インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~   作:藤龍

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邂逅

 

 

 

 ピクリとも動かなくなった敵を見下ろしながら、陽花は苦無をホルダーにしまい、床に倒れる彼女の下まで歩み寄る。

 光を失った眼にそっと手を添えて、瞼を下ろす。

 

「……ごめんなさい」

 

 ポツリと、陽花は零れるように呟いた。

 その後、陽花はデパートの外に向かって走り出す。

 

 階段を駆け下り、日の当たる外に飛び出した、その時だった。

 

 突然、遠方から大きな轟音が響く。

 

「あれは……」

 

 すぐに音の方角に顔を向けると――そこには紅い火柱が、天に向かって聳えていた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 陽花と深雪の戦いに決着がついた頃――春花との戦いに続いて、双真は再び敵との戦いに身を投じていた。

 

 しかし、今度の敵は魔女では無かった。

 双真と対峙するのは、彼と同じ魔女狩り師の隊服を纏った、数人の男女。そう、かつては仲間として共に戦った、魔女狩り師達だった。

 

 敵の一人が、真正面から剣を双真に向かって振り下ろす。双真はそれを弾き返して、すぐさま後方に視線を走らせる。

 直後、別の斬撃が背後から迫る。それを寸でのところで躱し、攻撃を繰り出してきた敵を蹴り飛ばす。

 

 しかし、攻撃は止まない。少し離れた場所から、別の敵が銃弾を放つ。反対方向からも、同じく銃弾が双真に迫る。

 

「クソッ……!」

 

 そう短く吐きながら、双真はクルリと体を回転させる。剣から迸る炎が小さな竜巻を作り、銃弾を掻き消す。

 しかし、敵は驚きも、慌てもしない。無感情な眼で、ジッと双真に狙いを定め、再び襲い掛かる。

 

 

 彼らは全員、大魔女の手により洗脳された者。

 生気を感じさせない虚ろな瞳に、操り人形のような意思の無い動き。

 今の彼らは、かつての仲間では無い。感情も無く、こちらの命を狙う、敵だ。

 

 どうにかして救ってやりたい。が、そうする術は無い。

 だから双真に出来る事は、これ以上自らの意思とは関係無く、かつての味方に襲い掛かる彼らを、この戦いから解放してやる事のみ。死という――残酷な結末で。

 

「……ごめんな」

 

 双真は襲い掛かって来る内の一人、剣を持った男性隊員に意識を向ける。

 敵の攻撃が迫る。それを双真は身を翻して回避――そのまま男の胴体を、炎を灯した剣で斬り裂いた。

 

 鮮血が飛び、男の体躯が地面に倒れる。

 かつての味方を殺した事に微かな心痛を覚えながら、双真は次なるターゲットを視界に入れる。

 

 味方がやられた事も顧みず、こちらに迫る女性隊員。

 双真は彼女が振り下ろした剣に向かって自らの剣を薙いで、その一撃を明後日の方向に弾く。

 そのまま隙の出来た彼女の胸元に、刃を突き刺す。飛び散った血が、双真の頬を撫でる。

 

「次――」

 

 悲しむ暇も、罪の意識を背負う暇も無い。双真は残る二人の敵に、視線を飛ばす。

 

 ――瞬間。突然その二人の足元から、巨大な火柱が立ち上った。双真の『蒼炎』とは違う、真っ赤な炎が。

 

「これは……!?」

 

 数秒程燃え上がった火柱は、やがて風に掻き消されたように姿を消す。その中から、変わり果てた姿の敵が現れ、地面に倒れた。

 

 今のは……間違えない、()()の力だ。つまり……彼女が、近くに居る。

 双真はすぐさま目を走らせる。自分の求める、彼女の姿を探して。必死に辺りを見回す。

 

「フフッ……ここだよ。双真」

 

 甘い声が、耳を通り抜ける。自然と、表情が強張る。

 ゆっくり、声の聞こえた方へ首を回す。視線の先に、黒いドレスを纏った少女の姿が見えた。

 

「久し振りだねぇ、双真。ずっと、ずーっと……会いたかったよ」

 

 その少女――茜は口元を嬉しそうに吊り上げた。

 

 対して双真は険しい表情のまま彼女を見据えるのみ。それに、茜は少し不満そうに肩を竦める。

 

「もう、双真ったら。折角再会出来たんだから、もっと嬉しそうにしてよ」

「……目撃情報があったのは聞いてたが、本当に出会えるとはな」

「私も。まさか双真に会えるとは思わなかったよ。退屈な役目を押し付けられたと思ってたけど、そんな事無かった。大魔女(アイツ)には少しは感謝しないと。ねえ双真、こうしてまた会えたんだから、いっぱいお話しよ? 長い間会えなくて、とっても寂しかったんだよ?」

「…………」

 

 しかし、茜との会話を拒否するように、双真は剣を彼女に向ける。

 

「……やっぱり、私と戦うつもりなの?」

「……俺は決めたんだ。お前を……この手で殺してやるって」

「私は嫌だな。出来れば、双真とは戦いたくないよ。殺したくも、殺されたくもない。私と一緒に行こう双真。二人で一緒に、いっぱいいっぱい愛し合おう? その方が絶対、双真は幸せになれる――」

「黙れ!!」

 

 茜の言葉を遮るように、双真が叫ぶ。

 

「もうこれ以上、お前に殺させたりしない。俺がお前を止めてみせる。俺が……この手でお前を殺してみせる!!」

 

 荒ぶる双真の感情に呼応するように、蒼い炎が立ち上る。

 

「……その炎。他の魔女の力なんだよね?」 

「……だったらどうした?」

「つまりさ? 双真は今、他の女の力を使ってるんだよね? 私以外の誰かが、双真と一緒に戦ってるって事なんだよね? ……そんなの、許せない……!」

 

 微かに震えた怒号を発しながら、茜は親指の爪を噛む。

 

「それにその炎……なんだかムカつく……! それが双真と居る事が、心の底から許せない!」

「…………」

「……壊してやる」

 

 茜は双真の周りをたゆたう炎を、双真の持つ剣を、鍔に埋め込まれた魔石を睨む。

 そしてゆらりと体を揺らし――全身から、真っ赤な炎を燃え滾らせる。『紅炎(こうえん)』と名付けられた、彼女の魔法だ。

 

「双真の側に居ていいのは私だけ……私以外の誰も、双真の近くに居る事は許さない。死んでいようが生きていようが、同じ! 魂が灰になるまで燃やし尽くして、存在を消してやる!!」

「……させない。絶対」

「そんな事言うなんて……双真、蒼炎(その力)にたぶらかされてるんだね? なら待っててね、双真……今すぐ私が目を覚まさせてあげるから!!」

 

 狂言を口にしながら、茜が地面を蹴り飛ばして迫る。

 

 ――これ以上、狂った彼女を見ている事なんて出来ない。ここで彼女を止める。その為に、力を貸してくれ、蒼井。

 

「行くぞ、茜――!」

 

 

 

 

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