戦兎「ストラーダに敗北し、ミカエルさんに連れられやってきた俺たちだったが……」
龍誠「いやぁ、しっかしバケモンみたいな爺さんだったよなぁ」
戦兎「たしかになぁ。それに他にも色々不可解な点があるし、謎が深まるばかりだぜ」
龍誠「だがそれでも俺達が戦うことには変わりない。だろ?」
戦兎「あぁ!ってわけでそんな感じの156話スタートだ!」
「奇跡の子?」
ミカエルに連れられてきた場に集った戦兎達は、ミカエルの言葉に首を傾げた。するとイリナは、
「天使ってね、邪な感情を抱いたりそれに溺れると、堕天しちゃうの。だけど天使同士でも子供を作らなくちゃでしょ?だから特別な儀式を行い、そういった邪念を一切持たずに子供を為す。そうやって生まれた子を、奇跡の子っていうの」
「邪念を持たず……」
戦兎は思わず呟きながら思い浮かべるが、一体どんな心持ちでやっているのだろうか。
「まぁイリナさんの言う通りです。そしてテオドロ殿は天使と人間のハーフでありながらも、その中でも非常に高い才能を発揮し、あの若さでヴァチカンのナンバー2の枢機卿にまで上り詰めました」
「それならなんで反乱なんかを」
リアスの問いに、ミカエルは暫し黙り込むと、
「彼は最後まで。いや、今もなお他の陣営との同盟。主に悪魔との同盟に反対しております」
「何で悪魔にそこまで……」
さっきもそうだが、テオドロは悪魔に強い憎しみを抱いていた。その原動力が何なのか。そう問うと、
「彼の両親は眼の前で悪魔に殺されているのです」
『っ!』
その言葉に、皆は息を呑む。
「テオドロ殿を守るため、我が身を呈して庇い、残った体力で悪魔を滅しました。そして残されたのが彼で。彼は悪魔への憎しみを持ちながら、しかし堕天しないだけの高潔な精神の宿していました」
「そうか」
戦兎はその時思い出す。
「テオドロ、堕天してないんだ」
その言葉で、あの場にいた面々も思い出す。あのときに見た、テオドロの羽はまだ白かったことに。
「八坂さんから聞いたことがある。魔獣に体を侵食される感覚って、外側より内面の変化がヤバいって。あっという間に自我を黒く塗りつぶされる感覚。正気を保っていることなんて不可能だったって」
「でもあのテオドロって自我を保ってたじゃないか。ちょっと喋り方おかしかったけど」
それはこれを読んだほうがいいかと。そう言って、ミカエルが差し出したのは一枚の紙だ。
「ストラーダ殿が残したものです」
『っ!』
そう言われ、皆は集まってその紙を見る。
【これを見ているということは、恐らく私はテロリストとして人生を締めくくる覚悟を決めたのでしょう。
まず最初に、このような事態を引き起こしたこと、謝って済むことではありませぬが、誠に申し訳ない。ですがそれでも、私には無視することができなかった。
ある晩、テオドロ殿が私を訪ねてきた。此度に同盟、やはり納得がいかない。そのために教会に引いては天界及び世界に反旗を翻す。その為に力を貸して欲しいと。勿論最初は止めました。そんな事は辞めるべきだと。幾ら同じ思いを持つものがいたとしても、勝てぬ戦いになるのは明白。しかし、テオドロ殿が着ていたローブを外すと、そこは既に人あらざるものに変わっておりました。
それは日本の京都で行われた、魔獣による肉体の侵食なのはすぐに気づきました。
そして彼は言いました。徐々に自分が自分じゃなくなっていく。だがそれでも、少しでも戦いの役に立つならばと受け入れたことを。
まっすぐ私の目を見て放たれた言葉に、私は言葉を失いました。そして二度目にその口から放たれた勧誘の言葉を
振り払う言葉を、私は持ち合わせていなかった。このテロ行為も、テオドロ殿を止めることができぬのも、全て私の弱い心が原因でございます。天界には私と戦うことに拒否感を示すものもおりましょう。ですが遠慮はいりませぬ。殺す気で掛かってきてくだされ。私が頼めた義理ではないことは分かっておりますが、何卒お願い致します】
そう締めくくられた手紙を起き、戦兎は机を叩く。
「その思いを利用したのか……兵藤 一誠は」
両親を殺され、悪魔を心底憎んでも、それでも堕天しなかった心を持った少年を利用したのだ。
「えぇ、魔獣化とストラーダ殿のデュランダルを考えても、恐らく
「あのときは咄嗟だったからですが、全力のジーニアスフィニッシュなら戻すことは可能だと思います。ただまさか押し返されるとは……」
「恐らく、今テオドロ殿は人間の部分と天使の部分と魔獣の部分が入り組んでおり、それで複雑な肉体になっているのだと思います。大丈夫ですか?」
「えぇ、ハーフの肉体の再構築はギャスパーの時でも成功させたので、問題なく行えます。ただ……」
今回の一番の難題は、前回の一件は暴走して自我がないのに対し、今回は暴走に抗い、その上で魔獣の力を求めていること。悪魔による救いを否定し、ジーニアスの力を押し返した。
「強引に魔獣化を解くことはさっき言ったように可能です。ですがそれは根本的な解決にならない」
そう、それではテオドロの憎しみは終わらない。この戦いの根本は彼の悪魔への憎しみと、それに従う者たちの戦いだ。どうするべきか。そう思った時、
「俺がやる」
「龍誠?」
そう言って、名乗り出たのは龍誠だ。
「あいや、俺だけじゃ魔獣化解けないから、魔獣化だけは戦兎にお願いしなきゃなんだけど……」
そんな様子に、戦兎は笑うと、
「じゃあ俺が魔獣化は解く。後は任せていいか?」
「おう任せろ!」
後はストラーダ殿か。とミカエルは言う。
「ストラーダ殿は私が戦う」
「ゼノヴィア……」
私が超えるべき相手なんだ。ゼノヴィアは拳を強く握りながら、そう呟くのだった。
「ふぅ、はぁ!」
ミカエルの話を受けた日の夜、トレーニングルームで、戦兎はジーニアスフォームに変身しながら、デュランダルを振っていた。
「なんだ、精が出るな」
「アザゼル先生」
デュランダルを肩に担ぎ、戦兎は息を整える。
「どうした?珍しいじゃねぇか」
「あの爺さんに言われたんだ。俺の剣はただ力を使ってるだけだって。極めた力には勝てないって。だから少しでも剣を振っておけば次戦ったときに……っておい、何笑ってんだ」
戦兎は怪訝な顔をしながら、アザゼルを見ると、彼はそっぽを向いて肩を震わせて笑っていた。
「いやわりい。意外とお前も気にしてたんだなと思ってな」
「あのな」
文句を言おうと笑うアザゼルに近寄ると、アザゼルは指先で戦兎の額を小突く。
「あのな戦兎。そもそもの前提が間違ってんだよ」
「なに?」
「あの化け物爺さんはお前も知っての通り、デュランダルを只管振り続けた末の強ささ。それこそお前が生まれるよりずっと前から、晴れてようが雨降ってようが雪降ろうが、槍がふろうが、何があっても振り続けて、戦い続けた。勿論その中で沢山失って、それで膝を折りかけた事もあっただろうな。でもそれでも、あの爺さんは爺さんになる前から覚悟を決めて立ち上がり続けた。挫折と絶望を星の数ほど味わい、それでもデュランダルを振ることを辞めなかった。それがヴァスコ・ストラーダという男だ。それにちょっと言われて振った程度のデュランダルで戦おうってのが間違ってるぜ」
じゃあどうするんだ!と戦兎が聞くと、
「そんなもん。他にあるもんでどうにかするしかねぇだろ。そもそも、お前はそうやってきたじゃねぇか。あんな爺さんと同じ土台で戦おうとすんな。お前はお前として戦えばいい。そうすれば勝てるさ」
「バケモンとかあんたがいう爺さんにか?」
戦兎は皮肉のつもりでそう聞くと、アザゼルは優しい笑みを浮かべながら、
「あぁ、俺はあの爺さんの強さもよく知ってる。だが同時に、お前らの強さもまた、良くわかってるさ。そしてお前らのことを俺は信じてんだよ」
そう言い、アザゼルは戦兎のドライバーからジーニアスボトルを引き抜き、戦兎が慌てて取り返そうとするがそれを軽く避け、戦兎の頭をグシグシと撫でた。
「自信持ちな。俺はな、ストラーダどころか、兵藤 一誠との戦いにも、最終的にはお前らが勝つって信じてんだよ。俺の全財産をベットしてもいい」
まぁ有り金殆ど無いけどな。とオチをつけられ、ズッコケながらも戦兎はアザゼルに釣られて笑うのだった。
「ゼノヴィア」
「ん?あぁ龍誠」
バルコニーにて佇むゼノヴィアの元にやってきた龍誠に、ゼノヴィアはどこか上の空で返事をする。
「何してるんだ?」
「あぁ、今度の選挙で何を話すか考えていたんだ」
そう。コイツは今度の生徒会選挙に立候補している。確か相手には匙とかもいたはずだ。
「だが何を話すべきかと思ってな。勿論今までの候補者がどんな話をしてきたかは聞いてきたんだが、どれもしっくりこない」
「そもそも何で生徒会長になろうと思ったんだ?」
「うむ。最近勉強を頑張ってみただろう?それで点数が上がって、色々なことを学んだり挑戦するのが楽しくなったんだ。そしたら今度はそれを後押しする立場というか、その土台を作る側にも興味が湧いてな……だからだ」
「じゃあそういえばいいんじゃね?」
流石に変じゃないか?というゼノヴィアに、龍誠はでもさ、と言いながら、
「下手な建前を並べるよりも、お前の気持ちをぶち撒けた方がいいんじゃね?基本的にお前勉強できるようになっても単純脳筋だし」
失敬な、とゼノヴィアは半目で見てくるが、そのあと直ぐに成程、と頷き、
「自分の気持ちか」
そう呟きながら、ゼノヴィアは何かを確信するのだった。