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昼下がりの孤島、地図の番号における六番にて。
足元に生えているマヒダケを手持ち無沙汰に採取しながら、カザミがふと問いかける。
「……それで? 港のハンターならラギアクルスくらいお手の物だろ?」
「そういうわけでもない。ラギアクルスは、正直苦手だった」
「その装備で言われても説得力ねえよ」
「これは……そういうわけではない」
腕を覆う白い鎧へと手を添えながら、ルークスはそう答えた。
高い山の陰となっている道はぬかるんでいて、踏みしめた足が少し沈むのを感じる。ふとルークスが後ろへと振り向くと、そこにはそのぬかるみを裸足のまま進んでくるレヴィの姿が目に映った。
泥まみれになった足に目を落として、ふたたび彼女がこちらを見上げる。
「……帰ったら、靴を買おうか」
「不要です」
「お前のその足では不便だろう」
「足の保護であれば、不死の心臓の機能を使えば改善可能です」
「……けれど、いつも使う訳にはいかないだろう。それに、俺の気も落ち着く」
「了解しました」
「……話は終わったか?」
前でそう声をかけるカザミに、ルークスだけが振り向いた。
「それにしても、なんだってこんな時期にラギアクルス……しかも亜種が?」
隊列を組み直し、一番後ろに位置するカザミが、レヴィを挟んだルークスへと問いかける。
「俺では分からない。今の時期は海が冷えるから、もう少し深いところに移動するはずだが」
「だろうな、だから船長もあんなに慌ててたんだろう」
「だが、その原因については……正直、よく分からない。ギルドからは何と?」
「さあな。あっちでも調査中らしいが……」
「『スルト』の移動が影響していると、考えられます」
唐突に口を開いたレヴィに、二人が思わず進める足を止めた。
「……どういうことだ?」
「『スルト』――……いえ。グラン・ミラオスの移動によってこの付近の海水温度の上昇が推測できます。そのため、ラギアクルス亜種の生態系に何かしらの影響が与えられたのではないかと」
「なるほどな」
疑問符を浮かべるルークスと対するように、カザミがそう相槌を打った。
「つまりこのラギアクルス亜種の出現が、グラン・ミラオスの出現、および移動の証拠になる、ってわけだ。嬢ちゃんもそれを確かめるためについてきたのか?」
「はい。これによってグラン・ミラオスの詳細な座標と、上陸地点の特定にも繋がるかと」
「となると、海水温度の上昇している海域を経由していけばいい、ってことか」
「はい。その海域の探知はこちらで可能ですので、ご心配なく」
「けどなあ……たとえ新大陸に来ることが分かって、それが上陸するところが分かったとしても、グラン・ミラオスを止められるだけの資源が今あるかどうか……」
「それについては問題ありません。私の中に含まれている起動デバイスによって……」
「…………?」
交わされる言葉に、ルークスは傾げる首を深くすることしかできなかった。
「あー、つまり今は、ラギアクルス亜種を討伐すればいいってことだ」
「なるほど」
「そうでなければ、海域に出ることができません。ルークス様、お願いします」
「分かった」
二人からの言葉を受けて、頷いたルークスが再び前を向く。
「それにしても、ようやくちゃんと話してくれて嬉しいよ。嫌われてるかと思ってたけど」
「良好な交友関係を築こうとしているわけではありません。ただ、協力が得られるのならば、こちらからも最低限の情報を提示する必要があると判断しました」
「なんだそりゃ」
淡々と答える彼女の声色に、カザミが呆れたように笑う。
「好悪で判断するのならば、私は人間そのものを嫌悪しています。協力が得られることは好ましいことですが、信頼関係を築くには非常に適していないと考えています」
けれどレヴィはカザミを睨むことも無く、また顔色の一つも崩さない。
その瞳にはただ、どこかを見つめる虚ろな光だけが灯っている。
「人間は、信頼するに値しない存在です」
その言葉のあとに、二人は言葉を続けられなかった。
山の中にぽっかりと空いた洞窟へ足を踏み入れると、冷たい空気が頬を撫でる。入ってすぐ向こうの出口からそよいでくる潮風は、ルークスがいつも嗅いでいるものだった。
地図における七番、六番から続く入口付近にて。
「……いないぞ?」
少し歩いたところで、ぽつりとカザミがそう呟いた。
「確か、ラギアクルス亜種はここのあたりを縄張りとしてるんじゃなかったか?」
「そのはずだが……見当たらないな」
「もう移動しちまったのか? ってなると、二手に分かれて捜索したほうがいいかもな」
「ああ。では、レヴィはこちらに……」
そう手を伸ばそうとしたところで、ルークスはレヴィがどうしてか、遠くに見える海を見つめていることに気が付いた。
「レヴィ?」
「……同位体、を確認。海水温度の上昇、並びに生態デバイスと類似した反応を……」
「おい、レヴィ? どうした? 何か――」
「来ます」
それと同時に、白雷が迸った。
巻き上がる水飛沫が視界を埋め尽くし、その直後に大地を震動させる。
浴びる海水を無理やり掻き分けてルークスがレヴィの体を抱きかかえると、その直後に横腹へと何か強い衝撃が走ったのが分かった。
背中が壁に打ち付けられ、全身に鈍い痛みが走る。しかしながらルークスは声を上げることも無く、口に溜まった血を鎧の中へと吐き出しながら、腕の中のレヴィへと声をかけた。
「無事か」
「……申し訳ありません。探知に少しの誤差が発生し、認識が遅れました」
「俺は、いい。少し休め」
そっと彼女の身体を下ろし、ルークスが背中の太刀へと手を伸ばす。
向けられた切っ先の先に在るのは、白き鱗を纏う竜。大地と大海を降す、双界の覇者。
ラギアクルス――その、亜種であった。
「おい、ルークス!? レヴィ!? 大丈夫か!?」
「問題ない」
腰に吊った片手剣を抜きながら叫ぶカザミに、ルークスがそれだけで答える。
「待ち伏せか? それとも、何か……」
「倒してしまえば、悩む必要もなくなる」
「お前……」
呆れたような声が上がると共に、ルークスが大地を蹴った。
放たれる電撃の槍を跳躍しながら回避し、黒い太刀――狼牙刀へと力を込める。そうしてラギアクルスとすれ違うような瞬間に、その刃を腕へと添わせると、確かな肉を切り裂く感覚が、腕を通してルークスへと伝わった。
振り向こうとしたラギアクルス亜種が、がくりとその体を急激に傾ける。
ぱっくりと空いた傷口には、断裂された筋繊維が見えていた。
「……まずは、ひとつ」
ぶん、と太刀を片手で振り回すと、岩肌へ血しぶきが飛んでいく。
すぐさまラギアクルスがルークスの方へと首を向けようとするが、その動きは途中でがきん、と止まってしまう。気が付けば長い首には鉄の杭のようなものが突き刺さっていて、その先にはもう一人の人影がこちらのことを睨んでいた。
「ルークス! 首行くぞッ!」
背電殻で、白い雷がばちばちと弾け出す。それが見えたと同時、カザミは地面を蹴り出し、右腕の弓矢のようになった手甲――スリンガーへ手を駆けた。
体が宙に浮く感覚。それと同時に、カザミは腰に手を回し、ハンターナイフを逆手で握る。
「おらッ!」
突き刺した感覚は強く、それと同時にラギアクルスの胴体を蹴りつける。天井にスリンガーを突き刺すと、カザミはルークスの方へと目を向けて、彼がふたたび太刀を横から振り抜こうとしているのを見た。
「ルークスっ!」
「問題ない」
横薙ぎの一閃。刀身はちょうど貫いたハンターナイフの柄を捉え、そのままラギアクルスの内部へと押し込まれる。一点に収束された衝撃は白海竜の身体をよろめかせ、それと同時に全身へ痺れる感覚を走らせた。
「麻痺か」
「ああ。来るときに生えてたのを、少しな」
「そうか」
しかしながらその動きは止まりそうになく、じりじりと距離をつめながら、ルークスが後ろにいるレヴィへと目を向ける。
「カザミ、一旦レヴィを頼む。俺が引きつけるから」
「一人で大丈夫なのか」
「わからない」
何か言いたそうな彼を無視して太刀を構えると、ルークスはいつものように足へ力を込めて、ラギアクルスへと飛び掛かった。
瞳が捕らえるのは地面と近い胸元。迸る雷撃の槍を地面を滑る事で回避しながら、ルークスが太刀を握る手を逆手へ換える。
がりがりと切っ先が少しだけ地面を削り、そのまま剣閃が白い鱗を撫でる。
次に感じたのは、体を強く横に薙ぐ、衝撃だった。
「――――?」
自分の体が吹き飛んでいることに気づいたのは数瞬後で、壁に激突する直前でルークスが体勢を立て直し、だん、と大きく足で体を受け止める。そのまま横へ跳躍すると、さきほどまで体があった場所を、いくつもの雷撃の槍が撃ちぬいていた。
逆手に持った太刀を順手に持ち直し、ルークスが今一度ラギアクルス亜種へと目を向ける。
海を背に立つその竜の右足には、なにか岩のようなものが蠢いていて。
『ルークス様』
「大丈夫か」
『復旧しました。そして、うまく言葉にするのは難しいですが、侵食があります。おそらくあのラギアクルス亜種――再定義:『ミョルニル』は、生態デバイスと同じような性質を持つかと。それによって、私の認識も遅れました』
「そうか」
つけたままの首飾りから放たれるその声に、ルークスはそれだけで返した。
紅い筋の通るその岩はラギアクルス亜種の右足だけにはとどまらず、まるで全身を包み込む鎧の様に、白い衣を覆ってゆく。
少し離れたところでそれを見ているカザミは、信じられないように、思わず口を開けていた。
「なんだよ、あれ……」
「斬撃への耐性を獲得するため、皮膚の保護を行っているかと」
「……それも、古代人の造り出した兵器、ってことか?」
「そうなります。そして、私はそれに対抗する手段があります」
制するカザミの手を振り払い、レヴィがぺたぺたと前へ出る。
そしてその細い腕を軽く振ると、その先に周囲の岩が収束し、ひとつの槌の形を作る。
少女の半身ほどの大きさにあるそれは、砕竜の頭角のようにも見えた。
「……もう、大丈夫なのか?」
「はい。そして、下がることを推奨します」
「ああ……わかった……」
戸惑いながら答えるカザミを見送りながら、レヴィが裸足のままで駆けだした。
『ルークス様、援護します。いったん退避を』
「わかった」
突進してくるラギアクルスの巨躯を紙一重で避けながら、ルークスがこちらへと向かってくるレヴィの方へと地面を蹴る。それを追うようにしてラギアクルス亜種が首をもたげ、すぐさま黒い甲で覆った四肢で大地を踏みしめながら、前にある二つの陰へと口を開いた。
ばちん、と一つ大きな雷が弾けたとともに、ルークスとレヴィの体がすれ違う。
一瞬だけ赤と黒の瞳が交錯したかと思うと、レヴィは自らの右腕を思い切り振り上げて、
「――――ッ!!」
鳴り響いたのは、轟竜の咆哮にも勝るほどの、大地を揺るがすような爆音であった。
放たれた衝撃によって踏みしめる大地はひび割れ、それと同時にラギアクルス亜種の体が吹き飛んでゆく。そうして岩肌に激突した白海竜の体から、ぼろぼろと黒い鎧が剥がれ落ちる。
対になるように傷の一つもない槌を変形させ、火竜のような翼にして背負うレヴィを守るように、ふたたびルークスが剣を構えた。
「ブラキディオスか」
「はい。斬撃による攻撃は効果が薄いと判断しました」
「そうか」
黒い鎧の剥がれ落ちたところを目で据えながら、ルークスがその切っ先を真正面へと向ける。
狙うのは、刺突。研ぎ澄まされた紙縒りの様に、深く、清く。
「援護します」
「頼む」
だん、と駆けだすと共に、レヴィの体が低く飛翔する。
視界に映るのは、こちらを穿たんと放たれる何本もの白雷。瞬きすらも超える速度で迫るそれは、けれど宙に放たれた炎によって打ち消される。それはリオレウスの火球のようにも見えたが、今のルークスにとってそれは些細なことであった。
風を切る感触が、頬を走る。はじけ飛ぶ雷撃と焔を突き抜けるたびに、太刀の先が鋭さを増してゆく感覚が、握った手から伝わってくる。
そして、一瞬。
「――っ」
衝撃は刹那であり、存外に軽い。しかしながら確かにあるのは、命を奪う感触。先程までの轟音と喧騒は泡沫のように溶けてゆき、それを表すようにして、白海竜の体が崩れ落ちてゆく。
巻き上がる土煙を払うのは、岩で形作られた、大きな翼であった。
「対象の沈黙を確認しました」
「そうか」
太刀に付着した血を振り払いながら、ルークスがそう答える。
しばらく空いた間に聞こえてきたのは、こちらへ駆け寄ってくる足音であった。
「やったのか?」
「ああ」
「問題ありません」
「…………俺には、何がなんだか分からなかったが」
「俺も分かっていない」
地面に転がるその巨躯を眺めながら、ルークスは次にレヴィへと目を向ける。
「おそらく、グラン・ミラオスと交戦したのではないかと」
意志を取ったレヴィが翼をぼろぼろと崩しながら、二人へと語り出した。
「侵食が、あります」
「というと?」
「体内に、生態デバイスと類似……いえ、同等の反応がありました。おそらく、この『ミョルニル』の体内には、私やグラン・ミラオスと同じ不死の心臓があると考えられます」
「……つまり、こいつはグラン・ミラオスと接触して、やられたってことか?」
「はい。おそらく、確実に」
カザミから淡々と答えながら、レヴィが倒れ伏すラギアクルス亜種の体へと手をのばし、そこから蛇のようにうねる、何本もの岩の管を伸ばす。ふよふよと宙を彷徨っているそれはラギアクルスの胸部へといくつか刺さり、そこから何かを吸い出していた。
先程から言葉を失っているカザミの代わりに、ルークスが問いかける。
「何をしている」
「不死の心臓の回収です。そこから、グラン・ミラオスの移動先を特定します」
「できるのか」
「あちらの思考領域が残っていれば、可能です。もうしばらくお待ちください」
それだけ告げて、再びレヴィが作業へ戻る。見詰めるルークスへ声をかけたのは、カザミだった。
「……けれど、よく平然としてられるよな、お前は」
「驚きよりも、今更といった感覚の方が強い」
「今日に会ったばかりなんだろ? それで今更ってのは……」
「最初、彼女は海底遺跡の奥底にある、石の棺の中で眠っていた。そして次に、その中に在るリオレウスの像を吸収し、更にナバルデウス亜種を単身で討伐した」
「……そりゃまた」
「だから、今の彼女へ何かを言うつもりはない」
やがて不死の心臓を吸い出し終えたのか、ひゅるひゅると袖の下へ管を通らせながら、レヴィがふたたびルークスの方へと向き直る。
「不死の心臓の回収、およびグラン・ミラオスの特定が完了しました」
「そうか」
「それで、どうだった?」
「我々の予測と相違はありませんでした。グラン・ミラオスの目的は、やはり新大陸にあります」
「分かった」
「しかしながら、その行動理由は未だ理解できません」
「……っていうと?」
珍しく、狼狽するような、不安になるような表情を浮かべるレヴィに、カザミが問いかける。
気が付けばレヴィは自分がへたりと座り込んでいることに気が付いて、心配するような彼らを見上げながら、ぽつりぽつりと言葉をもらした。
「申し訳ありません……思考の、混濁が……見られ……」
「落ち着け、ゆっくりでいい」
「ひどく、抽象的な……何か、未知の…………違う、これは……」
黒く濁った瞳には、微かな青い光が灯っていて。
「やはり、……やはり、我々は何かに導かれているのだと、思います」
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「導かれている、か」
タンジアの港、夜の工廠にて。
鉄を打ちつける音と、弱まることを知らない橙色の明かりを背に、ルークスとカザミが海の向こうを共に見渡していた。
身を包む防具は全て外しており、吹いてくる冷たい潮風を全身に感じている。その中で聞こえてきたのが、カザミのそんな呟きだった。
「初めて会ったときも、彼女はそう言っていた」
「……どんな感じで?」
「『あの向こうへ行きたい、そう思う』と」
「そう思う、か。レヴィ――古代人の兵器が、そう言ったのか…………」
何か憂うような表情を浮かべながら、カザミがぽつりぽつりと言葉を漏らす。
「彼女は確かにそう言った。だから、俺は彼女を新大陸へ連れていくことにした」
「……自分の苦労も考えずにか?」
「それは、俺の全てを賭してでも、成さなければいけないことなのだと思う」
「何故だ?」
「彼女は、俺に助けを求めてきた。だから、俺はそれに応えた」
短く、しかしそこには確かな意志があって。
「ただ、それだけのことだ」
自分に酔っているのだろうか。けれど、だからといってその手を振り払うことは、できなかった。
無謀な憧れだとも、傲慢な自己犠牲だと後から謂れようとも、ルークスは彼女の手を取ったことを、後悔すらしていなかった。
人を救う事に、どうして迷うことがあるだろうか。
「……ああ、分かるさ。誰よりもな」
にっ、とカザミが頬を緩め、それにルークスはただ頷くだけで返す。
かつかつとした足音が聞こえてきたのは、それからしばらく経ってのころだった。
「戻りました」
声のする方へと振り向くと、そこには脛までを覆うブーツのようなものを履いた、レヴィの姿がある。金属的な音を足から鳴らす彼女は、しかしながらその小さな両手に、大振りの太刀を抱いてこちらへと歩いてきた。
「レヴィ」
「靴の補充が完了しました。いかがですか」
「俺の思っていた靴とは、少し違う」
「?」
膝を曲げ、脛のあたりを足を持ちながら、レヴィがこてん、と首を傾げる。
「加工屋の竜人族は、『新大陸へ行くならこれくらいの装備はあったほうがいい』と」
「……まあ、ないよりはマシじゃねえの」
「歩ければいい。具合は?」
「確かに、歩行時の安定度は上昇しました。問題ありません」
くるりとその場で歩いて回りながら、レヴィがそう答える。
そうして続けざまに、彼女は手に持った大振りの一太刀を、ルークスへと差し出した。
「もうできたのか」
「はい。例のラギアクルス亜種から採取した素材を、ルークス様の太刀へと加工したものです」
「いつの間にそんなことしてたんだ、お前」
「……装備の更新は基本だろう」
受け取ったその鞘は一見すれば白海竜の太刀のそのままに見えるが、しかしながら所々に獄狼竜の体毛や甲殻が装飾として使われている。
そのままルークスが柄を持ち、その刀身を抜き出すと、その刀身は黒い輝きを放っていた。
「ラギアクルス亜種の背電殻が素材として使用されています」
「なるほど」
「それと、柄の方にも色々機能をつけた、と。伝言されたのは『新大陸でも使えるように』とのことですが……」
「わかった」
柄の方を色々と指でなぞりながら、ルークスがそれだけの言葉で返し、その刀身を鞘へ納める。背中へと太刀を吊ると、その柄へ手を伸ばせるかどうかを確認して、ルークスは納得したように首を縦に振った。
「準備万端、って感じだな」
「出港は?」
「明日の朝になるかな。こっちのツレがまだ狩りから戻って来てなくてな」
「ツレ?」
「ああ。まあ、相方というか、何と言うかそんな感じのやつ」
自分でも説明が難しいのか、カザミが頬をぽりぽりとかきながらそう語る。
「俺はそいつを迎えに行ってくる。お前らも早めに休んどけ、船の上は辛いぞ?」
「ああ」
「じゃあな。この大陸に別れでも告げておけ」
ひらひらと手を振りながら、カザミがクエストカウンターの方へと一人で歩いてゆく。
何気なしに見上げた夜空には、微かな星々がまたたいていた。
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