奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

104 / 358
次はライダーマン。但し。

誤字修正。244様、鋸草様、kuzuchi様いつもありがとうございます!


第百三十一話  天才科学者の頭脳

 最近、部屋で本を読む事が増えた。勿論漫画だけではない。高校を卒業してからは読む事の無かった参考書を久々に開いてみて、少しずつ読み進めて行く。教室で読むとあんなにも眠くなったのに、改めて見るととても面白く感じるから不思議な物だ。

 

 部屋ではミギーと一緒になって共に分野を分けて本を読み、仕事の時間はそろそろ何かが開けそうなライダーマンを優先して選択し、時たま動画を撮ったりして日々を過ごしていると、ある日それはいきなり訪れた。出来るだけライダーマンで居る様にしていた俺は、昼食の為に近所の食堂へ来ていた。そこはお寺からほど近い場所にあり、ここ最近はこの食堂で白身魚フライ定食を頼んで丼物で締めるのが俺の日課になっていた。

 

 何時もの様に定食を注文し、さて今日は海鮮丼か、それともいっそ牛丼かと次の注文に頭を悩ませていると、ふと目にした天井の模様に気を取られた。あの染みはなぜ出来たのか。何時ぐらいに、等と思考を飛ばしている間に料理が来て、その時はそれ以上気にせずに料理に舌鼓をうった。結局海鮮丼にしたが牛丼でも良かったかもしれないなぁ、と考えながら腹ごなしがてらに歩いてお寺まで戻ろうとすると、普段は目につかないような周囲の風景がやたらと頭に入ってくる。

 

 この電柱にはこんな傷がある。あそこにはあの木が生えている。あそこの子供は足を擦りむいている。普段ならば気にしないような小さな情報がいつも以上に気にかかり、それらに意識を割きながらも俺の足はいつものようにお寺へと向かい、そこにたむろしている看護師さんたちとにこやかに会話をして、ふと気づいた顔の疲れや服の汚れなどが目についてそれらをそっと指摘し、その辺りで俺は気づいた。

 やたらと世界がクリアに見えて、まるで高性能なセンサーか何かで周囲を見回しているかのような感覚。それらの情報を俺の頭は無理なく処理していき、俺の意思とは無関係に情報をどんどん俺に投げ渡してくる。

 

 こいつは堪らねぇ、と咄嗟に変身を切り替えてミギーを選択。普段の感覚に急に切り替わった衝撃に目がチカチカと火花を散らすが、それでもさっきよりはマシだった。

 

『随分と消耗しているな』

「うん……? ああ、うん。頭がぼんやりとする」

『ふむ……だいぶん発熱しているようだぜ』

 

 ミギーは俺の頭にピタリ、と自身の一部を張り付けると、熱いとばかりにその部分をひらひらと泳がせる。左手で額を触ると、確かに随分と熱く感じる。ウォーターボールを唱えてミギーの口からぴゅーっとばかりに水を発射してもらい頭を濡らすと非常に気持ちが良い。あと、糖分が欲しい。あ、流石にそこまでは魔力じゃ無理か。そっか。そうか。

 

 

 

「明らかに頭の普段使ってない部分を活性化させた影響だよね」

「失礼な。俺はいつだって色んなことを考えているぞ」

「うん。それを継続させてね?」

 

 暫く休んだ後、臨時冒険者さんの女性陣に甘いものを強請ったらキャッキャと喜んで幾つかチョコや飴をもらえたのでそれらで糖分を補給。凄いわ人体。あっという間にさっきまでの気怠さが消えていった。とりあえず問題なく動けるようになったら一花の元に移動し、事の経緯を説明すると眉を寄せて考え込み、少ししてから「飴を舐めたら楽になったんだね?」と質問してきたので頷くと、一花は恐らく、とつけてから語り始めた。

 

「お兄ちゃん、多分ライダーマンが頭部――頭脳までパスを繋げたんだと思うけど、しばらく……それこそ慣れるまでは一日に5分とか短い時間だけ変化させて」

「良いけどどうして?」

「お兄ちゃんのイメージの、結城丈二がとんでもない天才だったって事だよ。それだとスパイダーマンも影響が出るはずなんだけど、蜘蛛とライダーでどんな違いが……脳作用にも影響してるのかな。そういう能力あったっけ」

「一花さーん?」

 

 ぶつぶつと呟き始めた一花に問いかけるも反応がない。困ったな、と手持ち無沙汰にしていると、ちょいちょい、とミギーが手招きをしてくるので促されるままに席を離れる。自分の右手に手招きされるってのもまた変な状況だなぁ、と思いつつ歩いていくと、普段読書に使っている書庫のような所に案内された。

 こいつ、この状況で知識欲を優先させるか。

 

『その意図も含まれているが、今回はむしろこれが最大の解決方法だ』

「読書が?」

『わたしが本を読んで頭脳に詰め込めば、それを他の変身形態の時に利用できるのは分かっている。逆にわたしも先程までのライダーマン状態がどういった知識の蓄え方をしているかは理解できた。彼はわたし以上の知りたがりのようだな』

「彼って……えっライダーマンも意志があるの?」

『意志というより、イチローの認識するイメージのライダーマンを再現するにはイチローの知識が足りなさすぎるんだ。スパイダーマンはもう少し遊び心があったが、ライダーマンは真面目な人物なんだろうな。足りない分を一気に学び取ろうと躍起になっている』

 

 いや、ピーターも結構真面目な……真面目だよな。うん。結構遊んでたり陽気なイメージがあるけど。だが、そうか。確かに俺の脳みそでいきなり結城丈二を再現するのは無理だ。頭の出来が違いすぎる。さっきの妙に周囲が気になる感覚は、俺の中のライダーマンが周囲の情報を学び取っていたという事なんだろう。

 

『まぁ、ここに置かれている物は古文書とかの歴史資料だから理系の科学者である結城丈二が求めている物ではないだろうがな』

「ダメじゃん」

『頭を活発化させるのには役に立つさ』

 

 それもそうか、と俺は椅子の一つに腰を置き左手で手近な本を手に取り開く。お、これは妖怪の本か。成程成程。過去の退魔の記録なんだなこれは。最近は左手一本で本を読むのも慣れてきた。何事も慣れが大事だし、この状況も慣らしていけば何とかなるだろう。しかし、勉強もせずに頭が痛いなんて凄い体験をしたんだな、俺。

 しかし、長時間の使用が難しいとなると今度は何を使うか。一応練習している変身はあるんだが、両手があった方が映えるんだよなぁ。ファイブハンドは。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。