.5にする必要はなかったかも…
「…では、行ってくる…」
「行ってらっしゃ~い!」
ロシア支部の北に、再びアラガミの群れが出現したという事で、隊長は本部の東までヘリで移動する事になった。
その後は、いつぞやのミミのように、徒歩でロシアの地を歩き回る事となる。
しかし、ありがたい事に今は春である。
であるから、突然吹雪いたり、それにより視界が不明瞭になったりする事はない。
筈だった。
「…いつもの格好で助かったな…」
それは、異常気象とでも言うのか、もしくはW印のロボットでも暴れているのか、数日かけて隊長がロシアへと足を踏み入れた時には、辺り一面に雪が降り注いでいた。
隊長は特に気にした風もなく、さくさくと音を立てながらアラガミの群れを目指す。
「………」
そんな隊長の顔には、いつもの穏やかさは微塵もなく、視線は足元へと向いていた。
深い溜め息を吐く。
何故、隊長がロシアに来たのかというと、確認の為だった。
ナナの話に出てきたゴッドイーター達は、戦船支部の支部長が拘束を解かれた日から、捜索を止めた。
そうすると、その捜索は戦船支部の支部長に関係するものだった、という可能性が高い。
それに加えて、ある男に着せられた嫌疑に、アラガミの群れを招き入れたというものがあった。
ルーキーとの任務中に、実際にアラガミの群れに遭遇し、ルーキーが謎のゴッドイーターを目撃していた事に、隊長はこういう疑問を持った。
(…あの男に掛けられた嫌疑は、実は濡れ衣でも何でもなく、本当にアラガミの群れを引き寄せていたのでは…?)
つまり、あの男イコール謎のゴッドイーターなのでは、という事である。
だがそこで、一つの矛盾が生じる。
その男は、既に処刑されているのだから、死んでいる筈である。
すると、謎のゴッドイーターは、偶然その場に現れただけで、その男とは無関係という事になる。
しかし、そうすると一つ気になる点が残る。
アラガミを引き寄せるゴッドイーターは、実在するのかという事である。
戦船支部の実験報告書から、アラガミを引き寄せる偏食因子はある事が分かっているのだから、あり得そうな話ではある。
それを確認する為に、序でに謎のゴッドイーターの正体を確認する為に、隊長はロシアに来ていた。
また、その目的とは別に、隊長の淡い期待も含まれていた。
偶然そのゴッドイーターに会う事ができ、偶然そのゴッドイーターがアラガミ化の治し方を知っていて、偶然その方法を教えて貰えるかもしれないという、まさに奇跡と言わざるを得ないような、そんな期待。
もはや、ルーキーの件に関して隊長に縋れるものというのは、そんな幻想じみた、可能性とも言えないようなものだった。
しばらく何も考えずに歩いていると、隊長は降り積もった雪に、真新しい足跡が付いているのを見つけた。
(…ロシア支部のゴッドイーター達が、アラガミの群れを討伐に来ているのか…?)
あり得ない話ではなかった。
隊長の現在地からロシア支部まで相当な距離があるとは言っても、アラガミの群れを放置しておくというのは、あまり得策ではないだろう。
そして、それは的を射ていたようで、隊長が歩を進めるごとに、ゴッドイーター達のものであろう足跡が増えてきた。
(…という事は、この辺りでアラガミと交戦しているのか…?)
そう思い、隊長は顔を上げて周囲を見渡すが、季節外れの雪は思いの外、視界の妨げに一役買っていた。
すると、神機によるものだろう銃声が、少しずつ聞こえてき始めた。
どうやら、隊長から少し離れた地点に、ゴッドイーター達とアラガミの群れがいるらしい。
(…さすがに、見つかるのは不味いな…)
季節外れの雪に紛れるように移動し、隊長は様子を窺えるような場所を探すと、都合よく残っていた民家の廃墟を潰したような建物に隠れた。
(…よく見えないな……この雪さえどうにかなれば……)
そんな都合のいい様に行く訳はないかと、隊長が諦めかけたその時、一際大きな銃声が響き、雪が止んだ。
タイミングとしては、劇的な幕引きといった感じである。
「…っ!!?」
雪が止み、次いで雲の切れ目から光が降り注ぎ、今までカーテンのように遮られていた視界が広がった。
そこには、アラガミの死骸と、ゴッドイーターの死体と、あまりの光景に立ち尽くすゴッドイーターと、
「まさか……あれが…?」
左腕に剣形態の神機、右腕に銃形態の神機を持った、謎のゴッドイーターが立っていた。
「…あ……あああ……」
そこかしこに転がっている、仲間の死体に驚きを隠せない様子のゴッドイーターは、一歩、また一歩と後ずさりながら、持っていた神機を落とした。
「…?……何だ、これ…?…俺が、やったのか…?」
謎のゴッドイーターは、今気付いたかのように周囲を見渡すと、自分の服にべったりと付着した血に気付く。
すると、男の両腕の神機が、哀れなゴッドイーターへと向けられた。
隊長は、走り出す。
「止めろっ!!!」
神機を取り出し、今にも襲いかからんとしている男の神機に向かって、突き出す。
男の神機は隊長の神機に弾かれ、目標を見失ったようだった。
突然の隊長の介入に我を取り戻したゴッドイーターは、慌てて神機を拾うと逃げ出した。
それを横目で見届けると、隊長は改めて謎のゴッドイーターへと視線を向けた。
(…処刑されたという例の男は、旧型遠距離式のアサルトだったらしいが……)
目の前の男が持っている神機は、左腕に長剣、右腕にアサルトのようだ。
新型という訳でもなく、旧型という訳でもない。
どちらかというと、旧型を両手に持っているという感じだ。
(…謎のゴッドイーター…確かに、これは謎という言葉以外では表現しようがない…)
一人のゴッドイーターに扱える神機は一つという、世の中の常識とでも言える大前提を、根本から覆してしまっているゴッドイーター。
それが、隊長の目の前に実在していた。
「…お前が例の…コノエ曹長か?」
隊長は油断なく神機を構えたまま、男に名前を尋ねた。
すると、男はそれをどう受け取ったのか、隊長に銃身を向けると、迷いなく撃った。
「くっ!質問に答えろ…!!」
撃ち出された弾丸は一瞬で隊長の頬を掠めると、霧散する。
「…早く逃げろ…!!どこの誰だか知らんけど、あいつを逃がしてくれた事は感謝してんだ…!」
男は神機をかたかたと震わせながら、隊長から銃身を逸らそうとしていた。
「お前…!」
「早くしろよ!!腹が減って仕方ねぇんだよっ!!!」
どうやら神機の制御をほとんど失っているようで、男は隊長目掛けて連射を始めた。
高速で飛んでくるそれを神機で弾きながら、隊長は男から距離を取る。
40m程距離を取ると、男の神機の射程から外れたのか、男の神機は射撃を止めた。
「あああああああぁぁぁっっっ!!!!???」
そして、男は足元から黒いオーラのようなものを周囲に広げていくと、半径30m程の範囲を黒いオーラで飲み込んだ。
「消えた…?」
男の周囲に散らばっていたアラガミの死骸と、ゴッドイーターの死体が、消えていた。
「…はー……はー……」
消えていないものは、男と男の神機と男の服だけだった。
ゴッドイーター達の神機も、腕輪も残っていない。
男は、その場に座り込んだ。
「…俺が……その、コノエだよ……」
疲れたように肩を上下させながら、男は確かにそう言った。
「…やはり……生きていたのか」
隊長は、念のため距離を空けたまま話す。
「…お前に頼みがある。もし、知っていたらでいい。アラガミ化について、お前は何か知っているか?」
男は、言おうか言うまいか、しばらく考えると、
「…フェンリル戦船支部、第33実験室、部屋のパスワードは0035、情報管理端末、管理者パスワードはhsds3327…まぁ、変更されてなかったら…な」
と言って、立ち去った。
その後ろ姿を呆然と見送り、我に返った隊長は慌ててメモを取る。
二度、三度とメモを見直し、隊長は最後の希望を握り締めると、本部への帰路に着いた。
ハイ・スピード・デビル・スマイル・ミミ参上!
何となく思い付いただけです。
他意はないです。