不祈の退魔師《いのらずのたいまし》   作:おどろおどろしい朧

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第二話 『純白の少女』

「な、何色ってなんだよ...」

 

急に近づいてきた少女に驚いて、俺は少し後ずさりする。

しかし、少女が後ずさりした距離と同じ分だけ前に詰めてくるので全く距離が変わらない。

 

「貴方、とっても不思議な色をしてる」

「だから色って何!?」

「凄く深い黒みたいで...それなのに全体を照らすように明るく...しかもずっと見ていると黒の奥が赤く見えるみたいで...」

「無視すんなよ!ていうか分かってるじゃん!?よく分からないけど、俺の色分かってるなら聞かなくていいじゃん!」

「これを一つにまとめて表現する方法を私は知らないから...」

「俺だって知らねぇよ...俺の色とか考えたこともねぇよ...」

 

本当に不思議な少女だ、何言ってるのか全然分かんねぇ。

一瞬、悪魔憑きかとも思ったが、生命エネルギーに異常はない。この白い少女は、ただ不思議な能力を持っているだけの人間らしい。まぁ、なんで魔素の影響受けてないの、とか言いたいことは山ほどあるが。

さっき悪魔憑きを倒したから、確かに周辺の魔素は消えただろう。だが、それでも完全に消えるまで3時間はかかるはずであり、倒して30分も経ってないのに普通の人が出歩けるようになるわけがないのだ。それに深夜に子供が歩き回ってるのは普通に問題だし。

 

「とりあえず...名前は?」

「ない」

「えっと...どっから来た?」

「...覚えてない」

「...両親はいるのか?」

「...いない」

 

どうしよう、なんかイラついてきたな。

つまりこいつは親も家も名前もない完璧な孤児ってことか?そんな風には思えない身なりしてるけど。

それか記憶喪失か?もしくはやっぱり魔素を完璧に制御して生命エネルギーの異常を悟られないぐらいの高位の悪魔憑きで俺を油断させようとしてる、とか。

俺はたっぷり30分熟考した末にある結論を出した。

 

***

 

「で、何?その子」

「知らね」

「知らない子を連れてきたの?警察呼んどくね」

「まぁ、待て。早まるな」

「?」

 

とりあえず支援係―――『如月黒江(きさらぎ くろえ)』の家まで連れてくることにした。

焼肉大好きのシャツの上に白衣を被るように着ており、蛇柄のスリッパを履いている。

胸は大きくスタイルはいいのだが、長い黒髪をボサボサにして、目の下に隈が出来ている。典型的な引きこもりだ。

だが実力は高い。よく分からない機械を使い、情報収集から戦闘後の後始末を効率よくやってくれる。こいつの話によると、怪奇で作り出した機械らしいけど、よく分かんない。

 

「それで、もう一回だけ聞くけど、どうしたのよ、その子は」

「帰り道で会ったんだよ、名前も家も知らないし、両親もいないって」

「孤児?でも、明らかにおかしいじゃない、その子。悪魔憑きなんじゃないの?」

「生命エネルギーも異常無しなんだよ...なんなら天姫(あまひめ)様にでも聞いてみるか?」

「あ、天姫と言えば、さっき来たわよ?仕事が」

「え」

 

天姫(あまひめ)というのはS級退魔師の中でも最も強いとされる七人、『北斗七星』の一人。

そのナンバー4とされ、『天地を見晴らす者』の称号を持った人物だ。

戦闘力も恐ろしいが、最も恐ろしいのはその索敵力であり、彼女の主な仕事は退魔師の総本山、東京の『退魔連合本部』の地下にこもり、日本全国に索敵結界を張り巡らせ、全ての悪魔憑きを監視することである。

その索敵結界の凄いところは、まず広さ。他に索敵結界を使えるものはいるにはいるが、それでも市を一つ囲うぐらいが限界なのに対して、彼女は日本全国を難なく囲い、更に結界を1か月維持することが出来る。

もう一つは正確性である。俺が使うような生命エネルギーの感知という方法では、高位の悪魔憑きには魔素の操作で誤魔化される可能性があるが、彼女は生命の種類を根本から見極めており、人間と悪魔憑きを分けるのみならず、個人個人を分けて特定することまで出来る。これによって全ての悪魔憑きを見誤らずに監視することが出来るのである。

そして、彼女は索敵の情報を元に、各地の支部に連絡をして、普通の索敵が困難なS級やA級悪魔憑きの討伐を頼むのだ。B級以下は、大抵の場合、生命エネルギーの感知で事足りるため、彼女が直接居場所を探し当てるようなことは無い。

B級以下は現場の人たちに任せた、ということである。

そして彼女からの仕事ということは―――

 

「ターゲットはどいつだ」

「あんたの学校の、しかもあんたのクラスの担任」

「え、マジで?」

「しかもS級」

「今まで全く気付かんかった...」

 

俺のクラスの担任の先生、名前は確か山中先生だ。そういえば3週間前に旅行に行くとかなんとか言って確か2週間、学校を休んでいた。多分、その時に憑りつかれたんだろう。

S級と言うと、大体は1か月半ほど悪魔憑きとして過ごしている奴らが多い。一か月とちょっとでS級ということは憑りついた悪魔の素が強いということか。

大体、3週間程度でA級になるというから、この悪魔憑きは学校に戻ってきた時には既にA級に相当していたのだろう、それでも身辺にいて気づかないというのはヤバかったのかもしれないが。

悪魔憑きは憑りつく前の人間の記憶を覗き見ることが出来るらしい。これによって他の人に気づかれずに前の人間になりすますことが可能だ。そんな器用なこと出来ない、という悪魔は急に引っ越したりして新しい土地で生活することで人間関係を一新したりする傾向がある。今回の場合は前者、前者には手ごわい悪魔憑きが多かったりする。

 

「分かった、なんとか浄化してみる...」

「えぇ、頑張ってちょうだい」

「で、こいつなんだが...」

 

チラッと純白の少女を見る。何故か会ってからずっと無表情だ。会話してる時も連れてくる時も今も。それが不気味というかなんというか、幻想的な感じがしなくもない。

 

「んー、確かに放っておくのは危険よねぇ、色々。魔素の影響受けずに夜に出歩けるってことは悪魔憑きに出会いやすいってことだし」

「そうなんだよな、だからさ...」

 

そこまで言うと、如月はフッと微笑んだ。よかった、俺の意図が通じたのか。

 

「あんたの家で匿えば?」

「ええぇぇぇ!?俺の意図を察した上でそれ言うの!?」

「私、今金欠なのよねー」

「お前、A級で俺よりずっと給料貰ってるだろうが!課金し過ぎなんだよッ!!」

「何をバカな...どっかの誰かは言ってたよ?無理のない課金、つまりは無課金だと」

「お前、課金のし過ぎで一文無しになって俺にたかってきてたよな!?」

「ほら...あんたも分かったでしょ?私はお金無いんだからあんたの家で飼うしかないのよ」

「クッソ...!こいつクソうぜぇ...!?こっちだって生活費、ギリギリで賄ってんのに...つーか飼うって言うなやッ!!」

「?」

 

俺と如月の言い争いを、無表情なりにキョトンとした感じで見てる少女。

確かに俺の財布事情も厳しいが、どうにかするしかない。

このままD級でいいと思っていたのに、急に昇格させてほしくなった。

 

「あーもう...分かったよ、俺の家で預かる...」

「ハハ、あんたの地味に聞き分けいいところ好きよ?ところで、その子名前無いんでしょ?どうするの?」

「そういえば...」

「...?好きに名前を付けてもいいよ?」

「マジか」

「よっし待ってて、今名前考えるから」

「止めろ、お前は考えるな」

 

俺が真顔で如月を止めにかかると、散らかった部屋の隅からトイプードルがとことこ現れた。

 

「あ、可愛い...」

 

それを見た少女、無表情のままテクテクとトイプードルに近づいて行って抱きしめた。

あれは如月の愛犬、名前を『狛犬』と言う。

俺からしたらふざけてるようにしか見えないが、彼女の弁によると至って真面目につけた名前だという。

つまり、如月はネーミングセンスが限りなく崩壊しているのだ。俺が退魔師になった時に、俺の『念動力』に名前を付けようとして危うく『扇風機の風』にされかけた。咄嗟に俺が『念動力』としたため、今は念動力で通っているが、少しでも遅かったら俺のメイン怪奇は扇風機の風だった。

 

「それじゃあ一人で考えなさい」

「最初からそのつもりだっての...そうだな」

 

見れば見るほど奇怪なその色。ただただ真っ白であるというその姿を見て、なんとなく思いついた。

 

「白夜...『白霧白夜(しろぎり びゃくや)』で、どうだ?」

「私の名前...白霧白夜?」

「あぁ、それでいいか?」

「...うん、大丈夫」

 

白夜は狛犬を抱きしめながら、確かにそういう。

今もずっと無表情で感情なんて全く読めないが、少なくとも嫌がってる様子はないようでホッとした。

ここから、俺と白夜の同居生活が始まろうとしていた。

 

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