〜りっく☆じあ〜す 『英雄』我道指揮官奮戦ス〜 作:休日ぐーたら暇人
その日の夜 沖縄 議員宿舎内 とある一室
「頼まれていました件ですが、本日、高塚陸将補の下に配属されました」
「そうか、無事に到着したか」
陸幕付きの若い幹部からの報告に髭がトレードマークの議員が安心した様に呟いた。
「はい。ですが、あの言い様はよかったのですか? いくら、古巣で知己が多いとは言え…」
「だが、出し惜しみする程の余裕があるかね? 更に彼女達を上手く指揮し、マグマ軍相手に対等に戦える指揮官が他に居るのかね?」
「………残念ながら」
「そうだろう……まさか、古巣がこれ程弱体化していたとはな…」
そう呟きながら、議員は窓から外の光景を見る。
戦時中と言う事と物質節約の為に那覇市内は勿論、沖縄の各都市は電力統制が行われており、一部施設を覗いて街の灯りは消えている。
そうであるが故に、かつてのイラク派遣で指揮官として名を馳せた議員の古巣への落胆は大きかった。
「皆が言っていました。『駐在武官の口から高塚の名が出ない日はない』、『陸幕よりも高塚の方に挨拶へ行く人間が多い』と」
「それを聞いて反省している人間は陸幕に居るのかね?」
「……なんとも言えません」
「そうか……いや、すまない。まるでスパイをさせているな」
「いえ、これも大事な仕事ですので。また何かありましたら、報告致します」
「あぁ、すまんね」
そう言って若い幹部が出て言った後、議員は溜め息を吐いた。
別に特別親しい訳でもない、そもそも、高塚との初顔合わせが先の深海棲艦との講和式典パーティーであり、それからも数度顔を合わせた程度にも関わらず、彼しか適任者が見付からない現実に。
「……そもそも、旧海自の海軍と、それに強いパイプがある彼を予算案で敵に回した時点で間違いだったのに……バカな事をしたものだ」
落胆する理由しか見付からない事に議員は何度目かも数える気もない溜め息を吐いた。
翌日 戦車射撃場
「さすが教導連隊。腕がいいな」
「それ、誉め言葉になってないよ、隊長」
撃ち抜かれた的を双眼鏡越しに見た松塚の言葉に74式(教導)は苦笑い浮かべながら言った。
「だが、その技量は間違い無い。確かにあっちの74の技量も悪くは無いが…どうかな? T-72とひと勝負するかい?」
「あー、いや、あの時の映像観たけど…手の内知られてる上に、ミサイルまでくっついてるから勘弁するよ」
「賢明な判断だ」
「何が賢明な判断なの?」
74(教導)と松塚の会話にT-72が割って入った。
「おや、噂をすれば影と…山本大佐もですか。何か御用で?」
「なに、武器娘の10の出来具合をスパイしにね」
「宿敵エイブラムスを倒すならば、次世代1番手10式を研究する。当然では?」
「なるほど、なるほど、今から始まりますので、ごゆっくり」
そう言って松塚が右手を挙げると、入り口の隊員が白旗を振り上げる。
次の瞬間、70キロのフルスピードで侵入した武器娘の10は90式からの自慢の行進間射撃を見せ付ける。
「やはり、74式戦車クラスの車輌重量としながら、90式とその発展技術を詰め込んだ日本のコンパクト化技術の結晶だね。そう思わないか、同志ウラルよ?」
「はい。私も元は軽量級主力戦車ですが…あの流れる様な一連の動作は真似しにくいですね」
流れる様なスラローム射撃を観つつ、山本大佐とT-72は称賛する。
しかし、それを横で聞く松塚は苦笑いを浮かべる。
「武器娘の10式なら対等に戦えます。しかし、実体の10式の数となれば生産・更新は今回のマグマ軍侵攻で遅れ、更に少数集団にばらされている。更にロシアはアフガン侵攻やチェチェン紛争による戦訓で携帯対戦車火器をはじめとした防御対策に力を入れておりますが、我が方はそれを怠った。故に岡山市占拠事件での被害ですが…その後もまったく対策などされず、今に至ります。いまや、車輌スペックだけを比べても意味が無い時代ですよ」
「ふむ。やはり、戦車隊士官としては一心あるものだな。貴官も」
「当然です。祖父は元騎兵科隊員として転属配置され、占守島と日本を守った第11戦車連隊に居て戦いました。その後継たる第11戦車大隊に自分は配属されてから、独自研鑽と研究は怠ってはいません。ですが、調べればこんな新人士官でも解る事を放置していた訳ですからね、上は」
「故にやり易いだろう? 同志の下だと」
ニヤリと笑う山本大佐に松塚は溜め息を吐きながら、肯定の意味で首を縦に振った。
その頃 司令部テント
「空挺団に装甲車ね」
「はい。出来れば軽装甲機動車ではなく、機関砲を搭載した本格的な物を要望します」
習志野の要望に高塚はウンウンと頷きながら口を開いた。
「わかった。要望に沿う様にしよう。但し、輸送機で輸送できる装甲車輌となると色々と難しい。よって、直ぐに渡せる保証はない。そこは勘弁してくれ」
「わかりました。失礼します」
そう言って退室した習志野の背中を見ながら、高塚は溜め息を吐いた。
「さて、直近に無いからな…どうしたものかな」
「それ程、難しい案件なんですか?」
市ヶ谷の問いに高塚は珍しく『降参』と言いたげに両手を挙げる。
「スペースと重量に制限がある輸送機に載せるとなるとね。本来はら、敵後方への降下を実施する空挺団こそ、軽量装甲戦闘車輌が必要なんですが……どうも、陸自は自国防衛だからと開発はおろか、構想すらなかった様ですし」
「……この様子ですと、山本大佐に相談する案件でしょうか?」
「だね。まあ、ロシアが出してくれるかは望み薄だがね」
次号へ
ご意見ご感想をお待ちしております。