戦兎「イリナがやって来てから暫く、アーシアのプロポーズ騒動も最近はようやく落ち着き、のんびりとした日々を送っていた」
龍誠「しかしさ戦兎……アーシアプロポーズ受けんのかな」
戦兎「知らねぇよ、自分で聞きなさいよ」
龍誠「いやなんかそれはちょっと」
戦兎「めんどくせぇなぁ……つうわけでそんな感じの43話スタート!」
「はいはーい!私借り物競争出まーす!」
イリナがやって来て一週間。イリナはすっかりこのクラスに馴染んでいた。まあ確かに可愛くて明るい性格。これは人気が出るのも当然だろう。
さて、夏休みも終わったかと思えば駒王学園は行事が目白押し。今度は体育祭があるのだ。
なので実行委員である藍華が前に立ち、競技に参加するメンバーを決めている。とは言え、
「OK。じゃあ後龍誠はそうね……アーシアと二人三脚ね」
「あ、おい!勝手に決めんなよ!」
とまあこんな風に藍華は結構自由に決めていき、流石に龍誠が怒るが逆に、アーシアとじゃ嫌なわけ?と返され龍誠は黙る。イエスともノーとも言えない質問だ。まあ藍華曰く、
「ホントは戦兎とコンビで出せればダントツ一位狙えるんだけどね……ルール上出来ないし」
と言うように、うちの学校の競技はは男女混合か、女子のみでというのが基本。理由は単純で、駒王学園は最近共学になったばかりのためか、女性率が高い。だが悪魔でもなければ、普通は男子の方が身体能力が高いので、こういう制限を設けないと、男子生徒が多数の競技に出させられて、酷使されてしまうと判断されたのだ。他にも多人数で出るのは男子何人女子何人と決まってたり、一度出た男子生徒は何競技か休憩を挟まなくてはならないとか、結構色々ある。そう言うところは生徒会が頑張っているのを知っているので、中々感慨深いものがある。
「つうわけで戦兎。あんたどこに出るの?」
「あ?」
何て思っていたら、藍華に聞かれ戦兎は、
「何処でも良いよ」
「じゃあこのコスプレ徒競走にでもでなさい」
あ?待て!というがもう遅い。藍華にそのまま紙に書かれてしまう。諦めず文句を言っても、藍華は知らん顔だ。
「さいっあくだ……」
「コスプレくらい我慢しろよ」
アーシアと二人三脚の方がいいだろ。と、机に突っ伏して暗いオーラを出す戦兎と龍誠ががいたのは、まあ関係ない話だ。
「コスプレくらい良いじゃない。面白そうで」
「去年まではありませんでしたものね」
放課後、部室でもブツブツ文句を言っている戦兎に、リアスと朱乃は笑いながら言う。それをジトーっと見ながら、
「つうかなんであんなのが……」
「あれはどんな競技がやりたいかのアンケートで生徒が投票してな。とある教員が面白そうだから猛プッシュして実現したのさ」
そう言ってプルプル肩を震わせながら言うアザゼルに、戦兎は気づいた。
「まさかそのとある教員ってのは……」
「まぁ、俺なんだがな」
ふざけんなー!と戦兎が憤慨するが、アザゼルはケラケラ笑って二枚のDVDを見せてくる。
「まあそんなこと良いんだよ。つうわけで今日はこれを見ようぜ」
「そんなことってなんだ!それはあんたを問い詰めるより大事なものなのか!?」
当然だ。そう言ってアザゼルは背を伸ばしながら、
「さっき連絡があってな。次のレーティングゲームの対戦相手が決まった。ディオドラ・アスタロトだ」
『っ!』
アザゼルの言葉に、部室の空気が固まった。未だに記憶に新しい相手の顔が思い浮かぶ。更に続けて、
「つうわけで一枚はディオドラのレーティングゲーム映像だ」
そう言ってアザゼルは再生機にDVDをいれると、部室にあるでかいテレビに映像が写った。
ただ戦いは……正直そこまで突出したものじゃない。ゲーム運びもディオドラの強さも並だ。これならシトリー眷属たちの方がと言うのはこちらの見解である。
だが、変化はゲーム終盤に起きた。突然ディオドラ側の眷属が後ろに下がり、代わりにディオドラが前に出たかと思うと、その体から大量の魔力を吹き出させて相手を蹂躙。そのまま勝ってしまったのだ。
「ディオドラがここまでの魔力を?」
リアスの呟きに、皆も頷く。明らかに前半と後半で強さが違う。隠してたと考えるのが妥当だと思うが、まさかここまでとは思わなかった。
何故ならこの若手悪魔同士のレーティングゲームが始まる前、それぞれの(眷属を含めた)キングの強さのランキングが出ており、そのランキングではディオドラは最下位だったか一応最下位じゃなかったか位の評価だったはずだ。因みに一位はサイラオーグで、我らが主のリアスは二位である。
しかし、この魔力量……下手するとリアスに肩を並べそうな勢いだ。一体どこまで実力を……と思っている間に戦いは終わり、アザゼルはDVDを取り出すと、
「つうわけで二枚目だ。こっちはサイラオーグの試合なんだがな、これがまたとんでもねぇんだわ」
「とんでもない?」
戦兎がどう言うことかと聞くが、アザゼルはまあ見てなといって再生する。対戦相手はあの若手悪魔同士の会合の時にサイラオーグにぶん殴られた、ゼファードルだ。
まずは眷属達の戦い。先程のディオドラの眷属達と違い、全てが高水準だ。対戦相手であるゼファードルの眷属達に対して圧倒的な実力差で圧倒していく。だが驚くのはその後で、
「フウとライ?」
龍誠が呟く中、前に出たフウとライはそれぞれ一丁ずつ紫色の銃を出すと、
「これは!?」
祐斗が驚くのも無理はない。フウとライはポケットから取り出したのはフルボトル……にしてはなんかゴツい上に装飾が派手だが、形状は確かにフルボトルだ。そう思いながら戦兎は見ていると、フウとライは自分が取り出した紫の銃にフルボトルを挿す。
《ギアエンジン!》
《ギアリモコン!》
《ファンキー!》
『潤動!』
フルボトルを挿した二人は、そのまま引き金を引くと銃口から煙が噴出。その煙は二人を包むと、煙の中からそれぞれ白と緑を基調に、歯車のようなものが全身についた姿に変わる。
《Engine running gear》
《Remote control gear》
姿を変えた二人は、そのまま相手眷属たちに突っ込む。その実力は元々圧倒的だった戦局を更に圧倒していく。
この時点で、既に勝負アリだ。眷属達は倒され、残ったのはゼファードルのみ。対してサイラオーグの眷属は全員無事だ。だが、ゼファードルは敗けを認めずサイラオーグに一騎討ちを申し込む。
確かにルール上キングを倒せればゼファードルの逆転勝ちだ。それを分かった上で、サイラオーグは了承して前に出る。すると、
「こっちを見た?」
戦兎が呟くようにサイラオーグはこっちと言うか、正確には試合を録画するために試合会場にあるカメラを見て、
『あれは!?』
戦兎だけじゃない。他の皆が驚愕する中、サイラオーグが懐から取り出したのは、なんとスクラッシュドライバーだ。そのスクラッシュドライバーをサイラオーグは腰に着けると、紫色のフルボトルより一回り大きなフルボトルを取り出して蓋を捻る。
《デンジャー!》
音声が鳴ったボトルを、サイラオーグはスクラッシュドライバーに挿した。
《クロコダイル!》
「変身」
更なる音声の後に、サイラオーグはレバーを下ろす。それと共にビーカーがサイラオーグを中心に出現し、薬液が満たされると、
《割れる!食われる!砕け散る!クロコダイルインローグ!オラァ!》
突如地面からまるでワニの顎のようなものが出現し、薬液に満たされたビーカーを噛み砕く。
するとサイラオーグは全身が紫色で、ひび割れているような模様が入った姿に変わり、最後に女性の悲鳴に似た音声と共に、仮面が割れて眼が現れた。
《キャー!》
「なんだありゃ……」
ヴァーリや匙と同じスクラッシュドライバー……だが、その二つとは違う。容姿や変身の流れが別物だ。
だが戦兎が呟く間にも戦いは始まり、サイラオーグに向けてゼファードルが魔力の弾丸を撃つ。しかし、サイラオーグは喰らっても気にも止めず、そのままゆっくり歩を進め、
「ふん!」
「がはぁ!」
拳を一発叩き込む。その一発で大きく後ろに吹っ飛んだゼファードルは、ゲロを吐きながら転がり、慌てて立ち上がろうとする。だが膝に力が入らないのか、生まれたての小鹿のように膝を震わせながら立ち上がる。そこに、サイラオーグは静かにベルトのレバーを下ろすと、サイラオーグは飛び上がる。
《クラックアップフィニッシュ!》
するとサイラオーグの両足からオーラが集まり、それぞれの足のオーラが鰐の上顎と下顎のようになった。
「なっ!」
そのまま両足を大きく広げたサイラオーグは、ゼファードルを挟み込むように両足を閉じる。
「ぐぁあああああ!」
それはまるで、鰐が獲物を捕らえたときのデスロールのごとく、両足で挟み込むとオーラの鰐は何度も噛みつき、そのままネジ切るように捻った。
それと同時に爆発し、ゼファードルは光の粒子となり消えていき、そのままリタイアとなり試合はサイラオーグチームの勝ちとなる。しかし、
「眷属のレベルからして高いわね……」
変身したことも驚きだが、それだけに目を奪われているわけにはいかない。実際普通に戦っていた前半の時点で、既にゼファードル側では勝負になってないのだ。それに対してアザゼルは、
「サイラオーグは自身も含め強くなるために尋常じゃない修練を積んでいるチームだ。それだけじゃねぇ。あのスクラッシュドライバーやボトル……というか戦兎」
「ん?」
突然問いかけられた戦兎は顔を上げると、
「スクラッシュドライバーってのは簡単に作れるのか?」
「そうだな……匙のスクラッシュドライバーをメンテナンスした時に作りも見たけど、設計図とそれを読みといて作れる腕さえあれば余程のポンコツ技術者じゃない限り作ること事態は可能だと思う。ただ結局スクラッシュドライバーは理論すら完成してなかった物。つまり最初に完成させたやつがいるはずなんだけど……」
それが誰なのか分からない、そう戦兎は言う。そんな中龍誠は、
「しかしライダーシステム持ってて鍛えててしかも部長と同じ滅びの魔力持ってるんですよね?これ相当ヤバイんじゃ……」
「滅びの魔力は無いわ」
え?とリアスの言葉に、龍誠がポカンとすると、
「サイラオーグは滅びの魔力だけじゃない。普通の魔力も殆ど無いわ」
「え?そんなことあり得るんですか?」
偶然だろうけどね……とリアスが言うには、サイラオーグの弟は滅びの魔力を持っているらしい。だがバアル家は悪魔の序列で一位の家。そこの次期当主が家の魔力はおろか普通の魔力すら殆どない。そんなことが許されるはずはなく、かなり辛い幼少期を過ごしたらしい。
「当時のサイラオーグは次期当主権利を奪われ、自身の母と一緒にバアル家の端にある小さな家で暮らしていたらしいわ」
その際にはグレモリー家でサイラオーグ共に引き取ると申し出たらしい。だが返答はノー。バアル家にとっては外に出すことも許したくない。存在そのものが恥らしかった。それに、
「どうもバアル家には私やお兄様が嫌われててね」
それはそうだろう。そう答えたのはアザゼルで、
「サイラオーグの弟もこれが中々のヘッポコらしくてな。滅びの魔力が使えはしてもそこまで強力なものじゃないらしい。だがサーゼクスやリアスはどうだ?片や魔王に、片や最上級悪魔に至ると言われるほど才児。まさか他家の方が才能に恵まれるなんざバアル家のプライドが許さねぇよ」
成程ねぇ……と頷きつつ戦兎は、
「でも今は次期当主でしたよね?」
「ある時からサイラオーグは己を鍛えたのよ。魔力がないなくても肉体があるってね。その末に弟を倒して、次期当主の権利を取り戻した」
リアスはそう答えながら言葉を続ける。
「サイラオーグは強敵よ。若手悪魔No.1とかそういうのを抜きにしてもね」
それにアザゼルは頷き、
「つうわけでこれからの特訓メニューも考えておくからよ。お前ら、気を抜くんじゃねぇぞ」
そう言って立ち上がると首をポキポキ鳴らす。
「これからなにかあるんですか?」
「職員会議だよ。ったく、めんどくせぇなぁ」
祐斗の問いにアザゼルはため息を吐く。とは言うものの、アザゼルは駒王学園の化学の教科を担当している教師で、これが案外評判が良い。
何気に面倒見が良い上に、教え方はうまく、更にイケメンなので女子に人気がある。だが男子に嫌われているかと言うと、ノリが良いので男子からも人気が高い。そのためか化学の成績が上がった生徒が多かったりする。
もしかしたら案外堕天使の総督よりも、教師の方が天職なのかもしれない。なんて笑うと、本人も満更ではなかったりする。
「さぁて、行くとするかぁ」
そう言ってアザゼルが部室を出ていくと、皆はそれぞれくつろぎ始めた。
朱乃にお茶を貰い、ゲームをしたりお菓子を食べたり寝たり本読んだり……そんな風に思い思いに過ごそうとしていると、
「ん?」
戦兎が折角ギャスパーとゲームに興じようとしていた時、突然床に現れた魔方陣に目をやる。すると、それを見た祐斗は呟き、
「アスタロト家の家紋?」
それと同時に魔方陣から現れたのは……アーシアにプロポーズをしたディオドラ・アスタロトだった。