卒業式が終わり、俺と由比ヶ浜は雪ノ下から、奉仕部の部室に呼ばれていた。ドアを開けると、うつむき加減の雪ノ下雪乃がそこにいた。
雪乃「こんにちは」
八幡「おう」
由比ヶ浜「やっはろー、ゆきのん。私達も卒業だね」
目にうっすらと涙を浮かべながら由比ヶ浜が明るく答える。
少しの沈黙のあと、雪ノ下が話始めた。
雪乃「あなた達に会うのは今日で最後になるわ」
由比ヶ浜「大学に行ってもまた会えるよ」
雪乃「本当に、もう会えなくなるの」
由比ヶ浜「どういうこと?」
由比ヶ浜は、不思議そうに聞き返す。
雪乃「これからは、雪ノ下家の帝王学の為に、すべてを絶ち切らなければならないの」
唖然とする二人に雪ノ下は続ける。
雪乃「私も抵抗したし、姉さんも反対してくれたわ。でも、ダメだった。携帯電話も解約されて、あの部屋も出なければならない。」
由比ヶ浜「そんなの、おかしいよ。どうにかしてよ。ねぇ、ヒッキー!」
俺はうつむいたまま、拳を握りしめ何も言えなかった。あの母親ならやりかねない。想像に容易い。
頭をフル回転させるが、良い案など出てこない。
由比ヶ浜「ヒッキー、何か言ってよ」
八幡「すまん、由比ヶ浜。俺には…、俺には…。」
由比ヶ浜「ヒッキー…」
由比ヶ浜「でもでも、家に会いに行けば…」
雪乃「恐らく、門前払いでしょうね。今までの関係をすべて切ると言ってたし、特に奉仕部のことは良く思ってなかったから、なおさら…」
その場に座り込む由比ヶ浜を抱き締める雪ノ下。
由比ヶ浜「そんな…」
雪乃「由比ヶ浜さん、今までありがとう。あなたのこと忘れないわ」
由比ヶ浜「ゆきのん…」
雪ノ下は由比ヶ浜をさらに強く抱き締めた。
雪乃「比企谷君もありがとう。もう、自己犠牲もほどほどにね」
八幡「ほっとけ」
そんな強がりを言うと、雪ノ下は俺の手をに握った。
雪ノ下「由比ヶ浜さんをお願いね」
八幡「あぁ、わかった」
すると、雪ノ下は小さな紙をそっと渡してきた。
ドアがノックされ、そちらを見ると黒服の男が立っていた。
雪乃「もう時間なのね。二人とも、さようなら」
雪ノ下は、うっすらと涙を浮かべながら、部室を後にした。
由比ヶ浜は、わんわん泣きながら、俺の胸にしがみついてきた。俺は由比ヶ浜を強く抱き締めることしか出来なかった。
なかなか泣き止まない由比ヶ浜をなんとか家まで送り届け、俺も家に帰った。
自室に戻り、雪ノ下に渡された紙を見る。
「今夜、私の家に来てください」
時間の指定はないが、早い方が良いだろう。すぐに着替え雪ノ下のマンションへと向かう。
インターホンを押すと、雪ノ下が迎え入れてくれた。
最低限のモノ以外はなにもない。
雪乃「紅茶でいいかしら?」
いつもと変わらぬ口調で、聞いてくる。
八幡「あぁ」
紅茶を一口飲むと、雪ノ下が口を開いた。
雪ノ下「ねぇ、比企谷君。由比ヶ浜さんのクッキー作りの依頼、覚えてる?」
八幡「俺が奉仕部に入っての初仕事だ」
雪ノ下「あの後、私に言ったこと覚えてる?」
八幡「いやでも覚えてるよ」
雪ノ下「もう一度と言ってくれるかしら。今なら違う答えになりそうな気がするの」
八幡「わかった。俺と友だ…」
雪ノ下「嫌よ」
八幡「なんでだよ」
うつむく俺に雪ノ下は叫ぶように言った。
雪ノ下「友達なんて嫌!今日だけ、今夜だけでいいの、私の恋人になって!」
あっけにとられる。
雪ノ下「ずっと、好きだったの。やっと言えた。こんなことにならないと、言えないなんて…」
雪ノ下は泣きながら呟いた。
そんな雪ノ下に俺は
八幡「雪ノ下、お前は俺の憧れだ。気高くて真っ白で。それでいて、猫好きでパンさんが好きで、可愛いところがあって。気がつくとお前を見ていた。追いかけていた。俺が雪ノ下雪乃を好きになっていいのかと悩んでいた。そしたら、こんなことに…。もっと早く、想いを伝えれば良かった。すまん」
俺は雪ノ下の両肩を掴み、目を見つめ叫んだ。
八幡「俺は雪ノ下雪乃が好きだ!」
雪ノ下の目から涙があふれだした。
雪ノ下「嬉しい…。」
俺たちは抱き合いキスをした。
しばらくの沈黙のあと、雪ノ下が驚くことを言った。
雪ノ下「ひ、比企谷君。べ、ベッドに行かない?」
俺は少し驚いた。
八幡「雪ノ下、それって…。」
雪ノ下「言わないで。はずかしいら。…それと、名前で呼んでくれないかしら」
照れながら雪ノ下は、そう言った。
八幡「すまなかった、雪乃。俺のことも、名前で呼んでくないか?」
雪乃「は、八幡」
なんかくすぐったい。
雪乃「八幡、私の八幡」
八幡「雪乃、俺の雪乃」
もう一度キスをした。
そして、一晩中愛し合った。
気がつくと昼近かった。夢なのかと思い布団をめくると、雪乃が裸のまま寝ていた。夢ではなかった。
すると、雪乃が目を覚ました。
雪乃「ん、おはよう。八幡」
八幡「おはよう、雪乃」
挨拶を交わしたあと、雪乃は自分が裸でいることに気がつきあわてて布団に隠れる。
二人ともシャワーを浴びて着替える。
もう、この部屋を出る時間だ。
雪乃「八幡、素敵な時間をありがとう。あなたのこと、忘れないわ」
八幡「やはり、なんとか出来ないのか?」
雪乃「両親が決めた時には、もう何も出来なかったのよ。手が出せなかった」
八幡「クソッ」
雪乃「あなたが気に病むことではないわ」
雪乃「玄関まで送るわ」
玄関まで、出来る限りゆっくりと進むが、意味を成さない。
八幡「雪乃、俺は…。」
俺の口を塞ぐように、雪乃は俺にキスをする。
雪ノ下「ありがとう、八幡。最高の思い出になったわ。あなたのこと、忘れないわ。私の愛しい八幡」
ゆっくりと玄関の扉がしまる。もう、雪乃に会うことは出来ない。
途方もない消失感を抱えながら、家路につく。
家に着き、両親や小町に無断外泊を怒られたが、心はそれどころではなかった。
悩んでいても、時間は過ぎて行く。大学に進学した俺は、雪乃のことを忘れようと勉学に励む。学部は違うか、由比ヶ浜とは同じ大学なのて、一緒に飯を食べたり買い物したりしている。
高校時代、嘘や欺瞞が嫌いだった俺は法律に興味を持ち検察官を目指すようになっていた。もともと、得意の屁理屈に法律を合わせて、弁護士になろうと考えて法学部にはいっていたのが良かった。由比ヶ浜も、そばにいて俺を応援してくれた。
大学院に入って、しばらくして雪乃が結婚したと、噂が流れて来た。相手はあの葉山隼人だ。家の繋がりがあるから、当然かもしれない。今は二人とも、雪ノ下グループの重要ポストらしい。
由比ヶ浜曰く、葉山からも何も連絡はなく三浦がしばらく呆然としていたらしい…。
司法試験に合格し、晴れて検察官になれた俺は、地元でOLをしていた由比ヶ浜に意を決してプロポーズした。由比ヶ浜は大粒の涙を流しながらOKしてくれた。
結婚式の案内状を雪乃にも送ってみた。すると、雪乃の姉の陽乃さんが、直に俺たちのところへ欠席に◯がされた案内状を持ってきた。そして陽乃さんは、申し訳なさそうに、ごめんなさいと言っていた。
結衣との結婚生活は幸せだ。食事が心配だったが、なんと結衣が料理上手になっていた。結婚が決まってから、川崎に猛特訓を受けたらしい。
結衣「ハッチー、テレビつけていい?」
結衣曰く、比企谷でヒッキー、結婚して同性になったからハッチーらしい。
八幡「あぁ、いいぞ」
そんな幸せな日々に不幸なニュースは突然やってくる。
テレビ「次は痛ましい事故のニュースです。葉山隼人さん運転の車が崖から転落、妻の雪乃さんと共に死亡が確認されました。」
結衣「え、ゆきのんと隼人君が…。」
耳を疑った。まさか!
テレビに映しだされた顔は、雪乃と葉山だった。
泣き崩れる妻を抱き止めるだけで、俺も精一杯だった。
雪乃と葉山の葬儀は密葬で行われ、線香をあげることも出来なかった。
雪乃と葉山の葬儀から数日後、珍しい来客があった。陽乃さんだ。
陽乃さんは、小学生ぐらいの女の子を連れてやってきた。とても整った顔立ちの少し影がある少女だった。
陽乃「ガハマちゃん、この娘と一緒に席を外してもらえるかな?比企谷君に大事な話があるから」
結衣「わかりました」
結衣と女の子かリビングから出ると陽乃さんか、驚くべきことを言う。
陽乃「雪乃ちゃんと隼人は殺されたの」
八幡「えっ!事故ではないんですか」
にわかに信じがたい。
陽乃「車に細工がされてたのよ」
八幡「そんなこと…。でも何故」
陽乃「雪乃ちゃん、雪ノ下グループの不正を暴こうとしてたのよ」
八幡「そんな…」
陽乃「雪乃ちゃんは、両親に殺されたのよ。雪乃ちゃん、正義感が強いから…。」
八幡「陽乃さんは大丈夫なんですか?」
陽乃「私も一部分知ってるから、立場がヤバいんだけどね」
陽乃「不正のデータはあの娘か持っているの。」
八幡「では、あの娘からデータをもらって警察や検察に行けば…」
陽乃「ダメなのよ。あの娘、雪乃から必ず比企谷君に渡せって言われてるみたいで。頑固なのは雪乃ちゃんソックリ。」
陽乃「あの娘から渡させるわね。二人を呼んでもらえる?」
二人をリビングに呼び、陽乃さんが少女に挨拶をさせる。
陽乃「自分の名前言えるでしょ」
陽乃さんが背中を押す。
少女「はやまはたのです」
結衣「変わった名前だね」
はたの「字は、こう書くの」
はたのと名乗る少女が書く字を見ながら、あの夜ベットで雪乃が言ったことを思い出す。
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雪乃「私、自分の子供に親の字をあてるのは、どうかと思っているの。あなたの名前、特に使いにくいじゃない」
~~~~~~~~~
幡乃(はたの)…。少女の年齢を推察すると、ほぼ一致する。
陽乃「そう。雪乃ちゃんと比企谷君の子よ」
結衣「えっ?」
陽乃「大変だったのよ。大学生で出産なんて。安定期になるまで、親に隠して、なんとか産んで。雪乃ちゃん、絶対に父親のことは言わなかったわ。でも、目元が誰かさんにソックリ。雪乃ちゃんと私でここまで育てたの」
結衣「嘘…」
八幡「結衣、すまん。でも、子供が出来てるなんて知らなかった」
陽乃「そりゃそうよ。完璧に隠していたからね」
陽乃「ガハマちゃん、比企谷君の弁護じやないけと、この娘の年齢考えてみて。あなた達が付き合うずっと前よ」
八幡「結衣、正直に言う。高校卒業の日、雪乃に呼ばれて告白された。一晩だけの恋人になってくれと言われて、それを受けた。」
結衣「そう、だったんだね」
幡乃「これ、お母さんから」
幡乃は結衣と俺に手紙を差し出した。
比企谷君・由比ヶ浜さんへ
この手紙を読んでいる時は、私はこの世にいないかもしれません。
両親に抗う為にここまでやってきたけど限界です。
幡乃にすべてのデータを渡してあります。比企谷君、由比ヶ浜さん、奉仕部部長の依頼です。雪ノ下グループの不正を暴いてください。私からあの場所を奪った両親に仕返しがしたいんです。
こんな、比企谷君みたいなやり方、由比ヶ浜さんに怒られてしまうわね。
由比ヶ浜さん、ごめんなさい。比企谷君と一晩だけ、恋人になりました。私が無理を言ってお願いしたの。そして、出来たのがあの娘。どうか、比企谷君と娘を攻めないでください。
比企谷君、図々しいお願いだけと、幡乃を匿ってあげてください。今さら認知しろなんて言いません。ただ、あなたの娘だということだけは、忘れないでください。
私の愛しい奉仕部員達へ
雪ノ下雪乃
読み終わるころには、涙で文字がぐしゃぐしゃになっていた。
八幡「バカやろう。俺だってこんな危ないやり方しねぇよ」
結衣「幡乃ちゃん、お母さんのこと好き?」
幡乃「大好き」
結衣「そっかぁ、寂しいね」
結衣は、涙を一杯ためた目で、でも強い目で俺を見つめた。
そして、陽乃さんの方へ向きなおした。
結衣「陽乃さん、この娘をうちで引き取らせてください」
結衣「いいよね。八幡」
本気の時だけの名前呼び。彼女の目には、力がこもっていた。
八幡「ダメな訳ないだろ。むしろ、俺から言いたかったんだが。いいのか、本当に?」
結衣「八幡とゆきのんの娘だよ。私の娘も同然だよ。」
明るい笑顔に俺も決意を固めた。
八幡「陽乃さん、いいですよね?」
陽乃「匿ってもらうだけのつもりだったけど、本当にいいの」
俺と結衣は、幡乃の手を握り強く頷いた。
陽乃「幡乃ちゃんは、いいの?」
幡乃「お父さんと結衣さんのことは、お母さんから聞いてた。だから大丈夫」
八幡「雪乃に読まれてたのかよ。」
苦笑いすると、結衣が
結衣「だって、ゆきのんだもの」
八幡「やっぱり勝てねえな」
結衣「幡乃ちゃん、おいで」
結衣は幡乃を抱き締める。すると幡乃は
幡乃「お母さんより、おっぱい大きい」
三人は大爆笑した。
結衣は幡乃をつれて家の中を案内していた。
リビングでは、俺と陽乃さんの話が続く
陽乃「私が海外旅行中に預ける名目で連れ出したから、しばらくは大丈夫だと思う。私もしばらくは海外にいるつもりよ」
八幡「わかりました。極力、公共交通機関を使ってください」
八幡「陽乃さん、俺の仕事を知ってますよね?」
陽乃「それもあって、幡乃が安全そうだから、連れて来たんだけどね」
陽乃「比企谷君、絶対に無理しないでね。あなたまで死んだら…。」
八幡「そんな無理はしませんよ。今の俺には結衣と幡乃がいるんですから」
八幡「それに、頼れる仲間も居ますんで。」
陽乃「そっかぁ、じゃあ大丈夫だね。比企谷君、成長したね」
陽乃さんを玄関まで送る。駅までと言ったが、頑なに断られてしまった。
帰り際、陽乃さんがすごい爆弾を投下した。
陽乃さんは、俺に耳打ちをする様に言った。
陽乃「雪乃ちゃん、比企谷君にしか体を許してないって。隼人と結婚しても、してないって」
その言葉を残して、陽乃さんは行ってしまった。
真っ赤な顔をして、呆然とする俺に、結衣が色々ツっこんで来たが、幡乃を盾に逃げ切った。
家に入り、作戦を考える。
さぁ、雪乃の弔い合戦だ。
終わり
続きも考えています。