第2章で重要なところって、なくない?
ないない、ねーよ。
「久しぶりー、ルーキーちゃん」
「……………ミミ…さん……?」
ずどんずどんと、衝撃吸収用の特殊な砂をばら撒きながら、ミミは的を神機で砕いていた。
そうしていると、何故か気持ちが楽になるというか、スッキリするというか、やはり訓練場はストレス発散道具としての任を存分に務めていた。
「あー…ハヤがハマるのも分かるー…」
高速で飛来する的を超速で撃ち落としながら、ミミは色々細々と考えていた。
自分の事、同期の仲間の事、病人少女の事、第零部隊の事、戦船支部での実験の事、支部長の事、ロシア支部のくそやろーどもの事、ルーキーの事、そして、隊長の事。
ミミが今まで頑張ってきたのは、専ら復讐の為だった。
それにはっきりと気が付いたのは、戦船支部へと潜入した時だった。
過去の遺恨とでもいうのか、どんな手を使ってでも復讐してやると思った。
しかし、結局それは失敗していて、最初から失敗していて、復讐する相手も分かっていなかったという、ただの笑い話になってしまった。
(…子どもだー……本当に子どもだー…)
幼い頃の失敗談というか、危うく赤面してしまうくらいの幼さに、ミミは槍から火が出そうな気分になる。
指抜きグローブを付ければ出せそうな気分になったり、素早く印を結べば出せそうな気分になったり、それくらいに恥ずかしい思いをした。
あまりに恥ずかし過ぎて、本当に槍の先端から火が出て、的を二、三個砕いた気がする。
それに比べると、隊長は何て大人なんだろうと、ミミは尊敬した。
その尊敬度合たるや、尊敬し過ぎて見上げ切れなくなって、遂には寝そべってしまうレベルだった。
あれがデネブ、アルタイル、ベガ様。
ミミにとって、隊長とは雲の上の存在だという事である。
そんな隊長が、ナナの部屋で泣いていた事を、ミミは知っていた。
知っていたというか、偶然聞いてしまった。
後でナナに聞いて分かった事だが、ルーキーを助ける為にフェンリルの長と取引をし、戦船支部の調査を行っていたという事だった。
それが、どうしようもなく残酷な結果になってしまったのだという。
それを聞いて、ミミは今度は隊長に頭が上がらなくなった。
望遠鏡を覗き込んで、天体観測なんてしてる場合じゃなかった。
ミミが終始自分の復讐の事を考えて調査している間、隊長は隊員であるルーキーの事を考えて調査していたのである。
不敬罪で死刑にされていても、どこもおかしくはない。
そんな素晴らしい隊長に、ミミは一体何が出来るだろうと、考えていた。
隊長が隊長として隊員を助けるというなら、ミミは隊員として隊長の力になれるだろうかと、考えていた。
そう思うと、ミミはナナにも頭が上がらなくなってしまった。
恐らく、部隊の中で隊長が一番の信頼を寄せる人物は、ナナである。
隊長に世話を焼かれる事もあるが、隊長の一番近くで隊長を支えている人物である事を、ミミは知っていた。
だからこそ、隊長の涙や弱さを受け止める事が出来るのである。
二人の印象が大幅に変わっていくのを、ミミは感じていた。
(…隊長の力になりたいなー……なれるのかなー…)
少なくとも、隊長に助けられるだけの子どものままでいたくないと、ミミはそう決意した。
「…よーーーしっ!!」
残っている的を跳び跳ねながら砕いていくと、ミミは気合いを入れた。
(…まずは、ミミにしか出来ない事をやっていこう…!)
そうして、ミミはルーキーの元へと向かった。
「…あれー?ハヤー?」
ミミが部屋から出ると、そこにはハヤがいた。
「…盗み聞きかー、さすがのミミでもドン引きだよー…」
「ばっ!ちげえよ…!」
ハヤ的には、かっこよく壁に背をついて黄昏ている感を出していたつもりだったのだろうが、ミミから見るとただの盗み聞きやろーに過ぎなかった。
「じゃー、何?」
そんな黄昏ポーズは、ハヤにとって他にどんな意味があったのかを、ミミは尋ねる。
「…あいつが変な気起こさねえか、見張ってたんだよ」
すると、そもそも立ち入り厳禁な地下五階で、ハヤは見張りなどと答えた。
ミミは、何言ってんの、みたいな呆れ顔でハヤを見る。
「…何言ってんのー?…ルーキーちゃんは、そんな事しないよー」
声に出ていた。
ミミのその言葉に何か思うところがあったのか、ハヤは少し考えた後、溜め息を吐いた。
「…まあ、そうかもな」
そして、何かを決めたように歩き出すと、ハヤは上の階へと向かってしまう。
「???」
結局、何をしに来たのか分からないままのハヤを見送ると、ミミは首を傾げていた。
ルーキーの拘束から一ヶ月経ったその日、ミミとハヤは作戦会議室に待機していた。
予定としては、隊長が戻り次第ルーキーの元へ向かい、一ヶ月という特別猶予期間の内にアラガミ化を抑え込めたかを確認し、処分するかしないかを決める手筈になっている。
といっても、アラガミ化の発症初期でなければ処分出来ない事を考えると、どちらに転んでも既に処分は出来ないのだが。
だが、第零部隊にはそれが可能だった。
特異な偏食因子を体内に宿している第零部隊には、完全にアラガミ化したゴッドイーターであっても、討伐が可能なのである。
ただ、一つだけ問題点があった。
そうすると、アラガミの性質上、世界のどこかで再び同じ個体が生成されるという危険性を孕んでいた。
もちろんそうなった場合、発生が確認され次第隊員の誰かがそれを討伐し、偏食因子の開発が行われるまで何度も繰り返す事になる。
これは、隊長が提案した、一ヶ月という特別猶予措置に対する条件である。
そして、今日はその最終日。
今日中に処分を下さなければ、いかに特別部隊の第零部隊と言えども、厳罰は免れないだろう。
しかし、隊長はまだ戻ってきていない。
それどころか、何やら不穏な気配すら漂っている。
一応、非常時態勢という事で、地下三階にルルとクク、地下一階にナナが待機している。
各スタッフは工房に避難し、それ以外の場所は完全に封鎖されていた。
にもかかわらず、まるでそれ以外の第三者が内部を歩き回っているような、居心地の悪い空気が充満していた。
そんな時、サイレンじみた咆哮が施設内に響き、次いで地殻変動でも起きているかのような振動が伝わってきた。
どうやら、緊急事態となってしまったらしかった。
「ちっ…いよいよ、暴れ始めやがった…!」
ハヤは素早く立ち上がると、右手に大剣の神機を握る。
そんな、今すぐにでも飛び出して行きそうなハヤの腕を掴んで、ミミは静かに言った。
「………隊長、今いないんだよねー?……じゃあ……」
振り返ってミミの方を見るハヤの顔を見て、ミミはしっかりと言葉を繋げた。
「…隊長が戻ってくるまで、ミミ達がルーキーちゃんを足止めしよ…!」
しかし、ミミの言葉にハヤは首を横に振った。
「馬鹿言ってんじゃねえよっ!…あれはもう新入りじゃねえ、ただのアラガミだ!」
それでもと、ミミはハヤの腕を力強く握る。
「…それでも、隊長の気持ちを、苦しみを、無駄になんてしたくない…!お願い、ハヤ!」
その言葉をどう受け取ったのか、ハヤはミミの手を振り払って呟いた。
「……甘えよ、覚悟を決めやがれ…こうなる事は、最初っから分かってたはずだろうが……オレらがやらなきゃ、隊長がやるんだろうが…!それでもいいのかよ…?」
何かを堪えるような、苦悩を抱え込んだハヤの言葉に、ミミは理解できるが納得できないという、どうしようもないジレンマを覚えた。
「…よくないよ…でも、ルーキーちゃんも助けてあげたいよ…!」
だが、恐らく、ハヤも同じ気持ちなのだろうと、ミミはそう思った。
そう思えた。
「…お前がやらねえなら、オレが一人でやる。そこでいつまでも悩んでやがれ」
そう言うと、ハヤは作戦会議室から出て行った。
「………そんなの、絶対いやだ…!」
ミミは左手に槍の神機を握り締めると、ハヤの後を追い掛ける。
それが、ミミの出した答えだった。
前半はちょっとしたお遊びです。
後半はちょっとまじめです。
取り敢えず、ここからようやく話が進みます。