「ようこそ。フェンリル本部直属部隊特別諜報部、通称”第零部隊”へ」
「…あ、はい…」
彼が目を覚ますと、現在の状況もよく分からないまま、そんな事を言われる。
(…カッコイイ人だなぁ……まさか、ここが世に聞くヴァルハラ?……って、それじゃあ僕死んでるよ…)
そして、あまりに幻想的な容姿と柔和な表情を目撃してしまった所為で、彼は今いる場所を死後の世界と勘違いしてしまった。
「…え?あの、僕、クビになったんじゃ?」
彼は白昼夢でも見ていたのかと思い、またそうであって欲しいと願い、目の前の女性に尋ねた。
「あぁ、そうだ。ここは、その名称通り特殊な部隊だ。簡単に言うと、暗部だよ」
「あ、暗部…ですか?」
が、どうやら3分の1も伝わっていない様だった。
彼の期待する言葉とは些か方向が異なる返答を受け、彼は困惑する。
その事を知ってか知らずにか、女性は話を続ける。
「そうだ。適合率がどうのとか、演習成績がこうのとか、そういう謳い文句で入れる部隊とは違うのさ」
「は、はぁ…」
クビにされた僕に何の関係が…と、少しいじけた様に思いながら、彼はもう一度尋ねてみる事にする。
「そ、それじゃあ、僕はクビになった訳じゃないって事ですか?」
彼は今後の事を考えると、その一点がとても重要な意味を持ってくると主張しているのだが、
「ん?…う~ん……正確には、私を含めて全員死んだ事になっているから、クビというのは比喩みたいなものなんだ」
果たしてその答えは、何やら心穏やかでいられないようなものだった。
「………え?」
思わず、彼は目を見開いて女性の唇の動きを事細かに観察し、何を言わんとしているのかを理解しようとした。
そして、ゆっくりと、実際にはそれほど時間が掛かった訳ではなかったが、女性の唇が動き、その続きをはっきりと口にした。
「君は居住区の防衛に向かい、謎のアラガミと交戦。その後、死亡した。という扱いになっているという事さ」
「え…ええええええ???」
彼は、驚いた。
(…それじゃあ、本当に…)
ただただひたすらに、驚いた。
(…ヴァルハラじゃないか……)
「本部に配属されたら給料がいいよ」と聞いて必死に頑張った挙句、配属されたその日にクビにされ、その上死んだ事にされたのである。
彼はもう、驚く事しか出来なかった。
人生最悪の日。
その言葉がいよいよ真実味を帯びてきて、彼の頭の中は人生終わったよカラー一色に染まりつつあった。
――その時、青い顔で沈んでいる彼の様子を見兼ねた女性が、彼を絶望の淵から掬い上げようと…していたかどうかは定かでないが、彼に救いの手を差し伸べる一言を放つ。
「ふふふっ…安心してくれ。この部隊に支払われる報酬は、余所の倍だぞ。倍」
「……本、当ですか!?」
喰いついた、ら痛そうだから、がしっと掴んだ。
つくづく単純な奴である。
予想以上の掴みに、逆に女性の方が驚きながらも、女性は彼の疑問に笑顔で首肯を返した。
「あぁ、私に二言はない」
その言葉に彼は考えを改め、今日のような特別な日を、人生最悪な日と称した事を深く反省した。
その反省の深さたるや、もはや頭が下がり過ぎてその場に寝そべってしまうほどだった。
「では、これから宜しく頼むぞ」
「はい!よろしくお願いします!!」