オスプレイってすごいですね…最高時速とか、ヘリとは思えない…
航続距離もおかしいし、本当にヘリなのか疑うレベルです。
「…ハヤ、見えたよ…」
「…あれか…でけえな、やっぱ」
二人の眼下に現れたのは、小さな島かと見紛うほど巨大な、船とは似ても似つかない船のようなものだった。
上空から見ると、船の外縁部分に当たる箇所を”アラガミ装甲”が楕円形に成していて、水上と恐らく水中からのアラガミの侵入を防いでいる。
――アラガミ装甲。
アラガミからの侵喰に耐性を持つ装甲の事を指し、各支部の防壁や各居住区の防壁、神機の盾にもこれが使われている。
その内側には、外側と同じ高さの海水と、空母から切り取ってきたような甲板が12箇所あり、その中心には、取って付けたような船要素が超弩級に使われていた。
ただ、船として波をかき分けながら進む役割を担っているのは、専ら外縁部分のようで、内側にある甲板や戦艦じみた建造物は、それに合わせて動いているだけの付属物に過ぎないようだった。
「…あの戦艦部分にフェンリル関係者が入ってて、船底部分に航行に必要な機構が全て詰め込まれてるんだー」
視覚情報だけで把握出来ない情報を、ミミはぺらぺらと説明していく。
「ただ、アーコロジーとしては失敗作で、他の支部で補給を受けないと存続できない事から、民間人は収容されてないんだー。だから、ほとんどフェンリルの実験施設みたいな扱いになるのかなー?」
予想以上に詳しい事をミミが説明していたので、ハヤはまさかと思って尋ねる。
「…お前、ここ調べた事あるのかよ」
すると、案の定というか当然のようにミミは頷いた。
「あるに決まってるよー…元々ここにいたんだし」
ミミは深い溜め息を吐くと、説明を再開した。
「この支部が実験施設として成立している理由として、本部から隠れて研究している、あるもののお陰なんだー。多分、それがこの任務の目標だと思う」
あるもの、とミミはぼかす。
その理由は、もはや言わずもがなだった。
「…こちら、本部より派遣された情報監査官の一団である。フェンリル戦船支部、応答せよ」
戦艦部分の甲板に作業員らしき人物が現れ、旗を振り始める。
「……こちら、フェンリル戦船支部。本部より通達は受けている。誘導に従い、着艦されたし」
こうして、ロマンヘリは格好よく降下を始めた。
「…私が本部より派遣された情報監査官の…ミハイル・ヤンフォードだ。本部から既に通達済みかとは思うが、これより支部内の監査を行わせて貰う。前もって忠告させて貰うが、監査の邪魔だけはしないでくれたまえ。余計な事まで調べられたくはないだろう?…以上だ」
そう言って眼鏡を中指で押し上げると、がちがちの軍服に身を包んだハヤは、整列した部隊員達の前に立っている副支部長らしき人物に、支部内を案内するように要求する。
「…あ、あの…ところで、このお嬢さんはどういったお役目で…?」
頭がすっぽりと埋まるほどの、大きな帽子を被ったミミに、その場にいた全員の視線が集まる。
「…私の小間使いだが、歩き回られて何か不都合な事があるとでも?それは是非、お聞かせ願いたいものだ」
副支部長らしき人物を一睨みで黙らせると、ハヤはさっさと支部内の監査へと向かった。
(…ハヤ、怖ーい…)
せっかく整列していた部隊員達も、それに伴って流れ解散となり、ミミは今からどうしようかと考える。
すると、
「ねえ、アナタ手持ち無沙汰って感じね?監査が終わるまでやることないなら、一杯付き合ってくれない?」
と、ミミからは顔の見えない女性に話しかけられた。
(…?この声…)
「おいおい、お前部隊長だろーがよ!部下に知名度全取りされてるからって、サボりはよくねーぜ?」
二人の声に、ミミは聞き覚えがあった。
「…何?部下より影うっすいの、アンタの方でしょ?笑わせないでくれる~?」
急に口論を始めた二人に見られないように、ミミは一瞬だけ帽子をずらすと、素早く帽子を被り直した。
(…嘘…まさか、早速見つかるって…)
がしっと腕を掴まれ、ミミははっと我に返る。
「アンタなんか医務室で一年くらい寝てればいいのよっ!!さ、行きましょっ!」
しかし、ものすごい勢いで引っ張られ、ミミはあれよあれよと連れて行かれてしまった。
「ふざけんじゃねー!!…くそ、アヤノのヤロー…!」
女性の自室らしい部屋に連れ込まれると、ミミは女性から何かを握らされる。
「はい、ホットいちごミルク。アナタ未成年っぽいし、さすがにビールは不味いだろうから、それで勘弁して!」
そのまま、クッションを置いた椅子に座らされる。
「…アナタも大変ねー。こんな寒いとこに、あんな頭堅そうな奴に連れて来られて、同情するわ~」
ビールのタブを外し、女性はそれを一気にあおる。
「んぐっんぐっ……プッハ!…あー、休日ビールは最高ねー……ん?アナタもほら、飲んで飲んで!」
女性に急かされ、仕方なくミミもタブを外そうとする。
「んー!……んんー!」
外れない。
そんなミミの様子を見て、女性がミミから缶をひょいっと摘み上げると、さくっとタブを外し、ミミに返す。
「ん!…んぐんぐ…プッハ!ほらぁ、飲んでいいよ~?」
ところが、ミミは帽子の所為で手元がよく見えず、缶を受け取り損ねた。
「あっ!?」
「…もぉ~…次は気を付けてよ~?ってゆうか…」
クッションを洗濯へ持って行って、椅子を拭くと、女性はミミの帽子をがっしりと掴んだ。
「…え?ちょっと…!」
「室内では、帽子を脱ぎなっさーいっ!!」
そして、ミミの帽子を遥か上方へ放り投げると、女性の目とミミの目が合う。
「待……って……?」
ぽとりと、帽子が床に落ちた。
二人の目の前には、ミミにとっても女性にとっても、二年振りの再会となる顔があった。
「…っ!!アナタ…!!」
その次の瞬間、女性は目に涙を浮かべると、ミミに抱き付いた。
「……かわいいーーっ!!!」
(…ええー…?)
予想の斜め上の反応をされ、ミミは少しショックを受ける。
「ってゆうかー、わたしの親友にそっくりだ~!!」
女性に頬をぺたぺたむにむにされながら、ミミは何とも言えない気分を味わう。
(…そっかー…あの頃はビールの配給、なかったんだっけー…)
この人アルコール入るとこんな事になるのかーなどと、そんな事を思いながら、ミミは女性からのほっぺたぺたむにに甘んじていると、女性が泣いている事に気付いた。
「っ!………ど、どうしたのー…?」
女性はミミの膝に顔を埋めると、ミミの腰に手を回して完全にロックする。
「…ごめんね……!」
(…罠っ?!!)
と、ミミは素早く身構えたが、別に誰かが部屋に入ってくる訳でも、女性が襲い掛かってくる訳でもなかった。
「…ごめんね…ミツミ…っ…ごめん…ごめんね…ミツミぃ…っ…ミツミぃ…っ!…目を、開けてよぉ…っ…!…ミツミぃっ…!!…いやあぁぁぁっ…!…」
「…………………ごめんね、アヤノ…カイ…」
「……あれ…ごめんね~…寝ちゃってたわ~…」
女性の頭を膝の上に載せたまま、ミミは少しだけ零し損ねたホットいちごミルクを飲み干すと、帽子を深く被って女性が起きるのを待った。
「…ううーん…何か、懐かしい夢見ちゃった…変な寝言とか、言ってなかった…?」
ミミは無言で頷く。
「そう…そっか………あ!ごめんね!重かったでしょ!?」
ミミは無言で首を振る。
女性は立ち上がると、思い出したように大声を出した。
「あっ!!やばい、任務の時間だ!ごめんねー、こんな時間まで付き合わせちゃって…!」
ミミはゆっくり首を振ると、
「…いちごミルク………ありがとー…」
口元だけいつもの、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
ハヤの本名は、別にミハイル・ヤンフォードではないです。