インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~ 作:藤龍
更に月日は流れ――入隊式から早くも半年が経過した。未だに、魔女の襲撃は無い。
当然その間に機関は何もしていなかった訳では無く、関東を中心に支部を設立したり、隊員の数を増やしたりと、少しずつ組織の拡大を進めていた。
そして今や機関の古参メンバーと言っても過言では無い双真達は魔女の襲撃に備え、訓練の日々を送っていた。
本日の訓練内容は二対二の模擬戦。第一訓練室には多くの隊員達が集まり、観覧席から死闘を繰り広げる二組を見守っていた。
現在試合を行っているのは双真、カンナペアと、黄昏、鴇子ペア。互いに前衛を務める双真、黄昏の二人は目まぐるしい激しい攻防を繰り広げていた。
「なかなか入り込めない……!」
二人の攻防を、槍を構えながら見定めるカンナが、小さく奥歯を噛み締めながら呟いた。
本来ならここで加勢して、双真と共に黄昏を追い詰めるべきだろう。しかし、二人の攻防は安易に割り込む事が難しいほどに激しく、カンナは割って入るタイミングをなかなか掴めずにいた。
もちろん、彼らも常に攻撃を交わしている訳では無い。手を休めた一瞬の切れ間に入り込む事は可能だろう――邪魔さえ無ければ。
「だぁりゃあぁ!!」
男勝りな砲哮を発しながら、黄昏が鉄拳を前方に突き出す。突風の如き勢いで迫った攻撃を、双真は寸での所で回避。頬を掠める拳圧に顔をしかめながら、バックステップで距離を離す。
「ここだ!」
今が割り込むチャンスだと判断したのか、カンナは前屈みになり足に力を込める――が、地を蹴り出す寸前に、一本の矢が彼女に向かって迫り来る。
「うわっ!?」
どうにか寸での所で反応でき、カンナは踏み留まり、上体を仰け反らせてどうにかその矢をかわす。しかし直後に、再び矢が飛んで来る。カンナはそれを、今度は槍を薙ぎ払って防御。
追撃を防いだカンナはホッと短く息を吐いてから、矢が飛んで来た方へ視線を走らせる。先には、身の丈よりも少し小さいサイズの弓を構え、背中に大量の矢を背負う鴇子が。
そう、彼女こそがカンナが双真に加勢出来ない最大の要因である。カンナが動くと、彼女が遠隔地から容赦無く矢を放ち、動きを妨害してくるのだ。かといって直接彼女を叩きに行こうにも、黄昏がいつでもサポート出来る範囲に居るので、危険が大きい。
「完全に後手に回ったな……」
黄昏と鴇子の二人に、勝負の流れを完全に支配されてしまっている。双真は歯痒そうに表情を歪め、思考を回す。
どうにかして状況を変えたいが、彼女達のコンビネーションはこちらの数倍は上。戦闘スタイルも遠距離と近距離と、相性も良い。
このままでは勝機は薄い。劣勢を抜け出せるアイデアを双真は必死に考えるが、相手は当然それを待ってくれず、動き出す。
黄昏が床を砕きそうな力で強く蹴り飛ばして、双真と距離を詰めてくる。そしてすかさず、強烈な右ストレートを双真の
双真は再び回避を試みようとしたが、あまりの速度に回避は不可能だと即座に判断し、得物である剣の刀身を盾代わりとして、強引に割り込ませる。どうにか直撃ギリギリ防御には成功するが、攻撃の衝撃に双真の体が後方に向かって、数メートルほど滑る。
「ッ……! 相変わらずの馬鹿力だなこの……!」
「ハンッ! まだまだ、こっからだよ!」
血沸き肉踊ると表現するに相応しい表情を浮かべながら、黄昏はグッと握った右手の拳を前に突き出す。
黄昏は双真や他の者とは違い、特定の得物を使っていない。強いて言うならば彼女の両手を覆う黒ずくめのグローブ、それが彼女の得物だ。
双真達の使う武器や制服もそうだが、彼女のグローブは特別な素材を使用して作られている。その為、見た目はただのグローブでも、強度は鉄の籠手にも匹敵するレベルで、防具としては申し分無い代物なのである。
魔石を埋め込む道具としても使用出来るので愛用する者も多いが、それだけを装備して戦いに挑む者は少ない。少なくとももう一つ、何か武器を使う基本だ。
だが、黄昏はそうはしない。そのグローブだけを魔石を埋め込む道具として身に着けるだけで武器は使わず、己の肉体のみで戦っている。にも関わらず、彼女は戦闘員の中でもトップクラスの実力を誇っている。それだけ彼女の身体能力、そして戦闘のセンスはずば抜けているのだ。
そんな戦闘の申し子と呼ぶに相応しい彼女を相手に、油断は禁物。いくら模擬戦だろうと気は抜けないと、双真は剣を構えて正面の黄昏を見据える。
対して黄昏は、魔石を埋め込んだ右手のグローブの裾をギュッと引っ張り、数回ほど指の開閉を繰り返す。
二人の間に緊張感のある静寂が流れる。カンナもいつでも支援出来るように二人を見据え、鴇子はそれを阻害出来るように弓を構える。観覧席で見守るギャラリーも、彼らの空気に釣られるように静まり返る。
次の瞬間――戦いが動いた。
最初に動き出したのは双真。先手を取られると一気に押されると判断し、攻めに回る為に距離を詰める。対する黄昏は、それを受けてやると言わんばかりにその場でジッと身構える。
「上等――!」
お望み通り真正面から打ち合いだ――双真は真っ直ぐに黄昏へ迫り、疾走の勢いを乗せて剣を突き出す。黄昏はそれを受け流し、カウンターのアッパーを繰り出す。
が、双真もそれをかわして、流れるように反撃の斬り落としへ移行。しかし黄昏も負けじと回避して、すかさず反撃し、双真も同じように回避&反撃。
この息を
その間にカンナは何度も援護を試みるが、
そして、双真と黄昏の攻防は一分ほど続いた所で、とうとう均衡が崩れた。
「……!? 紫之宮さん危ない!」
鴇子の妨害に苦戦していたカンナが、突然大声で叫ぶ。何か黄昏の動きを見逃していたのかと、双真はすかさず黄昏の全身の動きへ視線を巡らせる。直後、黄昏が懐に潜り込むように素早く膝を曲げて、姿勢を低くする。下方からの攻撃かと、双真は意識を真下へ向ける。
しかし、攻撃は双真の予期せぬ方向から襲って来た。一筋の軌跡を描きながら、一本の矢が真正面から黄昏の頭上を通り過ぎ、眼前へ迫った。
「なんっ……!?」
思わぬ攻撃、さらに意識を完全に黄昏へ向けていた事から反応が遅れる。どうにか回避はするが、双真の体勢が大きく崩れる。そこを、黄昏は見逃さなかった。
「もらった!」
右手で双真の胸ぐらを掴み、双真の動きを封じる。そしてすかさず左手で剣を握った右手を殴打。痛みと衝撃に双真は剣を離す。
瞬間、双真の体から魔石による加護が抜け、力が一気に抜ける。魔石は触れてなければ恩恵を得られない。つまり魔石を埋め込んだ剣を手放した時点で、双真はただの人間に成り下がる。
そして当然、著しく身体能力が低下した双真が、魔石の恩恵を受けた黄昏に抵抗出来るはずも無く――彼の体は、そのまま床へと押し倒されてしまった。
「そこまで! 勝者、黄昏百合香、篝鴇子ペア!」
そこで、模擬戦の審判を務めていた美月が、右手を高々と上げながら叫ぶ。それに双真を押さえつけていた黄昏は胸ぐらから手を離し、跳ぶように立ち上がる。
「ハッハッハ! 今回はアタシの勝ちだな!」
「もうちょっとで勝てると思ったんだけどな……やっぱりそう簡単にはいかないか」
双真もゆっくりと立ち上がり、離れた場所に落ちる剣を拾い上げる。カンナ、鴇子の二人も双真達の下に駆け寄る。
「大丈夫ですか!? 紫之宮さん!」
「ああ、なんとかな」
「ごめんなさい……私、何にも出来なくて……」
「いや、今回は相手が一枚上手だった。篝がカンナを抑える事に専念してた訳だし、仕方無いさ」
「でも、最後の警告も、篝さんから攻撃来るって事をしっかり伝えられなくて、結果的になんか紫之宮さんの邪魔しちゃったみたいになりましたし……」
「気にしなくていいさ。でも、篝の攻撃は確かに驚いたな」
と、双真は勝利を喜び合い、談笑する黄昏と鴇子へ目を向ける。
「合図出した様子も無かったのに、あんな完璧なタイミングのコンビネーション……下手したらあの攻撃、黄昏に当たってたろ? 訓練用の武器で怪我しにくいとはいえ……危険だろ?」
「う、うん……でも、ユリちゃんならちゃんと避けてくれるって信じてたから」
「し、信じてたって……漠然としてますね」
「アタシ達にはそんだけ信頼関係があるんだよ! アタシも、あそこで鴇子がやるって思ってたしね! 以心伝心ってやつだよ! な?」
と、黄昏は笑顔で鴇子と肩を組む。
「信頼関係かぁ……流石、幼なじみですね! なんだか憧れます!」
「だな。俺も、まだまだ精進しないとな。しかし……武器を離したらアウトっていうのは地味にキツいな……やっぱり黄昏みたく、身に着けるタイプのに埋め込んだ方がいいかもな……」
「確かにそうかもしれないけど、一概にそうとも言えないわ」
剣を見据えながら口にした双真の呟きに、美月がそう言う。
「武器に魔石を埋め込む事で、少なからずその武器自体も魔石の恩恵を受けるという実験結果も出ている。量産型の魔石だとほんの僅かだけど、武器の性能が上がるというのは結構なメリットよ」
「へー、そうなんだ。魔石ってマジで不思議だなー」
「……手放す可能性があるっていうデメリットを捨てるか、武器の性能向上っていうメリットを取るか……って事ですか」
「まあ、そこは好みね。それに魔女との実戦では、それがどれだけ効果があるか分からないしね。まあもう少し研究を進めてさらに量産出来れば、一人が複数の魔石を装備するって事が出来るかもしれないらしいけど。さあ、次の模擬戦を始めるから、下がって」
美月の指示に双真達は頷きを返し、ギャラリー達が集まる観覧席に上がった。
「よお、お疲れさん」
観覧席に上がってすぐ、二人の戦いを見守っていた隼人、悠がやって来る。
「いやー、双真は惜しかったな。これで黄昏に五連敗か?」
「こないだ自主連の時に一回勝ってるから、連敗は四で止まってる」
「ヘッ、またすぐに増やしてやんよ。なんなら十連戦とかも歓迎だぜ?」
「ゆ、ユリちゃんってば……程々にね?」
「黄昏さんは血気盛んだね……ところで、みんなはこれからどうするの? 模擬戦が終わったら、一応午後は自由行動って事らしいけど」
悠の質問に双真達は暫し考え込んでから、それぞれ返答する。
「俺は最後まで模擬戦を見学してく。普段は絡まない連中の戦いも見れるし、学べる事も多いだろうから」
「私もそうします! 今回は不甲斐ない結果になりましたから、勉強です!」
「あんた達は真面目だねー。アタシは疲れたからちょっと昼寝してくるわ」
大きく欠伸をしながら背伸びして、黄昏は皆に手を振りながら訓練室の外に向かい歩き出す。
「自由人だな黄昏……ま、実力者の余裕ってやつか? 良いご身分ですねぇ」
「ご、こめんね。ユリちゃん悪気は無いと思うからさ……」
「いや、篝が謝る必要ねーよ……」
「そうですそうです! 今のは黒羽さんのデリカシーが無い発言が問題ですから!」
「カンナって時々厳しい事言うよな……冗談だからな、冗談」
「ハハッ……なんだか、このメンバーで会話するのも当たり前になってきたね」
「だな……半年前までは、赤の他人だったのにな。……魔女との戦争の為に集まったとはいえ、このメンバーに出会えた事は、本当によかったと思うよ」
きっと彼らが居なければ、双真は茜の事で今よりずっと思い詰めていただろう。でも彼らと毎日を過ごす事で、安らぎを得られている。彼らの存在が、今の双真にとっては掛け替えのない存在となっているのは、間違えなかった。
「私も、皆さんと出会えてよかったです! 出来るなら、魔女との戦いなんて来ないで、このまま毎日楽しんでいたい気分ですけど……そうは行かないですもんね! だからさっさと全部終わらせて、このメンバーでパーッと遊びたいです!」
「遊びにか……よくよく考えると、毎日訓練で、遊ぶ暇なんて無かったもんな」
「はい! だから、その日を目指して頑張りましょう! 全部スッキリ終わらせて、遊びまくりましょう!」
「――次! 黒羽隼人、緑川悠、緋衣京子、紺野修也!」
「お、今度は俺達か。じゃあ、行って来るわ」
適当に手を振りながら、隼人と悠が訓練室の中央に向かう。それを双真、カンナ、鴇子は観覧席に座って見送る。
「……私、もっともっと強くならないと」
「急にどうした?」
「今日の模擬戦、何にも出来ませんでしたから。もっと強くならないと、正義のヒーローにはなれませんから! 誰にも負けないぐらい強くなって、魔女との戦いを終わらせてみせます!」
「……そうだな」
全てスッキリ終わらせてみんなと……願わくば、正気に戻った茜や香乱も加えて、 遊びに行けたらいいな――そんな事を祈りながら、双真はカンナ達と一緒に、隼人と悠の模擬戦を見守った。
◆◆◆
模擬戦終了後――隼人達と別れ、用事は特に無いがこの後にやる事も無く暇だったので、香乱と軽い話しでもしようという理由で、双真は一人で第四医務室へ向かっていた。
定期的に顔を合わせないと彼女も心配するだろし、一番付き合いが長く、一番の双真の理解者である彼女と話せば少しは気も休まる。そんな事を考えながら移動すること数分、目的地である第四医務室に到着。双真は扉を開いて、部屋の中へ足を踏み入れる。
瞬間。双真は入ってすぐの場所で、思わず足を止めた。
理由は医務室には既に先客が居たから。そしてその先客が、とてつもなくだらしない格好でベッドに寝ている姿が視界に映ったからだ。
「あ、双真君……いらっしゃい」
デスク前に座る香乱が、苦笑を浮かべながら双真へ声を掛ける。そんな彼女に、双真はすぐさま頭に浮かぶ疑問をぶつけた。
「こいつ、なんでここに居るんだ?」
と、双真はベッドに寝転がる人物――先刻模擬戦で死闘を繰り広げた黄昏百合香を指差した。
双真の質問に香乱は再度苦笑を見せ、返答した。
「いやぁ……なんだかいきなり来て、ベッド使わせてって言われちゃってさ……それで、そのまま寝ちゃったんだ」
「そうか……あくまでここは医務室なんだから、自分の部屋で寝ろよ……」
確かにこの医務室はどことなく落ち着ける空気があるので、眠りたくなる気持ちは分からなくも無いが。などと思いながら、双真は黄昏を眺める。
彼女の寝相は、正直女性らしさからはかなり離れている。掛け布団は半分ベッドから落ちているし、今にも豪快ないびきを発しそうなほど大きく口を開いている。足も大きく開いていて、スカートの内側が丸見えな状態だ。幸い魔女狩り師の女性用の制服は下に黒のスパッツを履いているので、下着が露出されるという事態は回避されているが、それでも男性としては非常に目のやり場に困る。
普段から男勝りな彼女だが、こうも女性らしさの欠片も無いとなると、流石に呆れる感情も出てくる。
しかし彼女も顔立ちが美形で、それなりに胸が出ていたりと、少しは女性らしい部分もある。だがこれではそれらも全て台無しだ。もうちょっと意識したら彼女にも女性の魅力というものが出そうなものなのに、勿体無いな。
「……双真君、何か嫌らしい事考えてない?」
そんな風に思考しながら黄昏を眺めていると、香乱が不意に双真をジトッとした目で見つめながら言った。
「え? 別に、そんな事無いさ。ただ、色々残念な奴だなと思っただけだよ」
「……なら、いいんだけどさ」
と、少しばかりムスッとした風に唇を小さく尖らせる。
「ところで、双真君は何しにここへ? もしかして、藍菜さんに用事があるの?」
「いや、暇だから寄っただけだけだよ。……そういえば、その藍菜さんは居ないのか?」
「うん。多分、和菓子買いに出掛けたんだと思う」
「相変わらずだなあの人は……一応、ここはあの人の持ち場だろうが」
双真は頭を抱え、呆れた気持ちを全面に出した溜め息を吐き出す。直後、部屋の扉が開く。
「失礼します……あ、ユリちゃんやっぱりここに居たんだ」
やって来たのは鴇子だった。彼女はベッドに横になる黄昏を見つけると、少し安心したように表情を綻ばせる。
「鴇子ちゃん、どうかした?」
「えっと……ユリちゃんが部屋に居なかったから、もしかしたらここかなって思って……あ、紫之宮君も居たんだね」
その言葉に双真は無言で軽く頷く。
鴇子はテクテクと黄昏の下まで歩み寄り、彼女のベッドから落ちる布団を持ち上げ、彼女の体に優しく掛ける。
「もうユリちゃんったら、こんな格好で寝て……風邪引いちゃったら大変だよ?」
「……なんというか、篝も大変だな。黄昏のお
「え? ああ……別に、そんな事無いよ。私も好きでやってるからさ。ユリちゃんはこんな性格だから、身近な人がちゃんとフォローしてあげないとさ」
「世話焼きなんだな、篝は。それでも、こんなだらしない奴の相手は苦労するだろ?」
「アハハ……確かに、普段のユリちゃんはちょっと抜けてる所があるね。……それでも、本当に凄い人なんだよ、ユリちゃんは」
と、鴇子は真剣な眼差しで、眠りにつく黄昏を見つめる。
「ユリちゃんはね、とっても強くて、頼りになって、本当にヒーローみたいな子なんだ。私も昔は、よくユリちゃんに助けてもらってた」
「そっか……二人は幼なじみなんだよね?」
香乱の言葉に、鴇子は静かに頷く。
「小さな頃から、ユリちゃんとずっと一緒に居た。だから私はユリちゃんの凄い所をいっぱい知ってる。そしてそんな彼女に、憧れてる」
「確か、篝が魔女狩り師に志願したのって……」
「うん。ユリちゃんね、魔女との戦いで少しでも力になりたいって、魔女狩り師になるって決めたんだ。私もそんな風に、ユリちゃんみたいに強くなりたいって思って、思い切って一緒に志願したんだ。まあ知っての通り、私はユリちゃんと違って、全然強くないんだけどさ。それでも、少しでもユリちゃんに近付きたいんだ。そしてちょっとでも、力になりたい」
「そっか……鴇子ちゃん、本当に百合香ちゃんに憧れてて、大切に思ってるんだね」
「……うん」
照れ臭そうに頬を赤らめながら、鴇子は首を縦に振った。
「だから、私ももっともっと努力しないと。ユリちゃんの隣を、胸を張って歩けるように」
「――嬉しい事言ってくれるじゃん、鴇子」
と、ベッドの方から声が聞こえ、ビクッと肩を震わせながら鴇子が視線をベッドに落とす。さっきまで寝ていたはずの黄昏が、ニヤリと口元に笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
「ユリちゃん!? 起きてたの!?」
「今、目が覚めたんだよ。それより鴇子、あんたそんな風に思ってたんだねー」
勢いよく起き上がりながら、黄昏はニヤニヤしながら言う。それに鴇子は恥ずかしそうに顔を赤らめ、スッと俯く。
「照れるなよー! アタシは嬉しいよ、鴇子に憧れ抱かれてるなんてさー! ふかーい友情を感じるよ!」
「か、からかわないでよユリちゃん……!」
「からかって無いって! アタシは本当に嬉しいんだよ。大切な親友に、そんな風に思われてるってのがさ」
「ユリちゃん?」
「ほら、アタシこんなんだから、鴇子には迷惑掛けっぱなしでしょ? だからアタシとの付き合いが嫌なんじゃないかなーって思ったりする事もあってさ……だから、安心したんだよ。ああいう言葉聞けてさ」
「嫌だなんて……そんな訳無いよ!」
鴇子は珍しく大声を上げ、黄昏の手をギュッと掴む。
「私はこれからもユリちゃんの側に居たいよ! ずっと友達でいたい! だってユリちゃんは、私の一番の親友だから!」
「鴇子……ヘヘッ、あんがとね」
「……本当、仲がいいんだね、二人とも」
「だな」
嬉しそうに笑顔を交わす二人を、双真も釣られて笑みを浮かべながら眺める。
友と語らい、友情を育み、毎日を楽しく過ごす。こんな平和そのものな日々が、この一年間ずっと続いている。魔女との戦いが控えているなど思わせないほどに、毎日が平穏そのものだ。
本当にこの先に、魔女との戦いが待っているのだろうか? 本当は全て偽りで、何も無く平穏無事に終わるのではないだろうか? 茜も、何事も無かったように、以前のような笑顔を見せて、戻ってき来てくれるのではないだろうか?
双真は語り合う黄昏達を見て、ふとそんな事を思い、そして願った。
だが、現実は彼に容赦無く告げる。非情な現実を。この先に待つのは、逃れる事の出来ない地獄だと。
『――緊急連絡! 緊急連絡!』
突然、医務室――いや、建物中に巨大な警報と女性の声が鳴り響く。
「な、何……!?」
「この警報って……確か……!?」
「……来たみてーだな」
その警報に、皆の面持ちが一気に強張る。そう、とうとう来たのだ。
『二十三区の全支部に、魔女の襲撃を確認! 繰り返します、二十三区の全支部に――』
「……魔女」
一年間の沈黙を破り――地獄が、始まる。