ショタがお手伝いのお姉さんに恋をして一年たった話。

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お手伝い系お姉さんとマセ気味ショタ

 むかーし、むかし――では有りませんが、ちょうどそんな出だしで始まるおとぎ話に出てくるような館の中で、メイド服を着た綺麗なお姉さんがお茶の準備をしていて、ちっちゃくて可愛い男の子が古ぼけた――失礼、年季の入った椅子にお行儀良く座っていました。

 二人だけのささやかなお茶会は、とっても和やかな雰囲気の時間です。

 ――いつもなら。今日に限っては、なんだかちょっと甘酸っぱいような、微笑ましいような……?

 なぜって、男の子が頬なんかを真っ赤に染めて、緊張したような具合だからでしょう。

「およ……? 坊ちゃん、もしかして熱有るの?」

「う、ううん。無いよ」

「本当?」

 準備し終わって向かい合う席についたお姉さんは男の子の顔が熱っぽいことに気が付くと、慌てておでこをぴとっ、と合わせます。

 するとどうしたことでしょう……。男の子の顔はみるみるうちに赤くなって、トマトみたいな色になってしまいました。

「……大変!」

 おでこを合わせた途端に熱が上がったものですから、メイドさんはすっかり驚いてしまいます。

「だ、大丈夫だよ。気のせいだってば!」

 と、男の子はドキドキがやまない体で顔を真っ青にしたお姉さんに言いますが、慌てた彼女はもういません。

 しばらくしてお姉さんが帰って来ると手には救急箱を持っていました。体温計が目当てなのに、場所をド忘れしていたことも有って、慌ててまるごと持って来てしまったと、そんなわけです。

「ほら……熱なんてないでしょ? 気のせいだよ」

 と、恥ずかしさの熱が引いた男の子は誤魔化すように言いました。

「へ……? ほ、本当。良かったあ……。でも、なんでだろ……」

 自分がやったことが原因だとは全く思っていないお姉さんは不思議に思いましたが、可愛く思っている男の子が健康だと分かったのでホッと胸を撫で下ろしました。大きいです。

「そ、それよりお姉ちゃん、紅茶が冷えちゃうよ」

 お茶会であることを言うつもりだった男の子は、少し慌てた様子で小さなテーブルに着くように促しました。

 ――皆さんもうお分かりでしょう。男の子はお姉さんが大好きなのです。

 それもお母さんを慕う気持ちじゃない、お嫁さんとか、恋人を想うような「好き」なのです。

 一目惚れしてから一年目。それが今日でした。男の子はお茶会をきっかけに今日こそ自分の気持ちを伝えるつもりだったのです。

 

 はてさて、そんなこんなでお茶会は始まります。

 今日のお茶菓子はお姉さんが手作りしたスコーンとケーキです。

 スコーンのサクサクホロリとした食感に二人とも、思わず笑顔になってしまいます。

 ケーキもほっぺたが落ちるほど美味しくって、品が悪いと思ってもついつい頬張ってしまいました。

 そんな男の子ですが、ミルクティーを飲んで一息ついたところでハッとします。

 ――お菓子や、お茶の美味しさに夢中になるあまりお姉さんに自分の気持ちを伝えそびれているでは有りませんか!

 でも、どうやって?

 自分で作った美味しいお菓子を食べて幸せになっているお姉さんを見つめると、男の子は恥ずかしくてドキドキして、尻込みしてしまいます。

「どったの? ……お菓子は分けたげないよ」

 男の子の視線を誤解したお姉さんはさっとお菓子を守るような仕草をします。

「そ、そんなんじゃないよ!」

 子供に色気なんて有るはずが無いと思っているお姉さんの言葉に、男の子はへそを曲げてしまいます。背伸びする子供にとって、歳の通りに扱われることはいつの世も愉快ではないということでしょう。

「じゃあなに?」

「う……それは、その……」

 男の子が、今は体をこっちへ乗り出してくるお姉さんに見とれていた。

 それが本当のことですが、それを言えずに口籠ってしまいます。彼はませてるものですから、それがあまり良くない事だと知っていたからです。

 そうやってまごまごしてる間にもどんどんお姉さんの綺麗なお顔は近付きます。

 男の子の心臓はどくどく、どくどく。どんどんうるさく高鳴ります。

 男の子が少し前に出れば、きっとくちびるとくちびるが触れ合ってしまうでしょう。そこまで寄った辺りでお姉さんは口を開きます。

「ふふ、冷めちゃうよ? それ」

「……うん」

 お姉さんが指さしたミルクティーは、少し温いせいか、それともさっきまでのドキドキのせいか、とっても甘ったるい味でした。

 

 

 言い忘れましたが今日は日曜日でして、お茶会が終わった男の子は、約束があったので友達とサッカーとか、鬼ごっこなんかをしたりします。その途中で唐突な土砂降りに打たれなければ、きっと楽しい日曜日になったことでしょう。

「ひ、一人で入れるよぉ」

「ごめんね、お姉ちゃん、見たいテレビが有るから。先に入っても良かったかも知れないけど……ぐしょ濡れの坊っちゃんをそのままにするのは……ね?」

  タオル一枚を前に掛けているだけなので、鏡に映ると、今も恥ずかしそうにしている男の子にはちょっと目に毒です。どうしてこのお姉さんは男の子をどぎまぎさせるのがこんなに上手なのでしょう?

 まあそれはさておき、男の子がドキドキしながら身体を洗われたり、お姉さんの背中を流したりをしてから、そこそこ広い湯船で一緒に浸かります。

「ふー……良い湯だねー」

 と、お姉さんはリラックスしたように息を吐き、男の子をお膝に乗せながらぐっと上に伸びたり、日向でお昼寝をしている猫のような笑顔を見せています。

 一方、頭の後ろにどんなクッションよりも柔らかく、ふかふかするのに男の子はなぜか気の休まらない様子。気難しい猫ちゃんが体を丸めるように体育座りになってしまいます。なんででしょうね?

 ところで余談ですが、お姉さんは胸が当たるとか、身体が触れ合うとか、そんなことは当然気にしません。だって男の子はお姉さんにとって弟か、もっと言えば息子のようなものだからです。そんな風に思っているから、体育座りの意味は彼女にも分かりませんでした。

「……そだ。ねえねえ、坊っちゃん、お姉ちゃんの体、洗ってくれる?」

 それはさておき、お姉さんはいきなり刺激的な事を言い出しました。自分では気付いているか分かりませんが、ちょっと悪戯っ子の様な笑顔を浮かべています。なんでこんなことを言い出したのかというと、小さい頃、弟がいる友達に憧れていたことをちょっぴり引き摺っているとか、後はお母さんと死に別れた男の子に対して母性が働いたとか、そんなところでしょう。

 まあ、女の子の身体のことを言われると、男の子は色々と想像してしまうものです。ちょっぴりおませで、性別が逆なら耳年増なんて呼ばれるような子なら特に。

「ん……坊っちゃん? わっ、すんごい鼻血!」

 結局、お姉さんのお願いに男の子が返事をすることがは有りませんでした。鼻血を出して気を失ってしまったのだから、しようが有りません。

 男の子がふらーっと横に倒れそうになった辺りでお姉さんはそれに気付くことができました。支えた後は大慌てで抱えてお風呂から上がるのでした。

 

 

「ん、ううん……?」

「あっ! 目が覚めたんだね……」

 男の子が目覚めて最初に目に入ったのは、白いエプロンでした。それが男の子の目の前いっぱいに広がったと思うと、ギューッと暖かく抱き締められます。

「よかったぁ……」

「お姉ちゃんっ、く、苦しいよぉ……」

 柔らかくっても気持ちが良い感触でも、口が塞がるとどうしても苦しいものです。男の子は小さな声で呻きましたが、お姉さんには聞こえないようでした。

 お姉さんは男の子が背中をとんとん苦しげに叩くまでずーっとその腕に抱えていました。

「ぷうっ、苦しかったあ……。でも、ぼく、どうしたんだっけ……?」

 男の子が不思議そうに小首を傾げると、お姉さん男の子が落ち着いたらお姉さんが説明してくれます。

「来てくれたお医者様が言うにはね、のぼせちゃっただけみたい。でも、鼻血が出てたから不安になっちゃっって……」

 てへへ、と恥ずかしそうに笑うお姉さんを見て、男の子は可愛いなあ……、と思いました。まあ、お茶会の前のようにおでこをくっつけようとするお姉さんの顔が近付くと、とっても焦ってそんなことを考える余裕も無くなってしまうのですが。

「ん……お熱も無いみたい?」

「う、うん……。大丈夫だよ」

 くっついていると出ちゃいそうですが、とにかく男の子は健康です。ですからそんなこんなでお夕飯です。お父さんは忙しくてまだ帰ってくることができないので、昼もですが、二人だけです。

 食卓にはほかほかの湯気を立ち昇らせるハヤシライスと付け合わせのマッシュポテト。それにレタスやトマトの上にスライスされたゆで卵が並んだサラダが乗っています。

「いただきます」

 と二人。男の子は、さっそくハヤシライスをぱくっと一口。すると、お姉さんが手作りしたソースの優しくて美味しさが口一杯に広がります。まろやかで深い味です。お茶会のお菓子もそうですが、お姉さんが作る料理は美味しいものばかりです。お姉さんも思わず自分で褒めてしまったり、今ここにはいませんが、男の子のお父さんも思わず笑顔になってしまうくらい美味しいのでした。

 

 

 男の子とお姉さんはふかふかのベッドの上でも二人一緒でした。いつもはそれぞれ別の部屋で眠りますが、今日は……

「本当に窓をノックされたの……?」

「うん、こんこんこんって。……いやー坊ちゃんがいて本当に良かったぁ。怖くって眠れないところだったよ……」

 そう、いつもはとっても頼りになるお姉さんですが、実はちょっぴり怖がりだったりします。まあ、窓の件は間抜けなコウモリさんがうっかりぶつかってしまっただけなのですが。

 それはさておき。抱きしめられている男の子は例によって例のごとくドキドキしています。でも今回のドキドキはお姉さんの柔らかくて温かい体に、というだけではありません。

 男の子は今こそするつもりなのです。甘酸っぱい、愛の告白を……! だって今日は出会って、好きになってしまってから一年目ですから。

 そんな日に告白するって、とてもロマンチックじゃありませんか! 少なくとも男の子はそう思っていました。だから言うのです、多少強引でも日付が変わってしまう前に……!

「あの、お姉さん……」

「なあに?」

 月が綺麗ですねと、ひとこと言いたいだけなのに、頭はもう真っ白で喉はからからです。気を抜くと目の前が真っ暗になってしまいそうです。でも愛はその程度のブレーキじゃ止まりません。

「ぼくが居て良かったって言ってくれたでしょ……?」

「うんうん。言ったよ」

「あのね、ぼくもね、お姉さんがずっと、いつまでもそばに居てくれたらって……初めて会ったときからずっと思ってたんだ……」

 なにも言わないお姉さんがどう思っているかは背中から抱きしめてもらってるお陰で男の子には分かりません。だけど、続けます。

「だから、だからね……、お姉さんにお嫁さんになって欲しいんだ……」

 男の子の恋が、甘いままに終わったか、ほろ苦い後味を残したのか……。それはここまで見てくれたあなたたちの想像に任せてみようかと思います。

 でも一つだけ確かなことが有ります……。男の子はこの素敵な恋の思い出をを忘れることはないでしょう。いつまでも。




掘り下げ不足かなあと不安になりましたが、今の自分の力量と薄い人生経験ではこれが精一杯だとも思います。
このジャンルはいつか必ずリベンジします。絶対にだ……。


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