インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~   作:藤龍

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炎と水の激突 前編

 

 

 

 

 二つの巨大な渦潮が、荒々しい音を撒き散らしながら双真に迫る。

 巻き込まれる寸前に双真は跳躍して、渦潮から距離を離す。標的を失った渦潮はそのまま地面を抉り、弾けるように消える。

 

 お返しに、双真は宙を舞いながら『蒼炎』により発生させた炎を、敵に向かって飛ばす。投擲されたボールの如く、燃え盛る炎が魔女に襲い掛かる。

 

 しかしその炎の直撃手前、魔女が右手で地面を突いて力を込める。直後、地面から水が噴き出すように現れ、炎を掻き消す。

 

「やっぱり駄目か……」

 

 敵の使う魔法は水。普通に考えれば、不利なのは炎の力であるこちら。魔法でもそれは変わらないようだ。

 不意を突かなければ、炎による遠距離攻撃を彼女に直撃させるのは困難だろう。ならば――接近戦で攻めるのみ。

 

 一瞬の思考の後、双真は着地と同時に魔女目掛けて走り出す。

 相手は得物を持っていない。対してこちらは剣を持っている。ならば遠距離戦を仕掛けるよりも、真正面から接近戦を挑んだ方が有利と考えての行動だ。

 敵の迎撃に注意しながら、双真は相手との距離を詰める。しかし、敵は双真の接近を妨害する素振りを見せない。

 

 ――接近戦を受けるつもりか?

 

 接近戦にもつれ込んだら、武器を持たない彼女の方が不利なのは明確。なのに彼女は接近戦を拒もうとはしていない。

 

 これは何かある――嫌な予感が走った瞬間、魔女が動いた。

 右手を振り払い、魔法の力により水を発生させる。その水が、渦を巻きながら彼女の右腕に纏わり付く。

 

「そんな使い方も出来るのか……!」

 

 まるで騎士の用いるランスのような形と化した水流を携えながら、魔女が双真に向かって駆け出す。

 これでは接近戦でも有利を取れなくなった。しかし、もう行動を変える猶予は無い。受けて立とうと、双真も剣に炎を灯して迎え撃つ。

 

「ハアァァァァ!!」

「セエェェェイ!!」

 

 短い叫びを共に発しながら、両者が武器を振るう。蒼く燃え盛る刃と逆巻く水の槍が正面から激突する。瞬間、まるで高速回転するドリルにぶつかったような衝撃が腕に襲い掛かる。

 このままでは持ってかれる。そう危惧した双真は、すぐさま剣を引いて彼女との競り合いを中断。が、敵は逃がさんと言わんばかりに再び腕を伸ばし攻撃を仕掛ける。

 

「クソッ……!」

 

 次々と繰り出される連続攻撃。双真はそれを剣を薙ぎ、身を躍らせてどうにか対応する。

 

「しぶとい!!」

 

 しばらく攻防が続くと、苛ついたような叫びを響かせながら魔女は大きく右腕を振りかぶり、頭上から双真に向かって水の槍を突き落とす。

 だが大振りな攻撃を回避するのは、細やかな攻撃より容易い。双真はバックステップでそれを躱し、反撃に転ずる。

 

 右足を軸にして体を回転させ、渾身の斬り上げを繰り出す。飛び上がったような高速の斬撃が魔女の体を裂く――寸前。突如双真の足元がひび割れ、そこから洪水のように水が噴き上がり、双真を襲った。

 

「何ッ!?」

 

 不意の反撃に、双真は対応が出来ずに、そのまま水流の勢いに押されて宙へ飛ばされる。

 見れば攻撃を外した彼女の右手は、地面に触れている。あそこから地中を通じて、足元からの攻撃を放ったのだろう。

 

 ――大振りの攻撃はこっちの反撃を誘う為か!

 

 あそこは様子を見て退くべきだった――自分のミスを後悔しながらも、双真は敵の追撃に警戒を強める。

 刹那、彼女の追撃が来る。昇り竜のように天へと伸びる逆巻く水流が、空を舞う双真に迫る。

 

 あれに巻き込まれれば一溜りもないのは確実だろう。しかし空中に居る今はまともに回避行動を取れない。どうにかダメージを最小限に抑えるしかない。

 双真は剣を盾のように突き出し、有りっ丈の炎を放出させて、全身を炎のベールで包み込む。

 

「そんなもの、消し去ってやる!!」

 

 水流の勢いがさらに荒く、激しくなる。怒り狂った竜のような攻撃が、双真を襲った。そして彼を叩き付けるように、水流は急降下。地面に激突して弾け散る。

 

「ガハッ……!?」

 

 背中から叩き付けられた双真は、渇いた悲鳴をこぼす。

 

「クソ、痛いの食らったな……」

 

 大打撃を食らった双真は、体のどこも故障してない事を確かめながら、剣を支えにしながら起き上がる。 

 しかし、敵はそんな彼に休む暇は与えない。再び水の槍を携え、全速力で駆け出す。

 

 彼女の強烈な殺気に危機を感じ取り、即座に迎撃態勢に移った双真の体は、怪我などお構いなしに動き出す。跳ね上がるように立ち、杖代わりにしていた剣を一文字に薙ぎ払う。纏った炎が一気に燃え広がり、彼女との間に巨大な壁を築く。

 瞬時に出来上がった蒼い障壁に怯んだのか、魔女は足を止める。

 

 暫し、ゆらゆらと燃ゆる炎を見据える魔女。

 

「……忌々しい」

 

 不意に、魔女は呟く。憎むような顔で炎を睨み、悔しそうに唇を噛む。

 

「全部、全部消し去ってやる……私が全部消してやる! もう絶対、奪わせてなるものか!!」

 

 絶叫を迸らせながら、魔女は右手を薙ぐ。纏わり付いた水流が大津波のように広がり、目の前に(そび)える炎の壁を火種の一つも残さずに消し去る。

 

「ここまでかよ……!」

 

 敵の攻撃の強大さに驚きの声をこぼしながら、双真は飛び退いて避難する。

 

「逃がすか!!」

 

 魔女が両手を前に突き出し、そこから水の砲撃が放たれる。生きているようにうねり、迫り来るそれを双真は駆け回って躱し続ける。

 が、まるで食って捕らえるといった風に、水流は双真を追い詰める。

 

「しつこいなクソッ!」

 

 走りながら後ろを向き、双真は襲い来る水流に向かって炎を飛ばす。だが狙いを定める余裕が無かったからか、外れてしまう。

 外れた炎が地面に燃え移った、その直後だった。双真を追っていた水流が突然方向転換し、その炎を消火した。

 

「今のは……?」

 

 あんな炎、放置していても問題無いはず。なのにわざわざ自分への攻撃を放棄してまで、消しに行ったのは何故?

 敵の妙な行動のお陰で、どうにか攻撃から逃れられた双真。彼は疑問を抱いたまま、魔女に目をやる。

 

 ――その炎……見ているだけで、胸がムカムカする!

 

 ――全部、全部消し去ってやる……私が全部消してやる! もう絶対、奪わせてなるものか!!

 

 彼女の放った言葉が、双真の脳裏に浮かぶ。

 あの憎しみが籠った言葉。それに今までの行動……理由は分からないが、彼女が炎に対して、異常なまでの怒りや憎しみを抱いているのは明白だ。

 

 魔女の目覚める魔法は、その当人が抱える感情が種となる。彼女の場合は、炎に対する強い感情がそれ。だからこそ、水を操るような魔法に目覚めたのだろう。

 

 そして魔法の力は、感情の起伏によって力の大きさが変わる。怒りや憎しみ、そういった強い感情の変化が魔法の力を高めると、機関の研究によって明らかになっている。

 彼女がここまでの力を発揮しているのは、双真の使う『蒼炎』の力に対して、激しい怒りを覚えているから。だからこそ彼女の力は、ここまで強大なものになっているのだろう。

 

「まさに、相性最悪って事だな……俺は」

 

 きっと自分でなければ、炎を扱うような力でなければ、彼女にここまで苦戦する事は、彼女がここまで力を発揮する事は無かっただろう。

 でも、今それをあれこれ言っても仕方が無い。自分は蒼炎(この力)で、彼女と戦い、勝たなくてはならないのだから。

 

 真正面の力のぶつかり合いでは、恐らくこちらは圧倒的に不利。やはりどうにかして、敵の不意を突くしかない。そして出来る限り、一瞬でけりを付ける。

 

 敵の動きに注意を向けながら、双真は脳内で作戦を組み立てる。

 

 ――炎に対する異常なまでの憎しみか……それを利用すれば、あるいは……

 

「……よし、やるか」

 

 作戦を立て終えた双真は、早速動き出す。この戦いに、勝利する為に。

 

 

 

 

 

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