「ふふふっ…どうやら分かってくれたようだな。折角同じ部隊にいるんだ。今後の為にも、お互い仲良くしよう!」
「隊長、怖ーい…」
隊長の一声で、取り敢えずいつもの空気へと戻りつつある作戦会議室。
そこで、彼は改めて入隊の挨拶をする事にする。
「え、えっと…僕」
「はっ!オレは別に怖かねえよ。単に、隊長の言う事も一理あっかなって思って納得しただけだっつの」
失敗した。
どうやら、彼の切り出すタイミングが悪かったらしい。
丁度少女が、冷や汗を浮かべた男に話題を振ったところだったのだ。
これは、間を窺ってもう一度切り出すべきだと、彼は考える。
「あの、僕」
「えぇー?うっそだー。ハヤ、額に冷や汗かいてるよー?」
失敗した。
言うまでもなく、話の途中に割り込もうとすれば、大体こうなるものである。
彼は、しばらく様子を見てから切り出す事にした。
「か、かいてる訳ねえだろうがっ!!」
その時、男の怒鳴り声が、軽い出来心で指摘しただけのいたいけな少女にぶつけられた。
「…ひぐっ」
少女の瞳に大粒の涙が溢れ出し、遂には零れ落ちんばかりに溜まり始め、そして隊長の視線が男の眉間の辺りを貫いた。
「ハヤ。お前は見上げた命知らずだな…?」
ささっと、素早く少女は隊長の陰に隠れ、日頃の恨みとでも言わんばかりに悪戯っぽく舌を出す。
「い、いや…ち、ちげえから、今のはノリっつーか、アレだし」
まんまと少女の演技に騙された男と隊長は、しっかり一部始終を目撃していた彼の横で、蛇に睨まれた蛙を実演していた。
すると、どうしていいか分からずにおたおたしている彼の隣に、諸悪の根源がすり寄ってくる。
構図的には、イエスを唆す悪魔の図だろうか。
もしくは、「友よ、何をしに来たのですか?」である。
「…あ、あの…」
彼は、何か言った方がいいのかと口を開こうとするが、それは少女の口の前に立てられた人差し指に制された。
「しー。いいんだよー、ハヤはいつもミミを子ども扱いするんだからー」
話しているだけで気の抜けるような、間延びした少女の声が囁かれる。
「あのねー、ミミはミミっていうのー。よろしくねー、ルーキーちゃん」
それだけ言うと、少女はのんびりと椅子に座り、呑気に隊長と男の寸劇に興じ始める。
(…この人、自由だなぁ…)
声には出さなかったが、彼は少女の事をそう思った。
そうして、彼は当初の目的をすっかり忘れてしまうのだった。
「さて、今いるメンバーで顔合わせも済んだ事だし、自己紹介しよう」
結局、少女の演技には最初から気付いていたらしい隊長は、「ハヤという男は、外見や言動ほど乱暴ではないよ」という事を彼に知って貰いたかったらしく、それこそノリでやった事を明かしていた。
当人にしてみれば、たまったものではないが。
「!え、えっと…!」
そして、自己紹介という言葉で、彼は自分が何をしようとしていたのかを思い出し、とうとう挨拶が出来るタイミングをその手に掴んだ。
「私はここ、第零部隊の隊長を務めている。エインだ。改めて宜しく頼むぞ、ルーキー」
隊長の右手がマッハで駆ける!タイミングを掴めと!轟き叫ぶぅぅっ!!!
「あ、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!…えっと」
「さて、私の自己紹介も済んだところで。早速だがルーキー、君はゴッドイーターになったばかりの新人…という事で間違いないか?」
しれっと、彼のタイミングを
「…はい…そうです…」
そして、ルーキーは自己紹介するのをやめた。
そう言えば、ミミと隊長は申し合わせたように、ルーキーの事をルーキーと呼んでいる。
申し合わせたように呼んでいる。
「ふふふっ…そうか。では、今から訓練と実践を兼ねた出撃を行うとしよう!」
「行うとしよー!」
隊長とミミは妙に意気投合した様子でそう言うと、ルーキーとハヤが何事かを言う前に、作戦会議室を出て行ってしまった。
作戦会議室にルーキーとハヤだけが取り残され、二人の間に気まずい空気が流れる。
「…あの、ハヤさん…?」
唐突に齎された静寂に耐え切れず、ルーキーはどことなく申し訳なさそうに男の名前を呼んだ。
「ちっ…気安く呼ぶんじゃねえよ新入り」
しかし、ハヤはそれを舌打ちで撥ね除けると、作戦会議室から出て行ってしまう。
十数人を収容できる作戦会議室に一人、ルーキーだけが残された。
今度こそ完全な静寂が訪れるが、やはりそれに耐える事が出来ずに、ルーキーは申し訳なさそうに呟く。
「………ごめん、なさい……」
「…やっぱり、ダメだったみたーい」
作戦会議室の外に隠れていたミミは、ぶすっとした顔で出て行ったハヤを見送りながら、そう言った。
「…そうだな…やはり、彼とハヤを今日中に打ち解けさせようと思ったのが間違いだったか……二人には、辛い思いをさせてしまったな…」
反省しなければと、隊長は軽く目を伏せ、何か別の手を考え始める。
「…ハヤも多分、ここままじゃいけないーって、思ってるんじゃないかなー?分かんないけどねー」
二人は、それ以上は何も言わず、出撃の準備をする為に自室へと歩いて行った。