「エイン、誕生日おめでとう」
「あぁ、ありがとう…」
地下一階の広間には、大きなテーブルがいくつも置かれ、その上にはありったけの料理が並べられていた。
そんな中、このパーティの主役であるところの隊長は、浮かない顔をしていた。
理由は、言わずもがな。
隊長はこの場においても、隊員の安否に思考回路のほとんどを奪われ、折角のお祝い事を前にしても、存分に羽を伸ばす事が出来ていなかった。
そして、あろう事か、小さく溜め息を吐いてしまう。
「…隊長~…面白くなかった~…?」
その事に気付いた時には、隊長に故郷の話をしていたらしいナナが、しょんぼりと肩を落としていた。
「あ、いや…!少し考え事をしていたんだ…!」
慌てて適当な言い訳を述べながら、ナナの気を逸らそうと、隊長は紙皿に料理を載せ、フォークを伸ばす。
「…うん、これは美味いな!ナナも食べてみたらどうだ?」
一体何を食べたのかも分からないまま、隊長は同じ料理をフォークで取り、そのままナナにフォークを向けた。
「………え~っと~……それはちょっと、は、恥ずかしい…かな~?」
それを青い顔で遠慮しつつ、しかし物欲しそうに口をぱくぱくとしながら、しばらく逡巡した挙句、ナナは別の料理を紙皿に装い、自分のフォークで取って食べた。
「?」
隊長はナナの行動の意味が分からず、きょとんとした。
「………」
そんな二人の様子を、人の輪から少し離れたところで、紙皿に盛りまくった料理を一人で食べながら、羨ましそうに眺めるハヤがいた。
溢れ出るぼっち臭に、隊員どころかサポーターさえ近付こうとしない。
しかし、そんなハヤの羨ましげに固定された視線に目聡く気付いた隊長は、一人で広間の隅にいるハヤを手招いた。
「っ!」
すると、ハヤは何も見なかった事にして、視線を明後日の方向へ向けると、料理を口にかき込み始めてしまう。
「…変な奴だ」
ハヤの思惑通り、隊長はハヤを輪に入れる事を諦めてしまうと、自分が装った紙皿に目をやり、思わず口を押さえた。
オクトパス。
またの名を、デビルフィッシュと言った。
フィッシュを名乗っておきながら、フィッシュ要素が魚介類という分類に当てはまるというだけの、フィッシュではない何かである。
隊長が適当に装って何食わぬ顔で食べたのは、オクトパスとレタスと玉ねぎにドレッシングを掛けたサラダだった。
そこで、ようやくナナが青い顔をした理由が分かり、隊長は料理を元の場所に戻したい衝動に駆られる。
(…いや、それは駄目だ…!)
が、隊長は思い留まった。
もしかすると、近くにこの料理を作ってくれた人がいるかもしれないのだ。
隊長は、どんな歯応えだったか、どんな味だったか、どんな食感だったかを思い出しながら、恐る恐るオクトパスを口に運んだ。
得体の知れないものを口に入れるという恐怖に、隊長は思わず目を瞑る。
「……………何だ、意外と…不味くは、ないな…」
硬い訳でもなく、海の風味を醸し出していて、少しこりこりとした食感が印象的だった。
見た目のグロテスクさと、味の良し悪しは比例しない事が分かり、隊長は安堵の溜め息を吐いた。
「…ふー…何だ、デビルフィッシュと敬遠されていようと、調理されてしまえばこんなものか。所詮は私の敵ではなかったな…」
それと一緒に、そんな軽口まで飛び出す始末だった。
「このサラダ美味しー!このにょろにょろしたのって、何て言うのー?」
そんな中、隊長の耳に無邪気なミミの声が聞こえる。
(…何だ、この敗北感は…?)
隊長は、心の中で両手を床につけていた。
「あら、隊長様。お誕生日、おめでとうございます」
「あぁ、ありがとうルル…と、クク」
ぶらぶらとサポーター達の話を聞いたり、オペレーターとメカニックのマスコットキャラ論争を聞いたりしていると、珍しい事にルルとククを見つけた。
「…あ、どうも…隊長…っ!ぐえぇっ!?」
ククの首に装着された首輪が引っ張られ、ククの首がルルの方に引き寄せられる。
「お兄様、これは私が作った料理ですのよ?早く召し上がってくださいな…!うふふっ…!!」
そして、ククの口の中に熱々のシチューが流し込まれた。
「…っ!!~っ!!~~っ!!」
非常に熱そうな顔で、声にならない呻き声を上げながら、ククは涙目でシチューを食べていた。
隊長にとっては、いつもの二人の光景だった為、特に言う事もなく流す。
「お前達は、いつも仲が良いな」
取り敢えず、隊長は無難にそれだけ言っておいた。
「え、あ、そ、そんな事…!ございませんわ…!私は、お兄様の事をお慕いしているだけですもの…!!きゃあーっ!言ってしまいましたわ~っ!!」
すると、ルルは頬を赤らめながら、ククの首輪に繋がった鎖を照れ隠しにぐいぐい引っ張った。
「~~~~っっ!!??」
隊長は、ククの呻き声を背に受け、少し申し訳のない事をしたと思いながら、足早に移動した。
そうして、適当に足を動かしていると、隊長はいつの間にか医務室の前に来ていた。
「………仕方ない…顔を見ていくか…」
結局、ルーキーの様子が気になって仕方がなかった隊長は、医務室に入る事にした。
「…ドクター、いるか?」
声を掛けておきながら、隊長はドクターの返事を待たずにドアを開けた。
しかし、ドクターの姿はそこにはなかった。
「…奥にいるのか?」
医務室には、治療や実験の為の部屋などが一通り揃えられていて、そこの一室にドクターの自室も備えられている。
普段隊員がお世話になるのは、入ってすぐの保健室のような部屋と、奥のドアを開けて通路に出て、すぐ隣にある治療室のような部屋である。
隊長は奥のドアを開けて通路に出ると、治療室の前でもう一度ドクターを呼ぶ。
「ドクター、ここにいるのか?」
やはり隊長は、ドクターの返事を待ち切れずにドアを開けた。
「エイン?ちょっと待って…」
果たして、ドクターはそこにいた。
きょとんとした隊長の目と、振り返ったドクターの目とが合う。
「くれ…る?」
ドクターは、カルテらしきものとボールペンを持って、何かをメモしている途中らしかった。
隊長は、ドクターが観察しているものを、視線を少し下げる事で確認出来た。
そこには、布きれ一枚でベッドに寝かされている、半裸のルーキーの姿があった。
「………き…っ」
顔をみるみる赤くさせながら、隊長は渾身の叫び声を上げた。
「…っ…きゃあああああああぁぁぁっっっ!!!!????」
「よ~しよ~し、びっくりしたね~」
ナナに頭を撫でられながら、隊長は体育座りでぐすぐすと鼻をすすっていた。
「嫌いだ、嫌いだ…あいつなんか嫌いだ…!」
その姿は、もはや完全に隊長としての威厳を失った、隊長ではない子どもじみた何者かだった。
「…一つ言わせて貰うけど…私はちゃんと待ってって言ったんだから、貴女の自業自得よ?」
少し困ったような顔をして、ドクターは隊長の情けない姿をまじまじと眺める。
「…それにしても、男の裸を見たくらいで取り乱すなんて…貴女、年は幾つなのよ?」
隊長は、全く威圧感のない涙目でドクターを睨みつけながら、吐き捨てるように呟く。
「…27」
それを聞いて、ドクターは違うショックを受けて額に手を当てた。
「…は、肌年齢…若いのね……20くらいだと、思っていたのに……何だか、裏切られたような気分よ……」
そんなドクターの頭も撫でながら、ナナは終始にこにこしていた。
「よ~しよ~し、びっくりしたね~」
しばらくそうしていると、徐々に調子を取り戻してきたのか、隊長が立ち上がる。
「…ところで、ルーキーに何をしていたんだ?」
まるで、何か想像もつかないような、いかがわしい事をしていたのではないかと言いたげに、隊長は警戒心を露にしてドクターの方を見た。
「…アラガミ化の症状がどう変化しているのか、毎日決まった時間に観察していたのよ。貴女、私を変態か何かだとでも思っているのかしら…?」
そうだったのかと、隊長は少しだけ警戒を解いた。
「それで、どうなっているんだ?」
そわそわと、隊長は落ち着かない様子で、ナナの手を握ったり抓ったりする。
「痛い、痛いよ~…!」
「今のところは順調よ。全身に広がっていた痣も、右腕辺りまで引いてしまったし、後は意識を取り戻すだけね」
ドクターは、隊長を安心させるように、笑顔でそう言った。
すると、隊長は顔を隠すように俯いて、搾り出すように呟いた。
「…それは、良かった…っ…安心した…」
そんな隊長の頭を撫でながら、ナナも柔らかい声で呟いた。
「…良かったね~、隊長~」
こうして、隊長の誕生日は誰一人欠ける事なく、終わりを告げたのだった。
地下一階の構造をペイントで作っていたら、日付が変わっていました。
3章ではキャラ回をやろうかなぁと思います。
活動報告にて、新種アラガミの名前を募集しています。
詳しくは、続・新種アラガミの名前募集!!へどうぞ!