ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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1週間に1回、できれば2回投稿したい願望。
それはそうと狼の最大個体の体高に1.8倍したら162cmとか出て来た。
これは女神官ちゃんもちびるし、私もちびる。


帰還と回顧

「あ、ゴブリンスレイヤーさんお帰りなさい!」

 

「戻った」

 

 夕焼けがギルド内を照らし始め、照明がついた頃にゴブリンスレイヤー達はギルドに帰ってきた。

 

「あ……」

 

 受付嬢がその後ろを見ると、顔を俯けたままの新人三人の姿、女武闘家の手には青年剣士が持っていた長剣、女魔術師の服には腹を刺された跡、女神官の神官服には血が付いた跡があった。

 

「死者が一名出た。話していた青年の剣士だ」

 

「そうですか……」

 

 よくある話だ……と受付嬢は思う。

 ゴブリン退治の洗礼は一党の状態と依頼の内容で左右されると言ってもいい。

 臆病に準備して軽い怪我で済む時もあれば、無鉄砲に飛び出して行ってそのまま帰って来なかった時もある。

 その時は次か、次の次に討伐に出向いた一党が認識票を届けに来るのだ。

 そんな中で帰ってきた彼女たちは運が良い方だろう。

 なにせ『偶然』にも、自分達が出て行った後にそれ専門の銀等級が出向いたのだから。

 

「そして……だな」

 

「どうしました?」

 

 珍しくゴブリンスレイヤーが言い淀む。

 

「灰色の剣狼が彼女達を助けた……らしい」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 彼の一言で受付嬢を含めた受付カウンターにいた職員と、ギルドにまだ居座っていた冒険者達が、驚きの表情で彼を見た。

 

「そ、それでその狼はどちらへ!?」

 

 受付嬢がカウンターから身を乗り出してゴブリンスレイヤーに聞く。

 報告書?そんなのは後だ。今はその様な些末事に構っている暇はない。

 

「……それが」

 

「「「「「それが!?」」」」」

 

「「「むぎゅ……」」」

 

 珍しい事に彼の周りに何時の間にか人だかりができていた。

 それに巻き込まれて女神官、女武闘家と女魔術師も巻き込まれ、ゴブリンスレイヤーと冒険者達の間に挟まれる。

 

「ギルドの前にいる」

 

 

 

「ほぉう、こいつがその灰色の剣狼か」

 

――むう……――

 

 冒険者ギルドと呼ばれる建物の中に入ると、特大剣を背負った重戦士が吾輩を見下ろしてきた。

 今でこそこの成りだが、生前の姿だったらこの男はどう反応するのか……。そこまで考えると、最期に対峙したかつての戦友の不死人の姿が思い浮かぶ。

 彼は真摯に剣を構えて迎え撃ってくれたが、兜の奥にある瞳には涙が浮かんでいた。

 あの後は生前の世界で火の時代を継ぐのだろうか?それとも闇の時代に落とすのだろうか?今の吾輩には知る術がない。

 

「光が当たると、本当に剣が蒼く輝いているのだな」

 

「見るからに重い剣です。

 並大抵の力では持てませんよ」

 

「その為の首の筋肉なんだろ。

 野生で長く生きてる狼だって、ここまで首を鍛えちゃいないぜ」

 

 女騎士に耳が尖った軽剣士、それに槍使いも吾輩をそう評してくる。

 その時、「失礼、するわね?」と横合いから伸びてきた手があった。

 

「それに、この首飾り……良い趣味、してるわ……ね?」

 

――ありがとう、それは吾輩のお気に入りの一つだ――

 

 そういう意思を込めて一声鳴くと、魔女は少し驚いたように目を見開き、そして優しく吾輩の頭を撫でた。

 

「わ、大人しい上にちゃんと返事した!」

 

「噂だと剣狼って渾名、賢狼にもかけてるって話だったわね」

 

「それに加えて村を防衛した時の目撃証言でも、ゴブリン共が隙を突けない堅牢さだったとも言われていたな」

 

「三重の意味で名付けられた渾名か……俺も何時かそうなりてぇ!」

 

「お前じゃまだ無理だって、せめて鋼鉄等級まで行ってから考えろ」

 

「あの、頑張ろうね?」

 

 がやがやと賑やかな所だ。

 アルトリウスは人間は大半が騒がしいのが好きな種族だと言っていたが、確かにその通りのようだ。

 

「人気ねぇ……」

 

「そう……ね」

 

 先程まで人の波にのまれていた女魔術師と女武闘家が呟く。

 早いところあの男の弔いをしたい所だろうが、夜間に故郷の村まで行くのは危険なので出発するのは明日になるだろう。

 そんな時だ。

 

「わわ!なんてイケメンな狼さん!」

 

 獣の臭いが強い人族が現れた。

 

「おお、獣人の女給ちゃん!そうだ、こいつの言ってること分かるかい?」

 

「んー、多少なら分かるかもだけど……ってそんなわけないじゃん!」

 

――そうか、残念だ……――

 

「わわ、ごめんね?でも君本当に頭良いよねぇ。飼い犬でもここまで頭が良いのはそうそういないかも」

 

 吾輩がシュンとしていると獣人の娘が慌ててフォローしてくれる。

 それにしてもやはり吾輩は他の獣と比べて頭が良いと認識されているようだ。

 これまで比較してくれる者は、アルトリウスとキアラン、そしてゴーにアルヴィナくらいしかいなかったからな。

 

「確かに、こちらの言葉を正確に理解しているのは、先程から見ていれば分かるな」

 

 

 

 ゴブリンスレイヤーと女神官、そして受付嬢はそんな狼の様子を、人の輪から外れた場所から見ていた。

 

「灰色の剣狼の保護、ありがとうございます。ゴブリンスレイヤーさん」

 

「いや、たまたまあいつが居ただけだ。

 それに、最初はあいつの事をゴブリンが飼っている狼だと思っていた」

 

「命の恩人が狩られなくてよかったです……」

 

 受付嬢とゴブリンスレイヤーの会話を聞いて、女神官はほっとする。

 首飾りがあるとはいえ、まずその巨体に目が行くので初見での恐怖感が凄まじいのだ。

 そして次点で口に咥えている剣を見て、この狼は普通ではないと判断する。道具を使うと言うのは知能がある証拠なのだ。

 そこで気付いて注意深く見ていけば、ようやく首の首飾りに目が行くのである。

 そこへようやく人の輪から逃れた女武闘家と女魔術師が合流し、今後の事を聞こうと受付嬢は問いかける事にした。

 

「そう言えばこれから貴方達はどうするの?

 一党の頭目だった剣士君が居なくなってしまったし」

 

「そう……ですね」

 

 そこまで考えて現状を整理する。

 女魔術師は眼鏡が割れてしまった上、発動体である杖は半ばから折れてしまっているため、新しい眼鏡と杖を揃えるまで冒険に出る事は出来ない。

 女武闘家は仲が良かった青年剣士の死亡による心の傷があるが、それ以上に青年剣士の夢をその胸に秘めている。

 

「私はまだ冒険者を続けるつもりです」

 

「私も、眼鏡は古い奴を予備として持ってきてるし、杖は木の部分を新調すれば何とか……」

 

「私も続けます。

 ですが、とりあえずはあいつを弔ってからですが」

 

 女神官を皮切りに、女武闘家と女魔術師も続く。

 

「祈祷でしたら、私に任せて下さってもよろしいですか?

 折角ご一緒させて頂きましたし」

 

「そうね……。貴方に祈祷して貰えるならあいつも嬉しいだろうし」

 

「一応義理として私も行くわ。それが一党ってものでしょ?」

 

 どうやら彼女達の意思は固い様だ。

 だが前衛が残っているとはいえ白磁の無手だ。

 加えて今回の経験で斥候も必要、だがこの時期そんな適役は……。

 

「……あ」

 

 受付嬢は気付いた。

 居るではないか、ちょうど空いている前衛と斥候役が。

 

「貴方達、新しくメンバーを加える気はないかしら?」

 

 

 

「ゴブリン狩りは薄給だが良いのか?」

 

「私は構いません。貴方の事は放っておけませんし、受けた恩もありますから」

 

 女神官が機先を制してそう言い、女武闘家と女魔術師もそれに続いて頷く。

 あの狼が現れて以降、この辺境の街周辺ではゴブリンの目撃――もちろん隠れている場合は除いてだが――が減少してきており、以前まで週に平均10件以上だったのが、彼女達が受けるまでには既に週に8~9件程に減っていたのだ。

 

「……」

 

 ゴブリンスレイヤーは思案する。

 確かにあの狼が出てきたお陰で、辺境の街周辺の村からゴブリンによる被害が減ったのは事実だ。

 だがゴブリンはこの辺境の街以外にも居るし、それらが流入しない保証はない。

 しかしそれを待つのもダメだ。

 何より自分はあの牧場で家賃を払い、下宿をさせてもらっている身……何某かで稼がねばならない。

 

「……張り出し時に、ゴブリン退治の依頼が残っていればそちらを優先する。それで構わないか?」

 

 彼が精いっぱい考えて出した結論がそれだった。

 

「ええ、私は構いません」

 

「むしろ、あいつ等に苦い思いをさせられたこっちとしては願ったりだわ」

 

「私も……。

 あいつを殺したゴブリンじゃないのは分かってるけど、それでも私達や救助された人のような思いをする人が減るなら……」

 

 三者三様にそれぞれの思いを口にする。

 こうなるとあとは狼だけであるが……。

 

「……来るなら一回、来ないなら二回鳴いてほしい」

 

――バゥ!――

 

 鳴き声は一回だけだった。

 

「では決まりですね」

 

 受付嬢もそう言いながら書類に書き込んでゆく。

 今回のゴブリン狩りに関する報告に、灰色の剣狼の保護報告、加えて新人三人の評価報告、既に外は夜の帳が落ちて街灯の明かりと月明かりが、夜の街を照らし出している。

 

「これでやっと、ゴブリンスレイヤーさんも1歩前進出来ましたね」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

 新人職員としてこの街に赴任してから5年、ゴブリンスレイヤーが冒険者を始めてから銀等級になるまで5年、等級こそ銀の彼だが、冒険者としては駆け出しから毛が生えた程度の経験しかない。

 新人3人と狼1頭と組むことで、彼の冒険者としての人生が始まれば……と、そう祈らざるを得なかった。

 

 

 

「あ、お帰り!」

 

「ああ」

 

 ゴブリンスレイヤーが下宿先の牧場に戻ると、幼馴染である牛飼娘が出迎えてくれた。

 

「今日はちょっと遅かったね。なにかあったの?」

 

「ああ」

 

 少し遅めの夕食であるシチューを差し出され、ゴブリンスレイヤーは席に着く。

 

「……ゴブリン狩りに行った新人達の援護に向かった」

 

 何時ものように兜の下だけを外してシチューを口に含み、飲み込んでから話し始める。

 

「大丈夫だったの?」

 

「いや……女一人が毒ナイフに刺され、男が一人殺されていた」

 

 つまり戦闘の最中に割って入ったと言う事。

 

「大丈夫……だったんだよね?」

 

「ああ……俺が到着した時には、既に戦闘が終わりかけていた」

 

「へぇー、優秀な新人さんたちなんだね!」

 

 いや、とゴブリンスレイヤーは牛飼娘の言葉を否定する。

 

「ゴブリンの巣を壊滅させていたのは狼だった」

 

「狼!?」

 

 牛飼娘の驚く声に、ゴブリンスレイヤーは頷いた。

 

「灰色の……剣を咥えた大きな狼だ。お前の肩ぐらいはあった」

 

「ひぇ……」

 

 そんな巨大な狼が目の前に現れ、襲い掛かってきたら自分では抵抗できずに殺されるだろう……と、そこまで考えると彼の言った言葉に引っ掛かった所があった。

 

「あれ、剣を咥えて……?ああ!灰色の剣狼!」

 

「そうだ。そいつが居た」

 

 幼馴染の声にゴブリンスレイヤーは頷きながら答える。

 幼馴染も納品時にギルドで話す受付嬢や、牧場主である叔父も周辺の農村から仕入れた話を聞いているので、すぐに思い至った。

 

「そいつが先に新人の救援をしていた。

 最初はゴブリンが飼っている狼かと思っていたが、洞窟内で……そうだな、俺の背丈と同じくらいの長さの剣で戦っていた」

 

「わ、それ引っ掛からない?」

 

「ああ、普通ならそうだろう。

 だが奴は己の体の大きさと武器の大きさを把握していた」

 

 ゴブリンスレイヤーは見ていた。

 暗い洞窟内で地面に落ちていた松明の光、蒼い軌跡を引きながら小鬼を切り捨てる狼の姿を……。

 それはかつての少年時代に彼も憧れ、物語の中で悪鬼羅刹を切り倒し姫を守る騎士のように見えた。

 

「……あいつが……いや、なんでもない」

 

「うん……」

 

 幼馴染であり、生まれた土地の悲劇を偶然にも逃れた牛飼娘も、彼が何を言おうとしていたのか分かっていた。

 

――あと10年早く、彼の狼が現れていれば……――

 

 もちろん、狼は一頭しかいない。

 滅んだあの村に来ていた可能性も少なかっただろう。

 だからこそ、ゴブリンスレイヤーはその台詞を飲み込んだのだ。

 

「それから、一党を組むことになった」

 

「え、なんで?」

 

「生き残った新人3人の御守りと、灰色の剣狼の監査だ。

 それにゴブリン退治の依頼も少なくなってきた。

 活発になる春に週7、8件は少ない……別の依頼で稼がねばならん」

 

「ああ……うん」

 

 彼にとってここは唯一、故郷の知り合いが居る場所だ。

 なので辺境の街から別の街に移ることは無いだろうが、例えここから追い出されても彼は辺境の街に残り続けるだろう。

 

「ご馳走様」

 

「はい、お粗末様」

 

 ゴブリンスレイヤーは食べ終えた食器を出し、牛飼娘はそれを受け取る。

 明日はゴブリン退治の依頼は来ているのだろうか……。

 そう考えながら、ゴブリンスレイヤーは寝る準備に取り掛かった。




ゴブスレさんの喋り方難しい……でも挑戦したくなる。

ゴブリンの1週間あたりの依頼件数ってどれだけなんでしょうね。
私は一応コミックス版の3話で受付嬢が「もう3件か」と言っていたので、1D3で7回振った総数を参考に書いていますが……。

成りがちっこくなってもボスキャラ張ってたわけですし、これくらいはね?

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