インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~   作:藤龍

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第一章 渋谷支部奪還作戦
動き出す物語


 魔女との戦いが始まってから、およそ半年の月日が流れた。あれ以降、魔女と魔女狩り師の戦いは、激しさを増した。

 その戦いの中心が、魔女に占拠された二十三区の魔女対策機関支部の奪還と防衛戦。時には敗走し、また戦力を整え奪い返す。それを繰り返しながら、魔女狩り師側は少しずつ魔女を駆逐し、その魔女の遺体を回収。魔石を摘出、利用していく事で確実に戦力を増強させていた。その数は、現時点でおよそ三十を超えていた。

 

 しかし、同様に多くの隊員が魔女の手に掛かり命を失っている。中には生きたまま魔女に攫われ、そのまま敵の手により、恐らく洗脳のような術を受けた事により、操り人形の如く意思の無い兵として魔女狩り師の敵に回る事もある。

 なので戦力は互いに増減を繰り返していて、戦況は五分五分――というのが現状である。

 

 あまり大きな動きは、この半年間無いと言ってもいいだろう。しかし、戦いは確かに終わらず、続いている。

 

 

 七月某日。魔女狩り師の面々は今日この日、品川支部の奪還作戦を行っていた。その作戦には、双真も参加していた。

 そして彼は今現在――とある魔女と、一対一で対峙していた。

 

 甲高い音が、荒れた街頭に響く。

 剣と剣が衝突するその金属音を響かせたのは、双真。そして彼と対峙する魔女。

 どこか陰湿な空気を醸し出す彼女は、双真との鍔迫り合いを拒否するように剣を弾き、そのまま軽やかなステップで後ろに下がり、双真と距離を離す。

 

「逃がさない……!」

 

 双真も疾駆の勢いで、ビルの曲がり角に消えた魔女をすかさず追い掛ける。

 

 が、曲がり角を曲がると、そこには魔女の姿は無く、ビル群に囲まれた大通りだけが広がっていた。

 

「どこに……?」

 

 身を隠せるような場所は無い。彼女が曲がり角の先に姿を消してから、五秒も経たない内に自分も詰め寄った。その間に視認出来ない距離まで移動したとは考えにくい。

 だとしたら……これは、敵の魔法による何か。

 

 そこまで双真が思考を巡らせたその時。地面を踏み鳴らすような微かな音を、彼の耳が感じ取った。

 それが何か考えるより先に、双真の体は動く。素早く身を翻し、音の方角に合わせて、身を守るように剣を構える。

 

 次の瞬間、先刻と同じ甲高い音と衝撃が、双真を襲う。

 何が起こっているのか、状況は完全には理解しきれていない。だが、誰かが攻撃を仕掛けて来たというのは間違いない。双真は目視出来ぬ襲撃者を追い払うべく、剣を真横に薙ぐ。

 薙いだ刃に手ごたえは無い。どうやら攻撃は外れたようだ。双真は追撃を警戒し、その場から大きく飛び退く。

 

「驚いた……まさか防ぐなんて」

 

 数秒後、声と共に今までそこになかった人影が突然姿を現す。あの魔女だ。

 

 ――なるほど、透明になる魔法ってところか。

 

 ――姿を消されては、こちらが圧倒的に不利。しかし、彼女は何故か今、透明化を解除して姿を見せた。という事は、彼女の魔法は長時間透明化を維持出来ないか、何か条件があるという事。ならばその隙に速攻で叩く。

 

 敵の能力を理解してから一瞬。動揺も躊躇も無しに双真はすかさず行動に移る。魔女との距離を、瞬時に詰める。

 迷いの無い双真の行動に少しばかり面を食らったように、目を見張りながらも、魔女も迎撃態勢に移る。

 

 力いっぱい踏み込み、双真は上段からの斬撃をお見舞いする。しかし敵もそれを見切り回避、からの反撃――とはせず、バックステップで距離を離す。

 どうやらこのまま防御に徹するつもりのようだ。恐らく、再度透明化する為だろう。双真の予想した通り、インターバルが必要みたいだ。

 

「させるか」

 

 逃げる彼女を追い詰めるように、双真も正面に跳びながら剣を突き立てる。敵も剣を使って器用に防ぎながら、足を止めず後ろに下がる。

 同時に、彼女の姿が景色に溶け込むように消える。

 

 もうインターバルが終わったのか――仕留めきれなかった事に奥歯を噛みながら、双真は奇襲を警戒する。

 が、いくら経っても攻撃はやって来ない。足音らしいものも聞こえず、魔女の存在が消えてしまったかのように、辺りは静寂に包まれた。

 

 ――逃げたのか? それとも身を隠してタイミングを窺っている?

 

 どちらにせよ、警戒を解くのは得策では無い。双真は身構えたまま、全神経――特に聴覚に意識を集中させる。

 魔石で強化されてるとはいえ、微かな足音は相当意識しないと捉えられない。それに足元はコンクリートの地面。辺りは開けた大通り。足音を聞き取るには、良い環境だとは言いにくい。先ほど聞き取れたのも、敵が油断していたから。気配を消す事を意識しているであろう今は、そうはいかないだろう。

 

「なら……聞こえやすい環境にするか」

 

 呟きながら、双真は周囲に林立するビルを見上げ、剣を振りかざす。

 刹那。天に突き付けられた刀身が蒼い炎を纏う。そのまま双真は、燃え盛る剣を振り下ろす。炎は打ち放たれた砲弾のように飛び、ビルのガラス窓を打ち砕く。さらに続け様に炎を放ち、周囲のビルのガラス窓を次々と砕き割る。

 ガラスの破片が雨となって辺りに降り注ぐ。双真は頭上に迫ったそれを炎の傘で防ぎながら、耳を澄ませる。

 

 そして彼は捉えた。地面にガラス片が落下する音に紛れた、何かがガラスを弾く金属音と、地面に散らばった破片を踏み砕く音を。

 

「そこか――」

 

 音の出所を睨み、双真は全速力で剣を薙ぎ払う。纏わり付いた炎が斬撃の勢いに乗って燃え広がり、まるで巨大な津波のように辺りを燃やし尽くす。

 

「ぐああぁぁぁぁぁ!!」

 

 炎の津波の中から、悲鳴が木霊する。同時に力が切れたのか、魔女の姿が現れる。

 視界に捉えてすぐ、双真は瞬時に魔女に接近。態勢を立て直す暇も与えず、刃を彼女の胸に突き刺した。

 

「グフッ……!」

 

 渇いた悲鳴と血が、彼女の口からこぼれ出る。

 

「あぁ……意識が……私の、存在が消えてく……アハハ……それも、悪くな、い……」

 

 そんな歓喜のような色が混ざった言葉を呟いたのを最後に、魔女の体はグッタリとうなだれた。

 

 絶命した事を確信してから、双真は剣を引き抜き、魔女の体を抱えて地面に寝かせる。

 光を失った眼を、双真は黙って見据える。そっと手を添え、彼女の瞼を下ろす。

 

「……これで、何人目だったかな」

 

 ポツリと、双真が呟いた直後――どこからか白いフラッシュと共に、大地を揺らす轟音が鳴り響いた。

 顔を上げると、微かな残光が視界に映った。

 

『――各員に告ぐ』

 

 耳に付けた無線から、淡白な声が聞こえて来る。今回の作戦の指揮を執る、白銀の声だ。

 

『品川支部を占拠していた魔女を撃破。恐らく、これでこの街に居る魔女はあらかた殲滅出来た。周囲を散策しつつ、支部に集合せよ』

 

 それだけを告げ、通信は切れる。

 

「……終わり、か」

 

 こうして、品川支部奪還作戦は魔女狩り師の勝利で幕を閉じた。

 奪還すべき残りの支部は――残り、十三区。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 作戦終了後、彼は月に一度受ける事を義務付けられている定期健診の為に、本部にある第四医務室を訪れていた。

 半年前、香乱が命を落とした場所。今ではすっかり元通りになり、通常通り医務室として使用されている。

 

 正直、双真はここにあまり出入りしたくは無かった。昔、香乱やカンナ達が生きていた頃は集まって、他愛のない会話を交わしたりと、良い思い出もある場所でもある。

 しかしやはり、どうしてもあの時の悪い思い出が蘇ってしまう。何も出来ずに、香乱を殺されたあの時の記憶と、怒りの感情が。

 

 だからといって、ここを避ける事が出来ないのが現実。何故なら彼の健康チェックなどを担当する、いわゆる双真の担当医である衛生兵は、この第四医務室を管理する責任者なのだから。

 

「……んっ、特に異常無し。はぁ、面倒臭かった」

 

 気怠そうな言葉を吐きながら、双真の正面に座る女性は、だらしなく背もたれに寄り掛かった。

 

 彼女こそ双真の担当医、(ひいらぎ)藍菜(あいな)、その人である。

 才能も技術もあり、優秀なのは確かなのだが、如何せん少しばかり面倒臭がり屋な彼女は、普段からこんな感じだ。身に纏った白衣はヨレヨレで、色合いだけは綺麗な藍色の長髪は全く手入れをしていないのかボサボサで、目の下には(くま)が出来ている。

 見た目だけならヤブ医者臭が半端無い彼女だが、魔女対策機関に在籍する衛生兵の中では一、二を争う才能を持つ。かつては香乱に医療のあれこれを教えていた事もある。

 

「はぁ……定期健診なんてこんなに頻繁に行う事無いだろうに。人間、そう易々と体を壊さん」

「医者とは思えない発言ですね。他にも検査する隊員は居るんだから、しっかりして下さい」

「そうだったな……全く、少しでも仕事を減らす為にこんな小さな医務室を担当を志願したのに、無駄だったな。私はゆっくり茶菓子でも味わいながら、平穏な日々を過ごしたいだけなのにな」

 

 愚痴を零しながら手元に置いた袋から取り出したせんべいを口に咥え、ストッキングに包まれた足を雑にデスクの上に放り出す。

 

「平穏な日々ですか……しばらくは、無理でしょうね」

 

 俯きながら、双真は沈んだ声を発する。

 

「……その様子だと、どうやら今日は手に掛けたようだね、魔女を」

「……よく分かりましたね」

「察するな、という方が難しい。君は分かりやすい」

 

 咥えたせんべいを噛み砕き、数回咀嚼を繰り返してから藍菜は言葉を続ける。

 

「あまり気に病み過ぎない事だ。これは戦争。生きるか死ぬかの戦い。だから決して、君は悪くないさ」

「でも……」

 

 何かを言い掛けた双真だが、それを阻むように藍菜がせんべいを双真の口に向かって突き出す。

 

「だから、あまり気に病むな。君は今や魔女狩り師の主戦力の一人だ。そんな君がその調子では、我々も困る。もし懺悔をしたいのなら、全て終わってからにしてくれ」

「……はい、すみません」

「酷な事を言っているのは重々承知している。しかし私達は、君達に縋るしかないんだ。すまないが、頼んだぞ」

「……分かってます」

 

 そう、どんな事があろうと戦わないといけない。これ以上被害を出さない為に、全てを終らせて平和な日常に戻る為に。

 そして茜を――殺す(止める)為に。

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