「こ…このヘリは…!!」
「知っているのか、ハヤー!?」
事前情報によると、フェンリル戦船支部は本部から約3500km近い地点を航行中らしく、普通の軍用ヘリでは燃料が圧倒的に足りず、向かうのは不可能だと、操縦士は告白した。
では、一体どうすればいいのかと二人が言い出す前に、ヘリポートに声が響く。
「……これを……使って……」
メカニック少女の声だった。
ヘリポートがエレベーターで下に降りていくと、しばらくしてから、ヘリポートが再び上がってきた。
そこには、見た事もない形状をしたヘリと、先ほどと打って変わっていい表情をした操縦士がいた。
「…という事で、お二人をこのヘリでお送りします!」
それは、二つのメインローターを左右に掲げた、まるで鷹のように立派な翼を備えたヘリだった。
「まさか、こいつに乗れる日が来るとは…やべえ…!思わず顔がにやけちまうぜ…!」
予想外のヘリの登場に、ハヤは泣く子も黙る凶悪な笑みを浮かべると、ミミをドン引かせる。
「…にやにやして、きもいねー」
突然ミミに振られた操縦士は、非常に嬉しそうなハヤを見て、返答に困る。
「い、いえ…そんな事は…ありませんよ…?」
操縦士からの賛同を得られなかったミミは、操縦士ちゃん嫌ーいと言って、さっさとヘリに乗り込んでしまった。
「けっ!こいつの良さが分からねえとは…ロマンが足りてねえんだよ、ロマンがよ!変形っつたら、誰でもテンション上がんのが当然だろうがよ!」
そんな事を言いながら、ハヤもそそくさとヘリに乗り込む。
その姿は、若さ溢れる童心の熱を呼び起こした中年のようだった。
いや、ハヤは中年ではないが。
「それでは、準備はいいですね?」
心なしか、操縦士までもが嬉しそうな声色になり、ミミはうんざりしながら気の抜けた返事を返した。
「はいはーい…」
ヘリポートが操縦士の合図で上昇を始め、地上にその姿を現す。
それだけでなく、180m近い滑走路まで現れると、ヘリは二人のロマンを載せて動き出したのだった。
(…男の子って、皆こうなのかなー…)
「…ん~…出来た~…!」
朝食兼昼食のパンと紅茶を口に運びながら、紅茶隊員ことナナは、端末を操作してまとめた内容を保存していた。
その内容とは、何を隠そうフェンリル戦船支部の隊員名簿と研究員名簿である。
ナナは欠伸と背伸びをしながら、内容の確認を行う。
「お~、去年と一昨年の分が出来てる~。わ~、いい仕事したな~」
ナナはすっくと立ち上がり、早速隊長に報告しに行く事にした。
「早く、隊長に教えてあげよ~………」
そして、うつらうつらと眠そうにふらつくと、ナナは寝た。
寝た!?
絨毯の上に倒れ込むと、ナナはそのまますーすーと寝息を立てて、本当に寝てしまった。
しかし、そんなナナを咎める事は、恐らく誰にも出来ない事だろう。
何故なら、隊長でさえ一週間掛かる予定の名簿を、僅か半日で仕上げてしまったのだから。
「…えへへ~…紅茶が、一杯~……少ない~………」
早くもそんな寝言を呟きながら、ナナはしばらくそのまま寝ていたのだった。
「…ハヤー、落ち着いたー?」
本部とロシア支部を遠目に見ながら、ヘリとは思えないほどの速度で移動するロマンヘリの中で、景色やら何やらを見てはしゃいでいたハヤは、気分が悪そうに唸っていた。
「…もうちょい…」
バーカと言って、さり気なく仕返しを果たしたミミは、ロマンヘリに対する考えを改める事にする。
「…速いねー…今までのヘリの倍くらい速いねー…」
ロシア支部付近までヘリで行った事があるミミは、ヘリで二時間経った辺りで降ろされ、徒歩で見知らぬ土地を目的地まで彷徨った事を思い出していた。
(…嫌な事、思い出しちゃったなー…)
寒いわ、吹雪いてくるわ、方角が分からなくなりそうになるわと、そこまで思い出してミミは溜め息を吐いた。
「このヘリなら、ロシア支部まで二時間掛かんないねー…すごいねー…」
そんなミミの呟きを耳にし、ハヤは「だろ?」と言いたげな青い顔を向けてくる。
「こっち見んなハーヤ」
まるで、子どものいじめのような常套句が、ミミの口から飛び出した。
「…てめえ…うぷっ…」
ハヤは口元を押さえて、ミミを睨み付ける。
「みんなハーヤ」
「ぷっ…!」
そこで、二人の会話を聞いていた操縦士が噴き出した。
「ぷっ…!」
操縦士が噴き出した理由に気付いたミミも、自分の言った言葉の意味を考えて噴き出した。
「おい…てめえら…!」
さらに険しくなったハヤの顔を見て、余計に笑いが堪えられなくなった二人は、しばらく笑っていた。
「…くそっ…てめえら、着いたら覚えてやがれ…!」
「…紅茶~!!」
紅茶の甘い香りに誘われ、ナナはベッドから飛び起きた。
その紅茶に対する執着心の通り、テーブルの上には淹れたてのミルクティーとスコーンが置かれてあった。
ナナは首を傾げる。
「…あれ~?…ミルクティーなんてあったっけ~…?」
むしろ、ベッドで寝ている事もスコーンがある事も疑問に思うべきだが、紅茶教信者のナナには些末な事だった。
ナナは、迷わずティーカップを口に運ぶ。
「…あ~…生き返る~……あ、隊長のところ行くんだった~」
ティーカップをテーブルの上に戻すと、ナナは部屋を出た。
そのまま、隊長の部屋の前まで移動する。
「あら?ナナ様ではありませんか。エイン様に何かご用なのでしょうか?」
すると、隊長のサポーターがナナの前に立ち塞がった。
「ん~、そんな感じ~」
それを特に気にした様子もないようで、ナナは何事もなかったように擦り抜けようとする。
「っ!お、お待ち下さい!ただいまエイン様より、誰も通すなと言い付けられておりますので…!お願いですから、しばらく間を置いたのちに、いらして下さいな?」
いとも簡単に背後を取ったナナの肩を、素早く両手でキャッチすると、サポーターは冷や汗を流しながらそう言った。
「…ん~、そっか~…それじゃあ、仕方ないかな~…」
サポーターの事情を察したのか、それとも隊長の不機嫌具合を知っているのか、はたまた単に早くティータイムとしゃれこみたいだけなのか、ナナは素直に引き下がった。
ナナが真っすぐ部屋に戻って行くのを見届けると、隊長のサポーターは安堵の溜め息を吐く。
「私の背後を造作もなく取られるなんて…ナナ様…恐ろしい方…!」
活動報告の雑談用の2コメ目にて、ちょっとした事を呟いています。
長い方です。