ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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今年最後の投稿。

戦闘描写があっさり過ぎるのは作者の文章力が問題な為。
ダクソ本編でもイザリス個体とセンの古城個体を比べ、今回はセンの古城個体をベースにしています。


楔のデーモン

「楔のデーモン……か」

 

『そうだ。

 しかも2体か……面倒な事この上ないな』

 

「然様ですな。

 楔のデーモンが剣狼殿の言う通りならば、まずこちらの被害は免れますまい」

 

「しかも頭が無いと来た。

 首を落として終いと言うわけではないの」

 

「見た感じ全身金属質よね。

 デーモンと言うよりはゴーレムみたいな感じかしら」

 

 部屋……恐らく礼拝堂として使われていた場所を、入り口の縁から中の様子を見て各々が意見を言い合う。

 見るからに手強そうな相手であり、感覚器官が無いからか入り口の付近で話している彼等に反応していない。

 地下水道は隅々まで探索してゴブリンは居なかったので、このまま無視して帰還して報告をし、剣の乙女にこのことを報告しても良いのだが……。

 

「しかし、明らかに奴等の後ろにあるあの大鏡、あれが今回の騒動と関係していそうですな」

 

「出来る限り調査はした方が良いわよね。

 そのためにはあいつらを倒すしかないのだけど」

 

 妖精弓手は剣狼の方を見ながら言う。

 

『……奴等が使う鉾には魔法効果も付与されている。

 加えて遠距離で放たれる電撃魔法は出が速く威力は高いが、弾速は遅い』

 

「威力としてはどれくらいなの?」

 

『そうだな……何の魔法耐性が無ければ、熟練の戦士でも痛打になる程度は威力はある。

 だが先ほど言った通り弾速は遅いゆえ、あくまで遠距離攻撃に対する反撃程度に考えるといいだろう。

 接近すれば電撃魔法はほとんど使わんからな』

 

「注意すべきはやはり鉾による攻撃ですかな」

 

「動きはトロそうよね。片足も無いし」

 

 妖精弓手が楔のデーモンの欠けている左足を見ながら言う。

 

『確かに普通の移動は遅い……だが、奴等は跳躍して攻撃してくる』

 

「距離は?」

 

『およそ30フィートほどだ』

 

「ちょっ、あそこから真ん中まで飛んでくるって事じゃない!」

 

『まあそうなる。

 そして奴等の飛び掛かり攻撃の威力は……あそこで遺体を晒しているので分かるだろう』

 

 剣狼が言いながら鼻先で示すと、そこには胴体の真ん中が押しつぶされた魔物の姿があった。

 

「あれは……名前を言ってはいけない類の魔物ですかな?」

 

『吾輩は初見なのだが、そう言った輩も居るだろう。

 この地はまだまだ見慣れないものが多い……」

 

「それで、どう対処する?」

 

 ゴブリンスレイヤーは剣狼にそう聞く。

 未知の魔物に関する情報は聞いたが、ここは対処法を知っている剣狼に聞くのが一番だろうと言う判断からだ。

 

『見ての通りあの魔物ですら一撃で屠る威力がある。接近戦では注意しろ。

 吾輩は左のを相手にする。右はゴブリンスレイヤーと女戦士、そして蜥蜴僧侶殿で何とか持たせてくれ、特に蜥蜴僧侶殿は無理はするな』

 

「分かった」

 

「師父の期待に応えられるように致します!」

 

「回復役が居なくては、大怪我を治せませんからな」

 

『後衛はとにかくありったけの支援攻撃を頼む。

 ただ、電撃攻撃に関しては一応注意してほしい。

 鉱人道士殿と女魔術師は魔術で、何とか先制して痛打を与えてほしい。

 弓手殿は術師たちの援護を』

 

「ほい来た!」

 

「任せて!」

 

「分かったわ」

 

「あ、あの私は!?」

 

 女神官が剣狼に問う。

 

『女神官殿は……すまないがお主の≪聖壁≫では、あれの物理攻撃は防げぬ。

 最初の≪聖壁≫(プロテクション)を出した後は、無いとは思うが後方の警戒をしてくれまいか?』

 

「わ、分かりました!」

 

 剣狼が女神官の返事を聞いてから自らの大剣を抜く。

 それに続いて各々武器を取り出す。

 

「さぁて、仕事だ仕事だ土精ども、砂粒一粒転がり回せば石となる!≪石弾≫(ストーンブラスト)!」

 

 鉱人道士が投げ込んだ一粒の石が大玉の岩となり、楔のデーモンへ向けて射出される。

 巨石は楔のデーモンに命中するが、持ち前の強靭な表皮により大半の威力が阻害されてしまったが、その後ろから蜘蛛の網のようなものが楔のデーモンに巻き付く。

 

≪蜘蛛網≫(スパイダー・ウェブ)!」

 

「よぉしよぉし!これで奴さんの動きは鈍くなるはずじゃ!」

 

 強靭な蜘蛛の糸を魔法で再現された魔力の糸は、楔のデーモンの上半身に絡みつきその動きを阻害する。

 だが楔のデーモンの剛腕は予想以上であり、その糸ですらすぐさま引き千切られ、2体が持つ鉾の先端に光が集まる。

 

『電撃!』

 

「散れ!」

 

 剣狼の言葉にゴブリンスレイヤーが叫ぶと、前衛は各自の判断で分散し、後衛は念を入れて入り口の縁に隠れる。

 そして放たれた2条の電撃は≪聖壁≫に命中、1発目でヒビが入り、2発目で≪聖壁≫が打ち破られる。

 

「ああ!?」

 

「な、なんて威力!」

 

「オーガの投石ほどじゃないけど、こんなの食らったらひとたまりも無いわよ!」

 

「じゃが石壁を貫くほどではないようじゃな!

 このまま縁から援護するぞ!」

 

 後衛でそんなやり取りをしている間に、前衛であるゴブリンスレイヤー達は楔のデーモンへの接近し終えた。

 

「っふ!」

 

 先手はゴブリンスレイヤー、短剣で楔のデーモンを斬り付けるが、その感触は岩に刃を当てたように固く、切り傷を付けられなかった。

 

「っく、これでは通じんか」

 

「なら私に任せてください!はああぁぁぁ!」

 

 欠けた刃を見ながらつぶやくゴブリンスレイヤー。

 彼に続いて裂帛の叫びを上げながら女戦士は、両手持ちしたクレイモアを振りぬく。

 そしてこの一撃は楔のデーモンへ袈裟懸けに振りぬかれ、その身に深い切り傷を残す。

 

「通じた!」

 

「背後がお留守ですぞ!」

 

 女戦士の攻撃に気を取られたデーモンに、蜥蜴僧侶が背後から斬り付ける。

 竜牙刀は女戦士のクレイモアほどではないものの、デーモンに痛痒を与える。

 

「流石に硬いですな……っ!」

 

 蜥蜴僧侶がそう言うと同時に、楔のデーモンが身を捩ると右足と尾を使い、勢いよく垂直に跳躍した。

 

「跳んだ!」

 

「離れろ!」

 

 前衛がその場から散ると楔のデーモンは空中で器用に姿勢を変え、ゴブリンスレイヤーに狙いを定めると、その手に持った鉾を彼に振り下ろす。

 振り下ろされた鉾を見てゴブリンスレイヤーは後ろに飛び退るが、楔のデーモンは鉾の軌道を変え、ゴブリンスレイヤーの胴を鉾の先で挟みこむ。

 

「!」

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 女神官の叫び声と共に、ゴブリンスレイヤーはそのまま何度も叩き付けられ、最後は会衆席へ放り投げられた。

 

「がっはっ」

 

「小鬼殺し殿!」

 

「ここは私が抑えます!

 僧侶さんは彼を!」

 

「頼みましたぞ!」

 

 血を吐くゴブリンスレイヤーの元へ蜥蜴僧侶が駆け出す。

 そして女戦士は楔のデーモンと1対1で相対する。

 

(銀等級のゴブリンスレイヤーさんでも瀕死になる攻撃、あんなのを私が食らったらそれこそ……。

 でも、師父と一緒に歩むんなら!)

「ここで立ち止まる訳には、行かない!」

 

「戦士の嬢ちゃん!援護行くぞ!」

 

「巻き込まれないでよ!」

 

 女戦士がクレイモアを構え直すと、背後から声を掛けられその場から横へ跳ぶ。

 女戦士の退避が終わると、楔のデーモンに巨石の≪石弾≫と≪火矢≫が撃ち込まれる。

 今度の巨石は先端を鋭く尖らせられており、楔のデーモンの胴に命中すると穴を開け、そこへ≪火矢≫が命中し、予想外の痛打に楔のデーモンが思わずよろける。

 

「そこぉ!」

 

 そして女戦士がクレイモアを焼けた穴にその刃を差し込み、そのまま上へと切り上げる。

 じわじわと傷口が広がるのを感じて焦ったのか、楔のデーモンが鉾を女戦士の肩に当てる。その威力はゴブリンスレイヤーへ与えたモノよりはるかに衰えていたが、それでも女戦士が肩から骨が異音を上げるほどの威力を持っていた。

 

「っつっああああああぁぁぁ!」

 

 だがそれでも、女戦士は痛みを感じながらも力を振り絞り、楔のデーモンの胸から上を切り裂く。

 そして楔のデーモンは光と共に崩れ落ち、その場にはひと欠片の金属が残ったのだった。

 

 

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 女神官の叫び声を聞き剣狼は横へ視線を向けると、ゴブリンスレイヤーが楔のデーモンの鉾で挟まれ、床に叩き付けられている所だった。

 

――あれはいかん!――

 

 屈強な戦士でも瀕死になる攻撃を彼が食らえば、そのまま死亡してしまう可能性があった。

 剣狼と相対していた楔のデーモンは、大剣で何度も切り付けられて動きが鈍くなっていたが、剣狼も鉾が何度か掠り美しい毛並みが乱れている。

 

――悪いがこれで決めさせてもらう!――

 

 剣狼が跳躍し、必殺の一撃を楔のデーモンへ叩き付ける。

 結果、剣狼の一撃はデーモンの体を唐竹割の様に切り裂き、楔のデーモンは光と共に消滅した。

 

――思ったよりも手間取ったな……向こうも終わったか――

 

 もう片方の楔のデーモンを見れば、そこには女戦士の一撃で光に包まれ、消滅するもう1体の楔のデーモンの姿があった。

 消滅したのを見届けた女戦士は、肩を抑えてその場で膝を突く。

 大怪我を負ったであろうゴブリンスレイヤーも、蜥蜴僧侶の≪治療≫(リフレッシュ)で何とか立ち上がるまで回復したようだ。

 

「ゴブリンスレイヤー殿、大丈夫ですかな?」

 

「ああ……まだ少し痛むが、問題ない」

 

「念の為、地母神の神殿で見て貰いましょう。

 後遺症が残ったら、あの人も悲しみます」

 

「……ああ、そうだな」

 

 ゴブリンスレイヤーが少し考えた後、女神官にそう返す。

 その光景を剣狼は内心微笑まし気にし、改めて女戦士の元へ向かう。

 ちょうど彼女も治癒の水薬を飲み終えた所だった。

 

『よくやった』

 

 駆け寄りながら言うと女戦士が剣狼へ顔を向け、痛みに歪んでいた表情を抑え込みながら笑う。

 

「いえ、師父は一人で倒したのに、私は皆に手伝って貰ってやっとですから」

 

『混沌の廃都の個体程ではないが、それでもあの楔のデーモンを倒したのだ。

 今の自分の実力に自信を付けても良かろう』

 

「ですが……これでは、まだ師父の隣で歩くには不十分です」

 

 悔しさを滲ませながら言う女戦士に、剣狼はフンスッと溜息を吐くと彼女の怪我をしていない方の肩に顎を載せる。

 

『そう急ぐこともあるまい、吾輩は……妖精弓手を除いてお主たちよりも長く生きた存在、そして一昨日も言ったがお主が吾輩に師事してまだ1季節だ。

 どっしりと城壁を築くかの如く、着実に且つ丁寧に積み重ねばならん。

 ……吾輩も気持ちが分からんわけではないしな』

 

 剣狼が思い浮かべる親友の最期の姿。

 自らが力不足なばかりに、親友にとって毒である深淵から守る大盾を自分の為に使い、そして深淵の闇に墜ちた親友を戦友に打ち取られたと聞いた時の憤りと哀しさ、今思い浮かべてもあの時の自らの未熟さに腹が立つと同時に、目の前の少女に同じ思いをさせまいと誓う。

 

「師父……」

 

『時間はまだある。

 お主が十分に成熟するまでまだ5年もあるのだ。

 人間にしてみれば成長するには十分に長い期間と言える。

 だからそう生き急ぐな』

 

「……」

 

 老練な剣狼の言葉を女戦士はただ黙って聞いていた。

 その時こちらに歩み寄る一党の皆の姿があった。

 

「そちらは大丈夫か?」

 

『左肩を負傷したようだ。

 治癒の水薬を飲んだが一応見てやってくれぬか』

 

「あい分かった。

 戦士にとって体は商売道具ですからな」

 

「では、触診は私に任せてください」

 

 女戦士の事を治癒役の二人に任せ、剣狼はゴブリンスレイヤーに近寄る。

 

『随分と酷くやられたようだな』

 

「ああ……、だが感じは掴めた。

 次は食らわないようにする」

 

「鎧、ボコボコにされちゃったわね」

 

「じゃがあれだけの攻撃を受けて、よくそれで済んでおるもんじゃ」

 

「……ひとまずここの調査は後回しにしましょう。

 ゴブリンスレイヤーさんも怪我は治ったけれど、内臓までダメージを受けてないとは言い切れないし」

 

「いや、俺はまだ……」

 

『ゴブリンスレイヤー殿、まだ行けるはもう危ないだぞ?』

 

 剣狼の声を聞き、ゴブリンスレイヤーは彼を見る。

 しばらく兜越しに視線が合うが、先に折れたのはゴブリンスレイヤーだった。

 

「そうだな……」

 

「よし、じゃあ引き上げるかの!」

 

「そうしましょ。

 さっきのでどっと疲れたわ……」

 

「剣狼殿もご苦労でございましたな。

 拙僧も貴重な経験が出来もうした」

 

『そちらこそ、あれは郷里ではかなり強力な部類のデーモンだ。

 あれより強力なのはそう居ないが、あれを下せたのならば大抵のモノは相手にできると思ってよいと思うぞ』

 

「師父の故郷ってどんな魔境なんですか……」

 

『混沌の苗床と言うデーモンからああ言うのが這い出てくる場所だが』

 

「流石に嘘ですよね?」

 

『ふふふ……』

 

「その含み笑い止めなさい!ほんとにあんたの故郷どうなってるのよ!?」

 

『それは今言うわけにはいかんな』

 

 各々思い思いに言い合いながら、作成した地図を頼りに来た道を引き返して行った。




さて今年も残すは後1日となりました。
今年も色々と慌ただしい一年でしたが、そこそこ健全に過ごせたと思います。
来年は良い年である事を祈りつつ、今年3か月間お付き合いいただきありがとうございましたす。
来年も『ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―』をどうぞよろしくお願いします。
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