インサニティ・ウィッチ~ヤンデレ魔女と魔女狩り師~   作:藤龍

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狩人の襲撃

 

 

「……誰よ、あんた」

 

 突如現れた銀髪の青年を睨み付けながら、茜は静かに言う。しかし青年は口を真一文字に結んだまま、黙って茜に向かって歩み寄る。茜はこちらへ近寄るなと言わんばかりに、威嚇するように体から炎を立ち上がらせる。が、青年は一切驚いた様子も見せず、無表情のまま歩みを進める。

 青年は確実に茜との距離を縮めながら、右手に握った日本刀を斜め下へ薙ぎ払う。瞬間――突然刀全体を覆うかのように、白い雷が(ほとばし)った。

 

「なっ……!?」

 

 茜と青年の間で呆然としていた双真は、その光景を見て我に返ったように声を漏らした。

 

 ――あれって、蒼井を襲った炎の弾を打ち消したのと同じ……? じゃあ、彼が蒼井を助けたのか? 彼もまた、茜と同じような力を……? そもそも何なんだ、茜の炎も、あの人の雷も!

 

 現実離れし過ぎた状況に未だ混乱しながらも、双真は雷を纏った刀を構える青年に目を凝らす。そして次の瞬間、青年は次なる行動に移った。

 雷を纏った刀を、目にも留まらぬ速度で振るう。すると、雷が斬撃に乗ったように飛んだ。雷は白い軌跡を描きながら、茜に向かって迫る。まさに光速と言うに相応しい速度で迫るそれを、茜は羽ばたいた鳥の如く高く跳躍してかわす。ターゲットを失った雷は地面に激突し、鋭い音を響かせながら消滅。

 

「思ったより素早いな……」

 

 青年は小さく呟きながら、軽く刀を振るう。茜は軽々と着地して、攻撃を仕掛けてきた相手を嫌悪感溢れる視線で睨む。

 

「…………何だよ、これ……」

 

 目の前で起こった一瞬の出来事に、双真は呟く。

 茜や銀髪の青年が、ごく当然のように炎や雷を扱う姿。茜の動きも、人間のそれを完全に凌駕している。まるでアニメや特撮のようだ。

 茜の突然の変化。彼女は謎の力で自分に好意を向けていた女生徒を殺して、香乱まで殺そうとした。そしてそれを助けた、茜と同じように謎の力を使う青年の出現。何もかもが急過ぎて、異常な事態。まるで夢のような状況に双真はただ、目の前の光景を呆然と見ている事しか出来なかった。何をすればいいのか、頭が追い付かなかった。

 自分はどうすればいい? どう動けばいい? 混乱する頭を必死に回しながら、双真は目の前で対峙する茜と銀髪の青年に、交互に視線を向ける。

 その時、少し離れた場所で呆然とへたり込む、香乱の姿が視界に映る。自分以上に動揺した様子を見せる彼女を見た瞬間、双真は無意識に彼女の下へ走った。

 

「蒼井、大丈夫か!?」

 

 怯える彼女を落ち着かせるように近くへしゃがみ、彼女の背中に手を回す。香乱はまだ少し落ち着かない様子だったが、双真の顔を見つめながら、コクリと頷く。

 ひとまず怪我などはしていない事を確認すると、双真はホッと息を吐く。

 

「なんでそんな女の心配するの……?」

 

 そんな安心も束の間、双真の耳に、まるで悪魔のような茜の声が流れ込んだ。慌てて首を回すと、そこには茜が再び巨大な炎を巻き起こしながら、こちらを睨み付ける姿があった。

 

「あ、茜……?」

「私以外の奴に優しくしないでよ……私以外は誰も見ないでよ……私以外には近付かないでよ……」

「早乙女さん、どうしたの……?」

「うるさい……口を開くな……双真から離れろぉ! 蒼井香乱!!」

 

 空気を震わせるほど巨大な絶叫を響かせながら、茜は炎を纏わせた右手を垂直に振り下ろす。直後、炎は衝撃波のように地面を走り、一直線に香乱へ迫る。

 

「蒼井!」

 

 このままでは香乱が危ない――それを直感的に察した双真は、慌てて香乱を守るように彼女を抱き抱える。

 そのまま紅蓮のラインは双真と香乱に直撃するかと思われた。が、直前で再びあの白い落雷が地面に落ち、茜の放った炎を打ち消した。

 

「――邪魔だ、引っ込んでろ」

 

 煙が立ち上がる焼け焦げた地面を、香乱を抱えたまま呆然と眺めていると、あの落雷を繰り出したと思われる銀髪の青年が、双真達を見下ろしながら冷たい口調で言い放つ。

 男のまるでこっちに関心が無いと言わんばかりに冷たく、微かに恐怖すら感じる青い眼に息を呑みながら、双真は自分の中に渦巻く疑問を彼へぶつけた。

 

「あんた、一体何者だよ!? これってどういう事なんだよ!? 茜はどうしちまったんだよ! その力、一体何なんだよ!」

「質問が多い奴だ……説明は後だ。さっさと失せろ。戦いの邪魔だ」

「戦いって……」

 

 新たに質問を投げ掛けようとした、矢先。突然正面から、激しい衝撃が双真達に襲い掛かった。

 

「うおっ……!?」

「キャア!」

 

 まるで竜巻がいきなり目の前に現れたような衝撃に、双真と香乱は真後ろへ吹っ飛んだ。ゴロゴロと地面を転がり、数メートル先で何とか止まる。背中に走る痛みを堪えながら、双真は衝撃の正体を確認すべく顔を上げる。

 双真の視界に映ったのは、炎を纏わせた拳で殴り掛かる茜と、それを雷を纏った刀で受け止める青年の姿だった。あの衝撃は、どうやら茜の拳と刀が衝突した事で発生したもののようだ。

 

「双真と言葉を交わすなぁ!」

 

 怒りに満ちた言葉を放ちながら、茜は青年を信じられない力で突き飛ばす。普通ならそのまま背中から地面に落下するだろうが、青年はくるりと身を翻し、難無く着地する。

 ただ僅かだが、確実な隙は出来た。茜はそこを狙い、追撃を仕掛けようとする。身構え、地面を蹴り飛ばそうとした――寸前、突然どこからともなく、彼女の目の前に巨木が落下した。

 予想外過ぎる何者からの妨害に、茜は動きを止める。

 

「こ、今度は何なんだ……!?」

 

 またまた目の前で起こった異常事態に、双真と香乱は目を剥く。

 直後、再び彼らの目の前に、新たな人物が姿を現した。今度は一人では無く、三人も。

 一人は強気そうな目付きの金髪ショートヘアの少女。もう一人は、どこか飄々とした空気を醸し出す黒髪の青年。最後は、凛とした顔立ちの黒髪ロングヘアーの女性。

 三人とも双真と同年代か、少し年上といった風だった。彼女達は一瞬双真と香乱に視線を送ったが、関わろうとはせずに銀髪の青年の下へ集まる。

 

「遅いぞ」

「申し訳ございません。少々準備に手間取りました」

 

 と、金髪の少女が柔順な態度で言う。どうやら、彼女達は青年の仲間のようだ。

 三人は揃って目の前でこちらの様子を窺う茜を見据える。すると黒髪の男が、頭を掻きながら軽い口調で口を開く。

 

「しっかし……あの子、相当血気盛んだねぇ。原因は何?」

「詳しくは知らん。が、どうやらそこの男絡みらしい」

 

 銀髪の青年は後ろの双真へ目をやる。すると何かを察したように、黒髪の男は苦笑を浮かべた。

 

「なぁーるほど……こりゃ面倒そうだねぇ。女性の恋心とか、嫉妬心以上に厄介なものは無いからねぇ」

「……それで、この子達はどうするの?」

「居ても戦いの邪魔になるだけだ。桜庭(さくらば)、そいつらを連れて退け」

 

 黒髪の女性に視線を送りながら、青年は指示を出す。桜庭と呼ばれた女性は黙って頷き、呆然とへたり込む双真達へ近寄る。

 

「ごめんなさい。色々混乱してるだろうけど、今は黙って従って」

「何を――」

 

 双真が疑問をぶつけようとした直前、女性は双真を右腕で、香乱を左腕でそれぞれ抱え込み、高くジャンプして学校を囲う塀の上に飛び乗った。

 

「お前! 双真をどこへ連れて行く!!」

 

 すると、それを見た茜は激しい怒号を吐き、女性に攻撃を仕掛けようとする。

 が、それを妨げるかのように、再び青年の雷が茜を襲った。

 

「茜……! おい、あんた離してくれ!」

 

 攻撃を受けた茜を見て、双真は女性に向かい叫ぶ。しかし、女性は何も言葉を返そうとはせずに、二人を抱えたまま、まるで忍者のように学校から飛び去った。

 

「茜っ……!」

 

 自分の周りで、一体何が起こってるんだ。彼女は、茜は本当にどうしてしまったんだ――消えない疑問に双真は奥歯を噛み締めながら、遠ざかる学園を見つめた。

 

 

 

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