このサイトが推奨してる本文最低文字数って、2500~3000だったんですね…
すみません、この話から文字数増量しますね。
「さぁ、まずはこっちへ来てくれ。君に神機を返さなければいけないんだ」
「は、はい!」
(…安心した。取り敢えず、念願の本部配属は叶ったんだ…!)
給料が通常の倍と聞いて、彼の心は今までにないくらいに弾んでいた。
どのくらい弾んでいるかというと、デパートの階段からスーパーボールを投げたくらい弾んでいた。
ポーン、カシャーン。
(…それに、神機も返して貰えるんだ…返って来なかったら、どうしようかと思ってた…)
前を先導して歩く女性に連れられて、彼はどこかで見た事のある広さの部屋に入る。
どこかで見た、というより、少し前に見た覚えがあった。
正確に言うと、昼前くらいに。
「ここは…」
「あぁ、懐かしいな。私がゴッドイーターとなったのは、ここではない別の支部だったが。君はどこだ?」
おかしな事を聞いてくるんだなぁと思い、彼は少し疑問を感じながらも答える。
「僕はここ、本部ですよ」
どうやら、女性の方はこの質問に何ら疑問を持ってはいないようだった。
彼の返答に満足したのか、思わずどきりとする様な穏やかな笑みを浮かべる。
「そうか。君は優秀だったんだな。これは、今後の活躍が期待できそうだ」
「そ、そんな事ないですよー」
女性の言葉に内心で喜びながら、彼は女性に促されるまま部屋の中心に移動する。
そこにあったのは、彼の神機が納められた台座の様な装置だった。
彼の表情が一変して不安げになる。
「さぁ、手に取ってくれ」
「え、えっと…これは?」
その装置は、彼のみでなくゴッドイーターであれば誰もが知っているものだ。
正式な名称は知らないが、ゴッドイーターの証の一つ”腕輪”を取り付ける為の装置、それがこれである。
それを目の当たりにして、記憶の片隅に眠っていたこの世のものとは思えないほどの激痛を思い出し、彼の顔が青くなる。
「ふふふっ…分かるぞ、その気持ち。私も第零部隊に配属されて、初めてここに連れて来られた時、同じ事を思ったものだ…」
どうやら女性の方も記憶に焼き付いているらしく、彼の様子を見て頷いている。
「だが、これは第零部隊に入隊する為の通過儀礼なのでな。それに…」
そして、女性は腕輪を嵌めているであろう方の腕を捲ると、真っ黒に変色した手首を晒した。
「腕輪を外す為の、唯一の手段でもある」
「う、腕輪を、外す…?そんな事をしたら…!」
――腕輪。
ゴッドイーターが神機を扱う為に必要なものであり、ゴッドイーターとして生きる為に欠く事の出来ないものでもある。
ゴッドイーターの間で広く知られているその機能は、”偏食因子”の調整による神機の持ち主捕喰を防ぐ事。
また、装着後は体内に”オラクル細胞”と呼ばれる、アラガミ等を構成する細胞が残留する為、身に付けたら最後、死ぬまで外す事は出来ない。
勿論、教会に行っても装備外しの罠を踏んでも無駄である。
「ふふふっ…君を見ていると、どうにも昔の自分を思い出してしまうな。だから、私は君にこう言おう。安心してくれ」
女性は、またもや彼に笑顔を向ける。
見る者を優しく包み込むような、ある種幻想的な力を持った、安心感のある笑顔だ。
「…本当に、大丈夫なんですか…?」
その笑顔に揺さぶられ、彼は恐る恐る確認を取る。
「あぁ、そうだ。君がここにいるという事は、君の体は腕輪を必要としていないという事だ」
理屈はどうあれ、目の前で腕輪を取り外したと思われる証拠を見せられたという事が、彼の心をほど良く懐柔していた。
それに、給料倍の入り口である。
長々と話を続けた所で、結局は彼に選択肢などなかったのかも知れない。
「…分かりました」
彼の視線が、装置に安置された彼の神機に向けられる。
――神機。
人類がアラガミに対して有する切り札。
アラガミの体を構成する細胞、オラクル細胞を制御する”コア”と呼ばれるものから作り出された、毒を制する毒。
オラクル細胞は他の細胞を侵喰するが、神機はオラクル細胞の結合を破壊する。
そして、神機でコアを取り出す事によって、アラガミの機能を停止させる事が出来る。
それが、彼の目の前にあった。
細長い銃身に、実弾も撃つ事が出来そうな銃口。
他の銃形態の神機を見た事がほとんどない彼にとって、この神機がいかに規格外であるかを知る由はなかった。
旧型遠距離式スナイパー。
それに、彼は手を伸ばす。
「ふふふっ…お疲れ様。そして、おめでとう。君は今から、我々の仲間だ」
「はぁ…はぁ…っ…はい…!」
既に彼の右手首に腕輪はなく、真っ黒な痣だけが残っていた。
(…まだ、気分悪い……うぅぅ…)
腕輪を外す事によって彼を襲った激痛は、腕輪を取り付けた時の比ではなかった。
それもその筈、腕輪を取り付けると、以降腕輪は利き腕側の手首と融合した状態になり、更に神機を扱う為に神経にも接続されているのである。
(…本当に、大丈夫なんだろうか……)
彼は、いまだ治まらない異質感に顔を青くしていた。
「…大丈夫だ。そのうち慣れてくる。それより、早速で悪いがついて来てくれ。君に仲間を紹介したい」
すたすたと歩いて行ってしまう女性を追い掛ける様に、彼は一歩を踏み出した。
その一歩が、新たな世界への旅立ちとも知らずに。