インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~ 作:藤龍
実力試験終了後、双真達は第一期訓練生として、正式に魔女対策機関へ入隊する事となった。
双真達を含め、第一期訓練生として最終的に残ったのは八十一名。当初志願してきた人数に比べると、半分にも満たない人数にまで減ってしまった。しかも、その内約半数が未成年で、戦力補強としては十分とは言い難い結果に終わった。
当然、これだけの戦力では、まだ魔女との戦いには不十分と言えるだろう。少しでも戦力が欲しい機関は、早速新たに戦闘兵の一般公募を行った。
が、あの入隊式での白銀の発言が既に世に出回っていたらしく、その公募に募集してくる人数は以前に比べて極端に減少。機関の戦力補強は難航した。
しかし魔女がいつ動き出すか分からない以上、時間を無駄にする訳にも行かず、機関は各地域に支部の創設を開始。そして第一期訓練生達も、来たる魔女達との戦いに向けて訓練を開始。
当然双真も、さらなる力を身に付ける為、血の滲むような訓練を毎日続け――あっという間に、入隊式から一ヶ月の時が流れた。
◆◆◆
魔女対策機関本部――四階、第一訓練室。双真は自主訓練として、隼人や黄昏、一月前の実力試験のメンバー達と共に、模擬戦を行っていた。
現在試合を行っているのは、双真。その相手は、双真よりも少しばかり小柄な茶髪の少年。
華奢な体つきに、中性的な顔立ちと、見た目だけでは大人しいイメージが強い少年だが、その戦い方はとても躍動感あふれるものだ。まるで重力の影響を受けていないかのように身軽な動きで辺りを駆け回りながら、武器である二丁拳銃を絶え間なく撃ち続け、敵に攻める隙を与えない。
まさに縦横無尽。一月前の双真ならば、恐らく手も足も出ずに敗北していただろう。しかし、今の双真にとっては、彼の攻撃を掻い潜るのは、造作無い事だった。
「フッ――!」
短い息遣いと共に、双真は自分に迫る弾丸を、剣を薙ぎ払って弾く。その剣捌きは、一ヶ月前より格段に鋭いものになっていた。動きにも迷いは無く、素人らしさの影も感じさせない。この一ヶ月という時間で、彼は確実に成長していた。
そのまま双真は剣の間合いに入る為、悠に向かって走る。悠も近付けさせまいと、後ろへ退きながら銃弾を撃ち放つ。
次々と迫る弾丸を、魔石の恩恵により強化された胴体視力でしっかりと見切り、剣で防ぎつつ、双真は確実に悠との距離を積める。そしてとうとう、悠の懐に潜り込む。
「貰った!」
双真はアッパーを繰り出すように、真下から全力で剣を振るう。が、悠は上体を反らし、ギリギリのところでそれをかわす。
そのまま流れるように地を蹴りクルリと半回転し、背後の壁を蹴ってさらに高く跳び、双真の後ろを取る。宙を舞いながら双真へ照準を合わせ、空中から射撃。一発の弾丸が双真に迫る。
直撃する寸前――双真はバク転をしてそれを回避。素早く体勢を整え、空中の悠目掛けてジャンプする。悠は慌てて双真を狙い撃とうとするが、それより早く、双真の斬撃が悠の拳銃を弾き飛ばした。
二人はそのまま地面に落ちる。悠はすかさず残ったもう一つの拳銃を構えるが――既に双真の間合い。彼の剣の切っ先が、悠の喉元に突き付けられる。
「……参った。僕の負けだ」
と、悠は両手を上げる。双真はふぅ、と小さく息を吐いて、剣を左腰に差した鞘にしまった。
「なんとか勝てたか……悠との戦いは距離を縮めるのが大変だから、苦労するよ」
「よく言うよ……割とあっさり近寄ってた気がするけど?」
「そんな事無いよ。こっちもギリギリだよ。本当強いな、悠は」
「アハハ、それはどうも。でも双真君だって、凄く強くなってるよ。僕なんかあっさり追い抜かれちゃうよ」
と、戦闘中はどこか険しい表情をしていた悠だが、彼は柔らかい口調で喋りながら、優しそうな笑顔を浮かべる。
「お二人とも、お疲れ様でしたー!」
双真が悠の腕を引っ張り、立ち上がるのを手伝っていると、活気のある明るい女性の声が飛んでくる。
声の主は、今まで観覧席で二人の戦いを見学していたカンナ。彼女は同じく見学していた隼人、黄昏、鴇子と一緒に、こちらへやって来る。
「いやー、お二人とも凄かったです! 私もう、興奮しちゃいましたよ!」
「もう何回も見てるだろうが……しかし悠、惜しかったな」
「うん……まあ、仕方無いよ」
悠は小さく笑いながら、頬を掻く。
「なっさけねーな緑川! そこは次は勝ってみせる! ぐらいは言ってみせろよ!」
「ゆ、ユリちゃん……! ごめんね緑川君、失礼な事言っちゃって……」
「
「ハハハッ……しっかし篝、黄昏のオカンみたいだな。幼なじみなんだっけ?」
「う、うん……ユリちゃん、本当に悪気は無いんだよ?」
「ちょっと鴇子、それじゃあアタシが無神経みたいじゃん」
「えっ? 違うんですか?」
「カンナ、遠慮ねぇなお前……」
談笑する皆を見て、双真は静かにほくそ笑む。
あの実力試験以降、彼らは全員同い年という事もあり、自然と連れ合うような関係になった。まだ知り合って間もないが、彼らの仲は切磋琢磨し合う仲間として、確実に深まっていた。その関係性は、互いの目的――魔女狩り師に入った理由を話し合うほど深い。既に双真が魔女狩り師に入った理由を皆は知っているし、その逆も然り。そして皆がその目的を理解し、応援し、協力してくれている。
そんな彼らが居たからこそ、双真はここまで成長出来た。そう言っても過言では無いだろう。それだけ、彼らの存在は双真にとって精神的な支えとなったのだ。自分の目的を理解してくれて、協力してくれる仲間が居るという事が。
「……ところで、そろそろ腹減らねぇ? アタシもう限界なんだけど?」
「あ、言われてみれば、もうお昼時だね」
「それじゃあ、食堂行きましょう! 今日は確か、B定食は生姜焼き定食ですよ!」
と、はしゃぎながらカンナは訓練室を飛び出す。それに他の皆も続き、一階にある食堂を目指した。
◆◆◆
「生姜焼き定食……売り切れてましたぁ……」
広大な広さを誇る食堂に、カンナの涙声が小さく響いた。
「ま、まあ、ここの生姜焼き定食、人気だからね……」
「元気出せよカンナ。ところで、アンタらはこの後どーすんの?」
「うーん……今日は通常訓練は休みだし、午前みたいに自主連するか、部屋で休むか……双真はどうする?」
「俺は午後も自主連するよ。……いつ、何があるか分からないからさ」
「……魔女とやらは、一体いつ攻めてくんだろうねぇ……」
黄昏の呟きに、皆は箸を止めて険しい表情を浮かべる。
「あれからもう半年以上経ってるんだよね……組織としては、体勢を整える時間が出来ていいんだろうけど……」
「もどかしいよな……俺達としては、一刻も早く決着つけたいところだしさ」
「ああ……」
中でも隼人と双真、そして悠は、特に難しい顔をする。
「まあ、アンタらの事情からしたら、そう思うよな。でも、焦ってもしょーがないでしょ。気長に力付けて待とうよ、その時をさ」
「……そうだね」
「分かってるんだよそんな事。それでも焦っちまうんだよ」
「そう。ま、アタシはアンタらに比べたらちっぽけな理由で志願した訳だから、そういうのはよく分かんねーけど……相談ぐらい乗るからさ。悩みがあったら遠慮無く相談しなさいな」
「そうですよ! 私達は同期で、仲間ですから! 仲間は支え合ってこそです!」
「う、うん……! いくらでも、相談乗ります……!」
「……ハハッ、ウチの女子どもは頼りになるねぇ。……あんがとな」
と、静かに礼を口にする隼人。が、それが照れ臭くなったのか、耳を赤くして、水を豪快に喉に流す。
「あれぇ? 何照れてんの?」
「うっせ! 黄昏、お前は篝を見習ってもうちょい淑やかってのを学べ!」
「余計なお世話だっつーの!」
「ふ、二人とも、落ち着いて……」
「相変わらず賑やかだね……」
「まあ、暗くなるよりいいですよ! ……あれ?」
不意に、カンナが首を左に回す。
「どうかしたのか?」
「いや、あそこ……あれって、緋衣さんですよね?」
「緋衣……? ああ、実力試験で一緒だった。確か緋衣京子……だっけ?」
「はい。おーい! 緋衣さーん!」
と、カンナは大声を出しながら手を振る。すると、彼女の視線の先に居る一人の少女――緋衣京子は立ち止まり、緋色のポニーテールを揺らしながらこちらへ顔を向ける。
少々気難しそうなキツい表情を浮かべる彼女はゆっくりとこちらへ歩み寄り、どことなく棘のある口調で声を発する。
「何か用?」
「いや、緋衣さんもお昼なら、一緒に食べませんか? ほら、私達よく考えたら同期なのに、あんまりお話した事無いなーって思って……親睦を深める為に、どうです?」
「……悪いけど、遠慮しとくわ。人付き合いとか、あんまり好きじゃないの」
そう言うと、彼女は方向転換し、彼らの前から立ち去った。
「……なーんか付き合い悪いな」
「い、色々あるんだよ、きっと……」
「ま、俺達も同期全員と仲良い訳じゃ無いし、無理に付き合わせるのも悪いだろ」
「でも、折角同じ実力試験を受けた仲間ですし、仲良くなりたいです! ……そういえば、もうお一人居ましたよね? 同じ実力試験受けてた人」
「ああ、そういえば居たな。確か名前は……」
「――見つけた」
不意に、背後から声を掛けられ、双真は考えるのを止めて振り返る。そこには魔女狩り師の制服を着た、ツインテールの少女が一人。
「お前は……紫黒陽花」
「総司令官様の側近のお一人か……アタシ達になんの用?」
「……紫之宮双真。黒羽隼人。緑川悠。黄昏百合香。今から一時間後、地下訓練室に集合して」
「地下訓練室? 普段はめったに使わないのにどうして。そもそも、今日は訓練無いはずだろ?」
「質問は受け入れない。要件は以上」
と、陽花は役目を終えたロボットのように、彼らの前から姿を消した。
「んだアイツ……愛想ねーな」
「……ともかく、行くしかないね。どうして四人だけかは分からないけど……」
「えっと……皆さん、気を付けて下さいね!」
「ああ……」
陽花が呼び出しに来たという事は、白銀が関わっている可能性が高い。そうなると、何があってもおかしくは無い。警戒は怠らない方がいいだろう。
「一体、何があるんだ……?」