「くっそ…こんな時に、ハヤは何やってんだよっ…!」
突然の爆発音に、突然の警報。
突然のサポーターの出現に、二度目の警報とそれに伴う施設内放送。
突然の事ばかりで、ククはそのつっこみスキルを、いま一つ有効に使えていなかった。
当然である。
つっこみを極めるには、師の下で最低20年の修業期間が必要なのだ。
そう簡単に有効活用できよう筈もなかった。
「ふふはは…ほふはえひははひはひは」
「っ黙れ変態っ!!」
綺麗な弧を描きながら、ククの手の甲がサポーターの肩をはたく。
溜めといい、タイミングといい、力加減といい、ククのつっこみはレベルが高かった。
割とどうでもいい。
ボールギャグを装着して自分の涎に溺れながら、ククのサポーターは涙目で言葉にならない何かを訴えていた。
頬を紅潮させて、とてもいい笑顔である。
これで美少女だというのだから、恐れ入るというか、酷く残念というか、人生の百分の一くらい損をしてしまった気分になってしまう。
ククは、汚らしい阿呆のような顔をしたサポーターからボールギャグを奪い取ると、青い顔でサポーターを睨みつけた。
「おい変態、公衆の面前で何やってるんだよ?」
「…公開放置プレイ?」
「やっぱり黙ってくれ……」
残念どころではない美少女サポーターを直視できなくなったククは、つい俯いてしまう。
すると、何だか甘い匂いが漂ってきている事に気付いた。
涎でべとべとのボールギャグからである。
(…変態じゃなければ、ただの美少女なのに……)
ククは人生の百分の一くらい損をした気分になりながら、涎でべとべとのボールギャグをサポーターに返した。
美少女サポーターの柔らかい手がククの手に接触するが、もはやそれすらも損でしかなかった。
「…って、違う!さっきの爆発と警報は何だよ?」
灰色の青春、略して灰春のワンシーンらしきものを演じた余韻も冷めない内に我に返ったククは、ようやく今が非常事態だという事を思い出す。
ところで、灰春だと桜が咲きそうな感じだ。
「クク様…お迎えに上がりました」
先ほどの聞き取れないハ行だらけの言葉は、そういう意味だったらしい。
「…分かったよ。で、俺は侵入者の迎撃をすればいいのか?」
訓練場から上がって来たばかりだったククは、何やら騒がしい上階を見上げながら言う。
「それは、既に私達が…ひぁっ!!」
「どうした!?」
そこで、突然サポーターが変な声を上げた事に驚き、つい心配して尋ねてしまった。
もしかしたら、負傷していたのを隠す為にあんな変態じみた事をとまで、ククは本気で考えていた。
「涎のべとべと…気持ちいい…ゾクゾク…」
「っ黙れ変態っ!!」
ククの渾身のつっこみが、サポーターの胸を直撃する。
その柔らかな感触に、ククは人生の百分の一くらい、得をした。
「…酷いな…これ……」
ラッキースケベ的なハプニングの後、サポーターから「お触りはダメ…でも、お叩きは歓迎…!」という、予想通りのリアクションが飛んでくるかと思いきや、普通に怒られてしまったククは、頬にできた不名誉な勲章を携えながら、二階に上がって来ていた。
そして、そのあまりにも凄惨な光景に、声を絞り出すのが精一杯だった。
任務の時いつも何気なく通っていた出入り口が、爆発物か何かで完膚なきまでに破壊されており、その爆発に巻き込まれたらしい瀕死の作業員や、戦闘で負傷したサポーターや、既に事切れている侵入者の血で、通路は赤く塗り潰されていた。
焼け焦げたような不快極まりない悪臭が、辺りを覆っている。
そこで、ごりっと、ククはその光景に気を取られ、何かを踏んでしまう。
「?何だこれ…」
黒く焦げた、棒状の物体だった。
それが、倒れているサポーターのちぎれた腕だという事に気付き、素早く足をどけて後ろに下がる。
「………侵入者は、爆発物を使うのか…」
今ので戦闘態勢に入る覚悟が決まったのか、それとも恐怖を抑え込むために声に出して、状況を整理しようとしたのか、ククはところどころ爆破された跡のあるエレベーター周辺を見つめながら、そう呟いた。
階層の表示が一階となっていた。
どうやら、侵入者達は既に一階にいるらしい。
盾の神機を取り出す。
神機が通常兵装に対して、どれだけの効果を発揮するのかは分からなかったが、試すだけの価値はありそうだった。
一方、ククのサポーターは、既に一階に向かってしまったようで、ククの背後から姿を消していた。
「…クク様…こっち」
いや、いた。
ククは、真上から聞こえてきた声の方へ頭と視線を向けると、ククを覗き込むように首を出しているサポーターと目が合った。
「そんな通路があったのか」
「緊急時以外は…使っちゃダメ」
それにしても、とククは思う。
梯子も階段もない通気口のような天井の穴に、音もなく上っているサポーター達は、一体どんな訓練を受けているんだろう、と。
「…いや、使わないし。そもそも俺じゃ、逆立ちしても届かないって…」
「………」
すると、どこか申し訳なさそうに、サポーターは梯子ロープを下ろした。
「あぁ、ありがとう…」
上のどこかにロープを引っ掛ける為の箇所があるのか、しっかりと固定されているロープを上りながら、ククは自身の不甲斐なさを呪いたい気分になる。
何故ならククは、ルーキーを除いて一番の若輩であり、神機の特殊性を買われて第零部隊に配属されたようなもので、その実力は部隊長レベルとは言い難いものだったからだ。
そんな事を考えている内に、ククは天井の裏側の通路に顔を覗かせる。
そして、見てしまった。
サポーターの下着と、サポーターがその華奢な腕で懸命にロープを支える姿を。
そうして、より一層複雑な気分を味わいながら、ククはサポーターの後ろについて行き、侵入者達がいるであろう一階へと向かうのだった。
「…おかしい…ハヤがいないぞ…?」
侵入者達の真上、天井の裏からその動向を窺うククは、自分よりもずっと先に侵入者達の元へ向かったであろう、ハヤの姿が見当たらない事に気が付いた。
「…クク様…そんな事より、あれ…」
すると、横からサポーターがククの腕を引く。
それに促され、ククは視線を侵入者達の方へと戻す。
「…いないな…奴等、不在のようだ…」
「…本当か…?単に待ち伏せているだけじゃないのか…?」
「…いちいちいちいち、うっさいのよアンタ…!」
どうやら、主犯格は会話を交わしている三人であるらしく、三人の周囲に佇んでいる黒いローブとフードをまとった有象無象からは、まるで意思疎通を取る素振りが見られなかった。
ククの目が、何かに気付いたように鋭く眇められる。
「…奴等、爆発物を持っていないな…下での戦闘跡を考えると、相当量の爆発物を使った筈だ…弾切れか、それとも…?」
すぐ隣にいなければ聞き逃してしまいそうな速度でそう呟くと、ククは神機を抱えて立ち上がった。
「クク様…!もう少しで、応援が…!」
「なら、それまで奴等の足を止める…!」
サポーターが止めるのも聞かず、ククは意を決して穴に飛び込むと、シャッターで閉じられたカウンターを過ぎたところで言い合いを始めた三人の侵入者と、それを身動き一つせずに見守る群れに立ち塞がるように、降り立った。
それは、第零部隊の基本である。
単独任務や、単独行動…それが第零部隊の基本であり、第零部隊が最高の部隊と呼ばれる由縁であり、第零部隊が腕輪を外す目的の一つである。
撃退・討伐・調査・諜報・潜入・工作・破壊・奪取・回収・制圧、あらゆる任務を単独で行う事。
それが、第零部隊だった。
第零部隊に配属されて一年程度の期間しか経っていなくとも、ククは第零部隊の一員だった。
たとえ、ルーキーを除き一番の若輩だったとしても、である。
「っ!?誰だっ!」
ククは、力を抜いた格好でゆらりと立ち上がる。
それとともに、ククの神機からゆらりと黒い靄が立ち上がる。
「…本当は名乗れる名前はないんだが、敢えて名乗るとすれば…」
そして、徐に外した眼鏡を投げ捨てた。
「…ナンバー99だ。よろしく」
「ビンゴ…!これが爆発物のっ!!…正体だな」
剣戟を防ぎながら突き出された盾の、正面から突然飛び出した刃に貫かれ、統制された動きを取る黒フードの人形は爆発した。
しかし、全身の半分以上を守る盾に阻まれ、その爆発はククに対してほとんどダメージを与えられない。
「出たな、0…!」
「やっぱり待ち伏せされてるじゃないか…!」
「タイミング悪ぅっ!最悪じゃん!」
その様を見て、三人は三者三様な感想を漏らす。
そして、ククはその発言を聞き逃さなかった。
(0…?…存在が知られている…?第零部隊の存在は、本部の上層部しか知らない筈だ。どういう事なんだ…?上層部の関係者なのか?…それとも…)
ククは、サポーターにこの事実を知らせるべく、出来るだけ大声で叫ぶ。
「お前達は何者だ!!どうしてここの存在を知っている!!?」
「!?」
すると、気弱な雰囲気の覆面があからさまに慌てた風に文句を言う。
「君の所為で、彼にバレたじゃないか!どうしてくれるんだ!」
それを悪びれもなく鼻で笑い飛ばす覆面が、ローブからアサルトの神機を取り出した。
「はっ!ここに来た時点で、そんな事はバレているようなものだ!!そんな事より、相手はあの0だぞ?油断するな!」
どうやら、この三人の中にリーダーらしい人物はいないようだった。
そして、その覆面の一言で三人全員が神機を構えた。
「ええい!どうしてこうなるんだ!!」
「こっちのが分かりやすいし?それに簡単じゃん!!」
黒づくめの集団は、クク目掛けて一斉に襲い掛かった。
そう言えば、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
あと、少し誤字修正。