GOD EATER ~狼の追跡者~   作:黒槍

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 第1話(4) ルーキーのいない第零部隊の一ヶ月・前編

「…オペレーターさーん…ちょっと教えて欲しい事があるんだけど、いー…?」

 

「…いいですよー…!」

 

 

 

 

 

しっかり者で優しいお兄ちゃんと、甘えん坊な可愛い妹の散歩を見送ったところで、ミミはオペレーターに近付き、こっそりと耳打ちする。

 

すると、オペレーターもミミに耳打ちして返事をした。

 

何となく、秘密の共有というか、悪戯を計画する子ども同士のやり取りのようで、二人の周囲の空気がふんわりとした感じになる。

 

「…諜報任務、出てるー…?」

 

ミミの要望に対応すべく、オペレーターは素早く資料を漁ると、任務管理用の端末を操作し、資料を見ながら何かを入力していく。

 

「………あ、ありますよー…!」

 

第零部隊の扱う任務は、この部隊同様に特殊性と機密性が高いものばかりの為、たとえオペレーターであっても、安易に任務の内容を確認する事は許されていない。

 

よって、任務内容の確認には、資料に書かれている暗号を解読し、それを管理用の端末に入力する事で初めて閲覧する事が出来る。

 

また、一度閲覧すると本部へと通知がなされ、その通知が隊員の誰かがこの任務を引き受けたという意思表示になってしまう。

 

「…じゃあ、任務内容の確認お願いー…!」

 

「…はーい…!」

 

加えて、引き受けた隊員には守秘義務と登録義務が発生してしまい、オペレーターと部隊以外の者に内容を口外してはならないし、登録した隊員は報告書を提出するまで他の任務を受けられなくなる。

 

さらに、一般の任務と違い、一度引き受けた任務は取り消す事が出来ず、誰かが必ず遂行しなければならなくなる。

 

「…え~っと…少し時間が掛かりますから、しばらく時間でも潰してきて下さい…!」

 

暗号の解読が難しいのか、オペレーターの目つきが真剣になる。

 

それを見て、ミミは一階をぶらぶらする事にした。

 

まず、医務室へと向かう。

 

「ドクター、ちょっと聞きたい事があるんだけどー」

 

ミミは部屋に入る前に声を掛けると、ドクターからの返事を待つ。

 

「…ミミ?珍しいわね…入っていいわよ」

 

部屋に入ると、白衣を着た女性がミミの全身を髪の毛から爪先まで隈なく眺めた。

 

「…ん、特に異常はなさそうね。で、聞きたい事って何かしら?」

 

職業病なのか、素早くミミの健康具合をチェックすると、ドクターは要件を促した。

 

「えっとねー、ルーキーちゃんの事なんだけどー……何か分かった…?」

 

ミミは、よほど重要な話をするのか、ドクターに耳打ちする。

 

「…その件ね…聞いた限りじゃ、一日であれほどの事になっていたんですって?」

 

ミミは頷いた。

 

「そう……私は研究者じゃないから、詳しい原理までは分からないけど…はっきり言って、異常ね。少なくとも、一日で起こり得る事とは思えないわ」

 

予想の範囲内だったのか、ミミは続けて頷く。

 

「あと、一つ気になっていた事があって…貴方達、第零部隊についての事よ。ゴッドイーターに近付くと、アラガミの性質が抑えられなくなるって話の事なんだけど…」

 

ドクターは一呼吸置いてから、言った。

 

「腑に落ちないわ。それだと、アラガミに近付くとどうなるのかしら?アラガミの性質が抑えられるの?むしろ、抑えられない気がするわ」

 

はっと、ミミはドクターの言わんとしている事が、薄々分かってきた。

 

「だって、そうでしょう?類は友を呼ぶじゃないけど、犯罪者の近くにいると犯罪を犯しやすくなると聞くし、ゲーム好きな男性と付き合っていたら、きっと私でもゲームに興味を持つわ。そう考えると、あの話の信憑性は限りなくゼロじゃない。少なくとも、私は納得出来ないわ」

 

フェンリルへの疑念、ミミにはそれが理解出来た。

 

「…そっか、それもそうだね…ありがとね、ドクター」

 

それは、実験体の経験から来ている感情なのかもしれなかったが、その分を差し引いたとしても、ミミは疑念の全てを取り払う事は出来ないと思った。

 

「どう致しまして。それより、今度ここの皆を集めて、エインの誕生日でも祝ってあげない?確か、来月か再来月じゃなかったかしら?」

 

ドクターにそう言われ、ミミは首を傾げる。

 

「…え?そうだっけー……っ!」

 

ドクターの視線に気付き、ミミはドアの外に誰かがいるような気配を感じた。

 

「そ、そうだったー!すっかり忘れてたよー!」

 

そう言って、ミミはさり気なく誤魔化し、気配が消えるのを待つ。

 

「あの子、嫌いな食べ物なんてあるのかしら?」

 

「どうだったかなー?」

 

すると、ふっと気配だけが消えるように、ドアの外にいた筈の誰かがいなくなった。

 

その場を離れる足音すら聞こえない、奇妙な存在だった。

 

「…びっくりしたー…」

 

ミミは胸を撫で下ろし、安堵の溜め息を吐く。

 

「…しばらく、さっきの話は止めた方がよさそうね。そういう事だから、エインに誕生日いつか聞いておいてね」

 

(…あ、やるんだー。口から出任せなのかと思ったー…)

 

ドクターに手を振って部屋を出ると、ミミは周囲を見渡した。

 

しかし、怪しい人影はなかった。

 

「…気の所為、かなー…」

 

気を取り直して、次は工房へ向かう。

 

地下一階の敷地の半分以上を占めるのが、この工房だった。

 

工房、と銘打ってはいるものの、別に朝から晩までハンマーでかんかんやっているような場所ではない。

 

本部の隊員と第零部隊の隊員の、神機を保管している場所である。

 

自動ドアをくぐって中に入ると、目の前一杯に無数の神機が広がった。

 

「うわー、いつ来ても壮観だー。神機だらけー」

 

一本一本がケースのようなものに収められており、本部の隊員から何らかのアクセスがあると、メカニックにしか入れない専用のスペースに送られ、刀身を強化したり取り出したりが出来る。

 

「………」

 

そこには、神機を眺めるミミを眺める少女がいた。

 

「や、メカニックさーん」

 

メカニックと呼ばれた少女は、ほとんど表情を変えずにむっとすると、ミミに返事をする。

 

「……受付……です……」

 

実際、この少女以外に人は見当たらないのだが、少女は受付だと言い張った。

 

「聞きたい事があるんだけどー、今大丈夫ー?」

 

ミミが尋ねると、少女は残念そうに首を振った。

 

「今から……メンテ……だから……」

 

しかし、ミミは気にせずに言う。

 

「じゃあ、見学しててもいー?」

 

少女はそれに困惑するが、少し考えた後で静かに頷いた。

 

「……触るのは……ダメ……」

 

「ありがとー」

 

ミミは少女に連れられて、奥のスペースへと入って行った。

 

「………」

 

その背後を、何者かの視線が追い掛けている事に、気付かないまま。

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