破軍の動かない大図書館 作:無休
破軍の生徒に与えられる生徒手帳と呼ばれる情報端末。机に置かれていたそれが小刻みに震え出す。まぁ私に来るメールなんて学園からの連絡メールくらいしかなく、今の時期は校内予選の日程連絡くらいなものだ。
『選抜戦実行委員会よりお知らせ
パチュリー・ノーレッジ様の選抜戦第十二試合の相手は、一年一組ステラ・ヴァーミリオン様に決定しました。』
「.......はぁ」
また一悶着ありそうね。取り敢えず
「予想通り過ぎて逆に驚きを隠せないわ。皇女様」
案の定書庫にやって来た紅蓮の皇女こと、ステラ・ヴァーミリオン。彼女はいつもよりも真剣な表情で私の机の前にいる。人の行動って存外読みやすいものね.......いや、彼女限定か。仮にも一国の皇女なのだからもっと思慮深く動くべきではないの?
「.......一応聞くけど、要件は何?」
「次の選抜戦。私の相手がアンタなのはわかっているわね」
「えぇ、お互い最善を尽くしましょう」
全く心を込めない言葉を、必殺のパチュリースマイルで皇女に送る。これで相手が良い気持ちでとっととこの部屋から出て行ってくれれば自分も相手もwin winなのだが.......
「それ絶対に本心じゃ無いわよね」
「心外ね。私の目的にとっての最善は尽くすわよ」
「へぇ.......具体的に聞かせてもらおうかしら?」
「そうね.......パッと考えつくのは私の試したい事を試して、時間を無駄にしないためにすぐにでも意識をこちらに戻して記録を行う。ちょうど使って様子を見ておきたいスペルもあるし.......まぁ、いつもと同じよ」
「自分の調べたいこと調べて、即降参する.......で、間違いないかしら?」
「あら、おめでとう。満点回答よ」
「私とは本気で勝負してくれるかしら?」
周囲が一気に暑くなる。彼女の気持ちを表すように、纏う魔力が燐光を散らし始めた。書庫の扉に『皇女厳禁』とでも貼りだそうかしら。これ以上は本が危ないわ。
「えぇーと.......目の前の熱苦しい皇女様を消極的に静かにするには.......」
「話を聞きなさいよ!」
私は
「あったあった。スペル────《
錬金術によって皇女が立っている足元に穴が開く。この書庫は学園の2階。1階は何の部屋だったかしら。大きな講義室だった気がする。では、ごきげんよう皇女様。
「何をおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ...................」
うん、書庫に相応しい静けさだ。やはり何かを集中して行う為にはこの様な環境の中に身を置かなくては。中には少し騒がしい方が集中できるという人もいるようだが、私は静寂の中にページ捲る音だけが聞こえるこの環境が一番好み「何してくれるのよーー!!」.......である。
この皇女はもっと静かにここを訪れることはできないのかしら。慎ましさという単語が頭から消え去っているの?
「あら?皇女様じゃない。何か本をお探し?あいにくと物語は図書館の方よ」
「アンタ.......本当にいい性格してるわね」
「ヴァーミリオンの皇女にお褒めにあずかり至極光栄だわ」
「あーもう!何を言っても無駄そうね。.......ていうかこの会話を前にもした気が.......だけど私は珠雫にアンタを本気にさせる方法を聞いているわ!」
「本気でやらないと、今ここで暴れる「スペル────土金符『エメラルドメガリス』」───ッ?!」
本棚や地面から鋭い緑の結晶が皇女に伸びる。幾本もの鉱物の槍が目の前の不埒者に迫り、これが最終通告だと教え込む。首筋に、左胸に、鳩尾に、脳に。鋭い先端が身体にくい込む寸前で止まる。それは彼女が纏う魔力と接し、そこが一際と燐光を放った。
「まだ自称の身だけれど、ココは魔女の工房よ。いくら皇女様でも、そう好き勝手出来るとは思わない事ね」
周囲で様々な魔法が発動準備を始める。目障りな鼠にはこの手に限るわ。
「.......その気合いでリングに上がって貰いたいわね」
「それはそれ、これはこれ」
力と時間の使い方は適材適所。私にとっては皇女様との試合より、ここの本を守ることの方が重要だ。
「珠雫とはちゃんと戦ったんだから、アタシともしてくれていいじゃない!」
え?何その超理論。黒鉄妹は私が彼女の魔法を見たかったからこちらが折れたけど、現時点で皇女様に見せて欲しいものは無いのよね。とはいえこの皇女様は退くことをしないでしょうし.......困ったわね。幾つか条件をつけるのが妥協点かしら。
「はぁ.......わかったわ。私の根負けよ。お望み通りちゃんと戦ってあげるわ」
「本当に?!」
「えぇ、正直言って貴女の力は私にどうこうできるものじゃないしね」
今先手を取れたのは対策を取れていたからだ。実際にこの皇女の力ならば、対策も何もかもを暴力によって解決出来る。可能性は低いだろうが、暴れられた時点で私の負けなのだ。
「ただし、私の条件を呑んでもらうわよ」
「条件?」
「1.ここで絶対に暴れない。書庫は火気厳禁よ.......これは条件というよりも一般常識なのだけれど。
2.これ以後私に試合を強要しない。私にも私が目指すものがある。邪魔はしないで頂戴。
3.試合には《分身》を使うことを許可すること」
「1,2はともかく3はダメよ。私は本気のアンタと戦いたいの」
「だから《分身》だと、言っているのよ」
「どういうこと?」
「本体の方が強いなんて先入観は捨てなさい。私の使う魔法には《分身》を通してでしか使えないものもあるのよ。むしろ今はそれが最高火力なのだけど.......残念ね。これでは皇女様の願いに応えられそうにないわ」
わざとらしく困った風にため息をつく。それに対する彼女の反応は凄く怪訝そうな顔だ。
「本当に?ほんとの本当?」
「本当よ.......私そんなに信用無いかしら」
「今までのらりくらりしすぎなのよ」
《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンと《動かない大図書館》パチュリー・ノーレッジの試合を見る為に、私は破軍学園第五訓練場の観客席にいる。私の両隣にはお兄様とアリスも座っている。
私も含めてこの試合に対する興味は他の試合と段違いだった。なぜなら試合前にステラさんがノーレッジ先輩が本気で戦ってくれると約束してくれたと言っていたからだ。
「珠雫はこの試合をどう見る?」
真横に座る最愛のお兄様から私に意見を求められる。ステラさんの持つ圧倒的なポテンシャルと、ノーレッジ先輩に敗北した自身の経験とを比較し答えを出す。
「総合的な力ではステラさんの圧勝でしょう。.......ただ、ノーレッジ先輩は日本の学生騎士の中でも飛び抜けた魔力制御技術を持っています。.......他人の魔法を乗っ取れる程の」
私は選抜戦で彼女と戦い、簡単にあしらわれた。おそらく本気ですらなかったはず。試合前も試合中もあの気だるけな表情を崩すことはできなかった。得意としている魔法戦で、満足に魔法すら使わせてもらえなかった。悔しさと同時に、魔法を極めていくということの意味をとくと味わわされた。
「それに彼女はこちらの魔法を先読みできるようです。私の繰り出そうとする魔法に対する最適解を先に用意している.......そんな感じがしました。まるでお兄様の《
魔法の発動を先読みされ、それに対する対策をすぐに用意する。そして時間さえかければ自分の魔法は彼女に会得される。今の彼女でさえあれ程の使い手なのだ。もしこれから先、彼女が多くの能力や魔法を際限なく会得していくと思うと.......正直言ってゾッとする。
「なるほど魔法型一輝ってことね。魔法を見抜き、奪い、相手の上をいく。ここまでやり口が似通っていて、けれども真逆というのも面白いものね」
アリスが言うように彼女とお兄様はステータスの面でも、ほぼほぼ真逆だ。表すとこう。
黒鉄一輝
攻撃力F 防御力F 魔力量F 魔力制御E 身体能力A 運F
パチュリー・ノーレッジ
攻撃力B 防御力B 魔力量B+ 魔力制御A 身体能力F 運B
「魔法型の僕って.......自分じゃ想像つかないな」
「でも剣術とは違って、ステラちゃんに魔法のみで勝負しても、圧倒的な魔力量で押しきられるんじゃない?」
「ノーレッジさん曰く、ステラの出力はおかしいらしい。本来はもっと火力がでると言っていた。ステラの火力を理解して本気で勝負するのは、何か対策があるのか、もしくは今のステラの火力なら上回る魔法でもあるのかもしれない」
「アレでまだ火力が低いのだから、ステラちゃんも大概おかしいわよね」
ステラさんの火力がまだ上がると聞いて、アリスが苦笑いを浮かべる。お兄様は剣術、ステラさんは魔力量、ノーレッジ先輩は魔力制御。私も何かしら極めた方が良いのかしら。
『えーそれではおまたせしました!これより第五訓練場、本日の第一試合を開始致します!本日の解説は西京寧音先生に担当していただきます!』
『よろしゅ〜』
『選手の紹介です!まずは《紅蓮の皇女》一年ステラ・ヴァーミリオン選手!さすがはAランク騎士、現在まで全ての試合で余裕の勝利を飾っています!
そしてその相手は《動かない大図書館》二年パチュリー・ノーレッジ選手!既に黒星が五つついておりますが、魔力制御に関しては全国トップクラス。果たして今日の図書館は動くのか?!
西京先生、今日一と言ってもいい注目のカード。どう見ますか?』
『ん〜〜.......もやし娘のやる気次第じゃね〜〜?』
『ですよね、先生ももう少しやる気の感じられるコメントを『ただ.......』.......ただ?』
『なんかいつもと雰囲気が違うねぇ。ひょっとしたら今日は一味違うのかもしれねぇよ?』
『おぉー、もしや本日ついにノーレッジ選手の実力が見れるのかもしれません!
それでは皆さんご唱和ください!.......LET'S GO AHEAD!』
日間ランキングに載って驚いております。
今の所リメイクはしません。コメント等を拝見しつつ、各話の修正・変更を行なっております。何卒ご了承ください。
_(-ω-`_)⌒)_.......ナツバテカナ?