桜が咲いたら、雪が……   作:何故か外れる音

16 / 16
横浜騒乱編 Ⅱ

 家事はなるべく自分の手を使い、達也の世話を機械任せにしない。

 

 そんなポリシーを掲げている深雪でも、食後の食器洗いまで自分の手で行う事はない。

 面倒だから、といった理由ではなく、深雪も学生であるため、当然やるべきことが沢山ある。

 

 食後の食器洗いは、取捨選択を行えば真っ先に機械に任せることになる事項だった。

 

 そんなことは兎も角として、深雪は今、宿題に取り組んでいる。

 魔法科高校と言っても、一般教養科目が免除されるわけではない。

 試験はなく、日々の課題が重視される仕組みになっている。

 

 今、深雪が取り組んでいる科目は、数学。

 どちらかと言うと、苦手科目である。

 

 先程からどうしても解けない問題に直面していた。

 ディスプレイから目を離し、過去の自分に現実逃避し始めていた。

 

 発展した現代のコンピュータ技術に任せれば、計算問題など他愛もない。

 だがしかし、数学的思考は新たな魔法を組む時の手助けになる、と兄に言い含められた以上、手を抜くようなことはしない。

 姉からは、この程度の計算問題にコンピュータを持ち出すの?と言外に残念な子だと失望されたと勘違いしたのは記憶に新しい。

 

 そんなことを思いだし、深雪は一つため息をついた。

 一昔前なら、万能な兄が羨ましく思えていた。

 今となっては、そんな兄の先を行く存在が降って湧いたので、自分が不出来なのかと思い悩むようになった。

 その悩みは姉に一笑されてしまったが、深雪にとっては切実な悩みである。

 

 お兄様に教えてもらおうかしら…とぼんやり考えたところで、深雪はその考えを振り払うように頭を横に振った。

 達也はさっそく、勾玉のレリックの解析を行っているはずである。

 できる限り自分のことで手を煩わせてはいけない、と深雪は思った。

 

 

 達也が第一高校に進学したのは、深雪が第一高校に進学したからに他ならない。

 十年前にガーディアンの制度に変更が行われなければ、達也をガーディアンの任から解き、達也は魔法大学にとっくに入学することができたと思う。

 

 国立魔法大学に進学するには、魔法科高校卒業資格が必要である。

 しかし、何事にも例外は付きもので、「基本コード」のような学術的に意義の高い成果を上げた者には、魔法科高校を卒業していなくとも受験資格が得られるのだ。

 達也ならどうにかして今にでも受験資格を得られると深雪は考えている。

 

 達也が目指しているものが、結局、魔法大学のような高等研究機関にしかないことを知っている深雪が取れる選択肢は一つだった。

 たとえ、高校生活が兄にとって遠回りでしかないとしても。

 深雪のガーディアンとして縛り付けておけば、確実性をもって、兄が魔法大学に入学できる。

 

 兄の能力を考えると、四葉家の魔法師の一人として扱われれば、自由を失う事に繋がりかねない。

 達也がある程度自由に行動できているのは、離れていても深雪を守ることができるからに他ならず、仮にそれができなければ…なんてことを考えるのは意味をなさないだろう。

 仮に、四葉家の魔法師の一人として扱われたとしても、四葉家に関連する施設に入り研究できる可能性がゼロというわけではない。

 それ故に、兄離れできない依存心が、深雪の中に、確かに存在していて、深雪はそれを自覚していた。

 

 

 もう一度、ふうっとため息をつき、深雪は思考を戻した。

 目の前のディスプレイに映ったままの数学の問題をどう片付けたらいいのかという点を解決しなくてはならない。

 

 お姉様に教えてもらおうかしら…という考えに行きつくのも必然と言えた。

 

 兄と違って、深桜に迷惑をかけてはならないという思いは起こらない。

 四月からなにかとあったが、それでも姉と過ごしたいという思いが強い。

 

 思い立ったが吉日とでもいうように、深雪はいそいそと準備をして部屋を出る。

 

 最初からこうすればよかったと思わなくはない。

 姉との距離感を測り損ねているからか、姉を頼るという考えにあまり辿り着かない。

 幼いころのわたしが姉にどんな感情を抱いていたかなど、最近のわたしの有り様を見れば一目瞭然だろう。

 

 自他共に認めるシスコン幼女。

 

 何故そうなったのか今となっては分からない。

 しかしそれはこの十年と幾月で、深雪にとって深桜は不思議な存在に変わった。

 

 姉の思考が余りにも読めないことが大きく影響しているとはいえ、どちらにせよ姉に抱くような感情ではない。

 

 魔法を使えると知りながら使えないと振る舞い、魔法師相手に生身で殺し合い、死地と呼べる環境に自ら身を置きながら異質な頭脳を手にし、それでいて裁縫や料理など家事に秀でていたり。

 一緒の学校に通いたいと言い表舞台に姿を現したというのに、わたしの問題発言を受けて律儀に数ヶ月の間わたしと口を利かなかったり。

 

 人間離れした身体能力を持っているとか他にもあるが、こんな姉を理解できるような妹がこの世に存在するのかと疑うレベルである。

 

 今日に至っては、あの人を懐柔したなどと兄から聞かされたときには、困惑の余りに指を包丁で切るところであった。

 当の姉にそれを危ないわ、と手を握りながら諭されたときには別の意味で動揺した。

 

 

 そんなよく分からないことだらけの姉ではあるが、それは離れていた時間が生じさせた差異なのだと、わたしは思っているし、これからの生活でそれが失われることを夢見ている。

 幸いにも、姉はわたしを拒絶しないし、それ以上に好意を持って触れ合ってくれる。

 そこに込められる感情に物足りなさを感じるのは、やはりわたしがズレているからなのだろうか。

 

 たとえ、そうだとしても目の前に広がっている光景に、固まり気を失いかけるも無理はないはずだ。

 わたしは確かに、姉の部屋にノックして入ったはずなのだから。

 

 

 ◇  ◇

 

 

 思いがけない収穫を得、腕が落ちていないことが確認できて、少しだけ高揚した。

 

 深雪が夕飯の支度を済ませている間に、達也からの用件を済ませた。

 

 達也の所属する独立魔装大隊の風間玄信が、レールガン擬きのSVD…SVD擬きのレールガン…どちらにせよそれに興味を持っているという話だった。

 FIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN”の主兵装であるガトリングレールガンに使われている機構を参考にしているものを欲するとは、見る眼があると判断すべきか。

 それとも、魔装大隊なのだから魔法関連に興味を持てよと言うべきか。

 

 どちらにせよ、二つ返事で済ませはしない。

 この世界において…、と前に付くが、深桜が開発した物を取引する場合は往々にして四葉家を、というよりは真夜を通す約束を真夜と交わしている。

 魔法を科学技術に転換しない事がネックにあるのか、能力を技術に落とし込み開発した物、開発できる領域の代物を少なくともここ日本で見た覚えはない。

 上海人形のように、オーバーテクノロジーの塊のようなモノを世の中に放るようなことをしたくないと悩んでいた所で、真夜が珍しく素晴らしい提案をしてくれた。

 しっかりとスペックを落としたものを四葉家傘下の企業を中心として捌いてくれている。

 

 そういった訳で、四葉家に話を持っていくようにと達也に伝えるように指示し、深桜は真夜にメールを打ち状況を知らせておいた。

 メールではなく通話で話してほしかったと返信が返ってきたので、次からはそうするように心掛けると返信した。

 

 因みに、深桜は開発者名として『四』の字が含まれてるからという理由で『四楓院』を使い、黒猫のマークを用いている。

 理由は一つ。

 『夜』の字が名前に含まれているからというしょうもない理由である。

 会えるわけがないので、かの死神にお借りしていますとお礼の念をしばしば送っている。

 

 そんなことで、今回の件は終わりとなった。

 

 深桜としては、監視カメラの細工をしようとしたら手を加えられた後だった。

 さすがに少し焦りを覚えていた所だったので、誰がやったのかを知ることができたのはよかった。

 

 そんなことを考えながら、深桜は手に持っていたリモコンを机の上に置く。

 

 なんだかんだ言って、この世界で一番使用している能力である。

 深桜としては他の能力の使用率が高くなると見込んでいたのだが、精神状態を弄れると言うのはあまりにも深桜にとって都合が良かった。

 良すぎたとも言えるが、こればかりは仕方ないと思っている。

 

 リモコンの機能を弄りながら能力に関する情報を走査していると、ある一点に気付いた。

 寧ろ何故、今まで気付かなかったのだろうか。

 

 魔術が使えるかもしれないという可能性に。

 

 アレイスター・クロウリーであったり、土御門であったり。

 魔術を知る人間が学園都市に存在したことを。

 

 彼らにとって、それは能力であることに変わりはないだろう。

 かの神がそれを能力として見なしているか怪しい所ではあるが、こうして知識として保存されている所を見ると、一応、能力として見なされているのだろう。

 

 ただ、この事を今この時まで失念していた事が懸念点として挙げられ、それは、転生する時も含まれている。

 

 要は、自爆死する危険性を孕んでいる、ということである。

 

 しかしそれは、能力者が魔術を使った場合、脳の構造が違うが故に肉体に過負荷がかかり、その結果死んでしまう可能性があるというもの。

 深桜の場合、魔法演算領域のように演算領域が存在しているという形が取られているため、脳の構造が何か違うということはない。

 なので、魔術を使える可能性が少なからず存在する。

 

 ただ、先ほど述べたように、転生する際に気付いていなかった上、その点について如何こうしたということもない。

 

 何が言いたいのかと言えば、使ってみないと分からない。

 これに尽きる。

 

 どれだけ疑似・禁書目録(ミサカネットワークもどき)内を調べても、その点について何も書かれていない。

 

(こうなったら、私が取れる選択は一つ)

 

 自爆死覚悟で何か魔術を使用してみる。

 

 普通であるなら、考えもしないし、実行してみようとも思わない。

 それが、深桜が出した答えだった。

 

 

 

 

(これは酷い…)

 

 自分の血で作られた海に沈みながら、深桜はそう思った。

 自爆したのは受容範囲。

 なので、そのことについて何か思ったりしない。

 ただ、全身余すことなすこれ以上とないほどの激痛に襲われている。

 それも仕方ないことだと言えるだろう。

 

 何が酷いのかと言えば、自爆したことで新たなる情報がアンロックされたという点だ。

 

 要約すると、魔術を行使しようとすると死なない程度に自爆する、というもの。

 自爆する前に開示していてほしい情報だ。

 それと同時に、情報にアンロックとかあるんだとか思ったりしたが。

 

 それと同時に魔術は使えないと言うことも分かったようなモノなので良しとするべきだろうか。

 それとも、どこぞの神父のように人肉プラネタリウムにならずに済んだのを喜ぶべきか。

 

 あの状態でも生きていると言えるらしいことを思いだすと、自爆した結果の一つとしてそうなることもあるのだろう。

 

 何はともあれ、この現実をどうにかすべく、一先ず、肉体再生(オートリバース)を用いて傷を、肉体を回復させることに時間を費やしていた。

 こんな時にでも、魔法を使うべきなのだけど、滅多に使うことのない異能を使用してみようと、のんびりと自分の血に浸っている訳である。

 

 血が髪に付着したりとかそういった点は魔法でどうにかできる…と信じている。

 できなければ、悲しむ人間が何人か出るとは思うが、髪をバッサリと切る。

 

 そんなことを考えたりと思考に耽り、肉体が再生するのを待っているところで部屋のドアが開いた。

 

「失礼します、お姉様。数学の問題を…………」

 

 そこまで言って深雪は固まってしまった。

 こうなることは予測できたというのに、結果として自爆した深桜が悪い。

 

 そう言おうと思って口を開こうしても、損傷が大きいからか長々と喋れる気がしない。

 なので一言で伝えようとした。

 

「…………」

 

 しかし声を発することもできず、口が僅かに動いただけだった。

 口に手を当てながら、顔色が見るからに真っ青になっている深雪を見て、不謹慎にも、そんな顔も可愛いなとか思ってしまった。

 

 深雪の精神状態の不安定さを見ると、そろそろ達也が部屋に乗り込んできてもいいはずなのだが、まだこない。

 余程、解析に熱中しているとみた。

 

(私が悪戯しているとでも判断していたり…)

 

 寧ろ、そちらの方が現実的な気がしてならない。

 

「……お…おねえ…さま…?」

 

 深雪が絞り出した声に答えようと、前髪で隠れた目が見える様に顔を動かそうとするも、これまた動く気配がない。

 そうなると当然、反応が返ってこないと深雪が判断するのは当然といえ、部屋から飛び出していった。

 

 こんな大事になるとは思っていなかった自分が悪いと、さすがの深桜も思う。

 

(いっそのこと人肉プラネタリウムでもなってしまえばよかったか…?)

 

 などとよく分からない所へ思考が飛ぶが、こればかりは仕方ない。

 深雪と達也が乗り込んでくるその時まで、ある程度回復してくれないかなと願わずには居られなかった。

 

 

 ◇  ◇

 

 

「それで、数学の宿題…だっけ?」

 

 深雪が達也を引っ提げて部屋に舞い戻ってくるときには、全身が滅茶苦茶痛いけど、根性で日常生活は送れる程度のいくらか手前まで回復した。

 根性に根性を入れることで、こうして何事もなかったかのように振る舞っているが、全身血まみれであることに変わりはない。

 ただ、自爆しただけということだけは伝えており、何か事件が起こったというようなことは無かったことは共有された。

 

「さすがに何があったのか説明してもらえないか?」

 

「深雪が数学の問題を教えて欲しいと」

 

「……そうじゃなくてだな」

 

 涙目になっている深雪が達也の背中にしがみつきながらこちらを覗きこんでいる。

 達也の問いは尤もなモノであり、そしてその答えを提示しないとこの場を乗り切れないだろう。

 達也がどこか険し気な雰囲気を身にまとっていることを考えれば当然か。

 

 なにせ、姉が全身から血を噴き出し傷つき部屋で倒れていたら誰だってそうなる。

 

 深雪の狼狽具合も加えれば、達也が詳細を求めるのも無理はない…はずだ。

 そう考えると、何かしらの理由でそれっぽく装飾しなければならない。

 そうする理由がよく分からないが、深桜にとって異能に関することは達也にとっての深雪のようなモノである。

 要は、隠せるものなら隠す。

 

 そこで一つ、わざとらしくため息をついた。

 そしてため息をつきながら、深桜は早々に後悔した。

 

 ため息一つ、ですら、身体が引き裂かれるほどの痛みが全身に生じ顔が歪んだ。

 これを根性でどうにかできるほど根性に通じていない。

 

「…大丈夫ですか?お姉様」

 

「………えぇ。大丈夫よ」

 

 未だに達也の背中から離れないが、深雪が心配そうにしているので、深桜は根性を振り絞った。

 いい加減血を落としたいところだが、うまい具合に血で傷が隠れているからこの状況を変える気は今はない。

 

 若干息苦しくもあるが、達也からの圧が凄いこともあり、適当に話すことに決めた。

 

「……これは…、持病みたいなものよ」

 

 嘘は吐いていない。

 魔術を使おうとしたら、死の淵まで急降下する持病。

 持病として分類して考えればあながち間違っていない…はずだ。

 

 そんな苦し紛れみたいな言い分を聞いて、二人が顔を顰めるのも当然の事。

 そしてそれを深桜が見越していたのもまた必然と言えた。

 深桜は畳みかけるように言葉を続ける。

 

「限界を超えた身体能力を宿していて、身体に異常が生じない訳ないでしょう?他は知らないけど私はこんな感じに…、自爆するのよ」

 

 私は何を言っているんだろうと、深桜は思わずにはいられない。

 だが、この路線で押せるだけ押してみる。

 

 実際、何を言っているのというような目線を向けられている。

 その視線に気付かないように振る舞いながら、身体が限界だと暗にアピールしてみせる。

 

「…そんな話を聞いた覚えはないが」

 

「誰かに見られたのは初めてだからね。真夜さんたちにも見られたこともなかったもの。知っているはずがないわ」

 

 さすがに信じていないようで、そう達也に返されるも深桜はそれっぽく返す。

 深桜が過ごしてきたこの十六年間でこれだけの重傷を負ったのは今回が初めての事で、真夜が知らないのは当然と言えば当然である。

 

「身体にできているその無数の傷跡を見てもか?」

 

「肉体的損傷を回復させる機能も強化されているのよ。治癒速度とか効果は大したものではないけど、瀕死の重傷からでも長時間かければ復帰できるのよ。いつも通りにね。表面的傷跡から優先的に消えていくから、中身がどれだけ損傷していても見た目が先に正常に戻るのよ」

 

「それは…、ここに来てからも?」

 

「今日が初めてよ」

 

 人生初でもある。

 

 肉体再生(オートリバース)の能力を交えた謎説明に、深雪が納得しかけているのを見ると上手くいったとみるべきだろうか。

 達也の方は半信半疑なようで疑う目線を外さない。

 

 これ以上話すことはないと言わんばかりに、深桜は座っている椅子の背凭れに背中を預けた。

 深桜の根性程度で、どうにかできるレベルではなかったことが大きい。

 どこか息苦しさを感じる呼吸を繰り返す深桜を見て、深雪が駆け寄ってきた。

 

「お姉様…?わたしに何かできる事はありますか?」

 

「…血を落としてほしいわね。匂いとか諸々含めて。できる?」

 

「お任せください!」

 

 深雪はCADを取りに、自分の部屋へと戻って行った。

 深雪の心優しさが深桜の精神に幾らかのダメージを与えた。

 

 二つの意味で心の内で悲鳴を上げていると、達也がなにか言いたそうにしていることに気が付いた。

 何か齟齬が生まれたのかと不安になる。

 達也が何を言わんとしているのかなど考えてもしょうがないので、手短にお願いしてみる。

 

「姉上   

 

 

 ◇  ◇

 

 

 CADを見つけて、姉の部屋に向かうところで、どこか難しそうな顔をした兄と出会った。

 

「お兄様…?」

 

「あぁ、深雪。何でもないよ」

 

 達也はそう反応を返すが、何か考え込んでいる様だった。

 深雪は先を急ぎたい気持ちがあるが、兄の現状も気になった。

 だからだろうか、つい口にしてしまった。

 

「お姉様の状態をお兄様の『再成』で治せたりは…」

 

「それはできないよ。深雪も聞いているだろう?姉上のエイドスがどれほど頑丈なものか。……さっき、深雪が部屋を出てから『再成』が使えるか試したんだ。だが、精霊の目で姉のエイドスを見ることはできても干渉することはできなかった」

 

 そしてそれは同時に、達也の魔法力で姉を突破できないということでもある。

 その事実をかみしめながら、達也はわずかに目を伏せた。

 

 深雪は達也が何を言わんとしているのか分からず、首をかしげる。

 

「……深雪、姉上と対立する事だけは絶対に駄目だ。そうなったら最後……」

 

 最後の方は何を言ったのか深雪は聞き取れなかった。

 ただ、兄が姉と対立することだけは避けるように言ったのは深雪としては喜ばしいものだ。

 しかし、兄の事だけを思うと何とも言えない気持ちになるのもまた事実。

 

「ところでお兄様。お姉様の話を聞いてどう思いましたか?」

 

 話題を変えるというよりは、これは兄の意見を聞いておきたいという思いがあった。

 姉の言葉を信じ、もう少しだけ時間が掛かっても大丈夫だと思いながら、深雪は兄の言葉を待つ。

 

「半信半疑、というのが正直な所だよ。肉体的損傷の治癒が早い、というのは事実だと判断できる。……これは勘だが、姉上はこの件でまだ何か隠している」

 

 姉が何か隠しているのは深雪も勘付いていることだったので、この話に同意する。

 一体何を隠しているのか気になるところであり、今から部屋に行って姉に聞いてみようと考えていたところだ。

 

 それとこれは確実なものではない、と前置きした兄に再び意識を向ける。

 

「姉の幻想殺しは突破できる代物だろう。あの治癒力の向上は魔法無しでは考えられない。姉上自身も自分のエイドスを改変できないという話だが、何らかの条件を満たせば干渉できる…はずだ」

 

「それは…。条件が分かったらお姉様と…?」

 

「いや、それはしない。姉上をつついて何がでてくるか分からないからな。触らぬ神に祟りなしといった所だろう。……姉上にあまり無理はしないように伝えておいてくれ」

 

 顔に笑みを浮かばせながらそう言って、兄は自分の部屋に戻って行った。

 そこで、兄はレリックの解析を行っている最中だということにも今更ながらに思い出し、そして、姉が部屋で待っていることも忘れず思い出した。

 まだまだ兄に聞きたいことがあったが、深雪は姉のもとに向かう。

 

 姉が隠していることを聞き出そうと考えながら。

 そして、数学の課題を終わらせなければと少し焦りを浮かべる。

 今の姉に、数学を教えるだけの気力や体力が残っているのだろうかと深雪は思わずにはいられないのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。