ハイスクールD×D Be The One   作:ユウジン

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前回までのハイスクールD×D Be The Oneは……

戦兎「突如現れた謎の怪人に苦戦する俺と塔城。だがそこに助けに来てくれたのは本郷猛と名乗る男だった」
龍誠「いいなぁ~。俺がサタンレッドと戦ってるときに……」
戦兎「サタンレッド?」
龍誠「まぁ……色々あってな」
戦兎「お前も大変そうだな……ってそういう感じの59話スタート!」


キメラ

「うん……?」

 

目を覚ますとそこは見たことのない部屋の天井だった。

 

「ここは……」

「目を覚ましましたか?」

 

君は?と本郷が見ると、そこには朱乃がちょうど部屋に入ってきたところだった。

 

「私は姫島 朱乃と申します。そしてここは私達が住んでいる家の一角。それと体を少し見ましたが随分無理をされているようですね。損傷を溜め込んでいたみたいですよ?」

「うむ……」

 

そう言いながら本郷は少し肩を回す。治療が適切だったためか、体が軽い。そう想いながらいると、朱乃が服を渡してくれる。

 

「ここにある服では明らかにサイズが合わないので近くの店で適当に買ったものですが……」

「いや、何から何まですまない」

 

朱乃が渡してきた服を受け取りながら本郷は、自分の体を確認する。

 

特に体が少し楽になったこと以外は怪しいところはない。それでも彼女には申し訳ないが、警戒は続けようと決めていた。

 

得たいの知れない自分をこうやって家に上げ、治療すると言うのは少々話が上手すぎるとも言えなくない。

 

勿論目を見て、悪者でないとは思うが、それでも怪しいのは変わらない。

 

そう思いつつ朱乃が渡してきた部屋を出ると同時にベットを降りて服を着替える。

 

(それにさっきのは……)

 

本郷が思い出すのは先程見た赤と青の不思議な姿をした人物。声音的に男だと思うのだが、何者だったのだろうか。

 

そう思いながら部屋を出ると、ドアの前に朱乃が待っていて、

 

「此方です」

 

と言って案内してくれた。そんな中、本郷は困惑していた。この家はかなり広い。彼女の家なのだろうか?いや、それは考えにくい。明らかに若すぎる。となれば相当な家柄のお嬢様と言った所だろうか?確かに若いが上品さを感じた。そんなことを考えつつ本郷はついていくと、朱乃が扉を開ける。

 

そこはリビングになっており、本郷が入るとそこには既に戦兎や小猫に加え現在不在のリアスと龍誠以外のグレモリーチームがいた。

 

アザゼル先生?連絡いれたのだが、連絡がつかなかった。大方可愛い姉ちゃんのいる店にいって呑んだくれてるのだろう。いざってときに役に立たない男である。

 

「大丈夫ですか?」

 

戦兎はそう言いながら立ち上がり声を掛けると、本郷は先程の赤と青の姿になっていた人物だと言うことに気づいた。

 

「君はさっきの赤と青の子か。声で何となく若そうだとは思っていたが」

 

そう言いながら本郷は周りを見る。皆若い。精々高校生か?と思いながら小猫を見て、

 

(小学生?いや、中学生か?)

「む……」

小猫はムッとする。それに気づかず本郷は、いったいこれはどういう集まりなのかと悩んでいた。

 

だがそれよりも、

 

「俺はどれくらい寝ていた?」

「4時間ってところです」

 

そうか、と本郷は言いながら朱乃にジャケットとバイクはどこか聞く。

 

「ジャケットはそこに干してありますしバイクは玄関まで運んでありますが……」

「そうかすまない。全部片付けたら改めて礼に来る」

 

そう言って出ていこうとする本郷を、戦兎と祐斗が慌てて止めた。

 

「ま、待ってください。まだ倒れてからやっと目を覚まして直ぐですよ?まだ休んでおかないと」

「いや、余り時間がない。アイツを止めねば……ショッカーの遺産を動かさせるわけにいかない」

 

戦兎は止めつつ本郷に問う。そもそもショッカーとは何なのかと。それを聞かれて本郷は止まり、

 

「そうか、そうだな。君は知る権利があるか……」

 

本郷はそう言いながら戦兎を見る。

「ショッカーは元々第二次世界大戦時、当時のドイツ……いや、ナチスが秘密裏に人体を改造し、人間とは別の生物の遺伝子を組み合わせることで常人を遥かに越えた改造人間を作り出す研究を受け継ぎ、そこから離反した者達が改造人間を作り出し、それらを従えて世界征服を企んでいた。改造人間は基本的に一般人を拐って作られていてね。私も元々は拐われたが、脳を改造されてショッカーに忠誠を誓わされる前にある人物のお陰で逃げ出せた」

 

それからずっと戦い続けてきたらしい。ショッカーを壊滅させ、その後も生き残りの野望も打ち砕き続けてきた。だがその中、先日ショッカーの古い研究所を見つけた際に、この駒王町にショッカーの研究所があり、そこにはショッカーが万が一に備え作った切り札があるらしい。

 

「何としても止めなければならん」

「ですが倒れるほど消耗してると言うのに無茶なんてしたら……」

 

そう割って入ってきたのは、この場における最年長者であるロスヴァイセだ。そんな彼女に本郷は、

 

「あぁ、無茶も良いところだ。だがここで止まったら私は一生後悔する。それにショッカーは最早避けられない因縁なんだ。ショッカーがいる限り、戦いをやめるわけにいかない」

 

そう言って壁に掛けられたジャケットを本郷は取ると、

 

「すまない。心配を無下にしてしまって……だがもう何十年もこうして生きてきてしまったせいでな。もう他の道は考えられないんだ」

 

そう言い残し、本郷は部屋を出ていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

本郷がバイクを山の麓で降りて、山を登りはじめてから暫く経った。人の手入れがされた様子はなく、森の中と言うよりは樹海に近い位木が生い茂っている。

 

だがそれでも本郷は迷わず進んでいく。前に見た書類が示していたのはこの辺りだ。それに研ぎ澄まされた本郷の直感がこの先に何かあると告げていて、その感覚を信じ本郷は草木を掻き分けながら進んで行く。

 

そこに、

 

「むっ!」

「イーッ!」

 

そこに飛びかかってきたのは黒い全身タイツの男達。その不意打ちを本郷は避けながらカウンターを叩き込み、一度距離を取るとそのままジャケットの前を開き、ベルトを露出させる。

 

「ライダー……」

 

腰を落とし、気合いを込めて本郷は叫んだ。

 

「変!身!」

 

風が体を覆い本郷の姿が変わる。そして手に風を纏わせ、次々と敵を蹴散らしていく。

 

「フン!」

 

そして拳を相手に叩きつけて吹き飛ばし岩壁に叩きつける。すると一部が崩れ、

 

「これは……」

 

と本郷が見てみると、そこは地下に向かって延びる通路があった。

 

「成程、岩壁を模した扉で隠していたのか」

 

一目では気づかないほど精巧だったが、こうなっては意味がない。と言うわけで本郷は少し早足で歩いていく。

 

そうして暫く歩くと、今度は開けた場所に出た。そこは研究室か何からしく、謎の薬品に漬け込まれた動植物が棚にギッシリ置いてある。

 

すると、

 

「っ!」

 

突如背中から何者かに吹っ飛ばされ、本郷は壁を破壊しながら隣の部屋に転がり込む。

 

「誰だ!」

 

本郷は素早く立ち上がると周りを見る。だがどこにもいない。と思ったとき、

 

「ぐっ!」

 

横から殴られ、本郷はふらつく。

 

「見えない敵か……」

 

拳を握って構えるが、音もなく忍びよって攻撃してくる相手に、本郷は苦戦を強いられる。

 

「どうした本郷 猛。随分苦戦しているじゃないか。これではせっかくの切り札を切る必要がないな」

「やはりお前もいたか……」

 

奥の部屋から出てきたのは、死神博士を恩師と呼ぶ男だ。

 

それを見た本郷は、とにかくまずは見えない敵だと身構える。だがその時、

 

「ぐっ!」

 

胸に走る激痛に本郷の動きが止まる。それを見て男は、

 

「くく、やはりお前はもう戦える体じゃないようだな。まぁ当然か、何年も戦い続け、使えなくなった部分を再改造して強引に戦っている。だがそれにも限界があった。技の本郷と呼ばれて恐れられた貴様がそのようにブクブクと肥大化した姿になっているのは良い証拠だ。今の貴様は昔のような技で戦えない。単純なパワーに頼らなくては戦うことも出来ないのだろう?」

 

そう男が言う間にも、見えない相手は本郷に攻撃を加えていく。

 

「がはっ!」

 

地面を転がり咳き込む本郷。そこに音も気配もなく来る相手に、

 

「あそこです!」

「よし!」

 

突然の銃声と共に多数の魔力弾が炸裂した。

 

「君達は……」

「大丈夫ですか?本郷さん!」

 

そう言って駆け寄ってきたのはアザゼルと連絡がついた時用に、留守番役

を受けた朱乃以外の戦兎達で、突然の登場に男も眉を寄せる。

 

「その声は……確かさっき蜘蛛の怪人に苦戦していたやつか?」

「正解。流石に放っておくわけにもいかないからな」

 

何人こようが変わらん。と言う男に戦兎は、ビルドドライバーを装着しながらそれはどうかなと言いつつボトルを振る。そして、

 

「さぁ、実験を始めようか」

《サメ!バイク!ベストマッチ!Are you ready?》

「変身!」

《独走ハンター!サメバイク!イェーイ!》

「ちっ、相手してやれ!」

『イーッ!』

 

黒タイツの男たちの相手を祐斗達がする中、サメバイクフォームに変身した戦兎は、まず見えない相手を探す。

 

サメにはロレンチーニ器官と言われるものがある。これは微弱な電流を関知できる器官で、これを利用すれば姿を消している相手にも、

 

「そこだ!」

 

ブオン!っと何もない場所に向けて戦兎が駆け出すと蹴りを放つ。

 

ガツッ!と派手な音をたてると同時に、戦兎に蹴られた衝撃で透明化が解けたらしい。ついに姿を現した敵は、爬虫類系……カメレオン?と思われる。

 

だが戦兎の攻撃が然程効いてはいないのは前回の蜘蛛と同じだ。首をコキコキ回し、戦兎を見る。しかし、

 

「成程爬虫類ね。なら攻略法が見えたぜ」

 

と言いながら戦兎はドリルクラッシャーをガンモードにし、冷蔵庫フルボトルを挿す。そして、

 

「勝利の法則は決まった!」

《Ready Go!ボルテックブレイク!》

 

ドリルクラッシャーの銃口から、冷気を放出。それに晒された相手は、全身がカチカチに凍った。

 

「爬虫類は寒さに弱い。っていうか寒いと活動を停止してしまう。生物学は専門外の俺でも知ってることだぜ?」

《ゴリラ!ダイヤモンド!ベストマッチ!Are you ready?》

「ビルドアップ!」

《輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!イェーイ!》

 

素早く姿を変えた戦兎は、レバーを回し、

 

《Ready Go!》

 

ゴリラの腕を掲げるとダイヤモンドでコーティングし、氷付けの敵に向かって走り出す。すると、

 

「くっ……」

「あ!まだ!」

 

と光を当てていたアーシアが叫ぶが、本郷も走りだし拳に風を風を纏わせて、

 

「ライダー!」

「おぉおおおお!」

 

戦兎と本郷は並び、同時に飛び上がる。そして最後に、

 

「パンチ!」

「はぁ!」

《ボルテックフィニッシュ!》

 

ガギィン!と火花と共に二人が同時に放ったパンチが相手を吹き飛ばし、バラバラに砕け散る。

 

「ぐぅ……」

「本郷さん!」

 

だがそのまま膝を本郷は付きながら苦悶の声を漏らす本郷に、戦兎は駆け寄り、

 

「大丈夫ですか!」

「あぁ……だがなぜここに?」

 

さっきもいったように放っておけませんからね。と言う戦兎に、本郷は首を振る。

 

「帰りなさい。ここは危険すぎる。君達が来るべきところじゃない」

「そんな戦いの最中に動けなくなるような人が来るような所でもないですよね?」

 

む……と戦兎の返しに本郷は詰まる。そんな中祐斗が、

 

「あれ?さっきまでいた男がいない?」

『え?』

 

そう言われて周りを見ると確かにさっきまでいた男がいない。それを確認した本郷は立ち上がり、

 

「すまない。私はもう行く。君達はここで帰るんだぞ」

 

と言って奥に向かう。それを見ながら戦兎たちは顔を見合わせ、

 

「帰るわけにもいかんよな?」

 

戦兎の言葉に、皆もここまで来たらと同意するように頷く。それを見て、

 

「んじゃいきますか」

 

と走り出す。一方奥では、

 

「はぁ……はぁ……」

 

本郷は荒く息を吐き、奥にまた更に広がる研究室に突入していた。

 

「ようやく来たか。本郷猛」

「貴様……」

 

奥でパソコンのキーボードを叩き終えた男は本郷を見る。

 

「いやはや、もしやさっきの改造人間で倒せてしまっては折角の準備が台無しになるかと心配したが、その心配はいらないようだな。先程の少年たちはどうした?」

「帰らせた……」

 

と本郷がいっている間に、後ろから走ってくる音が聞こえてきた。

 

「ふふ、随分優しい子供達じゃないか」

「くっ」

 

なぜ来たんだ……そう本郷は思わず呟くがそれよりも、

 

「その機械はなんだ?」

 

本郷が言うように、目の前には多数のケーブルに繋がれたカプセルのようなものが鎮座している。その中には、どこか自分の変身時の姿に似ている顔が見えた。

 

「昔な、お前と同じバッタの改造人間を作り出した。お前を殺すためにな。覚えていないか?ショッカーの本拠地に乗り込んで助けようとした男が居ただろう?寸でのところで助けられなかったようだがな。だが博士は考えたのだよ、どうにか改造用の人間を持って逃げ出せたが、お前の想像以上の成長を見て、このまま殺すために同じので良いのかと。確かにバッタの改造人間は想像以上の戦果を出した。お前自身でな。だがそれはダメだ。何故ならお前は自らの意思をもって戦うためか戦闘経験と言うものを蓄積していく。同じでは無理だ。だがお前に勝る改造のモデルも見つからない。そこで考え出されたんだ。一つでダメなら複数はどうなのかと」

「なっ!まさかそれは!」

 

そう、これは複数のモデルを組み込んだ改造人間だ。そう男は言う。だが、

 

「しかし、ここで新たな問題が起きた。一人の人間に複数の遺伝子を組み込むと、耐えられず体が崩壊してしまうのだ。博士は考えた。本郷が助け損ねたこの男の強靭な肉体ならどうかとな」

 

男の言葉と共に、カプセルが開かれ中から男が出てくる。顔は本郷の変身時と瓜二つ。だがその体は数々の生き物の特徴をごちゃ混ぜにしたような、そんな醜悪な見た目だった。だがそれ以上にその場に駆けつけた戦兎たちの目を見張るものがある。

 

「強靭な肉体。お前もだが肉体強度だけでいえばこの男の方が上だろう。とは言えだ。これでもまだ足りない。予想通り強靭な肉体で崩壊はしなかったものの今度は多数の遺伝子を組み込んだことで、力の制御できなくなってな。さてどうしたものかと博士が思案していたところに、ある種族と出会った」

 

強大な力を持つ化け物……そういい男が目覚めさせた怪人を見る。本郷をそれを見て一番最初に気になったのは、

 

(あの背中の羽は……)

 

だった。羽を持つ改造人間は居た。だが、その背中から生えている羽はどの種族にも似ていない。だが戦兎たちは知っていた。そう、あの羽は間違いなく。

 

「悪魔の羽?」

 

正解だ、男はそういう。

 

「悪魔。正直半信半疑だったが、死神博士はそれと接触し、遺伝子を取った。そしてこいつに取り込ませるか……ってところで貴様に倒され、この研究所は隠されたまま放置されていたのだ。だがここにはこの改造人間と悪魔の遺伝子がきちんと残って冷凍保存されていた。正直に数十年前の技術での保存状態だからな。綺麗かどうかは謎だったが、保存当時とほとんど変化はなかった。なので当時の研究データを漁り、ようやく完成させたのだ。そうだな、名付けるならば……様々な生き物の遺伝子を組み込んで悪魔の遺伝子で安定させた改造人間。キメラとでも呼ぼうかな?」

 

男はそう言いながらキメラ!と声をかけた。

 

「さぁキメラよ!本郷猛を倒せ!おっと殺すなよ?この男には自分の弱さを味わってもらう。そうだな、手足を折った後に後ろの小僧どもを殺せ!そして外に出て暴れてくるが良い。必死に守ってきた世界を一瞬にして阿鼻叫喚の世界にしてやべ!」

『え?』

 

 

男は楽しそうに叫んでいた。だが次の瞬間、キメラは男の首を手刀で撥ね飛ばしたのだ。

 

「俺に命令するな」

 

そう言いながら、キメラは本郷を見る。

 

「ようやく自由だ。ずぅっと眠らされててな、やっと解放されたよ」

 

キメラはゆっくりとした足取りで歩み、

 

「さて、久々のシャバの空気を味会わせてもらうか」

「待て」

 

勝手に行こうとするキメラを、本郷は止める。

 

「何処に行く気だ」

「どこでも良いだろう?やっと自由になったんだ。好き勝手にする。そうだな、手始めにこの力を全力で使ってみるってのはどうだ?」

 

させると思うか?と本郷の手に力が籠る。だが、

 

「お前に許可は求めていない」

「がっ!」

 

軽くキメラは本郷を突き飛ばした……ように見えた。だがそれは凄まじい衝撃となり、本郷を壁に叩きつけた。

 

「本郷さん!」

 

戦兎はそれを見て走り出しながら、ラビットタンクスパークリング缶を出して振ってから、ビルドドライバーに挿す。

 

《ラビットタンクスパーク!Are you ready?》

「ビルドアップ!」

《シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イエイ!イエーイ!》

 

泡を放出しながらキメラとの間合いを詰めて腕の棘で突く。だがバキィ!と火花を散らすだけで、微動だにしない。

 

「なっ!?」

「邪魔だ」

 

ブン!と腕を振るキメラの一撃を、戦兎は咄嗟に下がって避けるが、その風圧で吹っ飛びながら地面を転がる。それと入れ替わるように、ゼノヴィアと祐斗が走り込み剣を振る。だがキメラは両腕から一本ずつカマキリの鎌のようなブレードを出すと、二人の剣を止めてしまう。

 

「何て力だ……」

「くぅ!」

 

二人は必死に押すが、ビクともしない。そこに、

 

「はぁ!」

 

と子猫が横っ腹を殴ったが、

 

「つぅ……」

 

そう言って後退りながら拳を抑える。

 

「止まれぇ!」

 

今度はギャスパーだ。流石にギャスパーの停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)は効いたらしく、動きが封じられてキメラは少し驚く。そこに祐斗とゼノヴィアは離れてたタイミングを見計らって、

 

「フルバースト!」

 

ロスヴァイセの魔方陣をこれでもかと展開しまくって一気に放出。爆発と閃光で皆が目を塞ぐが、その中をキメラは避けることもなく進んできた。

 

「これで全部か?」

「そんな……」

 

ロスヴァイセが唖然とする中、キメラはまた一歩、歩を進めようとしたその時、

 

《オクトパス!ロケット!Are you ready?》

「ビルドアップ!」

 

キメラの周りを突然墨の煙が包み、視界を塞ぐ。

 

「皆一旦逃げるぞ!」

 

と言う戦兎は墨を放出するのを一回止めて、ロケットの腕で飛び上がるとそのまま天井をぶち抜いて脱出する。

 

それを皆は追うように悪魔の羽を出して飛び上がり、祐斗とゼノヴィアは本郷を抱えて飛んでいく。

 

「ふん!」

 

そんな中、キメラが腕を払って墨煙を吹き飛ばすが、既に戦兎たちは脱出済みだ。誰もいない。それを見て、

 

「逃げたか、まぁ良い。行く……」

 

行くか、そう言い掛けてキメラは足を止める。視界がボヤけ、足が進まない。

 

「眠いな……仕方ない。休憩してから行くか」

 

そう言ってその場に大の字になると十秒も経たずに寝てしまう。

 

一方その頃、

 

「追ってきては居ないな」

 

戦兎はそう言いながら、携帯を見る。先程脱出するときただ逃げた訳じゃない。逃げる直前にキメラに発信器を着けておいたのだ。これで再戦するとき探しやすくなる。

 

「うぅ……」

 

その中、本郷は一人呻き声を洩らす。その意識に浮かぶのは、一つの記憶だった。

 

(そうだ、思い出した)

 

あのとき救えなかった男。あとで知ったその男の名前は、

 

(一文字……隼人)


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