキーが見た最悪の結末というイメージを知っているのだ。
(…さっきの声は、それを知らせるために…?…いや、今はそれどころじゃない…!)
ルーキーは、何とかして隊長を止めなければと思う。
しかし、どうすればいいのか分からない。
どうすれば、誰かに気付いて貰えるのか分からない。
(…ああああ…っ!!!!!取り敢えず叫んでやれっ…!!!!)
早くしなければと、ルーキーはありったけの息を吸い込む。
「――――――――――――――っっっっっ!!!!!!!!!!!」
ルーキーは、声にならない声で、ありったけの叫び声を上げた。
それがもはや、咆哮に他ならない何かだったと知りつつも。
駆け足です。
あと、新種の名前の募集、今日までです。
というのは、既に過去となった。