お前は、初めから分かっていたんだなやがて!!
もちろん、噴きましたとも。
「…ただの憶測よ?」
「お、驚かさないで下さい!!危うく信じるところだったじゃないですか!!」
「純粋というか単純というか…貴方、本当にここでやっていけるのかしら…」
ドクターの憶測に過ぎない言葉を真に受けてしまっていたルーキーは、ドクターのその言葉で少し自信を失くしていた。
しかし、それは最初から憶測だと言っているにも関わらず、疑いなく信じようとしたルーキーの自業自得である。
「…でも、本部に踊らされているというのは、まず間違いないでしょうね。その事で、私が貴方を可哀想だと思っているのも事実よ」
ドクターはそう付け加えると、無意識に飲み残しのブラックコーヒーを口に運ぶ。
そして、その苦さに思わず口元を歪めそうになり、カルテで口元を隠した。
「っ……まぁ、可能性として有り得ない話ではないわ。貴方は腕輪を外した後にアラガミ化しているもの。貴方の偏食因子がオラクル細胞の侵喰を抑え切れなかった証拠ね。そして、そんな事を本部が把握していない訳はないわ」
ルーキーは、ドクターの言い分に何も言い返せずに俯く。
その表情は、言葉では言い表せないほどに青く、今にも倒れてしまいそうな雰囲気だった。
「…あの…!」
しかし、ルーキーはそれを根性で振り払うと、顔を上げてドクターの方を真剣に見つめた。
その眼差しは真剣そのものであり、まるで今からドクターの証言に異議を唱えるかのような、そんな空気を醸し出していた。
「…アラガミ化って、何ですか…?」
違った。
全然違った。
ルーキーは、ドクターの話す単語の意味をそもそも理解出来ていなかった。
よくよく考えれば、そうである。
アラガミ化とは何であるか、ルーキーは知り得る状況になかった。
何故なら、ルーキーは未だに情報端末を触っていないどころか、自室に入ってすらいないのである。
調べようがないなどと言う次元の話ではなく、そもそも自室に情報端末というものがあり、色々な情報を調べられるという事すら、ルーキーは知らないのだった。
そんな状況で知りもしない単語を延々と並べられたら、ルーキーでなくとも頭を悩まし、顔を青くしてしまう事だろう。
何と言うか、つくづく災難な奴である。
「…ごめんなさい。まさか、そこから説明が必要だとは思っていなかったわ…」
これは流石に予想外であったらしく、ドクターは取り敢えずカルテを机の上に置くと、ルーキーでも理解できるような説明を考え始める。
「…えっと…一応確認するけど、以前エインから説明を受けなかったかしら?」
ルーキーは記憶の断片を辿りながら、それらしい事を聞いた覚えがあるような、ないような、よく分からない気分に陥る。
「…すみません、よく覚えてないです……」
アラガミ化の影響なのか、ルーキーはおぼろげにしか思い出す事が出来ないようだった。
「…そうだったわね……アラガミ化の影響で、記憶に何らかの異常が発生していてもおかしくはないわ。そうすると、ここでアラガミ化について説明しておいた方が良さそうね」
そこで、ドクターはルーキーが理解しやすいようにと、単純かつ明確に説明する事にする。
「…そうね……まずは結果から話す方が、貴方にとっては分かりやすいかしら。アラガミ化というのは、その名の通り体細胞がオラクル細胞に侵喰されて、最終的にアラガミとなってしまう現象の事よ」
分かりやすい説明に、ルーキーは頷いた。
「その原因として考えられているのが、偏食因子の欠乏および過剰投与ね。ただし、これはあくまで一般的なゴッドイーターの話よ。だから、腕輪による偏食因子の投与を断って、自身の持つ特異な偏食因子に頼っている第零部隊の隊員には、本来起こり得ない現象なの。その点で、貴方がどれほど例外的な存在なのか、察して貰えるとありがたいわ」
またも分かりやすい説明に、ルーキーは頷いた後に首を傾げた。
「すごく詳しいんですね…ドクターさんって、研究者か何かなんですか?」
どうやら、ドクターの分かりやすい説明から、着ている白衣が医者のものなのか科学者のものなのか、気になったようだった。
「見ての通り、医者よ。最前線で戦えて治療も出来てで、ここに来る前は支部内でも有名人だったんだから…って、そんな事はいいのよ。このくらいの情報、第零部隊なら知っていて当然よ?貴方の部屋にも情報端末があったでしょう?…全く、若い子はすぐ面倒くさがるんだから…」
と、少しおばさんくさい事を呟きながら、ルーキーの青い質問にドクターは溜め息を吐いた。
「…え?」
その時、ドクターは見てしまった。
「…え?」
じょうほうたんまつってなんですか?と、ルーキーの唇が動くのを。
「………初めて知ったわ。想像以上の出来事が目の前で起こると、本当に思考って止まるのね。さっきの貴方、今まで見てきた重傷患者の誰よりも衝撃的だったわ」
ドクターは、あまりの衝撃に頭がスタッガーエラーを起こしたらしく、しばらくの間固まっていた。
その間、ルーキーはドクターに呼び掛けたり顔の前で手を振ったりしていた為、突然喋ったドクターに驚いていた。
「…それにしても、まさか情報端末の存在すら知らないとは、考えもしなかったわ。という事は、自分の部屋に入った事もなかったって事よね?」
「は、はい…」
信じたくなかった答えがルーキーから返ってきて、ドクターは文字通り頭を抱えた。
そして、苦し紛れに記憶の底から新兵時代の出来事を掘り起こし、色々と精神的なダメージを受けながらも呟く。
「…演習……演習は、いつやったのかしら…?」
どうやら、新兵時代に嫌な思い出や恥ずかしい思い出があるらしく、ドクターの顔色は悪い。
「えっと……ゴッドイーターになる前です…」
「前っ??!!」
そんなドクターの頭がオーバーヒートを起こす直前を彷徨っていると、止めの一撃がルーキーの口から放たれた。
「………ちなみに、どんな事をやったのかしら…?」
ぷすぷすと、頭から煙が上がりそうな様子のドクターは、せめて演習の内容だけでも聞き出そうと、倒れないようにぐっと手足に力を込める。
「…あの……アラガミのコピーみたいな奴の攻撃を、ひたすら避け続けるだけの……」
それを聞いて、ドクターの脳内処理が徐々に調子を取り戻し始めた。
「…そう。そうよね。少し、動揺してしまうところだったわ。それで、結果はどうだったのかしら?」
「12体です」
「体っ??!!」
失敗した。
ドクターはふらふらと立ち上がると、よろよろと医務室の奥にある部屋の一つ…自室へと戻って行ってしまった。
一人残されたルーキーは、何が何だか分からない様子で、首を傾げる。
「…なんか、まずい事言っちゃったのかな…」
ドクターの飲み残しのコーヒーが目に入り、ルーキーはコーヒーが不味かったのかとも思う。
「…あ。ドクターさん、カルテ忘れたままだ…」
すると、その流れで、机の上に置かれたままになっているカルテが目に入った。
教えてあげた方がいいのかななどと思いながら、ルーキーは何気なくカルテの中身を覗き込んだ。
「…アラガミ化による副産物として、急激な肉体的強化が見られる…?……何だろう、これ…?」
多分読めないだろうと思って覗き込んだルーキーだったが、そこに書かれていた文字は幼い頃より慣れ親しんだ、ルーキーの母国の文字だった。
「…ナンバー44の偏食因子が、アラガミ化を制御……これにより、この偏食因子には……アラガミを制御する力が、期待できる…?」
ルーキーは、何か見てはいけないものを見ているような、そんな雰囲気を確かに感じながらも、そこに書かれた文字に惹き付けられるように読み進めていった。
CoCのシナリオを考えていたら、今日が水曜日だという事を忘れるところでした。
危ない危ない…