戦「夏休みが始まり、俺たちは授業を始めるために冥界に向かうことに!」
龍「しかしお前ホントギャスパー好きだよな」
戦「あん?別に普通の後輩だよ」
ギャスパー?「僕とは遊びだったんですか?」
戦「おいこらアザゼル。下手くそな声真似してんじゃねぇよ」
ア「お前こそ先生つけろ先生を!とまあそんな感じの29話スタートだぜ」
戦「だからそれ俺の台詞!」
「しかし冥界って列車で行けるんだなぁ」
「それな」
ガタンゴトンと、戦兎と龍誠は揺られながらそう呟く。
さて、現在リアスとグレモリー眷属にアザゼルは冥界のグレモリー領行きの列車に乗っていた。乗り方は普通に駅に行って隠し通路みたいな所から専用のプラットホームに来ただけなのだが、意外と簡単に行けるものだ。てっきり転移で行くと思っていたし……
そう言っていると朱乃が席を立ってこちらに来た。
「その方法でも良いのですけど一度はこういったルートで入り、登録する必要があるのですわ。そうじゃないと違反で捕まりますから」
(俺と龍誠はサーゼクス様のお陰で転移して冥界の結婚式場に乗り込んじゃったけど平気だよな……)
ダラダラと変な汗を掻きそうになるが、戦兎は頭を降って目の前に座っていたアーシアに一声掛けて(ゼノヴィアもいるのだが、未だに二人の間には微妙な空気がある)から、
「姫島先輩どうぞ」
と、席を譲って立ち上がる。
「え゛!?」
龍誠の顔がひきつる中、朱乃は良いんですの?と聞いてくるが、どうぞどうぞと譲った。
「どうぞごゆっくり~」
そう言って戦兎は後ろで叫ぶ龍誠を無視してギャスパーの所までいく。
「隣良いか?」
「あ、はいどうぞ!」
戦兎が来てギャスパーは慌てて席に置いていた荷物をどけて、座席をポンポン叩きながらニコッと笑みを浮かべた。
「んで?ゲームか?」
「はい」
ギャスパーが見せてくれるので覗いてみると、名前を忘れたが確か一時期流行った横スクロールアクションゲームだ。
ピンク色の一頭身キャラがコミカルなのだが、これまたとんでもない鬼畜ゲー。5年の歳月をかけてと言う触れ込みだったが、余りの難しさに誰もクリアできず、結局今もクリアした人はいないはずだ。
案の定ギャスパー直ぐにやられて 涙目になってしまっている。
なので戦兎が借りてやってみるが出鱈目に難しかった。これクリアさせる気あんのかってレベルで、余りの難易度にゲーム機を叩きつけたくなるがそれは我慢だ。 これギャスパーのだからな。
「ダメだ……」
結局三回ほどやり直したところで戦兎はギブアップ。ギャスパーにゲーム機を返して、前の座席に座っていた小猫を見る。
何時も暇があれば何か食べている彼女だが、今日はずっと心ここに在らずの状態で外を見ていた。
「塔城。最近どうしたんだ?お前」
「なにもありません」
小猫は短くそう答えると、そのまま外に意識を向けてしまう。
元々何考えてるのか分からないし、愛想が良いやつではなかったが、最近本当に輪に掛けて愛想が無い。
(ホントこいつ大丈夫かよ……)
戦兎はギャスパーのゲーム画面に視線を移しながら、そんなことを思ったのだった。
「うっそだろ……」
「でかすぎね?」
ポカーンと口を開けて見上げる戦兎と龍誠の視線の先には、超巨大な屋敷が建っていた。
列車で揺られること二時間。冥界入りして知ったのだが、冥界にも昼夜があること、そしてリアスと言うかグレモリー家は日本の本州くらいの領地を持ち、眷属はそこから好きな場所を貰える(上級悪魔になれば更に自分固有の領地を貰えるらしい)と言うこと、そしてこの屋敷……龍誠達の新居がチビっちゃく見えるほどだ。屋敷って言うかほぼ城だ。そりゃこれだけデカイのが普通なら、龍誠達に与えた屋敷もでかくなるわけだ。あれでも恐らく抑えたつもりなんだろう。
そう思いつつ、使用人らしき人に荷物を預け室内入ると、
「リアスお姉様!」
「ミリキャス!」
リアスの胸に飛び込んだのは、彼女やサーゼクスと同じ紅の髪を持つ少年で、リアスとは顔見知りのようだ。
誰だろう?そう思いながらいると、祐斗が教えてくれた。
「彼はミリキャス・グレモリー。サーゼクス様のご子息で、部長にとっては甥に当たる人だよ」
『え!?サーゼクス様って結婚してたの!?』
何となく勝手だが、サーゼクスは独身だと思っていた戦兎と龍誠が驚愕すると、
「ミリキャス様。リアスお嬢様の眷属の方々へのあいさつが忘れてますよ」
後ろからやって来たのは、グレイフィアだ。彼女にそう言われ、ミリキャスは慌ててこちらにやって来ると、
「こんにちわ。初めての方もいらっしゃいますね。ミリキャス・グレモリーです」
『あ、こちらこそご丁寧に……』
思わずこっちまでへりくだってしまうが、ミリキャスはニコニコ笑い、
「お二人の話はよくリアス御姉様の手紙に書いてあるので知ってましたが、優しそうで嬉しいです」
いやぁ、それほどでもと二人が頭を掻くと、今度は別の女性が姿を現した。
「あらリアス。帰ってきたのね」
「お母様。ただいま帰りました」
リアスの視線の先を見ると、そこに立っていたのはリアスとそっくりな女性だった。唯一の違いは髪色くらいだろう。て言うか……
『お母さん!?お姉さんじゃなくて!?』
戦兎と龍誠は二度目の驚愕である。何せどこからどう見ても母親の見た目じゃない。精々姉が限度である。そう思うとリアスはクスクス笑い、
「悪魔は一定の年齢を越えると自分の見た目を変えられるのよ。それでお母様は普段は大体私くらいの姿で過ごされてるの」
「そう言うことです。私はヴェネラナ。ヴェネラナ・グレモリーと申します。まあ前に一度お会いしましたが」
前に会ってる?どう言うことだと龍誠は首を傾げるとリアスの母親は、
「娘の結婚式には私も出てましたのよ?」
ビキィ!と龍誠は体が固まる。ヤバイ、やはり忘れてない。と言うか忘れられるわけがない。いったいどんな文句が来るんだダラダラと脂汗のようなものが出てきて止まらない。だが彼女は優しげな笑みを浮かべ、
「さぁ、皆さんのお部屋は用意してあります。それと今夜の夕食は楽しみにしててくださいね?」
余りにも普通な対応に、あれ?怒ってない?と龍誠は困惑してしまうのだが、それは余談だろう。
「……」
龍誠は生まれて初めての感覚を味わっていた。
そりゃそうだろう。何せ後ろにはメイドさんが控え、静かにナイフとフォークでご飯を食べる。しかもこの場にはいつもの仲間達だけじゃなくて、リアスのご両親もいるのだ。間違っても下手なことはできない。
取り敢えず外側から並んでる順番に食器は使っていくんだと、隣の戦兎がソッと教えてくれたので、周りの皆の動きを見ながら食べるが、食べてる気がしない。味が全然分からず、どうしたものかと思う。その時、
「万丈君。いや、龍誠君と呼んで良いかな?」
「は、はいどうぞ!」
突然リアスの父に声をかけられ、龍誠は体を固くして返事する
「家は気に入ってくれたかな?」
「は、はいそれはもう!」
そうかそうかと龍誠の状態とは違ってリアスの父はご機嫌で、
「本当はもっと30階建て位の巨大な建物にしようかと思ったんだがね?流石にやめたよ」
やめてくれていただいて有難うございますとは言えない。だが龍誠は喉元まで出そうだった。だがリアスの父いわく、
「最近は法律も厳しくてね。あと何より桐生君の家の隣にと考えると余り高すぎると彼の家に日光が当たらなくなってしまう。まあ建物自体はある種の異次元空間になってるから見た目よりずっと大きいから大丈夫だろう」
正直これ以上大きくなっても管理しきれませんと、また龍誠は思うが黙っていると、
「私も龍誠さんでよろしいかしら?」
ヴェネラナさんが話しかけてきて、龍誠は首をブンブン縦に振りながら答える。それを見た彼女は、
「では龍誠さん。貴方には修行と平行してグレモリー家の歴史やテーブルマナーについても覚えていただきます」
「うぇ!?」
突然のヴェネラナの言葉に、龍誠は驚愕しながら困惑する。それに反論したのはリアスだ。
「お、お母様!突然何を!」
「リアス。私は驚きましたよ。見たところなにも進んでいないじゃありませんか」
うっ!とリアスは詰まる。それに畳み掛けるようにヴェネラナは言葉を続け、
「貴女には貴女のペースがあるでしょう。ですかそれでも今から教育を行ってもなにも問題はありません。少しずつでも覚えていただかなくてはいざというとき困るのは貴女と龍誠さんです」
「うぅ……」
リアスは二の句を告げなくなり、立ち上がりかけていた席に座り直す。それからヴェネラナは龍誠を見て、
「良いですね?龍誠さん」
「は、はい……」
龍誠の胃がキリキリ痛む。今の会話や周りの雰囲気で、自分に望まれていることはなにか分かる。分かるが凄まじいプレッシャーだ。
外堀がどんどん埋められていっている感覚……嫌なわけじゃない。ただ結局、自分は未だにリアスとの関係をハッキリできていない。
リアスだけじゃない。アーシアや朱乃やゼノヴィア……ゼノヴィアはちょっと特殊だけど他の皆からの好意に気づかないほど鈍くはない。龍誠はバカであっても愚かではないのだ。
だからこそ答えが出せない。誰かに応えれば誰かを傷つける。悪魔が重婚OKでも皆は良いのか?自分だけを見て欲しいと思うんじゃないだろうか?自分がその立場だったらそうだ。
しかも自分が複数の女の子を幸せにできるのか?全くそんな自信はない。
(どうすりゃいいんだよぉおおおお!)
そう頭を抱える龍誠に、
(また少ない脳みそで難しく考えてパニック起こしてんな……)
横目で見ながら、戦兎はそんなことを思うのだった。