破軍の動かない大図書館 作:無休
今日も今日とて私の居場所はこの書庫である。黒鉄妹との後、7戦ほど予選試合があった。そのうち三試合には出ていない。理由はその相手については調べもついており、自分が試したい事も、わざわざ試合に出てまでする必要が無かったためだ。
ちなみに試合に出た四試合の内、二試合は調べたいことが終わった後、相手がまだ立っていたので、降参して時間を有効に使うようにしている。
黒星5つで私の七星剣武祭出場はもう無いものになった。正直言って観戦席に行けば観察位はできる。私にはそれで満足だ。
今の私は校内予選の映像を眺めながら、自作した生徒のリストと睨めっこしている。誰は見る必要があって、誰はもう見る必要がないのか。整理しなければ流石にパチュリーの脳とはいえパンクする。
なまじ生徒数が多いし、余程のことがない限り私が欲しい生徒の個人情報は貰えない。生徒のリストを作るだけでもムキューと唸ってしまう。
「ノーレッジさん、ちょっと良いかしら?」
こんな書庫に誰か来ていたようだ。また私は気づかないほど没頭していたらしい。
「あら折木先生、どうかしましたか?」
薄暗い書庫にやってきていたのは、一年一組担任の折木有里先生。独特なテンションと非常に病弱な体質を持つ女性だ。今日もシャツの胸に赤黒い染みがついており、吐血か何かしたんだろう事がわかる。
なお、《
私は数える程しか会話したことはないが、そんな彼女が私になんの用だろうか。
「ちょっとパチュリーさんの力を借りたいのだけれど」
「.......内容によりますが」
「えっとね。今日私が解説を担当している試合があって、その内の一つに不正の疑いがあるの」
ふむ、試合での不正行為。八百長や脅迫等色々あるが、その内私に頼むということは.......
「試合前の能力や魔法による妨害工作か協力者の存在ですか?」
「うん、今回はリング上に妨害工作を行っている可能性があってね。だから能力や魔法関連で警察や連盟に《特例招集》を受ける名探偵ノーレッジさんの力を借りたいの」
《特例招集》とは学生騎士がテロリストの鎮圧や事件の収集に駆り出される仕組み。私は3回呼ばれたことがある。と言ってもテロリストの鎮圧などのアグレッシブな感じではなく、
私はこの招集を断ったことは無い。何故なら警察や連盟が長年の捜査経験を持ってしても正体が掴めないということは、その原因が珍しい能力である可能性が高い。それは私にとってとても有意義な事だ。
実際、原作のパチュリーも動かないと言いつつ異変時には積極的に動いていたし、知識欲はこの体も動かしてしまうのだろう。だからと言って私はまだ魔導書で殴ったりしたことは無い。
それにしても名探偵とは.......バーローとでも言えばいいのかしらね。
「わかりました。では、その試合のカードを教えてください」
「一年の黒鉄君と三年の綾辻さん。疑惑があるのは綾辻さんの方よ」
黒鉄は知っているので、綾辻という三年生をリストから探す。組の順、五十音順の関係ですぐ見つかった。三年一組、綾辻絢瀬。伐刀者ランクはD。能力や
「何故そう判断したのか伺っても?」
「それはね.......」
どうやら少し前に折木先生の元に黒鉄本人が来たらしい。そこで自信満々の顔で「僕の対戦相手は間違いなく反則を使ってきます」と言い、あまりの衝撃に盛大に吐血したらしい。シャツにある染みやはり血か。
黒鉄がそう判断したのは昨夜に、一日に一度しか使えない彼の
そして彼曰く、太刀音はしたが彼女は何もしていない。それで能力は『斬撃の配置および任意発動』と考えたらしい。勝つ為に身を投げる程なら、会場のリングにトラップを仕掛けているだろうと。
「話はわかりました。確認して実際にその通りなら試合停止という訳ですね」
「いや、試合停止はしないの。試合の反則のジャッジも取らない。黒鉄君にそうお願いされてね」
.......はい?反則見破って、それを報告した上で、放置して試合を行う?それを黒鉄本人がお願いした?.............うん、もうバトルジャンキーの思考回路は考えないようにしよう。
「.......詮索はしませんが、何故私に相談を?折木先生が黙っていれば良いのではないですか?」
「黒鉄君のお願いだけど、妨害工作の程度は把握しとかないと。試合にならない規模なら止めなきゃいけないし、私は解説と同時に監督役でもあるからね」
なるほど、生徒の意思は尊重しつつ、でも教師としての役割は全うすると。変な生徒を持つと先生も大変ね。
「わかりました。では行きましょうか」
破軍学園第六訓練場。1時間後に予選試合が始まるその場はまだ誰もいなかった。しかし入ってすぐ、リングに眼を向けると.......
「はい、ギルティ」
私の眼にはくっきりと妨害工作の跡が多く映っていた。空中に付けられた見えず触れる事も出来ない魔力による傷。それがリングの至る所に設置されていた。黒鉄の推察通りの能力を発動すればコレが斬撃に変換するのだろう。魔力の質的にコレが何かの属性を持っているとは考えにくい。
「どうかしら?」
「黒鉄の予想通りです。能力をリング上に使用しています。.......ただ少し妙ですね」
「妙?」
「能力に制限があるのか、魔力が足りなかったのか、時間が無かったのか。理由はわかりませんが、コレが発動しただけでは決着とはならないでしょう」
百以上の斬撃を設置しているが、それに込められた魔力は致命傷には程遠い。せいぜいかまいたちのような切り傷を付けれるかといった感じだ。あらゆる手段を用いて勝利を狙うという人物像からすれば、あまりにもお粗末に思える。
「あるいは.......これで黒鉄の動きを制限することさえできれば、試合の中で決定打を与える手段があるのかもしれません」
「なるほど、なら試合が始まってすぐ、黒鉄君が何も出来ないまま倒される可能性は低いと見ても良いのね?」
「能力の詳細がわからないので確約はできませんが、そう見て良いかと」
「そう。なら反則のジャッジは取らないわ。ノーレッジさん、悪いけどこの事は.......」
「わかりました。口外はしません」
「ありがとう。流石名探偵ね」
誰が動くと事件が起こる悪魔の子か。まぁ.......新しい能力も見れたし。良いとしますか。
時は過ぎ、試合開始15分前。私がいるのは訓練場の控え室。綾辻絢瀬の方に私は《分身》の身で、彼女を待っている。口外はしないと約束したけど、本人に対する脅しは禁止されていない。それに彼女の能力がハッキリとしないというのは気持ち悪い。
「.......誰かいるの?」
綾辻絢瀬が控え室の前にやって来た。彼女は部屋に人の気配を感じてか、少しだけ開け声を出す。
「こんにちは。綾辻先輩」
「君は確か.......ノーレッジさん。どうしてここに?」
私の姿を確認すると、彼女は扉を更に開け、この部屋に入ってくる。
「回りくどく言う時間も無いので簡潔に。貴女の能力について見せて貰えませんか?」
「僕の能力について?」
「えぇ、私が能力について研究しているのは先輩もご存知の筈です。もちろんタダとは言いません」
「後でも良いかな?僕もうすぐ試合なんだけど」
「手間は取らせません。今リング上にあるものを、ここで披露していただければそれで結構です」
「.......何のこと?」
私の眼の前にとぼけるのは無意味。なので説明もせず淡々と条件を並べていこう。
「対価は口外しないという事でどうでしょう?」
「わかったよ。来い《緋爪》」
互いに了承し、彼女は右手に日本刀を顕現させる。
「僕の能力は『傷口を開く』概念干渉系能力だよ」
「それで空間に傷をつけ、先輩の任意のタイミングで開く」
「その通りだよ」
彼女は《緋爪》を軽く振るう。その刀身に魔力を纏い、振るった後には弓状の魔力跡が残った。私はその傷口に触れる。今のままではやはり触れても何も起きない。
「では先輩、発動してください」
「えぇ?触れてると危ないよ」
「構いません。この体《分身》なので」
「どうなっても知らないよ」
綾辻先輩の持つ《緋爪》が輝くと同時に、目の前の傷口が開き、真空の刃を発生させる。それは魔力で構成された私の掌に一筋の切り傷を与える。その傷から魔力が徐々に漏れていく。
「なるほど.......やはり威力はこの程度ね」
「これで満足かい?」
「いえ、もう1つだけ」
「まだあるの?」
「おそらくこの罠では決め手にはならない。今からの試合、先輩の目的はその
「そうだよ」
「では、私にもやっていただけますか?先の通りこの体はどうなっても平気ですので」
「ノーレッジさん.......そこまでいくと怖いよ。いいのかい?」
「えぇ、遠慮無くどうぞ」
私の脇腹に僅かな傷が付けられた。それが先ほどと同じように綾辻先輩の意思で開かれる。私はその時の魔力反応を見逃さないように凝視した。同時にこの《分身》の胴体の半分まで傷が広がる。先ほどとは比べようのない損傷にこの魔力体を維持が不可能となった。コレ生身の人間でやったら致命傷どころではないわね。
「良いものを見させてもらいました。ありがとうございます。では、試合頑張ってくださいね」
心にもない言葉を並べながら、私は意識を本体に戻す。そして鮮明な内に記録を付け始めた。概念干渉系能力なので習得には時間がかかりそうだが、間近で発動の瞬間を見れたこと、自分の身を通してその効果を確認できたこと。これらは大きな収穫だ。設置できる能力なので書庫の防衛にでもこの能力使おうかしら。
なお、妨害工作有りの状態で綾辻先輩に勝った、バトルジャンキーについてはもう考えるだけアホらしくなってきた。
間が開きすぎて、リメイクしたい.......したくない?