RPGのカンスト主人公はダンまち世界ではレベル4弱位 作:アルテイル
「フリュネー、今日の夜ご飯はローストビーフが良い」
「あんな手の込んだもん昨日の今日で作れる訳ないだろう!?」
「レイニー様、魔法を」
ジャラジャラ!
「くっ・・・ッ!美味しくなーれ・・・萌え萌えきゅん・・・!」
俺がホームで定期的に精神的に辱められている間、フリュネは随分とファミリアに馴染んだみたいだ。初日の騒動の後フリュネの恐怖症もマシになり、その後数日で1人でも働けると判断された結果俺は晴れてお役御免となった。ずっと働けと言われたらどうしようかと思っていたから、どちらかと言えば嬉しいクビ宣告だな。
あの後豊饒の女主人では《美味しくなる魔法》は新たな看板メニューになったようで、店員の業務に支障が出ない程度で1つのサービスとして人気になっているようだ。
それを始めた原因となった俺はリュ・・・リオンさんからの好感度が下がり、苗字呼びにランクダウンした。勿論俺が朝から晩まで予約を入れていたせいでは無い。
フリュネはキッチンやったりホールに出たりと色々仕込まれているようで、最近は料理係をちょこちょこ任されていたりする、偉いもんだ、あのフリュネがねぇ、ちなみに料理は美味い。
うーん、あんまり意識してなかったけど、日替わりで美人・美少女の手作り料理を食べられるとか前世では考えられない僥倖よな?本当に前前世で何をやったんだろう俺は、世界でも救ったのかよ。
春姫は和風、リリとカサンドラは家庭料理、フリュネは店の料理が得意だが、本職の道を歩み始めている事もあってフリュネの技量は上がり続けている。
それはともかく
「なぁ春姫、もうこれで10回目だろ・・・。そろそろ許してくれないか・・・?」
今はこの太客を冷静にさせることに集中しよう。
あれから1週間、1日1回以上春姫は俺に魔法を注文してくる。1回1万ヴァリスだぞ?法外とは言わないが、男に一言言わせるためだけに1万も使うなんて馬鹿げた話だ。
1度言ってしまった手前断る事も出来ず、更に今まで春姫に集中的に魔法を唱えさせていた負い目もあり俺は大人しくするしか出来ないでいた。しかしこの短期間で10万ヴァリスも使うのはやり過ぎだ、自分のお金とはいえ、無駄に使うのはーーー
「レイニー様はあの酒場で30万ヴァリスは使ったとお聞きしましたが?」
そ、それは無駄じゃないじゃん!リオンさんの萌え萌えきゅんは出来る限り独り占めしたかったんだ・・・!
「レイニーって、外で食べる時いっつもあの酒場だよねー・・・。サービスも、あのエルフの人だけ頼んでたみたいだし・・・?」
ニナが怪しい笑みを浮かべている、何故だろう、冷や汗が止まらないな。風邪なんかとは無縁の身体になったはずなんだけど。
「レイニー、せっかくあの魔法を頼むならフリュネにやってもらえば良かったじゃねぇか。ホームでならタダだぞ」
「いや別に飯を美味くしたい訳じゃないから・・・」
サミラは何処か感覚がズレているよな、アマゾネスらしいと言えばらしいが、フリュネねぇ。美人になってからは周りの見る目も変わり、酒場の魔法注文数もリューさんに次いで2位である(俺調べ)
見た目勝気なアマゾネスがオドオドしながら呪文を唱えるのが『萌える』らしい。分からんでもないが。
3位はシルさん。
短い間だったけど良くしてくれて有難かったな。辞めた今俺に出来る事は店に貢献する事と、メシマズ属性が少しでも緩和するように祈る事くらいだ。
「レイニー、物思いにふけるのもいいが今はファミリアの夕餉の時間だ。早く席につけ」
「お?いつの間にか料理が・・・すんません」
今日のメインはサイコロステーキか、出来たてでジュワッと脂が弾け出ている、これは即急に口へ運ばねばならん。
「それでは、食材への感謝を込めて。頂きます」
「「「「「「「「頂きます」」」」」」」」
東方式の挨拶、俺はこちらの世界に来てからも続けていたが、全員でやるようになったのはつい最近の事だ。春姫がファミリアに加入して、この言葉を皆に広め始めたのがきっかけだな。
ワイワイと思い思いに話に花を咲かせながらのんびりとした夕食が始まる、サミラが豪快に酒をかっくらい、負けじとフリュネもジョッキでビールを流し込んで勝負が始まったが、当社比ではのんびりの範疇である。フリュネ痩せてから酒弱くなったみたいなのに無茶するなぁ・・・。
このファミリアも、数ヶ月前は団員0名の零細も名乗れないようなファミリアだったが、随分賑やかになった。初めはハードなRPGの世界に来てしまったと思って軽く絶望したが、なんやかんやでここまでやって来れたのは運が良かった。そもそもの話ではあるがこの身体ではなく前世の自分がこの世界に来ていたら調子に乗ってダンジョンに入って死ぬか、働き口が見つからず死ぬかしていた気がする。
それに、ファミリアもだな。元の身体では大手ファミリアに入ることなんて出来なかっただろうし、小さなファミリアなら前世の俺でも入れただろうが、大した能力も手に入らず野垂れ死にしていた可能性の方が高い。
メーティス様が訳分からん募集条件でファミリア興してくれてて助かった、神に恵まれたよ俺は。
「なんだレイニー、また物思いか?」
「いやぁー、俺の神がメーティス様で良かったなって」
「なっ・・・」
揶揄うみたいな問い掛けに、ちょっとキザに返すだけで照れる。ほんと可愛いんですようちの神。
にしても・・・
「(なんで女の子しか居ないんだろう・・・)」
分かってる、全員俺繋がりで入団しているから、原因が俺にある事は分かってる。でも男との繋がりが皆無なのが悪いんだが?記憶を遥昔まで掘り起こしても、ベル・ヴェルフ・リド達を除けばゴライアス戦の時の冒険者達かイシュタルの時のタンムズくらい、それ以外ではそもそも出会う事すら無いのだから団員として迎える程の関係性が育たないのだ。
正直ウチのファミリアは綺麗所が揃っていて、主神も女神、募集していなくてもファミリアに入れてくれと下心満載の男達が集って来る事もあるが、そんな輩は団長権限で追い返している。そんなリスクしかない輩を引き入れなければならない程状況は切迫していないし、俺はNTR同人誌が嫌いだ。
女性からは女の子の中に1人だけ男、しかも2つ名からしてかなりヤバそうな奴が居るとウチのファミリアは倦厭されているらしい。言うほどヤバいか?
【殺戮者】
ヤバいか。
今後も下心無しでこのファミリアに入ろうとする男は殆ど居ないだろうし、ヤバそうな奴がいるファミリアに入ろうとする女性も殆ど居ないだろうから、訳ありな人をスカウトしていく以外でこのファミリアの団員は増えないかもしれない。
リオンさんとか・・・無理だろうか。
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『リューさん!魔法1つ!』
『リューさん、最近学区の方(角)で提唱されてる理論なんですけど、オムライスにとある魔法をかけると美味しくなるらしいですよ』
『リューさん・・・もう俺はダメです・・・最後に、美味しくなる魔法を・・・!』
「ミア母さん、あのメニューは今すぐに無くすべきです」
「あのメニュー?なんの事だい」
ある日の夜、話があるとミア母さんを呼び止めて仕事終わりに時間を設けてもらいました。ミア母さんも分かっているはずなのに誤魔化そうとしていますね。
「あの魔法の事です」
「魔法〜?生憎ウチの料理は魔法の様に美味いと評判でね。どれの事だかわかりゃしないよ」
くっ、ミア母さん、さては面白がっていますね。私が口に出さない限りこのまま無視しようとしています。幾ら気心の知れた相手とは言え、この言葉を言うのは恥ずかしいのですが・・・背に腹はかえられません。
「最近始まった美味しくなる魔法の、《美味しくなーれ、萌え萌えきゅん♡》の事です・・・」
「はっ、一言言うだけでただでさえ美味い飯が美味くなって、稼ぎにもなるんだ。いい事だらけだろう?」
そんな簡単な話ではありません、私の様なエルフにとってただでさえ接客業は苦手な部類に入るというのに、あの様な辱めを受けるようでは今後の生き方に影響があります。
「ミア母さんは厨房でこの言葉を言わなくて済むからそんな事が言えるのです、アレから私がどれだけ恥ずかしい思いをしたと・・・最近ではレイニーさんの事を夢に見る程です。非常に・・・困ります」
レイニーさんが店で働いていない時間、毎日客として訪れ何度も魔法を注文していました。どうせやらなければならないのなら知らない他人の方が気も楽だと言うのに・・・、日に何度もさせるので周りの冒険者達からも注目を浴び何故かレイニーさん以外からは私に注文が入らない事もあり、最近では魔法の注文があるとレイニーさんが来たんだなと分かるようになってしまいました。
「(あの坊主、熱烈なのは良いが加減を知らないのかねぇ・・・)まぁ、考えておくよ。」
あの返答は、絶対に考えない時にする物ですね、どうやら私の受難はまだ続くようです。
レイニーさん、私は貴方を許しません。