第七話 『特別戦闘訓練臨時講師』
俺が校舎をぶんぶん破壊しながら、悪魔憑きを浄化してから二日が経つ。
現在俺は入院費をケチるために家で療養中だ。病院全く行ってないけど、如月の『自己治癒増強』を付与してもらってるから、悪化はしないはず...何度かケガしても治療してもらわなかったことあるけど、付与してもらえれば1週間で完治したし。
学校の方は退魔連合の技術班が修理中だ。故に学校は休み。一般的に公共施設のお偉いさんとかは退魔師や悪魔憑きの存在を知っており、退魔連合の情報規制に協力してくれている。
テロまがいのことをした俺に何か罰があるのかと言われれば、そんなことはない。だってよくあることだから。
退魔師と悪魔憑きが戦って建物とかに損害が出ないことの方が珍しい。だから罰は注意勧告ぐらいだ。これはさっき言ったお偉いさんが退魔師の存在をはぐらかしてくれてるおかげで退魔連合としては被害が少ないからだ。正体がバレるとヤバいぐらい減給される。まぁ謝罪とか諸々あるからね。
「はぁ~腹減ったなぁ」
実は俺の横に同居人、白霧白夜さんがいらっしゃるのだが―――今、俺の腕を枕にして睡眠中だ。寝て起きたらこうなってた。こんなことになるぐらいだったら一緒のタイミングで寝た方がよかったかもしれない。とにかく起こそうと思えないので起こせず、起こせないから飯を作ることもできない。ただでさえ学校で燃え尽きた服の代金も払ったりしてるのに。金が足りなくなってきて飯事情がやばいのに。
そんなことを考えていた時、俺のスマホが鳴り出す。
「あ?如月じゃん...あいつ何の用だよ」
あいつが電話してくる時は退魔師の仕事か、課金したから金が足りません、助けてくださいの二つしかない。正直ぶっ飛ばしたい。
めんどくさいと思いながらも俺は電話に出る。
「もしもし?」
『あ、赤塚君?仕事が来たんだけど―――』
「あっそ電話切っていい?」
『あ、そういう態度とるんだ...即刻給料が出る類の仕事なのに』
「え」
『いいんだ...給料貰えなくていいんだ...』
「あ、いやすみませんでした。許してください」
『分かればよろしい』
即刻給料―――つまりアルバイトということですかい!?
俺の主な仕事は夜に町をパトロールすること。そして見つけた悪魔憑きの浄化。更にはS級悪魔憑きの優先浄化だ。この三つを全部こなして、今の薄給なわけで―――つくづくD級やめたくなってきた。
大体S級悪魔憑きの浄化は当然S級退魔師の仕事だ。そしてS級退魔師は相応の給料をもらっている。
だがしかし、何年も退魔師をやって実力だけはそこそこ認められている万年D級の俺はS級悪魔憑きと戦っても全くそれに見合うほどの給料を貰えていない。しかも、どれだけ頑張っても昇級できる見込み無しという悪循環の中に俺はいる。なんつー負のスパイラルだ。
だが!アルバイトというなら!いつもの給料とは別で給料が貰えるとは、如月もたまには役に立つじゃないですか。
「まず給料額から聞こうか」
『あんた、守銭奴になってきてない?まぁいいわ、10万は貰えるそうよ』
10万!俺の給料の大体3分の1ほどじゃないですか。つーかどっからその仕事持ってきたんだろうか。退魔連合経由でアルバイトなんてあっただろうか。
「なるほど...で、仕事の内容は?」
『...大体この夏になるとさ...あるよね、あれ』
「...急にどうしたんだよ」
『あれよ、あれ。あんたがこれだけはやりたくないなーとか言ってたやつ。でも、あんたに指名来ちゃったからね~』
「いや、あの...全く身に覚えないんだけど」
『特別戦闘訓練臨時講師』
「......え?」
『退魔連合が経営する退魔師を育成する学校、『退魔学園』で毎年、夏に行われる高ランクの現役退魔師を講師として招いて行う『特別戦闘訓練』の臨時講師に...あんた、選ばれたってこと』
「......」
その時、俺の脳裏にある日の記憶の映像が映る。
2年ぐらい前だっただろうか。如月が臨時講師に選ばれて二、三日ほど行ってきた時に俺は思った。
退魔学園は誤差はよくあるが12歳から18歳までの6年ほどの期間を得て卒業する。大体の卒業生はB級退魔師並みの実力を持っていることが多い。
だが、退魔学園は卒業できる生徒が少なく、他人を容赦なく蹴落として這い上がって卒業した奴らは総じて自分たちは強いという思いからプライドも高く選民思想に憑りつかれていたりする。
だから他の退魔師とトラブルを起こしたりする。悪魔憑き相手の実戦授業などもあるらしく、俺達は楽勝に悪魔憑きに勝てるなんてことを言ってた奴らもいる。
俺はこういう命を懸けてる自覚がない奴らが大嫌いだ。あの学園の卒業生と一度チームを組んだことがあるが、D級の俺に一緒に戦ってやる、とか言いながら、俺がS級悪魔憑きの浄化依頼を受けて連れてこうとしたら断固拒否しやがった。
だから如月が退魔学園から疲れた~なんていう弱音吐きに電話かけてきた時に絶対にあいつらの講師にはなりたくないな、と言っていたのだ。
「...マジで?」
『マジよ』
「今から断っていい?」
『ダメ』
「いや、今回ばかりはお願いします。俺、金が貰えるとしてもあいつらのために働きたくありません」
『もう遅いわよ、大丈夫って返信しちゃったし』
「何やってんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
『ご愁傷様~明日の朝にお迎え来るらしいから、頑張ってね~?』
それだけ言うと電話を切る如月。なんてこった...絶対嫌だと思ってたのに...これじゃ俺の精神ストレス的に10万じゃ足りねぇよ。50万は貰わないと割に合わないよ。
「ん...無明?落ち込んでる...?」
「白夜...」
見れば白夜がこっちを見てきょとんとした顔をしている。
どうやら大声出したせいで起きてしまったらしい。
「なぁ白夜...俺もう働きたくねぇよ...」
「ニート...?」
もうそれでいいや。ニートでも。
最近になって少しずつ表情筋が動き始めた白夜の困ったような顔を見ながら、俺は二度寝しようと決め込むのだった。