「………ふふふっ……ようやく…名簿が完成したぞ……!」
「エイン様……もう、また綺麗なお顔が…」
「………ん…今は…何時だ…?」
本部に資料として提出できるほどに正確な、フェンリル戦船支部の名簿を完成させた後、隊長はサポーターに捕まった。
その後、肩の疲れや目の疲れによく効く栄養ドリンクを飲まされ、入浴、からの全身マッサージという至れり尽くせりのサポートを受けながら、寝不足だった隊長はあまりの気持ちよさに寝てしまっていたのだった。
「おはようございます、エイン様。もう朝でございますよ。お身体の調子はいかがでしょうか?」
サポーターによって着替えさせられたのか、隊長はピンクでひらひらの、いかにもなパジャマを着ていた。
「…すこぶるいいが……こんな趣味の合わない寝巻きを買わせた覚えはないぞ」
どうやら隊長は、こういう女子女子した格好が嫌いなようで、とても嫌そうに眉をひそめる。
「ご心配なさらず。下着の上下も含めて、全て私の自腹にございます!」
自分の胸に手を当て、目をきらきらと輝かせながら、サポーターは声高々に宣言した。
「何だ。そうか。全て自腹に……っ何?!下着もなのか?!!」
起きたばかりで頭が回ってないのか、予想外の言葉に付いていけなかったのか、隊長の反応が遅れる。
すぐさまパジャマの前を開けさせ、下を太もも辺りまで脱ぐと、そこにはピンクで装飾過多な下着があった。
隊長の顔が赤くなっていく。
「…こ、このっ…!人が疲れて寝ているのをいい事に、こんな…!好き勝手に弄ぶとは…っ!」
そんな隊長の姿に、うっとりとしたいい表情を浮かべると、サポーターは満足そうに微笑んだ。
「さすがでございますね、エイン様。とてもよく似合っておられますよ。無敵に素敵、元気に勇気にございます!」
そう言って、サポーターはぐっと親指を立てる。
第零部隊のみならず、サポーターまでもが自由だった。
「そ、そんなものぉ…!知った事かああああ!!!!」
さすがに激怒した隊長は、サポーターの頭に鉄拳制裁を下すと、外に追い出して鍵を閉めた。
「…全く、何て奴だ。全く…!」
すると、こんこんとドアがノックされる。
「…何だ」
間違いなく、サポーターである。
「お脱ぎになられましたら、くしゃくしゃにたたんで私にお返し下さいませ…!」
「このっ…馬鹿者め!これは没収だ!!反省しろ、馬鹿者め!!!!」
隊長は、今日も元気だった。
「…さて、整理していた時に気になったのが…この男と、この女か……」
いつもの部屋着に着替えた隊長は、隊員名簿に載っていた二人にマークを付けた。
「こちらの男は、処刑…こちらの女は、それからずっと体調不良で療養……という事は、この二人は何かしらの関係を持っていた可能性が高い……この二人を中心に調べてみるか」
隊長はまず、男の方から調べ始める。
「…二年前にフェンリル戦船支部に配属、神機は旧型遠距離式のアサルト……配属から一年間、任務と入退院の繰り返しだが、徐々に入退院の期間が短くなってきている…いい事だ」
どうやら、男は新人時代に相当の苦労をしていたらしい事が窺え、隊長は少し懐かしい気分になる。
「ここまで見た感じだと、将来性のある普通のゴッドイーターだが………支部のデータベースにハッキング疑惑?……配属から一年半で、三件ほど嫌疑が掛けられている…」
そこで、いきなり降って湧いたような嫌疑に、隊長は違和感を覚えるが、男は特に何かしらの処罰を受けたという訳でもないようだった。
「…濡れ衣でも着せられたか…それとも、ただ証拠を掴ませなかっただけなのか…これだけで判断は出来ないか…」
その後、補給で立ち寄った支部の支援に当たり、意識不明の重体となる。
半年に及ぶ治療を経るが、現場への復帰は不可能と見なされ、待機命令を下される。
「…この波乱万丈な感じ…誰かを彷彿とさせるような……」
隊長は、呆れるような感心するような、複雑な気分になる。
「…継続的な治療とリハビリの結果、一時的に復帰か。なかなか骨のある奴だが……本部に実験の一部を告発していた事が発覚し、支部長が本部に出頭した直後に支部をアラガミの群れが襲来……その結果、アラガミを招き寄せ支部を壊滅の危機に追い込んだ罪に問われ、何者かに処刑される…?」
あまりに出来過ぎた話に、隊長はどうにも釈然としない。
その理由として、隊長は以前調べた実験報告書を取り出していた。
「…新しい偏食因子…アラガミが捕喰を好む偏食因子か…これが事実なら、恐らく一箇所に集中的にアラガミを集める事は可能だ。だが…その場合、疑われるのはこの男である筈がない。研究員ならまだしも、何故一隊員に過ぎないこの男に罪を着せた…?」
隊長は不可解な事象に頭を悩ませると、資料そのものが間違っているのではとまで考える。
「…波風を立て、こうして注目を集め、それによって得られる利点は……まだ裏に何かあるのか…?」
資料が正しければ、何かしら巨大な組織じみたものが見え隠れするが、資料が間違っているなら、ただ杞憂に終わる事だった。
そして、それを確かめる術はないようだった。
「…いや、違うな。確かめる方法は一つだけある。この男に会う事だ」
隊長は女の方に視線を移す。
「…こちらの方は…ほとんど情報がないが……新型神機のゴッドイーターで、一年前に配属されているのか。半年ほど、こちらの男と行動を共にしていたようだが……残り半年のデータがない……」
しかし、こちらの方は情報不足もいいところだった。
「やはり、鍵となるのはこの男か……」
隊長は、取り敢えず何か食べる事にする。
「食事でもしていれば、何かいい考えでも浮かぶだろう」
隊長は部屋に鍵を掛けてから、食堂へ向かった。
「…なん……だと…?」
食堂にはナナがいて、ナナは紅茶を飲みながらこう言った。
「…あ~隊長~、名簿できてるよ~。ずっと籠ってたみたいだけど~、何かあった~?」
ナナの言うずっとという言葉から、自分よりも随分と早くに出来ていた事が分かり、隊長は少し落ち込んだ。
「…何で、もっと早くに言ってくれなかったんだ…」
サポーターの所為、そして隊長の所為でもある。
「入っちゃダメ~って、止められたから~…」
ナナも少しショックを受けた。
二人の間に暗い雰囲気が舞い込むが、ナナは思い出したように言った。
「…そう言えば~…最近ロシア支部の周りに、変なゴッドイーターが調査に来てるんだって~…」
変なゴッドイーターと聞き、隊長はルーキーの言っていた謎のゴッドイーターを連想する。
「…それは、どんなゴッドイーターだ?」
隊長が喰い付いてきた事に微かに顔を綻ばせると、ナナは嬉しそうに話を続けた。
「えっとね~。深夜に海の方から何人か来て~、何かを探してるような感じらしいよ~?朝になる前に帰るんだって~。夜間哨戒でもしてるのかな~って、サポーターが言ってた~」
それを聞いて、隊長は驚いた顔をする。
「お前のサポーター、ロシア支部に行っていたのか」
「この前帰って来てた~。スコーンもおいしかった~」
どうやら、お菓子の材料を買いに行かせていたらしい。
本部よりロシア支部の方が広く、それに伴って生産量も多いので、沢山材料を分けて貰える為だった。
「…ナナのサポーターとルルのサポーターは、まともで羨ましいな…」
隊長はそう呟くと、元気が流出するような溜め息を吐いた。