インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~   作:藤龍

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適合試験

 指定された一時間後――双真達四人は、本部の地下へ足を運んだ。エレベーターを降りると、彼らを待っていたのか、壁に寄りかかる陽花と遭遇する。

 

「……こっち」

 

 全員がエレベーターから降りるのを確認すると、陽花はそう言ってそそくさと歩き出す。双真達は、黙ってそれについて行く。

 

 他に誰も人が居ない、静まり返った鉄の廊下に、五人の靴音だけが響き渡る。

 

「……なあ、いくつか質問、いいか?」

 

 ふと、双真が先頭を歩く陽花に、そんな言葉を掛ける。彼女はそれに振り返らず、歩調を変えずに進みながら返事をする。

 

「好きにして。答えるとは限らないけど」

「まず、これから何をするんだ?」

「着けば分かる」

「……どうして俺達だけ呼び出されたんだ?」

「それは偶然。後日、他の者達もあなた達と同じ事をしてもらう」

「……最後。あんたは……どうして白銀に味方してる?」

 

 ピタリと、陽花が足を止める。

 

「あんた達はずっと前から魔女と戦ってたんだよな? ……あんた達に、一体何があったんだ?」

「……それを、あなたに教える義理は無い。ただ一つ、忠告しておく」

「忠告……?」

「あたしは、あの人達のお陰で今、生きている。あたしはあの人達に救われた。だからもし、あなたがあの人達に逆らうような事があれば――殺すから」

 

 と、静かな声を発しながら、陽花は双真を睨んだ。幼さの残る紫色の眼には、確かな殺意の色が浮かんでいた。少しでも反発すれば殺される。微かな恐怖を感じ、双真は思わず息を呑む。

 

 しばらくすると陽花は前に向き直り、再び歩き始める。

 

「はぁ……可愛い顔してんのにおっかないねぇ……」

「ともかく、あんまり口答えはしない方がよさそうだね」

「だな……白銀といい、とんだブラック組織だなここは」

「……行こう」

 

 殺風景な廊下を進む事数分――双真達は、地下訓練室へ辿り着く。

 いつも使っている訓練室と違い、観覧席も何も無い、直径百メートルはありそうな円形状の部屋へ、陽花と双真達は足を踏み入れる。

 

「ここにはあんまり来ねぇけど……相変わらず広くて殺風景な場所だな」

「だね……あれ? あそこに居るの……桜庭さん?」

 

 と、悠は部屋の中央を指差す。そこには確かに美月、そして守の姿があった。そんな二人の間には、剣など武器が並んだ台座が一つ。

 

 どうして彼女達はここに居るのだろうと、不思議に思いながら、美月達の下まで歩く。

 

「よお青少年達。調子はどうだい?」

「調子は悪くはないですけど……一体なんなんですか?」

「突然の呼び出しでごめんなさいね。今日はあなた達に、ある事を試してほしいの」

「試す……実験か何かっすか?」

 

 隼人の質問に、美月は「そんなところね」と言いながら頷く。

 

「という事は……アタシ達は栄えある実験体第一号って訳ですか。で? 何の実験ですか?」

「率直に言うならば――魔石との適合試験よ」

「適合試験……? あの、その魔石って言うのは、いわゆる僕達が普段使ってる物とは違うんですか?」

「ええ。前に少し説明したと思うけど、あなた達が普段使ってる魔石はダウングレード版。そして、今回あなた達が適合試験を受けてもらう魔石は、いわばオリジナル。ダウングレード版とは違って、魔法が使えるようになる代物よ」

「魔法……つまり、美月さん達が使ってるのと同じって事ですか?」

 

 美月は首を縦に振り、台座へ視線を向ける。釣られて双真達も視線を移す。よく見ると、台座に置いてある武器には全て、魔石が埋め込まれていた。数は全部で四つ。

 

「この魔石は機関設立前、私達が旅をしていた時に倒した魔女から摘出した物よ。魔法が使えるのも、白銀君が既に試しているわ」

「見た目はアタシ達のとあんまり変わんねーな……でも、アタシ達のは適合試験的なの受けなかったけど、これには必要なのか?」

「ええ。オリジナルの魔石はダウングレード版と違って、誰でも使える訳では無いの。詳しい理由は判明していないのだけれど……どうやら相性みたいのがあるらしくて、それが悪いと使用出来ないみたいなの」

「そうなんですか……つまり、今回僕達を呼んだのは、この魔石と僕達が適合するか否かを確かめる……という事ですか?」

「そういう事よ。魔法使える者は、大きな戦力となるわ。少しでも、オリジナルの魔石使いを増やしたいの」

 

 確かに、魔法を扱うであろう魔女を相手にするには、ただ身体能力を向上させるダウングレード版の魔石だけでは心許ない。白銀のように強力な魔法を使える者が増えれば、少しは有利になるだろう。

 

「なるほどね……そういう話なら大歓迎! さっさとやっちゃおうぜ適合試験とやら! 魔法使えるようになれば、もっと強くなれるんだしさ! 適合しなかったら……残念って事で!」

「そう単純な事では無いわ。相性がよければ、恐らく問題無く魔法を使えるわ。ただ最悪の場合……ただ使えないというだけでは済まないかもしれないわ」

「それは?」

「魔石との相性が悪いと、一種の拒絶反応を起こす可能性があるの」

「拒絶反応……?」

「軽いものなら頭痛や目眩。酷ければ意識を失ったり、体に何らかの後遺症が残ったり……最悪、命を落とす可能性があるわ」

 

 命を落とす――その恐ろしい言葉に、双真達の顔が青ざめる。

 

「命を落とすって……そこまでなんですか? まさか、もう……」

「幸い、事前の実験では死者は出てないわ。ただ、その可能性も無いとは言い切れない。現に、かなり危険な状況に陥った人も居たわ」

「あれは大変だったなぁ……中には魔石に意識を乗っ取られた奴も居たしな」

「魔石に意識を……? どういう事ですか? 守さん」

「ん? ああ、それは……悪い桜庭ちゃん、俺小難しい説明苦手だから、よろしく!」

 

 と、守は右手を立ててお願いする。美月はそれに呆れたように溜め息をこぼしながら、代わって双真達に説明する。

 

「紫之宮君には以前説明したかもしれないけど、魔女の魔法はあの三角帽子の魔女――この組織では大魔女と呼称している彼女に与えられた魔力に、内にある感情が呼応して目覚めたものよ。そして魔石は、その魔法の源となる物。そこまでは分かる?」

「はい」

「魔法は言ってしまえば、心が具現化した力。そんな魔法が使える魔石には、その魔女の心が残っている――そうだったとしても、不思議では無いでしょ?」

「それじゃあ、その魔石には魔女の心が……!?」

「詳しくは不明。ただ、実際に使ってる私達から言わせてもらうと、多分それは間違えないと思う。……ウンザリしてるもの」

 

 ボソリと呟きながら、美月は疲労の色を浮かべて目を伏せる。

 

「……話を戻しましょう。言った通り、魔石には魔女の心や意志、そういったものが残っていると私達は考えてるわ」

「魔女の意志……もしかして、だから相性が?」

「でしょうね。魔石も言ってしまえば心を持った人間。相性の良し悪しは当然あるわ。気に入った者には力を分け与え、その逆も然り」

「なるほど……じゃあ、さっき言ってた意識を乗っ取るっていうのは……」

「お察しの通り。魔法の元になった感情は、大方が負の感情。相性が悪ければ、その負の感情に乗っ取られる可能性がある――という事よ。……さて」

 

 そこで言葉を切り、美月は四人に視線を巡らせる。

 

「これで説明は終わり。この適合試験には、大きな危険がある。もちろん大事にならないように私達も努力する。ただ、最悪の場合……」

「万が一魔石に意識を乗っ取られたら、あたし達は迷いなくその者を排除する。そういう命令」

 

 美月が言いよどんでいると、代弁するかのように今まで黙っていた陽花が口を開く。その手には、鋭い極細の針が握られていた。

 

「……そういう事よ。もちろんそうならないように最善は尽くす。ただ、どうしても危険は伴う。それでも、あなた達は適合試験を受ける?」

「……俺は受けます。危険は承知ですから。こんなところで逃げてたら……この先に進めない。俺はどうしても強くならなきゃいけないんです。目的を果たす為に」

「双真……ああ、そうだな。ここで引き下がってたまるかってんだ!」

「うん……僕も、戦うよ!」

「なら、アタシもだ! ここで逃げたら女が廃るってもんだ!」

「……そう。なら、適合試験を始めましょう」

 

 美月はどことなく安心したように、小さくほくそ笑む。しかし、すぐに表情を引き締め、魔石が埋め込まれた剣を手に取る。

 

「まずは紫之宮君から。掴むだけなら問題は無いけど、使おうとした瞬間に恐らく、魔石の力と一緒に魔石に宿る意識が流れ込むわ。もし危険だと思ったら、すぐに使うのをやめなさい。もし無理に使役しようとしたら、乗っ取られるわよ」

「……はい」

 

 ゴクリと生唾を飲んでから、双真は美月から剣を受け取る。鍔には紫色に輝く魔石。まだ使おうと意識していないのに、どことなく危険な雰囲気を感じる。

 

 他の者は数メートル後ろに下がり、美月、守、陽花の三人は双真を囲い込むように陣形を組み、身構える。恐らく、万が一双真が意識を乗っ取られて暴走した場合、すぐさま取り押さえられるようにする為だろう。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐き、柄を両手でグッと握り締める。

 

 いつもと同じだ……いつもの魔石を使うのと同じ感覚で、想像するんだ――意識を魔石に集中させて、精神を統一する。そしていつもと同じ要領で、魔石の力を行使すると、強く念じる。

 

 次の瞬間、双真の体に力が漲る。いつも使っている魔石のものよりも、格段に強い力を感じる。

 上手く使えた――そう思った、その時だった。

 

 ――憎い。

 

「……ッ!? なんだ……? 声……?」

 

 ふと、脳裏に女性の声が響く。その声は段々と大きくなり、脳内を駆け巡る。

 

 ――憎い、憎い、憎い、憎い、憎い……殺す、殺す、殺す、コロス……!

 

「な、なんだこれ……?」

 

 滝のように止め処なく脳裏に流れ込む、憎悪、憎しみ、殺意――様々な負の感情に満ちた大量の声。まるで脳みそをかき乱され、心臓を握り潰され、眼球が焼けるような激痛が走る。

 

「あ、頭が……割れ……!」

「紫之宮君! すぐに剣を離しなさい!!」

 

 美月の余裕の無い叫びが聞こえた。その声に途切れかけた意識が戻り、双真は掴んだ剣を乱暴に放り投げる。剣が手を離れた瞬間、脳裏に響いていた声が収まり、痛みも消える。

 

「はぁ……! はぁ……!」

 

 死の間際を体感したような疲労感が全身に襲い掛かり、双真はその場に膝を突く。

 

「双真!」

 

 そんな彼の下に、隼人達が慌てた様子で駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

「あ、ああ……平気だ……」

「平気って、スゲェ汗だぞ?」

「顔色も悪いし……本当に平気?」

「……正直、シンドイかな……」

 

 ――あれが……あれが、あの魔石を持っていた魔女の心だっていうのか?

 

 ありとあらゆる負の感情を纏めたような、まさに心の闇。あんなものを、魔女達は抱えているというのだろうか? 茜も……彼女も、こんな闇を抱えているのだろうか?

 

 あれは最早どうこう出来るような代物では無い。もしも茜の抱えるものがあれと同じぐらい深い闇だとしたら、自分が救うなんて事が本当に可能なのか?

 

 実際に魔女の闇を体感し、双真は自信を一気に消失する。あまりに大き過ぎる事実に直面し、心が挫けそうになる。

 

「……美月さん、その魔石を持ってた魔女は……どんな……?」

「さあ……詳しい素性までは分からないわ。ただ……戦った時は、とてつもない憎悪を感じたわね」

「……そうですか」

「とりあえず……ここまでの拒絶反応を見せたんだ。今後その魔石は、やっぱり止めといた方がいいな」

「そうね……紫之宮君、あなたは大事を取って医務室へ行きなさい。これ以上は危険よ」

「いや、まだやります……」

「――止めておいた方がいい。それ以上続けても、良い結果は出せんだろう」

 

 と、部屋の入口から聞き覚えの無い男性の声が飛んでくる。慌てて振り返ると、白衣の男性が一人、こちらに歩み寄って来る姿が視界に映った。

 

「あなた……どこへ行っていたんですか? 適合試験に同行すると言ったのはあなたですよ?」

「いやすまない。少々別の事に気を取られていてね」

 

 と、男性は眼鏡をクイッと人差し指で上げ、整ってないボサついた茶髪を掻く。

 

「それはともかく……君、今は大人しく体を休ませる事だな。万全でないコンディションで挑んでも、ろくな結果にはならん。そんな不完全なデータは必要無い」

「……美月さん、この人は?」

「……彼は茶竹(さたけ)英司(えいじ)。開発室室長で、量産型魔石の開発責任者。簡単に言うなら、魔石の研究者よ」

「なっ……このオッサンがアタシ達が使ってる魔石作ったのか!?」

「あんな物は作ったとは言えん。見つけた……と言った方が、どちらかと言えば正しいだろう」

 

 活気の薄い声を出しながら、英司は膝を突く双真を見下ろす。

 

「しかし……未成年の彼でもここまでの拒絶反応を見せるか……やはり、所詮仮説は仮説か」

「仮説……?」

「魔石の所持者である魔女の大半は未成年の女性だ。なので、同じ未成年の方が相性が良いと考えたのだ。現状、既に成人済みの者達では誰一人上手く行かなかったからな。だから戦闘員の公募も未成年を中心に行った。若い方が想像力も豊かだろうし、可能性はあると思ったが……案外そうでも無いようだな。まあ、これはこれで良いデータが取れた」

「呑気な事を……ともかく、今はゆっくり休みなさい。焦っても良い事なんて無いわ」

「……はい」

 

 新たな力を身に付けて、茜を救うという目的達成に近付けたかもしれないのに、結局力を得られなかったどころか、魔女の抱く底知れぬ闇を知り、本当に目的を達成出来るのかと不安を抱いてしまう始末。

 

 こんな結果になってしまって我ながら情け無いと、双真はグッと唇を噛み締めながら、ゆっくりと立ち上がる。しかし、まだ疲労が抜けきっていないのか、足元がふらつく。

 

「おい、大丈夫か?」

「……黄昏さん、医務室まで連れてってあげて」

「あ、はい。ほら紫之宮、掴まれよ」

「悪い……」

 

 言いながら、双真は黄昏の肩を借りて、二階にある医務室を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

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