ハイスクールD×D Be The One   作:ユウジン

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前回までのハイスクールD×D Be The Oneは……

戦兎「小猫との喧嘩から暫く。俺たちは毎日修行にいそしんでいた」
龍誠「それにしてもなーんか大事なことを忘れてんだよなぁ」
戦兎「なにを?」
龍誠「いやさ。何か悪魔関係以外で忘れてることがあるような……」
戦兎「おいおい。さっさと思い出しとけよってことで見逃せない34話スタート!」


本心

『……』

 

人間……というか悪魔は疲労が限界を突破すると泣き言もでない。というか喋れない。ただひたすら息をするだけの物体に変わる。

 

さて、本日をもってタンニーンとの修行は終わり、戦兎と龍誠は解放感からピクピクと体を痙攣させながら息継ぎしていた。

 

「ふむ。この修行期間。よくぞ耐え抜いた。正直ここまで根性があるとは思わなかったぞ」

 

そうタンニーンは褒めてくれるが、正直反応する体力がない。そんな二人の様子にタンニーンは苦笑いし、

 

「そろそろグレモリー邸に戻る頃合いだろう。さて、送ってやるからいくぞ」

 

と、両手で一人ずつ二人をつまみ上げると、飛び上がる。因みにその間、されるがままの二人で、二人が想像以上にやるためちょっとやり過ぎたか ……タンニーンがちょっと反省したのは、まぁ余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きてるって素晴らしいな……」

「全くだ……」

 

タンニーンに送ってもらい、少し正気に戻った戦兎と龍誠は、リアス達が集まっているグレモリー邸のサロンに着替えて来た。

 

すると、

 

『あ……』

 

戦兎と小猫の目が合い、互いにムスッと表情を変えると、そのまま顔を背けてしまう。

 

「どうしたの?二人とも」

 

戦兎と小猫の間に流れる不穏な空気に、先にいた祐斗やゼノヴィアにアーシアとギャスパーまで眉を寄せて龍誠に聞く。

 

とは言え龍誠も、

 

「聞くなって言われちゃってさ」

 

そう言って苦笑いするしかない。まあ確かにちょくちょく喧嘩してるやつらだが、 余り後まで引くのはしていない。唯一尾を引いたのは、精々小猫が楽しみに部室の冷蔵庫に保管してあったお菓子を、小腹を透かせた戦兎が勝手に食べた時くらいだろう。あの時は流石に小猫がぶちギレて、暫く口を利かなくなり、慌てた戦兎がお菓子を大量に献上して謝っていた。

 

まあ今回はそんな笑い話じゃなさそうだが……

 

何て思っていると、リアスと朱乃に、アザゼルも入ってきた。

 

「つうわけでだ。修行お疲れさん。各自成果はあっただろう。だがこれで終わりじゃねぇ。今回の修行はあくまでもこれからやらなきゃならん事を見つける為にもあった。それぞれ課題も見つかっただろう。油断すんなよ」

 

そうアザゼルが締めたところで、龍誠は口を開く。

 

「なあアザゼル先生。一つ聞いて良いか?」

「あ?どうした?」

「何かさ。祐斗やゼノヴィアも邸から出て別の場所で修行してたけど二人はちゃんとコテージがあって俺らみたく野宿も水や食料の現地調達じゃなかって……」

 

そう。二人は龍誠や戦兎と同じく邸から離れて修行だった。だが、余りにもこちらと扱いが違うと文句を言うと、

 

「いやぁ、そのうち逃げ帰って来るかなって」

『……』

 

良く漫画やアニメで、キレた時にブチン!と言う擬音が入るが、あれは本当らしい。

 

少なくとも戦兎と龍誠の堪忍袋の尾がキレた時その音は響いた。

 

『今こそ修行の成果見せたらぁ!』

「お?」

 

次の瞬間戦兎と龍誠はアザゼルに飛びかかる。まぁ……流石に堕天使の総督の力は伊達ではなく、結局返り討ちに遭うのだがそれは余計な話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃいいいい!怖いですぅうううう!」

 

アザゼルに逆に叩きのめされたのち、戦兎達は若手悪魔達のレーティングゲームの前のパーティーに参加していた。

 

勿論そこには多数の悪魔が居り、リアスは家の事もあるのかそちらの対応に行き、朱乃はそれについていく。

 

そして他の皆もそれぞれで楽しむ中、ビビりまくっているギャスパーを宥めながら、戦兎は会場を見た。

 

明日から若手悪魔同士のレーティングゲームが始まる。初戦はソーナが率いるシトリーチームか。と思っていると、

 

「よっ!お前らもついたんだな」

「匙か」

「よふぉ。ふぁふぃ」

 

噂をすればなんとやらか。と言う感じで匙が現れた。 戦兎は立ち上がり、龍誠はモグモグと片っ端から口に入れていた珍しい料理を飲み込む。

 

「そっちはどうだったんだ?」

「元龍王に朝から晩まで追い掛け回されてたよ」

 

は、ハードだな。と自然と修行の話になったので、匙に戦兎が話すと匙は頬をひくつかせた。

 

だが匙はそれでも、

 

「まあ俺だって。頑張ったぜ。少なくとも次のレーティングゲームに勝てる程度にはな」

「それは何よりだ」

 

戦兎は肩を竦めて返事をする。匙は決してこちらを嘗めてはいない。だが負けるわけにはいかない。匙達の夢を叶える為には結果を残し続けるのが前提だ。だが、

 

「でもこっちだって負けやしないさ。悪いが駒王町には泣きながら帰って貰うよ」

「そっくりそのまま返すぜ」

 

そう二人が言い合っていると、龍誠も来て、

 

「すげぇ自信だけど何かあるのか?」

「それを言ったら意味がねぇからな。試合のお楽しみだ。ただ……お前らの度肝を抜けるぜ?」

 

対した自信だ。余程自信があるらしいな。これはもう少し探りをいれるべきか?と戦兎が思ったその時、

 

「ちょ、ちょっと!」

『ん?』

 

背後からかけられた声に、戦兎達が振り替えると、そこには綺麗な金髪を縦ロールヘアにした少女が立っていた。確かこの子は……

 

「ひ、久し振りですわね。クローズ」

「……」

 

龍誠を見てそういう少女は明らかに緊張している。しかし龍誠をクローズと呼ぶとは……いやまあ変身してる時の姿だから強ち間違いでもないが。

 

しかしとうの本人は、

 

「誰だ?」

 

ズコッと戦兎と匙だけではなく目の前の少女までコケた。だが素早く復活すると、

 

「レイヴェル!レイヴェル・フェニックスですわ!兄のライザーとの戦いの時に少し話したでしょう!」

「あぁ、そう言えばいたな」

 

完全に忘れてたらしい。まああの時はライザーのインパクトが強かっただろうし、話したのも少しだ。それでも完全に忘れるのはどうかと思うが。しかし、

 

「全く、折角会えたのに忘れられてるとは……」

「わりぃわりぃ。でもお前がいるってことはライザーも……」

 

龍誠はキョロキョロ見回した。だがライザーが居ない。それにレイヴェルは、

 

「兄は現在貴方に負けた所為で引き籠ってしまいましたわ。しかもドラゴンの名前やモチーフにしたものを見るだけで叫び出して怯えるほどのトラウマになってしまいまして……」

「そ、そんなに?」

 

まあ才能に胡座を掻いていた部分がるので少しは良い薬ですがとレイヴェルは案外厳しく言う。それに戦兎が一応眷属でもあるのに良いのかと聞くと、

 

「今はトレードによってお母様のビジョップになりましたから良いですわ」

「とれーど?」

 

ライザーから母親のビジョップになったとはどう言うことだ?と龍誠は首を傾げると、

 

「説明しよう。実は眷属は同じ種類と数の駒で交換できるんだぜ?例えば俺ならポーンの駒4つか、それと同じ数になるように眷属を揃えればな」

「そう言うことです」

 

そう説明してくれた匙に、龍誠は頷く。それで今はライザーの眷属じゃないと言ったのかと、それにしても……

 

「何しに来たんだ?」

「べ、別に見知った顔を見たら話し掛けるものでしょう!」

 

そうかもしれないが、少なくとも兄をぶっとばした奴に会いたいかと言うと、個人的にはどうなのか微妙だ。でも向こうは良いお灸になったと言うし、気にする事はないのか?

 

「まあ良いけどさ。ライザーが引き籠っててお前は大丈夫なのか?」

「私は寧ろ大人しくしていただいた方が静かで良いくらいですわ。あら?」

 

すると、そんな話をしていた二人の元に、別の女性がやって来た。スラリと背が高いが、抜群のプロモーションの女性に、戦兎は見覚えがあった。確かライザーとのレーティングゲームの際に、校庭で戦った仮面をつけた眷属だ。まとめてリタイアさせたし、仮面を着けていたから一瞬分からなかったが間違いない。

 

「どうしましたの?イザベラ」

「お父上の知り合いが挨拶に来ている。行った方がいい」

 

そう、とレイヴェルは名残惜しそうに龍誠を見る。それを見た龍誠は、

 

「行った方がいいんじゃねぇか?別に俺となんて今じゃなくたっていいんだし」

「じゃ、じゃあ改めてお会いしてもいいのですか!?」

 

レイヴェルの圧の籠った問い掛けに、龍誠は、

 

「い、良いんじゃねぇか?」

 

と返す。こいつこういうタイプだったのか?と困惑しながら、レイヴェルが咳払いするのを見た。

 

「そ、それではクローズ……いえ、龍誠様とお呼びしてよろしいかしら?」

「別に呼び捨てでも構わんのだが」

 

多分そんなに年は変わらないだろう。そう思って言ったのだが、

 

「そんな失礼なことできませんわ!龍誠様と呼ばせてもらいます!」

 

と言って挨拶に行ってしまった。その後ろ姿に唖然としているとイザベラと呼ばれた女性がクスクス笑う。

 

「すまない。レイヴェルにとって憧れの存在だからな。お前は」

「そうなの?」

 

イザベラの言葉に龍誠は首をかしげると、

 

「なんだかんだ言ってレイヴェルは少女趣味だからな。女一人の為にあんなに大暴れして勝って、しかも文句があるなら何時でも来いとまで言われればな」

 

そう言うもんなのか……と龍誠は頭を掻く。そんな姿を、匙と戦兎は見ていると、

 

「なあ桐生。あのレイヴェルって子って龍誠に……」

「多分そうだな」

 

戦兎の返答に、匙はガックシと肩を落とす。

 

「くそぉ。俺は会長と全然進展がねぇのに何であいつあんな可愛い子とフラグを……」

「序でに教えとくと、部長とキスしたり、夜はそこに姫島先輩やアーシアにゼノヴィアの四人と毎晩一緒のベットで寝てるぞ」

 

きっと漫画やアニメだったら匙は今、目や口から歯が入れ歯のように飛び出してるか、顎が地面にくっついているだろう。それくらい驚愕していた。

 

「可笑しい。眷属になったのは似たような時期で寧ろ俺の方が若干早いのに……」

「あいつ昔からモテるからなぁ」

 

モグモグと食べ物を食べながら戦兎は言う。そんな戦兎に匙は肩を掴み、

 

「俺の味方はお前だけだよ桐生」

「いや俺だってその気になれば女の一人や二人……」

 

戦兎はひきつった顔をしながら答える。だが匙は、

 

「でもお前女子の彼氏にしたくない男子生徒ランキングトップ5入りしてんぞ?」

「マジか!?」

 

匙が言うには、皆顔は良いけど……と言う前置きと共に言うらしい。因みに情報ソースは同じ生徒会の女子らしい。

 

前にも小猫に言われたように、実験をところ構わずやったり、ナルシストな言動が随所にあって、そう言う位置付けらしい。

 

「ま、まあいいじゃねぇか。因みに不動の一位は同率で松田と元浜らしいぜ?」

「あの覗き魔野郎共に勝っても嬉しくねぇよ!」

 

そんなにか?そんなに俺は変人だったのか……と今度は戦兎がガックシと肩を落とす番だ。すると、

 

「ぼ、僕は戦兎先輩のこと大好きですよ!」

「ギャスパー……」

 

お前ホントいい後輩だよ……と戦兎がホロリと泣きたくなったその時、

 

「ん?」

 

戦兎の視線の先には、血相を変えた小猫が走っていく姿がある。足早というか、殆ど駆け足で会場を飛び出す姿に戦兎は違和感を覚え、

 

「悪い。少し席を外すわ」

「え?あ、おい桐生」

 

匙の制止も聞かずに戦兎は人混みを避けながら小猫を追う。その隣には、

 

「どうした戦兎?」

 

と龍誠も当然の如くいる。それに戦兎は、

 

「いや、塔城が慌てて飛び出していったからな。何か嫌な予感がする」

 

そんな二人の背中を見送りながら、匙は隣のギャスパーを見て、

 

「なあギャスパー。一つ聞いて良いか?」

「は、はい!?」

 

戦兎がいなくなった途端さっき以上にガチガチになっている。だが匙はそれに触れずに、

 

「何でお前女性物のドレス着てるんだ?」

「い、一度着てみたくて……」

 

そんな二人のやり取りにイザベラは首をかしげ、

 

「何故そんなことを?」

「だってこいつ男だし」

 

次の瞬間、会場に響くほどの声量でイザベラが驚愕するのだが……まぁこれは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ行った?」

「わかんねぇ!」

 

慌てて外に出た戦兎と龍誠だったが、既にそこには小猫がいない。とにかく探さなくては……そう思っていると、

 

「小猫はこっちよ」

『部長?』

 

背後からの声に二人が振り替えると、そこにはリアスが使い魔の蝙蝠になにか聞いていた。

 

「どうしてここに?」

「私も小猫が血相変えて出ていくのが見えたのよ。さ、とにかく行くわよ」

 

二人はリアスの指示に頷き、三人で走り出す。暫く走っていると、何かの話し声が聞こえてきた。

 

「静かに」

 

リアスは短くそう伝えると、体勢を低くして隠れる。影からこっそり覗くと、小猫と……誰かがいる。

 

「久し振りね、白音。使い魔に気づいてきてくれるなんて感動にゃ」

 

胸元まではだけさせた着物と黒い長い髪と猫耳に二股に別れた尻尾の女性。しかし白音?と戦兎が首をかしげていると、

 

「白音は小猫の本当の名前よ。私がお兄様から預かってからは塔城 小猫と言う名前を与えて名乗らせていたけど……」

 

まさか黒歌がと、リアスは表情を暗くする。恐らく黒歌とはあの小猫と話している少女だろう。そんな二人の関係について戦兎が聞こうとすると、

 

「何故ここにいるんですか?黒歌姉様」

「大事な妹に会うのに理由なんているのかにゃ?」

 

二人の会話で合点がいく。姉妹と言うわけかと、戦兎は納得する。余り似てないので分からなかった。顔もだが雰囲気も。

 

「ふざけないでください」

「ふざけてないわ。まあ確かに会いに来ただけじゃない」

 

そう言って黒歌が小猫に手を伸ばす。

 

「一緒に禍の団(カオス・ブリゲード)に入るにゃ。遅くなったけど迎えに来たの。また一緒に……昔みたいに仲良く暮らすにゃ」

「おいおい。勝手に連れていったらヴァーリとかに言われるぞ?」

 

黒歌に反論する声。それは頭上から現れ、黒歌の背後から声をかける。その姿は戦兎も見覚えがあった。あれはヴァーリと戦ったときに現れた美猴とか言うやつだ。

 

そんな美猴の言葉に、黒歌は舌を出しながら、

 

「平気平気。白音は私の妹だから私と同じく仙術を使う才能を持っている。今は使えずとも秘めてる才能は充分凄いし、認められるわよ。だから白音。一緒にいくわよ」

「わ、私は……」

 

小猫は何度も唾を飲む。口が乾き、喉がカラカラだ。だが、

 

「それとも……まずは後ろに隠れてるやつを倒せば言うことを聞くかにゃ?」

「え?」

 

小猫は振り替える。すると影から、隠れてるのバレてんじゃ意味ないかと、戦兎たちは出てくる。

 

「良くわかったわね」

「仙術の心得がある相手に普通に隠れてる程度じゃ意味ないにゃ。気で分かるのよ」

 

そう言ってリアスの言葉に黒歌は答える。そして小猫は、

 

「何で……」

「貴方が血相変えて出ていったから着いてきたのよ」

 

そう言ってリアスは小猫の前にたつ。それに合わせて戦兎達も前に出た。

 

「悪いけどこの子は連れていかせないわ」

「お前には聞いてないにゃリアス・グレモリー。ねぇ白音?お前はどうするのがいいと思う?今のまま一番よわっちい役立たずの貴女に居場所があるの?」

 

ズキン!と小猫の胸が締め付けられる。黒歌の言うとおりだ。自分は一番弱い。結局自分は自分に向き合えてない。このままでは役立たずだ。そうの烙印を押されれば……自分はまた、

 

「下らない問いね」

「部長?」

 

その時、小猫の思考を断ち切るようにリアスの凛とした声が響く。そして、

 

「居場所ならあるわ。幾らでもつくって見せる。自分と向き合えるようになるまで私は待つわ。甘いと言われても……」

 

自分の眷属を貶めたり、捨てるような真似はしない。リアスはハッキリと言った。

 

それを聞いた黒歌は少し苛立ったような顔をして、

 

「鬱陶しいやつね」

 

といった瞬間、戦兎達の周りに突然煙が立ち込めた。

 

「悪魔や妖怪に良く効く猛毒にゃ」

「おめぇやることがえげつねぇな」

 

美猴の嫌みも何のそのといわんばかりに黒歌だったが、

 

「ん?」

 

少し煙の流れが可笑しい。いや何がかと言うと、煙が一点に集まりだしているのだ。

 

「すぅううううう!」

 

徐々に煙は晴れ、その煙が集まっていた場所に立っていたのは龍誠。そして龍誠は胸一杯に煙を吸い込むと、

 

「けほっ!」

 

少し咳き込んで煙を吐き出したが、概ね健康そうだ。

 

「なんだ?全然効かねぇぞ?」

「何でよ……」

 

龍誠は少し肩を回すが、ピンピンしている。本当に効いていないらしい。その光景に黒歌は唖然としたが、それでも目の前の光景に頬尻をあげる。

 

「でもお仲間は効いたみたいね」

「え?」

 

そう。龍誠の隣に立っていた戦兎や、リアスに小猫は膝をついて苦しそうな表情を浮かべる。

 

「だ、大丈夫か!?」

「げほっ!かなりやべぇ……」

 

戦兎はそう呟く。それを見ながら黒歌は龍誠を見る。

 

「さぁて、お友達がいないんじゃ一人で相手する?」

「当然!」

 

と龍誠は言うが、小猫がダメだと言う。

 

「小猫ちゃん?」

「だ、ダメです……黒歌姉様は普通の悪魔としても充分に強いですが仙術を極めていて、純粋な戦闘能力なら最上級悪魔に匹敵します。黒歌姉様だけならともかくあの美猴と言う男も……」

 

あいつも戦うの?と龍誠は言うと、美猴は、

 

「使えんなら別に連れてっても良いしな。それにヴァーリ倒した二人のうち片割れと戦うってのも面白そうだ」

 

めっちゃノリノリであった。寧ろ黒歌と戦って消耗する前にやらせろと言わんばかりである。つまり一人であの二人を相手しろと言うのは……龍誠でも厳しい。せめて戦兎が動ければ一対一なのだが、きっちり毒が効いてるらしい。すると、

 

「それじゃ取引といきましょ?白音ちょうだい。そしたら解毒してあげる。すぐに返答してね?白音の解毒早くしたいから」

『っ!』

 

戦兎たちは歯を噛み締める。とんでもない交換条件だ。そんなの飲めるわけがない。

 

だが、

「小猫、何処に行くの」

「私がいけば……皆を助けられる」

 

小猫は重い体を上げ、一歩ずつ歩き出す。ゆっくり息を吐き、目眩を必死に耐えて姉の元に行く。

 

「そうそう。それで良いにゃ」

「ダメよ小猫」

 

小猫はリアスの言葉を無視して更に一歩進める。これで良い。自分の身一つでリアスたちが助かるなら良い。比べるまでもない。

 

「おい小猫ちゃん!」

「離してください!」

 

龍誠は小猫の腕を掴むが、小猫はそれを振り払う。

 

「これが正しいんです!部長や戦兎先輩を助けるにはこれしかないんです!これで、やっと役に立てるなら……」

 

小猫はそう言ってまた歩き出そうとしたとき、

 

「それが本心かよ。塔城」

「……えぇ」

 

背後からの戦兎の言葉に、小猫は頷く。だが、

 

「だったら……何でそんな泣きそうな顔してんだ!」

ごほっ!と戦兎は咳き込みながら立ち上がり、小猫の肩を掴む。

 

「本気で姉ちゃん所に行きてぇなら俺は止めねぇよ。だがな……てめぇの本心は本当にそうなのかよ!」

「じゃあどうしろって言うんですか!このままじゃどうしようもない!龍誠先輩だけで戦わせろって言うんですか!」

 

小猫は振り替えって戦兎に吠える。その眼は赤く、涙を堪えている。それに戦兎は真っ直ぐ見て、

 

「ちったぁ先輩を信じてみろよ」

「え?」

 

ニッと力なく笑った戦兎はフラフラと歩き黒歌を見ると、

 

「それは……」

 

懐から取り出した物に、黒歌は首を傾げる。

 

「名付けて……エンプティボトル。俺がアザゼルから出されていた修行はベストマッチを見つけるだけじゃない。これは、俺の瓶詰め(ボトルチャージ)本来の使い方だ」

 

そう言って戦兎はエンプティボトルを自分に刺す。

 

「うっ!」

 

ズズズ!と体内から何かが抜けていく。そしてそのままエンプティボトルは紫色に染まり、代わりに戦兎の顔色が戻っていた。

 

「実験成功だな」

 

戦兎はそう言って紫色になったエンプティボトルをポンポン投げる。

 

瓶詰め(ボトルチャージ)は本来はこうやって毒や、病気を吸いだしたりも出来る。昔の使い手の中にはこういう風に使って名医と言われた奴もいたらしいぜ?」

 

そう言いながら戦兎は龍誠にエンプティボトルを投げて渡して、リアスに使うように促す。

 

「よ、よし」

 

毒を吸いだせと思いながら使えばOKだと伝えながら、戦兎は今度は小猫を見る。

 

「それでどうする?これで頭数なら逆転したけど?」

 

そう言ってエンプティボトルをまた出して小猫に使った。それから更に、

 

「なあ塔城。この前言えなかったけどさ、お前はいっつも黙っててなに考えてるのか分からねぇ。でも一つだけわかることがある。それはお前は部長やオカルト研究部のことが大好きだってことだ。だからそんなに苦しいんだろ?力になれないことが。でもお前の本当の力を使えば、それを壊すかもしれない」

「……」

 

小猫は俯いてしまう。だが戦兎は続けて、

 

「でも別にそれで暴れちまっても少しくらいなら良いと思うぜ?」

「い、良いわけないですよ!」

 

突然の戦兎の言葉に小猫は驚くが、戦兎は良いんだよ、と言う。

 

「お前が道踏み外しそうになったら俺が止める」

「え?」

 

小猫は俯いていた顔をあげて戦兎を見る。幾らでも好きなだけ向き合えば良い。間違えそうになったらその都度止めれば良いだけだ。そんな風に戦兎の顔は優しげな笑みだった。

 

「もしお前が逃げずに向き合うなら。俺はお前に付き合うよ。先輩だからな。間違えそうになったら幾らでもぶん殴って止めてやる。お前が本心から願うなら、俺はそれを叶えたいと思う。だからお前はどうしたいんだ?向き合いたいか?それとも逃げたいか?」

 

戦兎は優しく問う。その言葉はゆっくりと小猫の胸に染み込み、ポタポタと目から溢れた涙は地面に落ちた。

 

「私は……」

「あぁ」

「私は……これからもオカルト研究部にいたいです。リアス部長たち皆と一緒に居たいです。この力だって……ちゃんと向き合いたいです。この力は皆の役に立てる筈だから……だから」

 

小猫は涙を流しながら戦兎を真っ直ぐ見て、心の底からの言葉を発する。

 

「助けて……戦兎先輩」

「あぁ、任せろ」

 

戦兎はソッと小猫の涙を手で拭い取ってやり、黒歌を見る。

 

「そう言うわけだ。悪いな」

「なら力付くで行くだけよ」

 

それも無理だ。と戦兎は言うとビルドドライバーを装着する。

 

「よし、小猫ちゃんは部長と下がってな」

 

そう言ってリアスの毒抜きを済ませた龍誠もビルドドライバーを装着した。

 

「戦兎。お前今燃えてんな」

「かもな」

 

そう言って二人はそれぞれボトルを出して振る。

 

《ラビット!タンク!ベストマッチ!》

《ウェイクアップ!クローズドラゴン!》

 

それからそれぞれビルドドライバーにボトルを挿し、戦兎と龍誠はレバーを回す。

 

「あーあ。折角命は助けてあげようと思ったのに」

「俺的にはこういう方が嬉しいけどな」

 

それを見た黒歌と美猴は戦闘体勢を取る。それを見ながら戦兎は、

 

「安心しろよ塔城!俺はな……」

 

後輩に助け求められて負けるようなダサい先輩じゃないぜ?と言って構えて、

 

『変身!』

《鋼のムーンサルト!ラビット!タンク!イェーイ!》

《Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!》

 

変身を終えた二人は、相手を見る。龍誠は美猴を、そして戦兎は黒歌を。

 

「それがビルド……か」

「あぁ、造る、形成するって意味でビルドだ。以後お見知りおきを」

 

戦兎はそう言うと黒歌に向かって走り出す為に腰を落とす。それを見た龍誠は黒歌を見て、

 

「気を付けろよ黒歌!こういう時の戦兎はな、マジ最強だぜ?」

 

龍誠はニッと仮面の下で笑みを浮かべ、それを合図とばかりに戦兎は走り出したのだった。


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