〜りっく☆じあ〜す 『英雄』我道指揮官奮戦ス〜 作:休日ぐーたら暇人
翌日 沖縄 那覇 (臨時)防衛省兼統合幕僚庁舎
「はぁ〜…くそ、来る意味すら無かった」
一通りの用事を終えた高塚は出た瞬間にそう呟いた。
「どうでしたか、陸幕の方は?」
待っていた筑波が声を掛けた。
「『東京奪還』の念押しは予想出来てたが、スーツの防衛官僚まで出て来て何を言うかと思えば、揃いも揃って気持ち悪い笑顔で『戦勝パレードと戦勝セレモニーはいつしますか?』なんて議題に上げて来たんだぞ? 思わず、『ふざけんな! んな物は東京奪還してからやれや!!』って言って退出して来たよ。あっ、『そんな事より、補給はしっかりして下さいね!』と念押しはしてきた」
「……文官の防衛官僚は頭パッパラパーですか?」
「マシな奴はいるんだろう。まあ、俺みたいに嫌われて日陰者にされてるんだろうけどさ」
高塚の話に軽く頭痛でもおきたのか、頭を抑えながら筑波が呟くと、高塚は呆れ顔で言った。
「はあ…もう、とっとと帰りましょう。車はあきつ丸が取りに行ってます」
「賛成だ。ここに居るだけで、イライラとストレス度数だけが増える」
「失礼します。高塚陸将補ですね?」
帰る事に決まった時、明らかに何処かの省庁職員と思われるクールビズ格好の男性が声を掛けてきた。
「あぁ、と言っても今は少しイライラしているから、用事は手短に頼むよ」
腰に携帯している拳銃に手を伸ばそうとする筑波を手で制しながら、高塚が言った。
「では、手短に…もし、時間が有る様でしたら、『首里城』へ『散歩』でもよろしいのでは、とお勧めに参りました」
「『首里城』に? 残念ながら、海軍の…」
「あっ、高塚殿。那覇空港からの連絡で我々の乗ってきたC-130が機械トラブルで2時間程出発を遅らせる、と」
車で戻って来たあきつ丸からのタイミングが良すぎる報告に高塚は職員の方に顔を向ける。
「ちなみに、『散歩』にこの2人が同行しても大丈夫ですか?」
「えぇ、『散歩』なので。迷惑が無ければ、ですが」
「では、少し時間を潰しますか…あきつ丸、首里城だ。いいな?」
「え、あ、はい、であります」
こうして3人は首里城へ向かった。
暫くして 首里城
首里城。
世界遺産(なお、建物は復元な為、世界遺産では無い)である首里城は現在、陸自第15旅団や元第1師団一部部隊、空自により、周囲は短・近SAM発射機やVADSが設置されている。
しかし、首里城内並びに公園等には『色々な配慮』により設置されていない。
そして、現在の首里城は『仮皇居』になっている。
首里城に到着した高塚達はまるで誘導されるかの様に『職員達』の案内の下、とある一角へとやって来た。
そこに居たのは……
「…やはり、今上陛下であらせられましたか」
「この様な手の込んだ事をして申し訳ない」
相手の正体に驚かない高塚と謝罪する今上陛下。
前陛下は深海棲艦との和解を気に皇太子殿下へと皇位を譲り、今は皇太子…つまり、今上陛下が皇位に就いていた。
「え、あ、高塚司令は気付かれていたのですか!?」
「仮皇居の首里城の時点で察してたよ。まあ、わざわざ、陛下がこうしたのは政治的にごちゃごちゃするから…ですよね、陛下?」
「うむ…『政治的配慮』でな….少し歩こうか」
「そうですね。『散歩』ですから」
後ろに筑波とあきつ丸を従え、高塚は今上陛下と共に『散歩』に出る。
「第10師団管区奪還、御苦労様でした」
「奪還については、後ろにいる2人を含めた戦友達の協力あっての事です。また、労の言葉を受ける段階ではありません」
「…そうですね。貴方方は現実を見て戦っていますからね」
「皮肉にも…ですが」
苦笑いを浮かべながら高塚は言った。
「ちなみに、東京奪還の事ですが…」
「….もう、陛下の耳に入っていたのですか?」
「政府と防衛省官僚から説明がありましたので…それで高塚陸将補、東京奪還は可能なのですか? 前線指揮官としての見解は?」
どんな説明を受けたかはわからないが、明らかに『彼らの説明には疑問がある』と主張したげな今上陛下の目に高塚は正直に答えた。
「『机上の可能』と『現実での実行』には隔絶な差があります。今の我らの力は少なく小さい…その様な状況での東京奪還は玉砕か、成功しても長期保持は不可能でしょう」
『玉砕』の言葉に険しい表情になる今上陛下。
無論、それは『負の意味』で使われるからだが。
「故に我々は東京奪還を最後に回し、他府県の奪還を優先したいと考えています。ですので…上皇陛下夫妻の救出は当面、期待しないで頂きたく存じます」
そう……政府や陸自が無理に東京奪還を推し進める理由の1つが前代陛下である上皇陛下夫妻が東京の皇居に居る為だ。
そして、上皇陛下夫妻は自らの意志で脱出を拒み、皇居に残っていた。
「……父も高塚司令の判断に納得するでしょう…守るべきは、救うべきは…なんと言っても国民ですから……高塚司令、国民の事を頼みます」
そう言って今上陛下は高塚に頭を下げた。
暫くして 車中
「…なぜ、陛下はこの様な回りくどい事をなさったんでしょうか?」
那覇基地に向かう最中、助手席に座る筑波がふと疑問を口にした。
「『政治的配慮』ってヤツだ。なにせ、立憲君主制である日本では陛下が関われる国事行為が決められている。下手に自衛隊の作戦に口を出せば、それは越権行為化してしまうからな」
「故に陛下は『偶然の散歩』を装って高塚殿に接触した、と?」
あきつ丸の問いに高塚は頷いてから答えた。
「あぁ、最後に言った国民の云々だって、ギリギリの玉虫色の返答だ。幾ら非公式でも、下手に明確なYES・NOを言えば政治介入な上に、『陛下の威光を借りた〜』の新聞が大好きそうな批判ネタの出来上がりだからな」
「…はあー、深海棲艦戦と訳が違う、って事ですか」
「深海棲艦戦は海だったからな。今は地上で首都を落とされている上に上皇陛下夫妻の人質付きだ。まあ、だからと言って、無理な物は無理なんだから、今上陛下が理解してくれただけでも助かるよ」
筑波の言葉に高塚は言った。
「兎にも角にも、早く帰って、陸幕が変な気をおこさない内に行動有るのみ、でありますよ。高塚殿」
「あぁ、その意見には賛成だ」
あきつ丸の言葉に高塚は頷いた。
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。