SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

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夏バテでぶっ倒れていたのですが、なんとか間に合いました!


資格

(だめ、これはだめだよ……!)

 

 私の中で、私の声が叫ぶのが聞こえる。

 

 インスタンス・ドミネーション。

 

 かつての私が知っていた、怪獣の精神を掴んで服従させる力。

 

 これを使えば、歪んだ真珠を通して怪獣を成長させ、すぐにでも暴れさせることができる。このイライラも何もかもを壊して、望みを叶えることができる。

 

 でも……そんな私の中の声が言うの。止まれって、間違っているって。

 

 私だってわかってる。

 

 怪獣を暴れさせるなんて間違ってるに決まってる。

 

 だって、もう新条アカネはこんなことはやめた。自分勝手に怪獣を暴れさせるなんてやめて、普通の幸せを手に入れた。あれだけみんなに迷惑をかけて、たくさんの人を傷つけて、それでも昔よりましな私になれた。

 

 私はちゃんとそれを認識している。

 

 なのに……もっと大きい声が私の手を引いていこうとするの。

 

 怪獣を作ることこそが、私の役目だって言いながら、そして……

 

『彼を取り戻すには、世界を壊すしかない』

 

 いらだって、怒った声がささやいてくる。

 

 今、私の中には二人の私がいる。

 

 彼と出会って、ヒロインにしてもらって。そしてこの世界が好きになって守っていきたいと思っている今の私。

 

 彼がいなくて、アレクシスに縋ったままで。うまくいかない世界のことを壊したいと思っている昔の私。

 

 昔の私が、今の私を急かそうとする。

 

(私も、あの幸せが欲しい)

 

 羨ましいって、だからこの世界を壊そうって。

 

 そして私も間違っているって分かっているはずなのに、心はその声に従おうとしちゃう。だって、彼がいないこの世界を間違っているって否定したいのは同じだから。

 

 大事な人、大好きな人、あの人のためなら私は何でもできたし、彼だってそうしてくれた。それでずっと二人で、この世界で生きていきたいってそう思っていた。

 

 なのに今、彼はこの世界にいない。

 

 それどころか、話したことも、顔も、名前さえ私の中からかき消されていく。手を握ってくれた温もりも、愛してくれたことも全部が夢のように消えていく。

 

 そんな自分のことも、彼がいなくなって平気な世界そのものも嫌でしょうがない。

 

(だから、取り戻そうよ)

 

 愛を知らないで、求めることばかりが大きくなった怪獣。その人恋しい声が訴える。

 

 それはどこまでも混沌としていて、間違っていて……

 

 でも私はその気持ちを否定することができない。

 

「だって……こうなったのは、私のせいだから」

 

 なにが世界に起きているのかなんて、神様じゃない私にはちゃんとわかっていなかった。パラレルワールドの衝突とか理解の外。

 

 だけど、私のかつてのわがままと、そのせいで生まれた怪獣たちが広がって、集まって、きっとこの事件を引き起こしているんだって……私は気がついてた。

 

 なのに私はずっと無視をしていた。

 

 彼にもいつか相談するって言いながら、打ち明けることができなくて。

 

 ■■■■君がいなくなったのだってそう。本当は彼が悩んでいたことも、■■■を思い出せなくなっていたことも分かっていた。

 

 なのに私は放置した。むしろ忘れていたかった。

 

 本当は彼に闘うのをやめてほしかった。危ないことはしないでほしかった。

 

 自分を守ろうとしてくれる彼が愛おしくて、でも彼にやめてと伝える勇気もなくて、結局は青い巨人がいない世界を心のどこかで望んでいたんだんだ。

 

 いなくなれば、迷う必要なんてない。

 

 そして結果がこれ。

 

 私はまた彼を失おうとしてる。

 

 ■■■■君と過ごした思い出が、その欠片が止まってと叫んでるけど、止まれない。

 

 彼がいない世界は耐えられない。彼との記憶を二度も失いたくなんてない。

 

 だからその結末を、世界を崩すことができるのは……怪獣しかいないから。

 

 私にできる方法は、もうそれだけだから。

 

「っ…………」

 

 力を込めて、目の前にいる怪獣の心を掴む。

 

 そして共感し、コントロールする。

 

 自由なことが存在理由である怪獣をコントロールするなんて、私にとってのラインを踏み越える行為だとわかっていても、そうせざるを得ない。

 

 だって、だって……

 

(私は、あなたがいない世界なんて嫌だ……!)

 

 あの温もりをなくすくらいなら、世界ごと壊れてしまってもいい。

 

 そんな昔の私と今の私、その境界があいまいになった激情を怪獣が吸収しようとして……

 

 

 

『がうっ!!』

 

「いたっ……!?」

 

 

 

 掲げていた右手の平に、柔らかくて痛いものがくっついた。

 

 思わず目を見開く。

 

 そこにいたのはぬいぐるみのようにモコモコして、だけど顔はかっこいい赤いドラゴン。

 

 彼が私の手に噛みついて、じっと私を見ている。

 

『本当にそれでいいのか?』

 

 と問いかけるように。

 

 その私が生み出した怪獣の声なき声に、頭の靄が晴れていく。

 

「わたし、は……」

 

 噛まれた手から伝わる、生きているという実感と、なにより温かなもの。

 

 そうして私は思い出した。この子を生み出した時に考えた、たった一つの願い事。

 

『お願い、リュウタ君を助けて……! ダイナドラゴン!!』

 

 彼が大切で、力になりたくて、そうして生まれたダイナドラゴン。

 

 怪獣だった私が、グリッドマン同盟になってアレクシスを倒してヒーローの仲間になれた。私に求められた、決められた物語を壊して、私をこの世界の仲間にしてくれた怪獣。

 

 別の世界に行っても、レックスさんを助けるために自分の力をあげちゃった、やさしくてつよい怪獣。

 

 そんなダイナドラゴンに込めた願いと、

 

『俺がヒーローなら、アカネさんにヒロインでいてほしいから。アカネさんも自分のこと、好きになってあげて』

 

 リュウタ君がくれた、一番うれしかった言葉を思い出せた。

 

 ああ……

 

「……ほんと、君はずるいよ」

 

 傍にいないのに、こんなに私のこと助けてくれるなんて。

 

 そうだ、なにを考えていたんだろう。

 

 私には怪獣しか作れない、逃げるしか他にないって。そう考えて、アレクシスにさえそう思われていた私を励ましてくれたのはリュウタ君だ。

 

 私はなんにでもなれる。

 

 私のまま、私にしかできないことができる。

 

 友達を作って、恋をして、もっともっと素敵なことをこの世界でしていけるって。

 

 リュウタ君は傍にいないけど、彼からもらった気持ちはこんなにたくさんある。ダイナドラゴンみたいに、今の私が彼がいてくれた証だ。

 

 だから、私が私を否定したらだめ。それは本当に彼を否定することになっちゃうから。

 

 だから……

 

 私はぐっと歯を食いしばって、頭の中の怪獣に訴える。

 

「私は、もう怪獣じゃない……!」

 

 怪獣は好きだけど、怪獣が好きでもヒーローになれる。

 

 ウルトラマンみたいに世界を救うことだってできるって、リュウタ君が教えてくれた。それでアレクシスを倒してハッピーエンドを迎えることができた。

 

 まだ弱虫で、怖がりで、神様じゃなくなってダメダメなところがあるけれど。大切な、私を愛してくれる人を。私も愛して、守って、一緒に幸せになりたい。ヒーローみたいなリュウタ君を支えてあげられるようになりたい。

 

「私は、リュウタ君のヒロインに……ううん、ヒーローになりたい!」

 

 まだ、どうすればいいのかなんてわかんない。

 

 でもウルトラマンで出てきた人たちはみんなそうだった。

 

 ウルトラマンに守られるだけじゃない。ウルトラマンが変身できなくなったり、バラバラにされちゃったり、封印されたり、はりつけにされたり……考えてみたら結構シリーズ通して大変なことが起こってるけど、それでもあきらめない。

 

 ヒロインなんてもっとそうだ、希望を信じて戦って、ヒーローを助けたりもしてきた。

 

 そんなあの人たちみたいになれるかわかんなくても、でも同じ気持ちがある。

 

「私は……リュウタ君と一緒にいたい」

 

 一緒にいたいから支え合うし、相談するし、守るために戦える。

 

 今、君が囚われのヒロインなら、私がヒーローになって迎えに行く。

 

 ヒーローのやり方も、君が私に教えてくれたから。

 

「だから、こんなカオスとか安っぽい幸せな世界なんて、私にはいらない……!」

 

 世界がどんなに私たちを否定して、元に戻れって言っても、私はそんなことしたくない。

 

 私が怪獣を操ったり、この世界から消えるのが正しいとか。そんな決められた物語や役割なんて知ったことか……!

 

「私はわがままで、元神様! 新条アカネをなめないでよ!!」

 

 そんな私を肯定してくれる人がいるから、私は戦える。

 

「お願い、ダイナドラゴン! こんなふざけた世界、ぶっ壊して!!」

 

『がうっ!!』

 

 想いを込めて叫んで。そうしてダイナドラゴンが炎を吐き出す。

 

 真っ赤で何もかも、世界の壁さえ壊すくらいの、私が考えた最強にかっこいい技。

 

 その炎が何か透明な壁にぶつかって、その壁がぶっ壊れて……

 

 

 

「……ずいぶんと手荒な歓迎だな、新条アカネ」

 

「うぇへへへ♪ でも、これでようやく舞台に上がれたねぇ」

 

 

 

 その向こうから現れたのは、私がよく知っている小さな怪獣と、知らない変な子……ううん、この子も怪獣だ。

 

 そんな二人を見ながら考える。

 

(……今更だけど、昔の私も解釈違いなことしてたよね)

 

 怪獣は暴れて、ヒーローと戦わないといけないなんて。

 

 それはどっかの優生思想とかと同じで、自由なはずの怪獣を縛り付ける、私が嫌いだった常識の押し付けと同じ。今、私に昔に戻れって言ってきたどこかの黒幕だってそう。

 

 怪獣は自由の象徴。だったら、ヒーローの味方をしたり、ヒーローになってもおかしくない。

 

 それを教えてくれたのは他でもない、目の前にいる私から生まれたヒーロー。

 

「久しぶり……今は、なんて呼んだらいいの?」

 

「ナイト……そう名乗っている」

 

「私は二代目って呼んでね、お義母さん♪」

 

 元アンチのグリッドナイト。それに怪獣の女の子。

 

 どちらも怪獣で、だけどヒーローの味方で。

 

 だからこそ怪獣の親玉なんか気にしないで世界と戦ってくれる心強い味方。

 

 二人に向かって、私はまっすぐに今の気持ちを伝える。

 

「私はリュウタ君を助けたい。それでこんなバカなことやってる敵を倒して、私の大切な世界を守りたい。だから……お願い、ナイト、二代目ちゃん、力を貸して」

 

 その言葉に、二人はしっかりとうなづいて答えてくれた。

 

「当然だ。奴との決着はついていないからな」

 

「お義父さんとも挨拶したいからねぇ」

 

 なんか、二代目ちゃんはいろいろ気になること言ってるけど……

 

 とにかく、ここから反撃開始。

 

「見ててよ、どっかで見てる黒幕……」

 

 なにがリュウタ君がいらないとか、私が怪獣を暴れさせるのが世界だ、だよ! 彼がいたから変われた私がいる。彼がいたから生まれた怪獣もいる。

 

 そんな私たちの世界を、勝手に否定させたりしない

 

「ぜったいに、許さない……!!」

 

 私の大切な人を、返してもらうからね。




次回は内海たちも。

尺があるので、ここ辺りから劇場版とはだいぶ展開変わります。

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